第86話 有希ちゃん
あの女の子に箱に入ったまま石を渡せと指示されたので、そうしたけど、あれは結局何だったんだろう?気になって函館にあの子を見に行ったけど、見つからなかった。そういえば、その前もかおかしな指示を出された。私が新参者だからって適当な仕事ばっかりさせてるのか?だったら、馬鹿にし過ぎじゃない?
うちの大学のバスケ部は強豪で、夏休みの間も練習がある。電車に揺られ大学に向かう途中でモヤモヤした気持ちでそんなことを考えた。でも、考えたって答え合わせは出来ないのだから、考えるだけ無駄だ。
そんなことよりも、最近、お兄ちゃんに彼女が出来た。お兄ちゃんはそんなことないと言っているけど、行動が怪しい。早急にこっちの答え合わせをしなくては。
電車を降りると、同じ部活の後輩が声を掛けてきた。
「有希先輩、おはようございます。今日も輝いてますね。」
「おはよう美波。美波こそ可愛すぎるぞ。」
毎度おなじみの二人の掛け合いだけど、美波は本当に可愛い。小柄で小動物のようだけど、これがまたよく飛ぶんだよな、凄いジャンプ力。
「先輩いつもいい香り。」
「でしょう。私もこれ気に入ってるんだ。」
そんな話をしながら、美波と一緒に大学に向かった。
これからバスケ部の練習をして、その後は英会話の個人レッスンのバイト。今日は駅の側のカフェで二時間レッスン。それが終わったら家に帰って、兄の部屋を物色してやる。今日、お兄ちゃんはバイトで帰りが遅いって言ってたからなあ。
「お兄ちゃん、また彼女が出来たみたい。どんな女なんだろう、お兄ちゃんに見合った女じゃなきゃ私認めないって決めてるから。」
ベンチに腰かけて水を飲みながら、隣に座ってる友人の遥に話し掛けた。
「もういい加減、許してあげなよ。彼女くらい作るでしょう。」
「だから、お兄ちゃんに見合った女ならばいいのよ。でも、お兄ちゃん、女見る目が無いんだもん。」
「あんた面倒くさいよ、そういう所。じゃあ、どんな女ならばいいの?」
「容姿はもちろん、知性も教養もあって…そんで…まあ、結局、会ってみなきゃわからないよ。インスピレーションでこの人ならば認めるって思える女よ。」
「はいはい、結局、美人と付き合った所で、下品だの、顔だけだのと文句ばっかり言って認めない訳だし、有希のお兄ちゃん本当に可哀想だわ。」
「私は、お兄ちゃんを心配してるの、それなのに、遥にも理解してもらえないなんて、心外だよ。」
「それで、今度はどんな女なの?」
「多分、同じサークルの後輩。候補は数名絞ったんだけど、その中の誰かは特定できてない。」
「へぇ…探偵みたいだね。毎回どうやって調べて来るんだか、感心しちゃうよ。あんただって暇じゃないはずなのに。」
「お兄ちゃんもなかなか尻尾を出さないから、調べるの大変なんだよ。一先ず一人一人当ってみようと思う。」
「え?直接、目星を付けた候補に話を聞きに行くの?」
「その方が早い。お兄ちゃんに聞いたって、絶対言わないもん。」
「勝手にしてください。」
そう言って、遥はコートに戻って行った。
英会話のバイトは相手の都合でキャンセルになった。電車に揺られて家に向かう。時計をみると二時半、一人ぐらい話を聞きに行けそうだな…誰から当たろうかな。
候補に挙がっているのは同じサークルの後輩で二年生の木村 奏と渡部 青葉、一年生の星 夏子と馬場 明の四人。他にも候補がいたけど、その中でもそこそこ顔が良いと思われるのがこの四人、だからきっとこの中にいるはず。
それと、ティナはお兄ちゃんに好意を持っているが、付き合ってはいないと思う。先に私が仲良くなっておいたから、彼女の行動は把握が出来ている。
丸茂ッちに話を聞いた限りでは、星と馬場は可能性が低いと言っていた。でも、そんなの分からない、上手く隠してるだけかもしれない。
木村はお兄ちゃんと一緒に歩いてるところを見たことがある、あれはお兄ちゃんのタイプじゃない。だから可能性は低いと思うけど、万が一を考えて確認してみよう。あの手のタイプは付き合っていたら隠さずに話したがるタイプだ。
