第85話 おかえり
数日後、ジョシュアさんと来海ちゃんは、病気には感染していなかったと言う事で二人揃って無事に帰って来た。花沢さん、中島さん、本間さん、そして私が、各自で料理やケーキなどを持ち寄って、二人の快気祝いをした。
「保健所の職員の説明を聞いても、正直、信じられなかったけど、こうやって無事に帰って来られて本当に良かった。」
中島さんがノンアルビールを片手にそう言った。
「僕もびっくりしましたよ。本当に、二人ともなんでもなく良かった。」
本当は二人ともガーデンという他の星(且つ、次元も違うらしい)の病院にいたらしいが、ここでは某指定の病院で検査を受けていたと言うことになっている。その病院は場所を教えることが出来ないのだそうだ。どういう仕組みでそういう工作が出来るのだろうか?この辺も深く詮索しない方が良さそうだとは思っている。
「来海の事ではジョシュア君には迷惑をかけてばかりで、今回は本当に申し訳なかったね。」
本間さんは、ジョシュアさんと来海ちゃんが好きな近所の中華料理屋さんの特製オードブルを十二人前持ってきている。
半分以上は本間さんが食べるのだろうけど、どれも美味しそう。エビチリのエビが大き目だ。
「迷惑なんて思ったことないよ。来海がいると楽しいから。」
そう言って、ジョシュアさんは中島さん特製のローストビーフを食べた。
「お父さん、迷惑だなんて思う必要ないよ。だって、私たち将来結婚するんだもん。」
本間さんの隣で、中華オードブルの中から豚の角煮を箸で持ち上げながら、来海ちゃんが何食わぬ顔でそう言った。
「え…でも、来海、こないだまで晴斗君がぶっちぎりで一番って言ってなかったっけ?急にどうしたの?」
本間さんが驚いた顔で尋ねた。
「その時はそう思ってたの、でも今は違うの。」
そういって、大きな豚の角煮を一口で口の中に放り込んだ。
「美味しい!やっぱり角煮は八角が効いてるやつに限る。中島さん、今度また、八角増しましのやつ作ってね。」
「もちろん!八角増しましで作っちゃう。」
「嬉しい!花沢さんのお芋の田楽も食べたい。」
「もちろんよ。でも、来海ちゃんはブリの照り焼きをリクエストしてくると思ってたわ。」
「…うん、照り焼きも食べたい…かな。」
そう言って、来海ちゃんは苦笑いをした。
「まあ、いつもの心変わりかなあ…こないだは大河お兄ちゃんはピアノが弾けて素敵だから、候補に入れちゃおうかな~とか言ってたもんね。ジョシュア君、気にしなくていいからね。」
本間さんが、ちょっと申し訳なさそうに言うと、
「え~、嬉しいよ、四番手からいきなり一番手に大躍進だもん。」
ジョシュアさんは心から嬉しそうだ。本当は既にパートナーなのに、ずっと四番手に甘んじていたのだから、そりゃぁ嬉しいだろう。
「五番手からだよ。」
来海ちゃんがパーにした左手をジョシュアさんに向けて、屈託なくそう言った。
「え、いつランクダウンしてたの?」
ちょっとムッとしてるご様子だ。
「晴斗君、まさむね君、もとお君、けんちゃんの次がジョシュアだったから、五番目。大河お兄ちゃんにピアノ習ってた時は、六番目になってた。やっぱり楽器が弾ける男の人って素敵に見えちゃう。」
屈託のない笑顔…わざとやってるんじゃなかろうかと思えてしまう。
「ピアノなら、来海よりは上手だよ。」
何故にピアノで張り合おうとする?バイオリン弾けるだろう、物凄く、なんか凄い感じに。
「やっぱり、バイオリニストってピアノも弾けるの?」
急に目を輝かせて本間さんが話に入って来た。
「え…僕は、ちょっと弾ける程度だよ。大河みたいには弾けないなあ。」
「実はね、僕、昔ピアノを習っていて、と言うか音大のピアノ科だったんだよ。」
「…え。」
全員の視線が本間さんに向いた。来海ちゃんも驚いている。
「そんなに驚くことでもないでしょう。就職がなくて不動産会社に勤めたけど、今でもピアノは好きだし、実はジョシュア君のファンでもあったんだよ。でも、出会った時は同姓同名の人かなくらいに思ってて、でも似てるな~って思ってたんだ。今は、仕事のお客さんになっちゃったから、そう言う話題は出さない方が良いのかなって思ってたんだけど。」
「お父さん、ピアノ弾けるの?」
「多分、今もある程度は弾けると思うよ。」
本間さんが嬉しそうに答えた。
食後に本間さんのピアノを聴かせてもらった。それも物凄く、なんかすごい感じだった。手始めにクラッシクを一曲弾いて、その後、調子が出て来たのか、来海ちゃんが好きなアニメの曲を即興で物凄いアレンジを加えて弾いていた。
