第84話 ただいま
その後すぐにイムナは戻って来た。
「家に帰っても大丈夫だよ。」
そう言われたので、新しいポータルを使って地球に戻ることにした。出口は、近所にある公園の丘にある林の辺りに設定されていると言う事だった。
時間は深夜の二時くらい、あれからまだ半日もたってないのか、もう数日くらい経っている気がしていたけど。家族や関係者には、保健所の指示で二人とも指定の病院に隔離され検査を受けている。検査結果によってはそのまま隔離になるか、数日中には帰って来ると言う説明がされているようだった。
ポータルを通りながら、気になっていたことをヒオスに尋ねた。
「どうして、明とギンちゃんには会いに行っていいの?」
「二人は僕たちの事を知ってるんだよ。明はイムナにも会ってる。そして、ギンちゃんはユーリーだ。」
え?全く何のことか理解不能なんですけど。
「え?明が知ってる??ユーリーって?」
「ユーリーはヌアの神使のユーリーだよ。明は僕たちの正体を知っているし、地球上でユーリーの姿が見える数少ない人間なんだよ。」
…やっぱり、全く分からん。そもそもギンちゃんは猫だ。そして、明は何者だ?
「まあ、おいおい分るよ。」
そんな話をしながら先に進むと、公園の高台にある岩壁に出た。
「後で、このポータルのゲートをうちの地下室にも繋いでもらわないと。エシャもそこでいいよね?」
「え?」
そうだった、記憶が戻るとポータルのゲートの設置場所を申請しなくてはならないのだった。でも、子どもの状態で記憶が戻ったことなんてなかったから、自分用のゲートの設置って言われても、どこに設置していいのかわからない。ジョシュアの家の地下室ならば使い勝手は悪くない。それに、こんな子どもに指示なんて出されるわけ無いだろうから、当分、使うこともないだろう。
「うん、それでいいよ。」
そう答えた。
深夜の町はひっそりとしている。こんな時間に外を歩くなんて、大晦日くらいだ。もちろん、来海としての話。しかも帰りはお父さんに抱っこしてもらって、眠っていた。
「まずは、明の家に行こう。」
明の家の二階の部屋に電気がついているのを確認すると、ジョシュアは電話を掛けた。
このスマホは新しく準備されたもので、元々持っていた彼のスマホは何が原因かは特定できないけど使い物にならなくなっていた。
「明?こんな深夜にごめんね。え、今、明の家の前。来海も一緒。」
彼がそう言うと、窓辺に明が現れた。彼女の姿を見て二人で手を振ると、直ぐに彼女はギンちゃんを抱えて、外にやって来た。
「ジョシュアさん、来海ちゃん…どこに行ってたんですか…心配したんですよ。」
そう言って、明が涙ぐんだ。
「心配かけてごめんね、兎に角、僕たちは無事だから安心して。詳しい事はまた後で説明する。それと、もう暫くギンちゃんをお願いね。」
「ギンちゃんは大丈夫です。」
明の腕に抱えられた、ギンちゃんは目を大きくしてこちらを見ている。何だか嬉しそうに見える。
「ジョシュアさん、何だか声が変ですね。」
「そうかな…はは、今回は僕たちが無事だってことを伝えにきただだから、長居は出来ないんだ。でも、数日中には戻って来るよ。」
「病院に戻るんですか?」
「…まあ、そんな感じ、あっちの病院だけど。」
「はあ、兎に角、元気そうでよかったです。来海ちゃんも。」
そう言って、明はしゃがみ込んで私の顔を覗き込んで来た。
「明も元気そうでよかった。」
普通にそう答えると明は目を丸くして、少し驚いた表情をした。
「え?ええ、私は元気だよ。来海ちゃんはすっかり良くなったんだね。何のお病気だったの?」
「病気じゃなかったわ。」
「…そうなんだ、何だか来海ちゃん、話し方が大人みたいになったね。」
そうだった来海は七歳の女の子だった、子どもの振りをせねば。
「そんなことないよ。来海はいつもと同じだよ。」
「…へえ、そうなんだ…」
何だか変な空気…
「来海、明は僕たちの事を知っているから、明とギンちゃんの前では、子どもの振りをしなくても大丈夫。」
そう言われてヒオスの顔を見上げた。そうだった、さっきそんな話をしていた…それじゃあ。
「私、エシャの記憶が戻ったの。」
「…へぇ…」
何だか意味不明って顔してるんですけど、この話本当にして大丈夫だったの?
