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第108話 恋をすると…

 結局、博則ひろのり先輩の彼女の座は、同じサークルの山崎先輩が射止めていた。

 今回、私の中では一番のダークホース…正直、どんな人なのかも良く知らなかった。


 そして一番驚いたことが、そのことをずっと丸茂先輩は知っていたということ…知っていて白を切り通していたということである。


「丸茂先輩、ひどすぎますよ。知ってたなら教えてくれたってもよかったじゃないですか~」

 夏子がむくれた表情で丸茂先輩に言った。


「ごめんよ。でも、有希ちゃんに知れちゃうと、また邪魔されちゃうから…それも可哀想だなって思って。」

 そう言って、丸茂先輩は申し訳なさそうに汗を拭いた。

 まだ外は残暑もあるけど、ここは室内で空調が効いている。


「でも意外だったな、山崎先輩かあ…そう言われると、最近、きれいになったような気もする。」

 そう言って、夏子はバナナブラウニー特大パフェを頬張った。


 丸茂先輩が、隠し事のお詫びにと、私たち二人にパフェをご馳走してくれている。


「言われてみると、髪型も服装もお洒落になった気がする。それに、最近、明るくなったような気もする。」

 以前は、考察会で会っても話をすることもなかったけど、最近は、向こうから声を掛けてくれたりするし、この人、こんな笑顔するんだなんて驚いたことを思い出した。


「僕もそう思う、小梅ちゃん、きれいになった。」

 大きなプリンとモンブランのパフェを食べている丸茂先輩が言った。


「小梅ちゃん?山崎先輩って小梅って名前なんですか?」

 驚く夏子と私。


「名前も可愛いよね。薬学部の四年生で、実家は歴史ある漢方薬局なんだって。」


「え、山崎先輩って薬学部なんですか?」

 再び驚く夏子と私。


「そうだよ、二人は小梅ちゃんのこと何も知らなかったんだね。話をすると面白いんだよ。東洋医学オタクでさあ、僕なんかいつも生活習慣全般に対して注意されるんだよ。」


「まあ、そこは東洋医学云々以前の問題かと…」

 夏子がサラリと刺す。


「まあ、そうなんだけどね。」

 丸茂先輩は苦笑いで、額の汗を拭いている。


「最近、急に綺麗になった人を探すってのも、手だったんだな。」

 そこは盲点だったなと思い呟いた。

 私は、プリンアラモードとレモンメレンゲパイを頂いている。どちらか一つと思ったけど選べなかった。


「でもさあ、ずっと恋してる人はあんまり変わらないだろうし、恋しても変わらない人は変わらないし、手がかりにはなるけど、人によるよね。」

 夏子が頬杖を付きながら、こちらに目を向けた。


「まあ、それもそうだね。」

 言われてみれば納得、と思っていたら、


あかり、あんまり変わんないもんね。恋してるみたいだけど。」


「え…私、変わってない?」


「うん。」

 夏子だけじゃなくて丸茂先輩まで頷く…


「え…」

 でも、確かに、自分でも自分の変化は全く感じていない。というか、そういうこと全く意識していない…


「そうかな…」

 よくわからないけど、ちょっとショック…


「きっとそれは、気を張らなくても一緒に居られる相手ってことなんじゃないかな、それって良い事だよ。」

 汗を拭きながら、丸茂先輩がフォローしてくれた。


「丸茂先輩、良い事言う!そうだよ、きっとそうなんだよ。」


「そうかな…」


 夏子と丸茂先輩がこちらを見て笑顔で頷く。


 …う~ん、褒められてるんだろうけど、何だかしっくりこないなあ…でも、プリンアラモードもレモンメレンゲパイもどっちも美味しいから…まあ、いいか。





来海くるみちゃん、どう思う?」

 先日、夏子と丸茂先輩に言われたことを、私の恋愛マスター来海ちゃんに尋ねてみた。


「そうねぇ、神使しんしって自分たちの外見を他の誰かと比べるって概念がないらしいし、相手にも自分にも何か求めるってことをしないみたいだから、そういう世界観で恋愛してたら、別に自分の見た目がどうとかって気にしないのかもしれないわね…よくわかんないけど…本当に…あの人たちの事は、全く、全然、理解不能。」

