第89話 それは、もしや…
「二日続けての焼き肉、最高でしたね。どっちのお店も美味しかった。」
昨晩、夏子が家に泊まりに来ていたので、今朝は神社には行けなかった。だから銀ちゃんとはお喋り出来ていない。その代わりと言うか、ルーチンと言うか、エバンズ家にやって来てお茶をしている。夏子はお昼前にはバイトに出かけて行った。ニューヨークは楽しかったけど、予想以上にお金が掛かってしまったみたいで、来年の美術館巡りに向けてバリバリ働いている。私も頑張ろう。
「本当、本当、やっぱり健二お勧めの店は最高。」
ジョシュアさんも上機嫌だ。ジョシュアさんと丸茂先輩はあの後、眠くなるまで話し込んでいて、目が覚めたらリビングで二人で寝ていたそうだ。その丸茂先輩は、明日、仙台で行われる押しのライブがあるとかで、前日入りして仙台グルメを堪能すると言って帰って行ったらしい。
「所で、ジョシュアさんと来海ちゃん、どうしてあんなに丸茂先輩のことが好きなんですか?まあ、面白いし、良い人だから私も好きですけど。」
「それは、詳しいことは教えちゃいけないんだけど、健二は最高だからだよ。」
「…もしかして?丸茂先輩って銀ちゃんのこと見えちゃったりします?」
「勘が良いね~、でも、これ以上は言えな~い。ね~来海。」
「そこまで言っちゃったら、教えちゃったも同然じゃない。もう、言っちゃいなよ~、ジョシュア~」
いつもよりテンション高いなぁ…この二人。
「え~僕の口から言っちゃう?僕が怒られちゃうよ~来海が言いなよ。」
「え~ジョシュアならば怒られないよ、私が言ったら大目玉だよ。日頃の行いが悪過ぎるから~。それに、明に話しちゃっても誰にもばれないし、健二も許してくれるよ~」
「それもそうか~。そう、健二はあっちの方の仕事仲間なの、それも僕たちの親友、まさかこんな近くにいたなんて。本人はまだ思い出してないみたいだけど。」
「二十一歳って言ってたから、そろそろじゃない?」
「そろそろだね。」
何だか二人とも凄く嬉しそう。
「銀ちゃんも丸茂先輩の事を知ってるんですか?」
「知ってるよ。健二も長いからね。」
「長いって、どのくらいなんですか?」
こういう事って、聞いてもいいのかな?と不安になりながらも尋ねてみた。
「健二も数千年組だから、結構長いよ。」
数千年組…?そう言えば、ジョシュアさんが冗談で四十六、七回目の転生みたない事を中島さんに言ってたけど、やっぱりあれは本当なんだ…
「凄いですね。ジョシュアさんと来海ちゃんも、その数千年組なんですか?」
「まあ、そうだね。」
ちょっと、気まずそうにジョシュアさんが答えた。
「あたしの方が二人よりも先に生まれたの、私の方がお姉さん。」
何故か、誇らしげに来海ちゃんが胸を張って答える。
「へえー、来海ちゃんの方がお姉さんなんだ…」
もう、千年超えたらどっちがお姉さんでもお兄さんでも気にすることじゃない気がするけど、来海ちゃんにとっては重要みたいだ。
「何はともあれ、親友と再会できてよかったですね。」
「あの有希ちゃんって子で間違いない。」
来海ちゃんがティーカップで優雅に紅茶を飲みながらそう言った。最近、来海ちゃんが時折見せる所作が優雅な女性って感じがする時がある。でも相変わらずイカの燻製は大好きだし、基本はガサツで大雑把。
「有希さんからペンダントを渡されたの?」
「そう。」
そう答えて来海ちゃんは、ガチャンと大きな音を立てて、ティーカップをソーサーに置いた。
「じゃあ、どうして渡したのか直接本人に聞けばよかったんじゃない?」
素朴な疑問をぶつけてみた。
「聞いても答えないと思う。」
来海ちゃんが、イカの燻製をわしづかみにしながら答えた。
「どうしてそう思うの?」
「多分、誰かの指示でそうしたんだと思うんだけど、誰の指示かは言ってはいけないことになってるから。」
わしづかみのイカを頬張るかと思いきや、一つだけ、もう片方の手でつまんで口に入れた。ちょっと上品になったのかな?だったら、お皿に出して食べればいいのに。
「誰かの指示ってことは…神様の指示ってこと?」
「分からない。でも、私はその可能性が高いと思ってる。だから、有希ちゃんから聞き出すことは難しいだろうって考えてる。これが、神の指示じゃなかったら、どんな手を使っても聞き出してやるんだけどな。」
そう言って、結局、わしづかみのイカを口の中に押し入れた。
「まだ、神からの指示とは決まった訳じゃないから、ひとまず聞き出す路線で進めてみようか。もし、神からの指示だったら、僕たちにはどうすることも出来ないけど…あの人からならば話を上げてもらえるかもしれないよ。」
「あの人?」
ああ、元神のイムナさんのことか?
