第87話 オオ!健二
「こんなに高級なお店、本当に良いんですか?」
普通だなあ、馬場 明。見た目はまあ可愛い方か…
丸茂ッちに嬉しそにそう言う馬場を見てそう思った。うーん、お兄ちゃんが馬場と付き合う可能性は…わからん。
「親戚がやってるお店だから、大丈夫。」
「丸茂先輩の家ってすごいですね。丸茂百貨店系列の経営していて、親戚にもこの焼肉屋さんの経営者がいて!大町市を牛耳ってるって感じ。」
星も俄然嬉しそうだ。丸茂ッちの親戚がこの店の経営者で助かった…しがない大学生の私に高級焼肉なんて奢れるわけがない。っていうか、こいつらに奢りたくない。
「はは、家族がそうなだけであって、僕はしがない、モテない、ただの太めの大学生だから。」
「美味しい物を沢山食べてるからですよ。」
「まあね。美味しい物には目がないから。」
なんかこの二人の会話って、若さを感じないんだよな。丸茂ッちと星…
牛タン、ハラミ、カルビとどんどん出て来る。
「よかったら、僕が焼くけどいいかな?良く焼けてる方が好きなら、もう少し焼いてね。」
そう言って、五人分の肉を網に乗せて丸茂ッちが焼いてくれる。丸茂ッちは一度に2切れ食べる。焼き加減もちょうど良い。肉も良いやつだ、牛タンは程よく歯ごたえがあって、カルビは口の中でとろける。
ああ、丸茂ッちといると美味しい物が食べられる。見た目はイマイチだけど、この点に関しては本当にいい奴なんだよな。
でも、なんで私はこの四人で焼肉を食べてるんだろう?そんなことよりもお兄ちゃんの彼女を探さなくちゃいけないってのに、馬場とはちょっと話が出来れば良かっただけなのに…この時間無駄だな。
馬場がお兄ちゃんと付き合ってないかどうかだけ確かめて、肉食べたら、さっさと帰ろうっと。
「ねえ、馬場は彼氏とかいないの?」
「ああ、今日の本題はそれでしたね?」
え?どういう返し?
「彼氏はいません。それと、もちろん博則先輩とも付き合ってません。」
「へぇ…、付き合ってないって証拠はあるの?」
「そう聞かれても、付き合ってないものは付き合っていないとしか言えません。」
まあ、そうだろうけど…信じちゃっていいのかな?
「じゃあ、何でミステリーサークルなんて変なサークルに入ったの?」
丸茂ッちと星の箸が止まった…そうだった、こいつらもミステリーサークルだった。
「変なサークルじゃないですよ。私は推理小説とか、不思議な話とかが好きなので、あと、活動自体が緩いから、丁度良いなって。」
そう言って、馬場はサンチュに肉とキムチと海苔をぱんぱんに巻き込んだ。
「そこ重要だよね。バイトもしたいし、サークルとか部活だけに時間かけてらんないもんね。」
横で星がご飯を片手に肉を頬張った。いつの間にライスを頼んだんだよ。
「私たち二人は、博則先輩狙いでサークルに入った訳じゃないです。」
馬場がきっぱりと言い張った。
「そんなの口じゃ何とでも言えるでしょう。もし、嘘だったらどうするのよ?」
「え?どうするもこうするも…あ、その彼女を見つければいいんですよね。そうすれば、私たちの疑いも晴れるってことか。」
「まあ、そうだね。」
良い感じに話が流れて来た。っていうか、そもそもこの焼肉は、その成功報酬の前払いって事だったんだっけ?
「丸茂先輩は、知ってるんですか?」
星がライスを片手に問いかけた。
焼肉食べるときにご飯を手放さないタイプか?野菜も食べろよ。
「知らないんだよ、本当に。僕から有希ちゃんに伝わることを懸念してるんだと思う。」
「丸茂先輩の予想では?」
「うーん、親友の恋路の邪魔はしたくないし、詮索するのもゲスだと思って、詮索してなかったんだけど…する?」
「そうか…丸茂先輩が知っちゃったら、そこから有希さんに伝わっちゃうのか…それも、博則先輩が可哀そうだな。」
「…え、話が違うでしょう?そもそも、彼女を探す手伝いするって言うから、焼肉に連れて来たんじゃない!」
でも、そもそも、こいつらの助けなんか当てにしてない、お兄ちゃんの彼女を見つけ出すことなんて、私には造作もない事だ。だって、私は超優秀だから。
実行者の中には何千年も実行者を続けている伝説的な者たちがいる。十数名ほどいると言われる彼らは、実行者たちの憧れだ。そして、彼等の詳しい素性を知るものは殆どいない。彼らは、神から直々に呼び出しを受け、重要な指示を受けるらしい。私はまだ神に会った事すらない。医務局に神がいるよって誰かが言ってたけど、どういうロジックのジョークなんだろう。面白さが全く分からない。
ただ、私は皆とは違う。長年同じことをやってるからってそれが優秀だとは思わない。惰性で続けているだけ、進歩も成長もない、手慣れた事をただただ続けているだけ。それをベテランと呼ぶならばそうなのかもしれないが、そんな偏屈で退屈な人間にはなりたくない、そして、私はならない。
「有希ちゃん、口に合わなかった?」
丸茂ッちがこちらに向かってそう言った。
「え、そんなことないよ。美味しいよ。」
気がそれて違う事を考えていた。焼肉を腹一杯食って、さっさと帰るんだった。それに、話をしている内に段々、この二人ってことは無さどうな気がしてきた。だって、この二人変だもん。
「あれ、明と夏子じゃない!友達と食事?」
突然、濃い目のネイビーのスーツを着た、長髪の金髪の男が二人に声を掛けて来た。なんか輝いている気がするけど、誰だこの男?