ギンちゃんも大きな目をより大きくしてるんですけど。
「詳しいことはまた後で、それじゃあ。」
ヒオスがそう言って、その場を去ろうとした。
「あ…ジョシュアさん…あの…実は、ジョシュアさんの家の窓を割っちゃって、ビニールシートで補修はしたんですけど…明日、業者さんを呼んで修理を依頼しようかと思っていて、誰にお願いすればいいですかね…」
「…なんで窓を割ったの?」
「いやぁ、鍵が全部閉まっていたし、電話しても出ないし、どうしても伝えなきゃならないことがあったし…まあ、いろいろな事情があって、庭の石で叩き割りました。」
「心配してくれての事なんだね。花沢さんにお願いすれば、業者さんを呼んでくれるよ。それで、伝えなきゃならない事って?」
「来海ちゃんの具合が悪くなった原因の事で、銀ちゃんが水色の石のせいだって言っていて、その石を出来るだけ来海ちゃんから引き離さなきゃならないって、その事を伝えたかったんですけど、今はもう大丈夫そうですね。窓は明日、花沢さんにお願いしてみます。」
そういって、明は私の方をみてにっこりと笑った。私も何故か嬉しくなってにっこりと笑い返した。
「へえ、なんでギンちゃんは、そんなこと知っていたんだろう。」
「さあ?」
ギンちゃんはユーリーだって言っていたな。ユーリーはどこでその事を知ったのだろう?神使の間では一般的なことなのかしら?
「後で、ギンちゃんに聞いておいて欲しいな。」
「分かりました。ギンちゃん、明日の朝、教えてね。」
明がそう言うと、ギンちゃんは嬉しそうに一声『にゃ~』っとお返事をした。
明とギンちゃんに見送られながら、その場を後にした。
公園に戻る途中で、ちょっとだけお父さんに会いたくなった。でも、もし見つかったら面倒なことになるから、我慢して真っ直ぐ公園に向かった。
「お父さん、心配してるだろうな。」
自分の家に続く道に目をやりながらそう呟くと、
「そうだね、早く帰って安心させてあげないとね。」
ヒオスがそう答えた。
子どものまま記憶が戻るってこういう感じなんだなって、何となく思った。
「私、小学校に通うことになるんだよね?」
「まあ、お咎めがなければそうじゃない?」
「…お咎め?なんの?」
ヒオスの顔を見上げた。
「ポータル壊した件で、事情聴取されるんでしょう?」
…うっ、そうだった。
「でもあれは事故よ。貯まった力でみんなの願いを叶えたらああなったってだけだし、そもそも、本当に叶うかどうかなんてわからなかったし。」
「まさかあんな叶い方をするなんて思わなかった。」
思い出し笑いをしている時の顔だ。ちょっとイラっとする。
「だって、私、自分の力はぶっ放すか、放出する以外に使い方を知らないんだもん。どうなるかなんて予想もつかなかった…」
そう、結局は自分の力のことを何も知らなかったせいで、ああなったんだけど、それを責めるのはお門違いだ。私は子どもの時に同族を全滅させられたため、自分の力の使い方を殆ど教わっていない。
その後、母のお墓に、僅かではあるが、自分たちの種族に関する書物や記録が残っていると言う噂を耳にして、探しに行ったが、墓荒らしに荒らされた後で何も残っていなかった。
「じゃあ、凄い進歩だったね。願いを叶えるっていう技を独自で編み出したってことだ。それじゃあ、僕の長生きと、ギンちゃんの健康も叶ってるのかな?」
「…さあ…、そんな実感ある?」
そう尋ねると、ヒオスはちょっと考えて
「全然、何も変わった感じしない。でも、今、生きてるってことは、叶ってるのかもね。」
次にああいうことがあったら、物ではなくそういう実体がない願いを叶えるのが良いのかもしれない。そしたら、ポータルをダメにするような被害は発生しないのかもな…いや、もしかしたら、物体にしか効果がないってことも考えられる。どうするのが良いんだろう?小学校でそういう事を教えてくれたらいいのになあ。そんなことを考えながら公園に向かった。
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