 そう言って、丸茂先輩から大阪土産でもらった有名店の肉まんを頬張った。


 夕飯前にそれ食べちゃったら、ご飯が入らないでしょう…と思いながらも、私も一緒に食べている。


「そうかあ、相手が銀ちゃんだからそうなのか、ならば納得。来海ちゃんに相談してよかった。」


「あら、うれしい。もう、私なんて大変よ。」


「え、何が大変なの?」


「ジョシュアと私が並んでるところ見て何か思わない?」


「え???そうねえ、仲が良いなって思うかな。」


「あのキラキラの横に立ってると、自分は、どうしてこんなにちんちくりんで地味なんだろうって嫌になっちゃうことあるもん。もっと、彼に似合う女に成りたいっていつも思ってる。」


「でも、今は子どもなんだから仕方ないよ。それに、来海ちゃん地味じゃないよ。何て言うか…野獣?いや違う、猛獣…それも違うなあ…あ!百獣の王のオーラを感じるし。」


「…今、野獣って言った?それ、褒めてないよね。」


「…一瞬だけ日本語が不自由になっちゃって、私は百獣の王って言いたかっただけだよ。」

 そう言って、何事もなかったような振りをして肉まんにかじりついた。


「まあいいのよ、どうせ、私たちなんて所詮は猛獣と猛獣使いなんだから。」


「え?そんなこと言われてるの?」


「そうよ。でも、私めげない、挫けない、落ち込まない。何と言われようとも、私たちは相思相愛だから!大人になったら結婚するんだから!うちの両親も公認なんだから!後は、ジョシュアの両親に挨拶に行かなくちゃ。」

 そう言って、食べかけの肉まんを高く、高く掲げた。益々、百獣の王感が増して、輝いている。


「でさあ、相手の両親にお土産もっていくとしたら、何が良いと思う?」

 さっきまで掲げていた肉まんにパクつきながら、来海ちゃんが尋ねてきた。


「うーん?ジョシュアさんの両親ってスコットランドに居るんですよね?だったら、抹茶のお菓子とか喜ぶんじゃないですか?海外からの観光客にも人気あるって聞くし。」


「そうね、抹茶のお菓子を買い込んで、挨拶に行くわ。」


「いいなあ、来海ちゃんには結婚っていう未来があるから、私は…銀ちゃんとはきっと結婚なんて出来ないんだろうな…」


「…半端な慰めは言えないから、大丈夫とは言えないけど…人生、何がどうなるかなんてわからないものよ。今を頑張って生きていたら、何かいいことあるかもしれないし。」

 そう言って、来海ちゃんが微笑みかけてくれた。


 なんだか、ちょっと心が温かくなったような気がした。


「明ちゃん、来海ちゃん、ご飯よ。」

 花沢さんがそう声を掛けてきた。


「あらあら、夕飯前に大きな肉まん食べちゃって…って、でも、夕飯も食べるでしょう?」


「勿論!」

 二人でそう言って、顔を見合わせて笑った。


「花沢さん、今日の夕飯は何?」

 来海ちゃんが尋ねる。


「今日は、久しぶりにブリ照りにしたの。」


「…わい、うれしいな。」

 ちょっと引きつった笑顔で来海ちゃんが答える。


 一時は毎日のようにブリの照り焼きをリクエストしていた来海ちゃんだったけど、最近は全くリクエストしなくなった。

 記憶が戻って好みが変わったのか?将又はたまた、何かあったのか??


「わー、ブリの照り焼きだ~、美味しそう!」

 そして、今日の献立を眺めて、なぜかとても嬉しそうなジョシュアさんなのであった。




今回のお話はいかがでしたでしょうか?

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