「ジョシュアさんこそ、こんな所で何してるんですか?」
「スーツ着てる。初めて見た。」
しかもこの三人、妙に仲が良さそうだな。
「今日は、接待される側だからスーツ。ちゃんとTPOはわきまえられる男だから。」
「そういう格好すると、ただのイケメンですね。」
「夏子、それ貶してる?褒めてる?」
「もちろん、褒めてますよ~」
「そちらは?」
ジョシュアさんと呼ばれたその男がこちらを見た。輝くような笑顔をこちらに向けている。そんな笑顔に絆される様な私じゃない、逆に絆し返してやる。
そう思ってこちらも満面の笑みを返すと。
「えー健二って言うの! 健二って呼んでも良い?僕のことはジョシュっ呼んでよ~」
私の笑顔の先にもうその男はいない。丸茂ッちの隣の席に座りこんでいる。
「え?、勿論、いいですよ。でも、ジョシュは、ちょっと。」
「まあ、そこはおいおい。それで、健二は何歳?」
「え、二十一歳です。」
「じゃあ、お酒飲める?飲むの好き?」
「割と、いや、大好きです。」
「本当!じゃあ、今度飲みに行こうよ。健二のお勧めのお店で。」
何だ、この男…どうしてこんなに丸茂ッちに馴れ馴れしいんだ?
「え…いいですよ。それで、何が食べたいですか?」
そして、何故に丸茂ッちは普通に受け入れてるんだ?
「このお店、美味しいんだけど、僕、霜降りのお肉より、赤身のお肉の方が好きでさあ。」
「だったら、ニ九の一ってお店がお勧めですよ。店構えは、なんて言うんですか、余りきれいじゃないんですけど、モモ肉がうまいんです。あと、イチボとトモサンカクが絶品。」
「いいね~!じゃあ、明日行こうよ!」
「明日…ですか…?イチボとトモサンカクが売り切れちゃうことがあるから、予約しておいた方がいいかな。何人で行きます?」
明日って所よりも肉が売り切れる方を気にするのか?おかしいだろう…それ。
「明日、一緒に行く人!」
そう聞かれて、星と馬場が手を挙げた。私もつられて手を挙げた。
「えーと、じゃあ、六人で」
「六人?他にも誰か来るんですか?」
「うん、小学生だけど沢山食べるから、六人分で予約してよ。」
「分かりました。時間は?」
「開店と同時で。それでいい?」
「はーい!」
なぜか星と馬場に釣られて、私も返事をしてしまった。丸茂ッちはそのお店に電話を掛けている。
「いや~、本当に楽しみ!…で、有希ちゃん、だっけ?」
そう言って、その男はこちらに満面の笑みを向けて来た。眩しい…でも負けない。
「ええ、そうよ。」
私は彼に、小首を傾げながら妖艶で含みのある微笑みを返した。
この表情に当てられて勘違いしない男はいない、自分に気があると思い込んじゃう。本当に男って単純で馬鹿な生き物だ…お兄ちゃんを除いて。
「有希ちゃん、外国の洗剤みたいな香りがするね。割と好きな香り、割と。」
…え?外国の洗剤?具体的にはどこの国の洗剤?…いや、これって…貶された?
「ジョシュアさん。この後はどこか行くんですか?」
馬場がその男に尋ねた。
「この後は、女の子がいるお店に連れて行ってくれるんだって。人と話すのは好きだから、まあ、行ってくるよ~、じゃあ、また明日ね~」
そう言って、楽し気にその男は去って行った。
…外国の洗剤…割と好き、割と…
大好きな香水の香りを貶された…
何て失礼な男!!!
いや待てよ、最初に失礼なことを言っておいて、後で口説き落とす。最初に悪い印象を植え付けて置いて、後から優しくすることで、そのギャップにコロッと引っかかるってやつだ。浅はかな見た目だけの男が使う三流、いや五流のテクニック。
あれはきっと見た目だけの軽薄でバカな男だ。そんな手口に私が引っかかる訳がないのに。
でも、ちょっと乗ってあげてもいいかな、そして後で酷いしっぺ返しをしてやろう。そう思うと明日の焼肉も楽しみになって来た。それに絶品のイチボとトモサンカクも食べたいしなあ。
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