「もうそう言う事には関わらないんじゃないかな?でも、お願いしてみる価値はあるかもね。それで、聞き出す路線はどうするの?あれ、もうイカさんがいない。」
イカの燻製の袋を逆さまにしながら、来海ちゃんが言った。
「食べ過ぎだよ。ちょっと思う所があって、あんまり酷いことはしたくないんだよね。」
ジョシュアさんが、ため息交じりにそう言った。
「え?」
来海ちゃんが鋭い視線をジョシュアさんに投げかける。私もちょっとドギマギする。まさか?ジョシュアさん、有希ちゃんのことを好きになっちゃったの?それは、浮気ってやつ?いや、行動に移さなければ、気持ちだけならば浮気って言わないのか?でも、ここで浮気宣言しちゃうのか?
「多分、いや、確実に…」
「確実に?」
来海ちゃんが視線の鋭さにもう一段階ギアを入れた。
「健二は有希ちゃんが好きだよ。」
…何て答えていいのか分からないが、そう言われてみればそんな気がする。
「…親友の好きな人に酷いことは出来ないですもんね。」
「ああいう、見た目が良くって、男を振り回しそうな女が好きだもんね…健二…不幸体質。」
どこかで似たようなセリフを聞いたようなぁ。あっちは男に振り回されるのが好きな不幸体質だけどね。
そう言うと、来海ちゃんは席を立ち、座っていた椅子を棚の下に運び、そこによじ登った。扉を開けてイカの燻製の袋を二つ持ちだした。
「一つにしておきなよ。」
そう言われて、来海ちゃんは一つだけ袋を戻す振りをして、スカートのお腹の所に袋を一つ押し入れて、その上からシャツを被せた。でも、どう見ても、お腹の所に何か入ってるのがバレバレで、戻していないのもバレバレだ。でも、知らん顔して椅子から飛び降りた。椅子を元の位置に運び終わり、再び椅子に座った来海ちゃんに向かって、ジョシュアさんが片手を広げて差し出した。その手を見て、来海ちゃんは渋々イカの袋を彼に渡した。
「ドケチ」
そう言いながら、別の袋をお腹のところから取り出して、袋を開けて食べ始めた。
「それで、どうやって話を聞き出すつもり?」
何だか来海ちゃんの機嫌があまりよくない感じがする。
「それは、普通に話をして聞き出すしかないでしょう。」
「普通に?どこで?何人で?」
「場所は分かんない、その時の流れで。人数は二人…でしょう。」
そう言われた来海ちゃんは、無言でイカの燻製をわしづかみにして口に放り込んだ。二人とも何も言わない。変な空気が流れる…
始めに口火を切ったのは来海ちゃんだ。
「…それで、口説き落とせる自信はあるの?」
え、そういうことなの?ジョシュアさんは有希ちゃんを口説いて話を聞き出すつもりなの?
「わかんないけど、頑張る。」
「…わかった…」
そう言う来海ちゃんの目は座っている。
「なんだか、健二に申し訳ないような…」
「健二のことより、心配するべき人がいるでしょう?」
そう言って、来海ちゃんは片手を広げてジョシュアさんの方に差し伸べた。
「そうだよね…じゃあ、一先ずこれで。」
そう言って、ジョシュアさんはさっき取り上げたイカの袋を来海ちゃんに手渡した。
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