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第81話 交錯する走馬灯

 このままだと、二人とも私の力に飲み込まれて、消えてしまうかもしれない。


 どうすればいいのだろうか?焦らないようにと自分に言い聞かせても、どこか焦っている自分がいる。

 こんな時なのに、来海くるみはお父さんやお母さんとの楽しかった思い出を思い出している。ジョシュアに手を繋いでもらって、声を掛けてもらって、すっかり安心している、羨ましいな…




 お父さんと一緒に回転寿司に行って、お母さんには内緒だよって言って、一緒に好きなものを好きなだけ食べて、帰りはドーナツを買って帰った。時々、二人でお出掛けすると、そうやって来海が食べたいものを一緒に沢山食べてくれる。来海が沢山食べるのを見て、いつも楽しそうに笑っている。来海が新しいお洋服を着ていると、直ぐに気付いて「今日も可愛いね、お姫様みたいだ。」って褒めてくれる。


 お母さんはお父さんや来海が食べ過ぎることを心配して、いつも「食べ過ぎじゃないの?」と心配している。それでも、来海が美味しいって言ったパンを沢山焼いてくれて、サンドイッチやホットドックにしてくれた。沢山食べる姿を見て、ちょっと心配そうにしながらも嬉しそうに笑っている。


 弟の茉央まおを初めて見た時、茉央は私が育てるって心に決めた。茉央に自慢できるように水泳を頑張った。泳ぐ姿をいつか見せるんだって思いながら、苦しい時は頑張った。


 初めて厚焼き卵を焼いたとき、ジョシュアもあかりお姉ちゃんも中島さんも美味しいって喜んでくれた。お料理を沢山覚えて、もっともっとみんなに喜んでもらおうって思った。花沢さんと一緒に海苔巻きを作った時も、皆が美味しねって喜んでくれた。嬉しかった。


 お母さんが入院したときは悲しかった。毎日一緒にいたお母さんと離れ離れになったことが悲しかったし、お病気治らなかったらどうしようって悲しくなった。でも、お父さんが「心配ないよ、お母さん直ぐに戻って来るか」って、笑顔で言ってくれて凄く安心した。


 そして、ジョシュアと一緒にいると凄く安心する。美味しいご飯を食べて、歌って、笑って、毎日が楽しい。ジョシュアがいて、花沢さんと中島さんがいて、明お姉ちゃんがいて、ギンちゃんがいて、毎日、賑やかで楽しいの。

 みんな大好き。



 来海は走馬灯を見ているのかな?

 来海の走馬灯が終わったら、ほんの少しで良いから自分の走馬灯も見たいな…

 でも、やっぱり、七歳の来海の人生がここで終わってしまうのは申し訳ない…



 来海の思い出はまだまだ続いていて、幸せいっぱいの思い出ばかりだ。いや、思い出だけじゃない、今後の予定を考えて何故かわくわくしている。



 次のお父さんのお休みには、新しく出来た焼肉食べ放題に行って、チョコレートフォンデュをする約束をしてる。


 秋になったら、お母さんが茉央を連れて帰ってくる。そしたら、厚焼き玉子と海苔巻きを作って食べさせてあげるの。明お姉ちゃんがホットケーキの作り方を教えてくれるって言ってたから、茉央のためにホットケーキも作るんだ。花沢さんにはぶりの照り焼きを、中島さんには豚の角煮をの作り方を教えてもらうんだ。



 この子、食べ物の事しか考えてないのかしら…まあ、良いけど。先のことを考えているってことは、もう走馬灯は終わったのかな?じゃあ、自分の走馬灯でも見てみようかな…って、走馬灯って見ようとして見れるものなのかしら?



 …お母様…


 大きなお庭の一角にあるガゼボ…見覚えがある様な、無いような風景…

 でも、ガゼボの中に座っている黒い服の女性は、お母様。美人で聡明で強くて、そして優しいお母様。お母様がこちらに向かって微笑みかけている。


「エシャ、お茶にしましょう。」


 庭で虫を捕って遊んでいたんだっけ。そう声を掛けられて、掴んでいた虫を放し、お母様の元に駆けて行った。


「お母様、今日のおやつはなぁに?」

 お母様に抱きついて、そう尋ねた。


「何だと思う?」


「エシャ、お芋の入った蒸しパンが食べたい。」


「…え…、蒸しパン?そうだったのね、じゃあそれは明日作ってもらいましょうね。でも、これもきっとエシャが大好きなものよ、はちみつとナッツのケーキ。」


「はちみつとナッツ!大好き!」



 …この記憶は…私の最初の人生の記憶…っぽいな…


 何故にこんなに古い古い太古の記憶から走馬灯が始まってるの?私の人生もここで終わっちゃうの?

 そんなことを考えている間も、走馬灯は続いている。



 この直ぐ後くらいだったと思う…

 わしたちの種族は、近隣の別種族たちからの奇襲を受けて全滅した。

 幼かった私には状況を理解することは出来なかったが、何故か敵の種族の青年が私を助けてくれた。お母様とその青年は知り合いで、お母様はその青年に私を託した。種族の王であった父は軍を率いて応戦したが、奇襲により先手を打たれたこと、内部にも敵の内通者がいて食事に眠り薬や毒が盛られていたことなどの諸々な要因が重なり敗退したと後になって聞いた。


 お母様の亡骸は領地の外れに埋葬された。神に近い力を持つと言われた種族の最後の女王として、ある程度の敬意をもって丁重に葬られた。



 …この走馬灯、本気で観ていたら数年かかるんじゃないかしら?ずっと続くのかな?

