第94話 尾行はスリリング
ゴールデンウィーク ハズ カム
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来海ちゃんのためならば見境なく何でもする男、ジョシュア エバンズ。その人が席を立った。彼の横に有希さんがぶら下がっている。ように見える。
有希さんはジョシュアさんの腕に自分の腕を絡ませて、彼の肩に頭をもたげながら歩いている。そして、彼の顔を見上げて満面の笑みで話し掛かけ、彼の言葉に異様に大きくリアクションを取っている。焼肉の時とは大違いだ。
おめでとうございます、無事に第一関門を突破されたようですね、ボス。あなたにとっては関門でも何でもなかったのでしょうけど。そう心で呟いた瞬間、彼がこちらに向かってほほ笑んだ。
「あ、こっちに気づいてたんだ。」
大河が呟いた。お前、気づかれてないと思ってたのか?
「どうする?追いかける?僕、明の分も立て替えておくよ。」
「え?」
どうしよう?来海ちゃんとの約束を考えると、追った方が良いのかもしれないけど、多分、彼等は車で移動するだろう、そう考えるともう追えないだろうしなあ。
「多分、車で移動すると思うし…」
って、まるで私が二人を尾行していたかのような返事をしてしまった。
「そうか、でも行ってみようよ。」
そう言って大河が席を立った。私も、ギンちゃんをキャリーバックに入れて背負って大河と一緒に店を出た。
外に出ると、少し離れた所でジョシュアさんが電話をしていた。そんな彼の腕を片時も離さない有希さん。
「あ、いた、いた。」
そう言って、大河が物陰に隠れた。私もつられて物陰に隠れた。
「ごめん、じゃあ、行こうか。」
ジョシュアさんが有希さんにそう言うと、二人は歩き出した。
「どこに行くんだろう?」
そう言って大河も歩きだした。私たちが尾行しているのもバレバレなんだろうな…イチイチ物陰に隠れるのがアホくさい…
「なんだか、こっちがスパイになった気分だね。」
こんなにバレバレで何がスパイじゃ、一体なにをスパイしているつもりじゃ、と思ったけど、自分も密かに興奮して来た、尾行するってスリリング。
なんとなく引っかかることがあったんだけど…有希さんが、もし本当にジョシュアさん達の同業者だとしたら…
有希さんも相当な手練れという可能性もある。ジョシュアさんの誘いに乗ったふりをして逆に何か企んでいるとか…でもなあ、どう見てもデレデレに見えるけど…あれが芝居だとしたら、私には見抜けない。実は相当な実力者だったりして?
それと、ずっと気になってたんだけど、有希さんが神様からの指示で来海ちゃんに石を渡したとしたら…神様は来海ちゃんのことを、エシャさんのことをどうするつもりだったんだろう?
「ねえ、大河、あの女の人、本当にジョシュアさんに惚れてると思う?」
「え?どういうこと?あの女は敵のスパイってこと?これはそういう心理戦なの?」
大河の目が輝いている。鉄と好奇心、そして想像力…彼の心の80%はそれらで出来ている。
「だとしたら、どう思う?」
もう、大空世界観に私も便乗してしまおう、その方がきっと楽しい。
「う~ん、そういう視点で見てなかった、僕はまだまだスパイ失格だね。」
「大丈夫、大河にはポテンシャルがあるから。」
「明にそう言ってもらえると嬉しいよ。そうだな…まず、その気もないのに気がある振りをして取り繕っている場合、時々我に返って真顔になる瞬間や、上の空になる瞬間があるはず。でも、観察してきた限りでは敵の女スパイにそんな素振りはなかった。相当な芝居上手か、本当に惚れてしまったかのどっちかだ。」
「ふむふむ」
「それと、そこまで芝居が上手な人ならば、もう少し余裕をかましてくると思うんだよね。もう少しソフトに腕を組むとか、微笑みにも仄かな色香を含めて来るというか。でもあの人にはそんな余裕は感じられない。」
「ふむふむ」
「と言う事で、僕の勘では九割方落ちたね。」
「ほほ~」
納得!
ボス、大河のお墨付きも出ました。このままGOで問題ないと思います。心の中で呟いてみた。
二人が駅前のデパートに入って行ったので、私たちも少し離れて店に入った。二人で女性用の靴を見ている。有希さんが気に入ったサンダルを試し履きしていると、その横でいつもより艶っぽい感じのほほえみのジョシュアさんが有希さんに話し掛け、そして、二人で笑い合う…まあ、なんとも仲睦まじい光景。
これを来海ちゃんが見たら大暴れしていたかもな…それはそれで面白かったかも。
「そう言えば、大河、時間は大丈夫なの?」
友だちのオケの演奏を聴きに来たと言っていたよな?
