第82話 自分の限界がどこまでかを知るために
五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い、お前ら五月蠅い!!
…
誰か何か言えよ。そして、私を責めたことを謝れ。
…
もしかして、無視してるのかな?…言いたいこと言ったら、無視かよ!この、クソガキどもめ!
じゃあ、向き合ってやろうじゃないの!自分の力と。どうせこのまま消えてしまうのならば、自分の力の限界ってものを見てみたいもんだわ。
もう抑え込もうとしない、開放する。
どこまでも、どこまで燃え上がるがいい、青き炎よ。
お母様の力の色は紫だった。私は青。
どっちが優れているって話ではないとお母様は言っていた。でも、誰かが、紫は至高の証だと言っていた。
それじゃあ、青は?
青は海の色、全てを包み込む大気の色、空の色、そして希望の色。オセロに青があったら、いつも逆転勝利するはずよ。
誰?下手くそな例え話してるのは?まあ、いいか。でも、希望の色、逆転勝利の色、悪くない。
四人の希望を叶えよう。来海はサツマイモ入りの蒸しパンとチョコレートフォンデュね。
うん。
じゃあ、ジョシュアは?
ピーマンとグリーンピースがない世界、できればミョウガも
却下!
え、じゃあ…来海が大人になるまで生きていること。
よし、それにしよう。
後、ヒオスの分でギンちゃんの健康長寿もよろしく。
了解。
私は、これだな…
青い炎がどこまでも、どこまでも高く、高く燃え上がって行く。抑える必要はない。燃え上がるだけ燃え上がればいい。そして、この力で私たちの希望を叶えてくれ。
どのくらい燃え続けただろう。もう力も尽きたそんな感覚が訪れた。腹の底から力が湧いて来る感覚もない。私、空っぽだ。
目を開いた、私の前で跪き、私の手を握っているヒオスも無事みたいだ。
「もう、大丈夫。」
彼にそう声を掛けた。それと同時に凄い眩暈が襲って来た。
「…よか…った…」
彼がしゃがれた声でそう言った。
その声を聞きながらその場に倒れ込んだ。ヒオスも横で倒れ込んだらしい。
空を見上げる形になった。今まで感じた事がないほどの酷い疲労と、体中の痛みを感じ、ただ、呆然と空の方を眺めた。
その後、空の方から大量に何かが降って来るのが見えた。
「あれ、なんだろう。」
「…さあ…」
もう何も考える気力なんてない。多分ヒオスも一緒だろう。
大量の何かが近づいて来る。
白っぽい丸いものとこげ茶色のどろりとした液体?そして茶色い死角っぽい何かが降ってくるように見える。
きっと疲れすぎたのだろう、ここで何かが降って来るなんてありえない。そう思った次の瞬間、顔に、こげ茶の液体が掛った。続いて白い丸いもの、茶色い四角い物が顔に当たった。
この匂い…チョコレートだ、何か魚臭い匂いもする。そう思い、近くにある丸い物を手に取って確かめた。…カップケーキ?いや、チョコまみれの蒸しパンだ。しかもサツマイモの角切りが乗っている。魚臭いものはなんだ?
そう思い、顔に当たったものを手に取った。多分、ブリの照り焼き…チョコまみれになってるけど。
そう、なぜか私は、最後に花沢さんのぶりの照り焼きを思い出してしまっていた。きっとその希望が叶ってしまったのだろう。
蒸しパンとチョコレートフォンデュとぶりの照り焼き、それらが一遍に落ちて来た。
まずい、まだまだ落ちて来る。ここで横になっていたら、魚臭いチョコレートの海で溺れてしまう。
「兎に角、逃げよう。」
「…疲れ…た、もう…」
馬鹿言ってんじゃないよ、全くこの子は。立ち上がらないヒオスを引っ張り上げて、無理やり歩かせた。
チョコレートは膝くらいまで迫ってきている。まずい、最大限の力を使って降らせたチョコレートフォンデュの勢いが止まらない。二人ともチョコレートまみれになりながら、出来るだけ早く歩いた。
「…どこに、出る?」
そうだ、考えてなかった。ここを通るときは出口の場所をイメージしながら進まないとならなかった。
こんな姿を人に見られたくない。森の奥の家が良いかな、でも、先ずは治療を受けたい、仕方ないけど本部に向かうしかない。
「裏口がいい。」
「見つけて…もらえない…しょうめ…んが、いい…」
え?正面玄関って事?こんな姿で二人で倒れてたら、後から笑いものにされるでしょう。
本部の建物内に直接行くことは出来ない。一先ずどこかの入口前に出て、そこから医療部に向かう、または、運んでもらうしかない。今は最後の力を振り絞って歩いているけど、そろそろ気を失いそうだ。
仕方がない恥を忍んで…
「これ何?人間?」
「生きてる?」
「何か、べたべたしてる。」
「変な臭いがしない?魚?」
辺りからは人々が騒いでいる声が聞こえる。
どうやら、人がいるところに出てきたようだ。そこで私はうつ伏せで倒れているみたいだ。首を少し動かして横を見た、茶色い何かが倒れている…ヒオスも無事に着いた様だ。良かった…良かった…
「今、動いたよね」
「あれ…これ…もしかしてヒオスじゃない?こっちは?」
「うそ、こんな茶色じゃなかったよ。こっちは子どもかしら?」
「ねちゃねちゃするし、滑ってつかみにくい」
そんな声がどんどん遠くなって行く。でも、多分、誰かが私たちを医療部に運んでくれるはず。
所で…私の限界ってなんだったの?
「お目覚めかな?」
後光が眩しい。このフォルム、絹糸の様に美しい滑らかな金髪、深い青い瞳…イムナの姿がそこにある。
「…イムナ」
「やあ、エシャ、久しぶりだね。」
彼はにこやかに答える。嬉しくなって彼に手を差し伸べ、そのまま抱きついた。
「元気そうでよかったよ。」
彼も私を軽く抱き寄せて、これまた嬉しそうにそう言った。
「きっと、あなたのお陰ね。あなたも元気そうで何よりだわ。」
「私は何もしてない、ちょっと手当てをしただけ。それよりも彼にお礼を言うべきだよ。」
隣のベッドに目を向けると、ヒオスが眠っている。
「良かった、無事だった。」
心から心からホッとした。
「結構まずい状態だったけど、どうにか持ち堪えた。」
「まずい状態?」
「大丈夫、影響のない範囲の治療で治せた。心配はいらない。」
それを聞いて、安心したせいか急にお腹が鳴った。
「君は何か食べても大丈夫だよ。食べたいものがあれば運ばせよう。チョコレート?蒸しパン?それともぶりの照り焼き?何がいいかな?」
え…やっぱりあれは夢なじゃなくて、本当の事だったってことか…
私が困った表情をすると、イムナは笑って言った。
「冗談だよ。それで何が良い?」
きつい冗談だな。
「それじゃあ、ホットケーキが食べたい。」
「飲み物は?」
「紅茶で」
明が作ってくれたホットケーキを思い出して、食べたくなった。バターの香りと甘いメープルシロップの味、ふわもちっとしたちょっと薄目のパンケーキが三枚重なっていて、また食べたいなって思っていた。地球に戻ったらすぐに作り方を教わろう。
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