 そんなことを考えていたら、場面は変わって、おやすみの場面に…



「エシャもそろそろ知っておいた方が良いと思って。」

 私のベッドの横に腰を掛けてお母様が言った。


「なあに?」

 ベッドの中から返事をした。


「あなたも気づいていると思うけど、あなたの翼は黒くて大きい。他の種族の大人の翼よりも大きくて立派。これは、それだけあなたの力が大きくて強いってこと。」


「…それがどうしたの?」

 そんなお話、寝る前にすることじゃないでしょう…もっと楽しいお話が聞きたい。


「力が強いってことは良い事ばかりじゃないのよ。」


「どうして?強ければ強いほど良いと思う。エシャもっと強くなりたい。」


「…違うのよ。強ければ強いほど、自制心と力に対する制御力が必要になるの。お馬さんに乗るときのことを思い出して、エシャはまだ小さいから、小さくて大人しいお馬さんに乗るでしょう。」


「うん。」

 でも本当はもっと大きなお馬さんに乗りたいって思ってる。


「それは、あなたの今の肉体的な力では小さくてちゃんと躾けられた大人しいお馬さんを乗りこなすのが精いっぱいなの。もっと大きくて、荒々しいお馬さんに乗るためには、それなりの肉体的な力と馬を完全にコントロールできるような強靭な精神力が必要になるのよ。」


「強靭な精神力?」


「もし、大きなお馬さんが暴れて、あなたの言う事に従わなかったら、大変なことになるでしょう?」


「うん。お馬さんから落ちて怪我しちゃう。」


「そうね。そうならない為には、自制心と制御力。その為には強靭な精神力が必要になるの。」


 意味が分からないなあ…


「難しいお話になっちゃったわね。」


「うん、良く分からない。」


「そうね、精神力なんて直ぐにどうにかできるものじゃないものね。うーん、手始めに何が良いかしらね。」

 そう言って、お母様は首を傾げた。美人だけど仕草が可愛らしい。


「まずは自分の心を落ち着かせるの。騒いだり焦ったりしてはダメよ。それから原因を考える。原因が分からないままでは対処ができないでしょう。でも、原因を考えるまでに時間は余りかけられないから、決断力も必要になるわ。」


「お母様…やっぱり難しい…」


「そうだったわね。一度にいろんな事を言い過ぎちゃったわね。取り敢えず、自分を信じて、心を落ち着かせて、そして自分で決めるのよ。」


「お馬さんが暴れているのに、そんなこと出来ないよ。」

 心配になってお母様にそう言い返した。


「大丈夫、いつも私が側にいるから、何があってもずっとついているから、自分を信じて自分が思う方に進みなさい。」

 そう言って、お母様は私の頭と頬を撫でて額にキスをした。


 確か、私たちの種族が奇襲を受けたのは、その夜の事だった。



 …お母様…

『自分を信じて、心を落ち着かせて、そして自分で決める』

 …そんなこと言われても、今、それが出来る自信がありません。もう駄目だと思います。期待に沿えない娘でごめんなさい。教えてくれたことを活かせないまま、自分の力に飲み込まれて消えていく私を許して下さい。それにしても、お母様って例え話が下手くそ…もっとわかりやすい方法をお教えて欲しかった…



 ああ、来海の思考が戻って来る。


 サツマイモの蒸しパンが食べたい。熱々の蒸しパンにバターを付けて食べたい。


 いや、それはさっき私が思ってたことで…ああ、思考が混ざってきているんだなこれ。


 まさむね君、もとお君、けんちゃん、晴斗はると君にはちゃんとお断りをしないとなあ、来海は大人になったらジョシュアと結婚することに決めたから。


 急にどうした?…でも、そうだね、大人になったら結婚したいね。でも、ごめんね、それは出来ない事だよ。



 嫌だ。


 え?


 ちゃんと考えてよ。諦めないで考えてよ。


 そう言われても…


 どうして暴れてるの?自分の力の事なのに分からないものなの?


 そう言われても…自分の力が強いことは知っているけど、ちゃんと理解しているかと聞かれると、全く理解していない。

 誰かに使い方を教わったことはないし、正直言って上限を知らない。そもそも向き合った事がない。

 向き合いたくなかった。この力のせいで不幸になったと思っている。この力のせいで家族も仲間も全滅させられて、そして、私はお情けで生き残った。制約も多く、窮屈な生活を余儀なくされた。こんな力なんて欲しくなかった。面倒ごとしか起こさないし、いつも誰かに迷惑かけてばっかり…誰の役にも立ってない…


 向き合ってみたら?


 え?ヒオス?

 彼が何度か私にそう言ってくれたことがあったっけ…

 その度に、大きなお世話だって言い返してきた。

 ちゃんと向き合っておけば、こういう時に対処できたのかもしれない。彼の助言を反故にして、その上、彼を巻き込んでしまって…せめて、彼だけでも助けたい。


 最後は一緒って決めてるから


 これも、彼が何度か言った言葉。

 駄目だよ、こんな厄介者と一緒に消えていくなんて。


 決めてるけど、悪あがきはしてね。


 え?


 人の事、悲観的だの保守的だのって言っておいて、自分だって悲観的じゃない。


 え?今、そんなこと言いだす?


 今、言わなかったら、いつ言うんだよ。


 え?どうして二人で私を責める?

 こんなに苦しんでいる私を、そして、諸々反省までしているのに、何で責められなくちゃならないんだ!


 反省してる暇があったら、ちゃんと考えてよ。


 来海も五月蠅い!


 そうだよ、黄昏れていないで、ちゃんと考えなよ。


 ああ?誰が黄昏てるって?


 これだから、お嬢様育ちは…


 五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い!お前ら五月蠅い!






今回のお話はいかがでしたでしょうか?

感想などいただけると励みになります。

毎週水曜、日曜の14:30に更新中

よろしくおねがいします!!


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