第91話 デート向きのお店
来海ちゃんはリビングのテレビの前を陣取って、お気に入りの子ども向け番組を見ている。
『ユニバース・宇宙のロンパース』と言うタイトルで、派手なロンパースを着た犬が宇宙を飛んでいる。
一応、宇宙のロンパースは正義の味方らしいが、特に悪を懲らしめたりする訳ではない。危ない時は助けてくれるけど、悪を倒そうとはせずただ追い払い、そこから得た教訓を皆に伝える。宇宙のロンパース以外にも、火星のサロペット、金星のジャンプスーツなど、兎に角、つなぎ服を着た犬たちが宇宙を飛んでいるというアニメである。
「来海ちゃんって、エシャさんの記憶が戻っても、こういうテレビを見るんですね?」
テレビに夢中になっている来海ちゃんを横目に、お昼ご飯の準備を手伝いながら、ジョシュアさんに尋ねた。
「ベースは来海だからね。」
「そう言うものですか?」
「いや、わかんない。」
え?わかんないのかい?
来海ちゃんはエンディングの曲を歌いながら踊っている。さっきまでの恋愛マスター来海はどこにいってしまったのだろうか?それにしても、このエンディングの曲はカッコいい。
「明、これジャックラッセル!ジャックラッセル知ってる?」
嬉しそうに、宇宙のロンパースを指さしながら、来海ちゃんが私に尋ねて来る。記憶が戻ってからは私を『明お姉ちゃん』とは呼んでくれなくなった。まあ、いいけど。
「よくCMで見かけるよね。元気な小型犬だよね。」
そう答えたけど、来海ちゃんは私の返事など聞かずに踊って歌い続けている。
今日のお昼はマカロニグラタン。
「僕が作ると、こういう簡単なものになっちゃうんだよね。」
と言いながらも、ホワイトソースは小麦粉とバターと牛乳でササっと作っていた。へ~こうやって作れるんだと感心してしまった。
「わーい、グラターン。」
そう言いながら、来海ちゃんが駆け寄って来る。完全にただの子どもだ。
大皿のグラタンから自分の分を取り分けてもらい、もりもり食べている。どう見ても四、五人分くらいあるけど、もしかすると足りないかもしれない。
鶏肉、ホウレンソウ、マカロニとシンプルだけど凄く美味しい。しかも作り方も簡単だから、これならば私でも家に帰って一人で作れそう。
「明日は、桃子ちゃんとお父さんと一緒にコ〇トコにお買い物行くの。来海はマスタークオッカのお人形買ってもらうの。そんでもって、ホットドックを食べるの。」
マスタークオッカとは、宇宙のロンパースの師匠のことだ。それにしても普通の来海ちゃんだなあ。さっきの恋愛マスター来海は本当にどこへ行ってしまったのか…
グラタンを食べ終えて、アイスを片手に再び来海ちゃんはテレビの前を陣取った。
そして、思い出したかのように、振り返ってジョシュアさんに声を掛けた。
「返事、来た?」
「え?ああ…どうだろう。」
そう言ってジョシュアさんがスマホを確認した。
「あ、来てる。」
来海ちゃんはジョシュアさんの所に走り寄りスマホを覗き込んだ。私も申し訳ない気分になりつつも、一緒に覗き込んだ。
[今、部活が終わったところ。昨日はすごく楽しかったね!食事いつにする?]
「ふーん、普通ね。」
「でも、来海ちゃんが言った通り、返事が遅くなった言い訳が入ってるし、今日中に返事が来たし。これが焦らしてるって事なのかぁ?」
「まだ分かんないわよ。でも、食事には行く気満々ね、向こうからいつにするって聞いて来てるもん。それで、いつにするの?」
「明日、来海はお父さんとお買い物に行くんでしょう?だったら明日のランチにでも誘ってみようかな。」
「へ~、で、何を食べるの?」
「え?何が良いと思う?よく知らない子とデートなんて久しぶりだから、悩むなあ。」
「へ~、で、よく知らない子とはいつデートしたの?」
来海ちゃんの目が若干座っている様な…
「岩壁から海を見ていたら、突然、背後から声かけて来た人がいて、その人の車に乗って近くのレストランでご飯を食べた。」
「あ…」
「その人、凄かったんだよ。僕になんて声かけて来たと思う?」
ジョシュアさんが嬉しそうに私に質問を投げかけた。
「多分、普通じゃ言わない様なことだったんでしょうね?うーん、背後霊が付いてますよ…とか?」
「惜しい!」
「じゃあ、あなたの前世はバッタかイナゴですとか?」
「それも惜しい!」
「じゃあ、イワナかヤマメ!」
「う~ん、それも惜しい!」
「うそ…どれも惜しくないでしょう。そんなこと言う女の車に乗らないでしょう。」
来海ちゃんが小声でそう言った。
「うん、どれも惜しくない。」
結局、どれも惜しくないんかい?
「来海ちゃんは知ってる?」
「知らないわよ。そんなことより、何食べるの?」
「うーん、明はどこかお店知らない?」
「女子大生とランチデートですか…とりあえず、馬鹿高い店に行けばいいんじゃないですか?私だったらそれだけで喜びますよ。」
「馬鹿高い店…」
そう言って、ジョシュアさんがスマホでお店を調べ出した
「じゃあ、ここは?ランチで五千円から」
「え、これ料亭じゃないですか、渋すぎでしょう。」
「じゃあ、これは?フランス料理、ランチで八千円ならば馬鹿高いでしょう。」
「コース料理とか食べるの緊張しますよね。私だったっら寿司が食べたいですねぇ。」
「いきなりカウンターで寿司食べるの?それに、生もの嫌いだったらきつくない?」
「確かに…恋愛マスター来海ちゃんは初デートで何が食べたい?」
「初デート…うーん、鰻かな。」
「鰻、いいね~、私も食べたい。」
「メニューを限定しすぎでしょう…鰻って…」
結局、誰もデート向きのお店なんて知らない。
「あ~、わかんない時は、聞いてみようっと。」
そう言って、ジョシュアさんは返信した。
「ふーん、普通ね。」
返信内容を覗き込んでいた来海ちゃんが一言。
「まあ、はじめは無難な方がいいでしょう。」
ジョシュアさんがそう答えた。
「そう言うものなんですか? 所で、ジョシュアさんが食べたいものは?」
「僕は…そうだな、カレーが食べたい。大町駅近くのインドカレー屋さんのマトンカレーとチーズナンが美味しかったんだよ。」
「え、あの十字路のコンビニの上のお店ですか?私もあのお店が気になってたんです。チーズナン食べたいですね。」
「来海も、チーズナンとカレー食べたい。」
「それじゃあ、鰻と寿司とカレーは三人で食べに行こう。」
「行く、行く!」
「いいですね!」
テレビの前でギンちゃんが毛づくろいをしている。
「ギンちゃんも一緒に行けたらいいのにね。」
ジョシュアさんがギンちゃんを眺めて一言そう言った。
本当に、ギンちゃんと一緒に四人で鰻と寿司とカレーを食べに行けたら凄く楽しいだろうなって思った。
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