来海ちゃんの本間さんを見る目がハートになっている。
「大河君から、ジョシュア君と一緒に演奏したって話を聞いて、ずっーと、ずっと羨ましかったんだよ。もし、良かったら、僕もお願いできないかな?」
申し訳なさそうに、でも満面の笑顔でお願いしてくる本間さんに、ジョシュアさんも断ることが出来ず、
「将来のお義父さんのお願いならば、なんなりと。今度バイオリン借りておくね。今、持ってないんだ。」
「いや~嬉しいな~、楽しみだな~、明日の大阪出張も頑張れそうだよ!」
本間さんは、明日の早朝から大阪に向かうため、ジョシュアさんの家に来海ちゃんを置いて帰って行った。
花沢さんと中島さんも帰って行った。
「銀ちゃんがどうして、水色の石のことを知っていたかって件なんですけど、折角ならば今から神社に行って、直接本人に聞きませんか?」
話は銀ちゃんから聞いていたから説明は出来るけど、本人も交えて話す方が手っ取り早いだろうと思い提案した。
「うーん、その方が手っ取り早いけど、当面の間、来海と僕は銀ちゃんには会わない方が良いと思っていて。」
「どうしてですか?」
「その石を渡してきた女が来海の近辺に居る可能性もあるし、もしも、その女に銀ちゃんが見えてしまったら、何かと面倒なことになるかもしれないと思っていて。」
「見えてしまう?その女がジョシュアさんたちのお仲間ってことですか?」
「その可能性はあると思う。」
「同業者ならば、その女が誰かわかるんじゃないですか?同じ会社の人みたいな感じですよね?」
「それが、そうでもなくて。古参のメンバーならば顔見知りだったりするけど、新しいメンバーは正直全く分からない。入れ替わりも激しいみたいだし、新入社員紹介がある訳でも、社員名簿が公開されている訳でもないから、お互いのことは良く知らないんだ。」
「へぇ…そんなものなんですか。」
と言う事で、銀ちゃんから聞いた話を説明した。
エシャさんが五番目の神様であるソナイさんを消滅させてしまった後に気を失い、そのエシャさんの介護をしていたのがイムナさんだった。銀ちゃんはその場に居合わせていていたため、エシャさんを運んだりなんだりとイムナさんのお手伝いをしていた。その時、エシャさんの持ち物の中から水色の石のついたペンダントを取り出し、イムナさんが「これか…」と呟いていて、それを握りつぶすと、石は消えてなくなった。その後、エシャさんの状態も落ち着いたので、あの石が原因でエシャさんは具合が悪くなって、暴走してしまったんだと銀ちゃんは思ったそうだ。
「へえ、そんなことがあったんだ…知らなかった。あの後は気がついたら、ベッドで寝てたし、その時の詳しい話は教えてもらえなかったから。」
「その石をエシャに渡したのがヤガってことなのか。」
「銀ちゃんもそこはあくまで憶測だって言ってました。ヤガさんは渡してないと言い張ってたみたいだから。それが本当にヤガさんだとして、今回もヤガさんの仕業ってことになるんですかね?」
「…何とも言えないなあ。ヤガは幽閉されてるって聞いてるし、目的がはっきりしないから。」
そう言うジョシュアさんの横で小首をかしげながら来海ちゃんも
「そうなのよね、あの時は、自分が神になりたいっていう明確な目的があったらしいけど、今回は、ここで私が暴走して、何かヤガの得になることがあるのかしら?って思うと何も思いつかないのよね。」
「神になりたい?…なんだか物凄い目的だったんですね。結局、なれたんですか?」
驚いた、何たる野心家。
「結局、なれなかった。」
ジョシュアさんが答えた。
「じゃあ、またリベンジってこともあり得るんじゃないですか?幽閉されていても諦めきれずに。韓国ドラマとかでありそうな感じ。」
「いや、リベンジはしないと思う。どうあがいても神にはなれないと痛感したんじゃないかなぁ、あの一件で。確かに、韓国歴史ドラマにありそうな感じだよね~、幽閉されていても、結構自由がきいて、人を使ってやりたい放題悪いことをする悪役って感じ。」
「幽閉ってどこでされてるの?エデン?」
来海ちゃんが、急に大人の表情でジョシュアさんに尋ねた。
「そう聞いてる。」
「じゃあ、ゆるそうね。その幽閉。」
二人で、ちょっと困った顔をして猫のギンちゃんに目をやっている。ギンちゃんは今日もキャットタワーの中腹で毛づくろいに勤しんでいらっしゃる。
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