「それどころじゃないでしょう?事の成り行きを見届けなくっちゃ。」
いや、お前にそんな義務はないだろう?それよりも、わざわざ電車代までかけてオケを聴きに来たのに、行かなくて本当にいいのか?
「でも、友だちが待ってるんじゃない?」
「友だちも大切だけど、ジョシュアさんは僕の憧れの人だからね。こっちの成り行きを見届けることも大切だよ。オケは来月もあるからその時また来るよ。」
そんな話をしている間に二人は店を出て、そのまま、駐車場に向かい、ジョシュアさんの車に乗って行ってしまった。
「ああ、車に乗っちゃったらもう追えないね。僕、これからオケ行こうかな?明は…ギンちゃんが一緒じゃ無理か…じゃあ、僕も一緒に小町町に帰ろうかな。」
「え、何で?」
「だって、明、ショックを受けてるんじゃないかと思って。あの二人仲良さそうだったから…浮気されたってことでしょう?」
「だから…そういう事じゃないって言ってるでしょう!」
何だかんだ言いつつも、結局、大河と一緒に小町駅まで戻ってきてしまった。スマホを見ると来海ちゃんからメッセージが届いていた。
「私、来海ちゃんの家に行くけど、大河は実家帰るの?」
「どうして来海ちゃんの家に行くの?」
「来海ちゃんに報告しないとならないことがあって…大河も来る?」
来海ちゃんに一人であの状況を報告するの嫌だな…大河がいてくれた方が有難いかも。大河ならば何の柵もなくありのままを報告してくれるだろうから。
「まあ、暇だし、行こうかな。」
「ありがとう。」
「え?なんでお礼?」
不思議がる大河をと一緒に来海ちゃんの家に向かった。
来海ちゃんのお家は二階建てで、大きなボウ ウィンドウの出窓が張り出た、可愛いアメリカンハウスだ。お母さんの寛恵さんの趣味らしい。
「明ちゃん、大河君、いらっしゃい。今日は沢山買って来たら、良かったら夕食一緒にどう?」
お父さんの本間さんが大量に購入して来た食材を冷蔵庫に収納している。リビングのソファーにはマスタークオッカの巨大ぬいぐるみが鎮座している。ぬいぐるみの横には来海ちゃんが、傍らに宇宙のロンパースのぬいぐるみを置き、コモモ(チベタンマスティフ)のぬいぐるみを抱えて座っている。
「来海ちゃん、良かったね。マスタークオッカの特大ぬいぐるみゲットできたんだね。」
「まあね。大きすぎて人気なかったみたい、沢山残っていたわ。大河お兄ちゃん久しぶり、こっちに帰って来てたの?」
大河のことは『大河お兄ちゃん』って呼ぶんだなぁ…
「うん、たまたまね。」
あの話をお父さんがいるところで話しても良いものだろうか?
「来海ちゃん、話はまた別の日にしようか?」
「大丈夫よ、お父さんに聞かれてまずい事なんてないもん。ねえ、お父さん!」
来海ちゃんが本間さんに声を掛けた。
「来海、お腹壊したんだよ。ジョシュア君がデートに行ったって言ってホットドックとソフトクリームをやけ食いして。だから来海は夕飯は食べない方がいいかもなあ。」
「食べる、デザートのティラミスまで食べる。それで、どうだったの?」
「え~、その件につきましては、エージェント大河から報告させていただきます。大河、今日のジョシュアさんと相手の女の行動を来海ちゃんに詳しく報告して差し上げて。」
「え?」
「この案件はこちらの来海嬢から依頼されたものなの。さあ、詳細な報告を。ジョシュアさんへの忖度は不要よ。」
もう、自分がどういうキャラ設定かも分からないけど、このモードのまま大河に全て報告させちゃろう。
「はい!エージェント大河、報告させていただきます。」
持つべきものはノリのいい友達。
「うむ。」
来海ちゃん、ふんぞり返って偉そうだな。
「来海ちゃん、その前に聞いても良い?」
大河が素に戻って尋ねた。
「なあに?」
「来海ちゃんがジョシュアさんの事を好きなの?」
「ノンノンノン。私が好きな訳じゃなく、私たちは相思相愛なの。来海が大人になったら結婚するの。」
そう言うと、来海ちゃんは持っていた宇宙のロンパースとコモモのマズルとマズルを向き合わせ、チューをさせた。
「じゃあ、これは来海ちゃんから明に依頼された、ジョシュアさんの浮気調査ってことだったんだね。」
「浮気調査?まあ、そう捉えてもらって結構よ。」
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