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第90話 恋愛マスター

「昨日は途中から、ず~っと有希ちゃんの話をしてたんだよ、健二。有希ちゃんは見た目が派手で自己主張が強い所があるから、勘違いされやすいけど、凄くいい子なんだ~って、頑張り屋さんで優しくて、お弁当作ってくれたこともあったとか言ってたなぁ。」

 ジョシュアさんが昨晩、丸茂先輩と飲み明かした時の話をし出した。


「へ~、丸茂先輩、お弁当作ってもらったことがあったんですか、もしかしたら、有希さんも丸茂先輩のことを気に入ってるんじゃないですか?」


「その時は、お兄さんに作ったついでだったみたいだけどね。でも、人生最高のロコモコ丼だったって。」


「ついでですか…そう言えば、丸茂先輩にはパートナーっていないんですか?」


 来海くるみちゃんとジョシュアさんは顔を見合わせた。そして来海ちゃんが

「私の知る限りでは、健二、同業者とお付き合いしたことないから。」


「え?同業者?…ああ、今までお付き合いした相手は生まれ変わってこないってこと?」


「うん、そう言うこと。」

 そう言って、来海ちゃんが冷めた紅茶を飲み干した。


「もし、有希さんが本当に同業者で、二人の仲が上手く行ったらいいのに。」


「そうだよね。」

 ジョシュアさんは同感のようだ。


「そうかな?まあ、健二が好きで、上手く行くんだったら、良いのかもしれないけど。」

 来海ちゃんは不服かぁ。まあ、有希さんから石を渡されて酷い目にあってるだから仕方がない。


「じゃあ、行動に移しますか。」

 そう言って、ジョシュアさんはスマホを取り出した。


「何?いつの間に連絡先交換したの?」

 来海ちゃんがジョシュアさんのスマホを覗き込む。


「初めから接触するつもりだったんだから、連絡先は聞くでしょう。」

 そう言いながら、文字を打っている。


「へ~、シンプルな誘い文句ね。」


「覗かないでよ。」


 どんな誘い文句なのだろう?気になる。

「本当だ、シンプルでストレートですね。」


あかりも覗かないでよ。」


「モテる男は良いわね~、一言お誘いするだけで良いんだもんね~」

 皮肉っぽく聞こえるなぁ…来海ちゃんの言葉。まあ、気分の良いものじゃないよね。


「モテないよ。これで箸にも棒にも引っかからなかったら、結構、傷つくんだからね。」


「え?期待してるの?」


「そう言う事じゃないよ。あ、既読になった。」


「おお、早速!」

 なんだか来海ちゃんも乗り気に見えるけど、気のせいかな…


 その後、暫くしても有希ちゃんからの返事はなかった。


「駄目っぽいね。僕じゃ役不足かも。」


「わかんないわよ、焦らしてるだけかもしれないよ。」


「焦らす?来海ちゃん、焦らされてるのかどうかって、どうやったらわかるの?」


「そうねえ、本当に焦らしてるだけなら、今日か明日中には返事が来るはず。そんで、言い訳が入って来ると思う。ちょっと出かけてて返事が遅くなっちゃったとか、スマホを家に置き忘れてたとか。」


 ちょっと目から鱗が出るかと思った。


「来海ちゃん凄い!七歳にして恋愛マスター!」

 今日から来海ちゃんを恋愛マスターと呼ぶことに決めた。


「まあね。」


 そうだ、これからは銀ちゃんのことは来海ちゃんに相談すれば良いのだ!


