第88話 好き好き健二
結局、二日続けて似たようなメンバーで、また焼肉を食べるのか。
そして、あの子がいる。私が箱に入ったネックレスを渡した女の子。何故ここにいるんだ?
「きゃ~、しっぶ~い焼肉屋さん!来海知ってる、こういうお店って美味しいんだよね~。お父さんが言ってた。」
こちらに全く気付いてないみたいだ。焼肉屋に来るのに、イカの燻製食べながらやって来た。どんなバカ舌しているんだ?この子?
「来海ちゃんは好きな焼肉ある?」
「え~、健二のお勧めならば何でも~、好き~」
「そう?…でもホルモンとかは苦手かな?」
「ホルモン大好き!タレが良いな~」
「ホルモンも好きなんだ、だったら皆と同じメニューで大丈夫だね。」
「うん、皆と一緒で大丈夫!健二が好きなものは、来海も好き~」
しかも、初っ端から健二呼ばわりとは、躾がされてない子どもだなあ。
あの軽薄バカ男が連れて来たんだから、それも仕方ないか。でも、あの子のお父さんは別の人だったよね?
「来海ちゃん、どこかで会ったことあるかな?」
そう尋ねると、彼女は首を傾げて考えてから答えた。
「うーん、わかんない。こんなに美人なお姉さんに会ったら、来海、忘れる訳ないから~会った事な~い。ね~健二~」
軽薄バカ男と無作法女児が丸茂ッちを挟んで座り、ケンジ~けんじ~と連呼している。健二も何だか嬉しそうだ。
「ジョシュアさんと来海ちゃんって、丸茂先輩と知り合いなの?」
星が不思議そうに軽薄バカ男に尋ねた。
「健二とは初対面。でも、この顔は絶対にいい奴。そして、美味しい物を知ってる顔。ね~健二~」
「そんな、照れちゃうなあ。」
丸茂ッちもまんざらじゃなさそう。
モテない男は、ちょっとちやほやされただけでも、相手が男だろうが子どもだろうが、絆されてしまう。私のように美しくて優秀に生まれて来てしまった人間には分からない感覚だ。ああ、可哀そう。
「健二はどうしてオカルト研究してるの?学部は?」
「僕の専攻は心理学なんです。幽霊を見たって人の心理に興味があって、それで心理学を学びながら、幽霊が本当に存在するのかどうかも研究してるんです。」
「それ凄く面白そう。幽霊はいないと思うけど。僕は物理学専攻で、異次元の世界があると仮定して、どうやったらこちら側からその世界が見えるようになるかを研究していたんだけど、今はしてないな~」
「え、ジョシュアさん、そんなことしていたんですか。僕も異次元には興味があります。」
「ジョシュって呼んでよ。でさあ、異次元があったとしてどういう形で存在すると思う?」
「僕もそれ考えたことあるんですよ。」
この二人、超オタク気質でめちゃめちゃ話が合ってるなあ。
でも、この人たちは知らない、本当に異次元が存在することを。そして、私はそこからやって来た。ちょっと優越感。
「健二、口だけじゃなく手も動かす。お肉焼いてよ。」
「あ、ごめん来海ちゃん。どれが良い?」
「ハラミ食べたい。健二が焼いたお肉は最高! あ、来海が健二に食べさせてあげる。はい、お口あ~んして。」
「え、大丈夫だよ、自分で食べられるから。」
「いいの、ほら早くあ~ん。」
「え、じゃあ。」
そう言って丸茂ッちはお口をあ~んして、小学生にお肉を食べさせてもらった。丸茂ッち、肉を焼き過ぎて、自分の方に焼きが回ったか?
「いいな、僕も健二に食べさせてあげたい。」
軽薄すぎるこの男。
「じゃあ、私も食べさせてあげたい。」
星も調子に乗って何を言ってるんだ。
「え、じゃあ、私も食べさせてあげたい。」
馬場まで…
皆が、丸茂ッちに丸茂ッちが焼いたお肉を食べさせてあげている。
一体、私は何を見せられているんだろう?
「嬉しいなあ。人生でこんなに楽しい焼肉は初めてかも。」
丸茂ッちが涙ぐんでいる。泣くほど嬉しいか?これ?
「有希お姉さんはしないの?」
来海が私に向かってそう言った。この流れで断るのは気が引けるなぁ…
「え…じゃあ、丸茂ッちほら、お口あ~んして。」
「有希ちゃん…」
涙ぐみながら、丸茂ッちが口を開けている。美味しそうに焼けたお肉をお箸で入れてみた。何だか、動物に餌付けをしているみたいで、丸茂ッちが可愛く見える…気がする…
「…嬉しい。こんなに幸せで良いのかな。」
「え、泣くほどの事じゃないでしょう。」
「女の子にお肉を食べさせてもらえる日が来るなんて…夢の様だよ。」
「…はは、良かったね。」
一人、男も入ってるけどね…
オタク同士の会話は途切れることなく続き、私以外の女子たちも、かなりのオタク気質でその話題に興味津々で喰いついている。始めのうちは冷めた目でそんな光景を眺めていたが、酒が入ってくるとその話が面白くなって、結局話に入って、楽しく盛り上がってしまった。
開店の五時から四時間ひたすら食べて飲んで話して、結局、物凄く楽しかった。
「そろそろ来海がお眠の時間になっちゃうから、帰ろう!健二は家に来ない?良かったら、飲み直そうよ。」
ジョシュアさんが健二を誘った。意外と話が面白かったので、軽薄バカ男と呼ぶのは止めることにした。
「え、良いんですか?」
「健二が良かったら、来てよ。」
大町駅で私だけバスに乗った、他のみんなは下り電車で小町駅まで帰って行った。星は馬場の家に泊まると言っていた。来海はお父さんが出張だからジョシュアさんの家の泊まると言っていた。
それにしても、あの時間は何だったんだろう?
丸茂ッちのファンクラブのオフ会の様だった…
でも、凄く楽しかった。こんなに楽しい食事会は初めてかもしれない。私もジョシュアさんの家に行って、三人で飲み直したかった。
一人、バスから暗い外を眺めてそんなことを考えていた。
帰りにジョシュアさんが私の帰りを心配してくれた。
「有希ちゃん、一人で大丈夫?タクシー乗って行きなよ。」
「バスで十分ちょっとくらいだから大丈夫。いつもは歩きで帰るの。」
「暗い場所じゃないの?」
「全然、暗くなし、それにまだ九時くらいだから、心配し過ぎ~」
「じゃあ、本当に気を付けてね。今日は楽しかったよ。」
「ええ、私も楽しかった。」
他愛もない会話。でも思い出すと嬉しくなっちゃう。顔がニヤケちゃう。
…あれ、これは…
頭を強く振ってみた。お酒が入っているせいかクラクラした。そうだ、酔ってるんだ。だからこんなことを考えてしまうんだ。私が、お兄ちゃん以外の男を好きになる訳なんてない。
あ…お兄ちゃんと言えば、お兄ちゃんの彼女…誰なんだろう?今日はその話もする予定じゃなかったっけ?
まあ、いいか。お兄ちゃんにだって恋する権利はある訳だし。沙羅ちゃんとはスーパー遠距離で上手く行かなかったって言ってたし。
そんなことを考えていたら、眠ってしまった様だ。目が覚めたらバスの車庫まで来てしまった。
誰か適当に呼び出して迎えに来てもらおうと思い、自分に気がある男に電話を掛けようとして、やめた。そして、道でタクシーに乗り込んで家に帰った。
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