渡部は、お兄ちゃんの好みのタイプだと思う。ちょっと清楚で控えめに見える感じとは裏腹に物怖じせず、はっきりものを言うタイプ。彼女のバイト先のカフェまで行って確認したけど、顔もこの四人の中では一番良い。
星はよくわからない…丸茂ッちと映画に行ったとか言ってたし、高校の同級生の男が好きでずっと狙ってるとか言ってるらしい。でも、お兄ちゃんに心が揺らいでいる可能性もある、そして丸茂ッちにうまく取り入って、お兄ちゃんとの仲を取り持ってもらおうなんてゲスなことを考えてる可能性だってある。本屋でバイトしてる所を見たけど、割と美人でスタイルも良さそうだった。
馬場は見たことがないんだよな。丸茂ッちの話だと、見た目は可愛いくて、性格は天然だと言っていた。バイトもしてないみたいだし、いったいどこに行けば顔が拝めるんだろう?星と仲が良いって言ってたから、星に話を聞いてみるか?これから、大町駅の本屋に行ってみよう。まあ、星がバイト日じゃなかったら、お兄ちゃんのバイト先でご馳走になって来ようっと。そんなことを考えながら、大町駅で電車を降りた。
遥からあの後、『有希も早く彼氏作りなよ、そしたらお兄ちゃん、お兄ちゃんなんて言わなくなるから。』何てお気楽な事を言われた。
遥は大学に入ってから出来た友だちだ、だから彼女は私を分かっていない。勿論、私だって今世でも何人かと付き合ったことはある。でも、結局たどり着いた答えは、お兄ちゃんを超える男なんてこの世にいない。前前世までさかのぼってもいなかった。ということはお兄ちゃんを超えるような男なんてこの世にいない。私がこの先、何百年と生まれ変わったとしても、きっといない。ってことで馬場の顔を拝みに行こう。
大町駅の駅ビルの本屋で馬場を探した。服装が派手な訳でもないけど、パッと目を引く気が強そうな美人だ。お店のロゴが入った青いエプロンをして、本棚の整理をしている。
「あなたが、星 夏子?」
声を掛けた。
「え?…お客さんですか?」
え?どういう返し?
「まあ、客って言えば客だけど。私、山本 有希、博則の妹。」
「え?…博則先輩の妹?…ああ…あの…」
はあ、何その含みがあるような態度、あのってどのだよ。
「それで、私、馬場 明に用事があるんだけど、連絡先を教えてくれない?」
「え?嫌です。」
「え?何でよ?」
「友人の個人情報を怪しい人に教える訳ないでしょう。」
「誰が怪しいって?」
「怪しいでしょう、どう考えても。どういう用件か知りませんが、教えられません。私、バイト中なんで、これ以上用事がないのであれば、失礼します。」
感じワル!
「ちょっと待って、馬場と話をしてみたいのよ。お兄ちゃんから時々話を聞いてたから、どんな子かなって思って。連絡先が教えられないんだったら、呼び出してよ、どこかでお茶しながら話がしたいなあ。」
「明は博則先輩とは無関係ですよ。」
「え?」
「丸茂先輩に、明と私が博則先輩と付き合ってる可能性がないかどうか尋ねたそうですけど、そんなことは全くありませんからご心配なく。じゃあ、私、忙しいんで。」
そう言いて、星はその場を去ろうとした。私は咄嗟に星の手をつかんで、
「じゃあ、丸茂ッちも一緒に四人でご飯食べに行かない?好きなものご馳走するよ。」
「何のために?」
「お兄ちゃんの彼女探しを手伝って欲しくて。」
「直接、博則先輩に聞けばいいじゃないですか。」
「聞いたけど、彼女いないの一点張りでさあ…丸茂ッちもそこは教えてくれなくて…お願い。」
悔しいけど、ここは、ほんのちょっとだけ下手に出よう。
流石は私、これも作戦だと思えばこの悔しさも我慢できる。人の心を掌握する術を使いこなしてこそ一流の実行者。いつまでも雑用ばかり言付けられている新参者扱いなんてさせないんだから。
「それは、私たちに協力を依頼してるってことですか?お願いしてるってことでいいんですよね?」
…感じ悪い女だな。こいつ。
「まあ、そんな感じ。」
「じゃあ、高級焼肉で手を打ちましょう。」
…こいつ、もしもお兄ちゃんの彼女じゃなかったとしても、後で、絶対にぎゃふんと言わせてやる。
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