「恋愛マスターに相談したいことがあるの。いいかな?」


「なあに?明もストレイシープちゃんなの?それで、誰が好きなの?」


 ストレイシープちゃん?あ、迷える子羊のことか…まあ、そう言われるとそうだな。ギンちゃんがこの部屋にいないことを確かめて、


「実は…私…銀ちゃんの事が…好きなの…」

 ああ、言ってしまった。恥ずかしい。


「…ギンちゃん?猫の?」

 来海ちゃんが不思議そうな表情でこちらを見返してくる。


「猫のギンちゃんも好きだけど、その、神社に行くと銀ちゃん、あ、ユーリー君になるでしょう。」


「え?」

 大きな目を見開いたまま、固まっている様だ。


「私、なにか変なこと言ったかな?」


「え?ユーリーって、ヌアの所の神使しんしの?」


「そう。」


「へ~、ちょっと神使は私の守備範囲外だわ。あの人たち何を考えているのか全く分からないから。」


「え?」


「でも、話を聞くくらいはできるかなぁ…へ~明はユーリーが好きなの、へ~」


 あれ?やんわりと逃げられた?

 でも、ユーリー君のことを話せる人がもう一人増えた、何かあったら来海ちゃんにも相談してみよう。





 [昨日は楽しかったね。良かったら、今度は二人で食事しよう]


 スマホを両手に抱えて震えた。どうしよう既読ついちゃった。


「有希、休憩終わりだよ。」

 遥が声を掛けて来た。


「え?あ、うん、今行く。」


 直ぐに返事を返さなくっちゃ。いや、待てよ。直ぐに返したらガッツいてるみたいに思われちゃう。ここは少し時間を置いて、余裕を見せなくっちゃ。そう思い、スマホを置いてコートに戻った。


 バスケの練習に身が入らない、二人っきりで食事…食事の後は?いや~一回目のデートでそれは気が早いでしょう。なにを着て行こう。大人っぽい服あったかな?露出多め?それとも、見えそうで見えない感じ?どんな服装が好きなんだろう?でも、昨日の焼肉の時の感じでいいんだよね?ってことは、いつも通りの私を気に入ってるってことだよね。

 あ~早く返事がしたい。



 身の入らない練習が終わり、さっさと着替えて一人そそくさと帰り支度を済ませて、返信の文言を必死に考えながら、駅に向かっていると、後ろから声を掛けられた。


「有希、有希、ちょっと待てよ。」


 振り返ると、男子バスケ部の涼介が声を掛けて来た。今、忙しいから聞こえない振りをしたい…でも振り返って目が合っちゃった。


「私、急いでるんだけど。」

 歩みを止めずにそう言った。


「今日、約束してただろう、練習の後、食事に行こうって。」


 え?そんな約束…してたわ…


「あ~ごめん、急用が出来ちゃって。今日は無理。」


「え~何だよそれ、またお兄ちゃんか?」


 涼介が付いて来る、振り切りたい、一人になってゆっくり返事がしたい。


「何でもいいでしょう。兎に角、私は忙しいの。他に遊ぶ子なら幾らでもいるでしょう。」


 そう言うながら歩くペースを速めた。涼介はまだついて来る。


「じゃあ、明日は?」


 え?明日?まあ、良いか…いや待て、ジョシュアさんに他に男がいるなんて思われたら嫌われちゃうかもしれない。今ある腐れ縁は全てきちんと整理せねば。


「私、もう涼介とは遊ばない。じゃあね。」


「どういう意味だよ!」

 涼介が歩みを止めて大声で叫んでいる。でも振り返らない。



 駅のベンチに座ってスマホを握り締めた。返事するのにこんなに悩んだことが未だかつてあっただろうか。そうだよ、悩むほどの事じゃないよ、良いね~いつ行く?程度の返事でいいはず。そう思い、打ち込んだ。


 [楽しかったね。食事いつ行く?]


 いや待てよ、返事が遅くなったことの説明入れた方が良いのか?でも、余りくどくどと説明するのもなあ…余りにもシンプル過ぎてテンション低いな~ってガッカリされたりしないか?

 ちょっとだけ直して、読み直す。これ以上なにかある?…いやないはず。そう思い、送信した。



今回のお話はいかがでしたでしょうか?

感想などいただけると励みになります。

毎週水曜、日曜日の14:30更新中です。

宜しくお願いします。

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