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第106話 ユーリーのお話⑥

「エシャは存在自体が危険だ。」

 三番目の神であるナキがそう切り出した。

 神の中で彼だけが短髪のため、そのせいか、他の男の神であるヌアやイムナよりも外見は若く見える。長身で細身の銀髪の男の神である。



 まだ記憶の戻っていなかったエシャは、ソナイの指示でエデンに連れてこられ、目が見えず混乱する中、エシャの記憶よりも先に力が覚醒してしまい、力が暴走してしまった。そして、その暴走に自ら巻き込まれる形でソナイは消滅した。消滅してしまったソナイを除く七人の神が、ソナイの神殿に集まりその後の処理と対応について話し合いをしている。


 いつもならば姿をせない一番目の神であるヌメラも姿を現した。彼女は少しあどけなさを残した美しい顔立ちの女の神で、ウエーブがかったプラチナブロンドと透き通るようなブルーの瞳をしている。


「彼女に非はない、全てはこの石のせい。」


 イナムが水色の石の付いたペンダントを掲げて、ナキに見せた。


「ナキ、これは古にあなたが作ったもの。どこの誰がエシャに渡したのかはわからないが、この石がなければ、彼女は暴走などしなかったでだろう。」


「確かに、その石は私が精製したが、そもそもその物質自体はこの世に既に存在するもの、私が精製せずとも、その素が存在し、エシャが存在する時点で、エシャは危険だと言えるだろう。」

 ナキは少し声を静めてそう言い返した。

 ナキの横に座る八番目の神であるラジエが頷いている。


 その話を聞いていたヌメラが口を開いた。


「たった一人の生き残りに何が出来ると言うのだ、エシャの存在などしたる問題ではない。いささ杞憂きゆうなように思うが。」


「杞憂?あなたはあの場に居なかったからそう言えるのだ。」

 ナキが冷たい視線をヌメラに向ける。


「見ていなくても状況は知っている。ソナイは自ら消滅する道を選び、エシャはそのための道具に使われただけのこと。エシャよりも注意すべきは、ソナイに入れ知恵をした者の方ではないか?ソナイ一人で考えたとは思えない。」


 そう言うと、ヌメラはナキをチロっと横目で見た。


「それはどういう意味だ?」

 ヌメラの視線を受けてナキが言い返す。


「なあ、ヌア、お前ならばわかるだろう。」

 ヌメラがほくそ笑みながら視線をヌアに移した。


「…ソナイのもとにヤガがよく通っていたそうだ。ソナイの神使たちからその話を聞いた…」

 ため息交じりにヌアが答えた。


「ヤガが?何のために?自分の利になること以外に興味を持たぬ者が、わざわざソナイのもとに通うとは、急に人を思いやる情でも芽生えたのか?」

 四番目の神であるムリュイが意味ありげに尋ねた。

 ムリュイはつややかな黒髪に翡翠の様な美しい翠色の瞳の中性の神である。


「ヤガは確かに自分の利益を追求する節があるが、思いやりや情がない訳ではない。」


 ヌアがそう言うと、ムリュイは肩をすくめた。


「兄として妹をかばいたい気持ちは判るが、今までの行いが余りにも目に余る。今回の件にヤガが関わっているというのであれば、ことと次第によっては、もうヌアでも庇いきれるものではない。」


「わかっている。その件は私に任せてもらいたい。もし、今回の件に深く関与しているのであれば、それ相応の処罰を与えることになるだろう。」

 そう言ってヌアは深いため息をついた。


 その直後、予想もしていなかった人物が姿を現した。ヤガである。


「この度は、何と申し上げればよいか、本当に心の痛む出来事でした。事故とはいえ、余りにも痛ましい出来事…謹んでお悔やみを申し上げます。」

 意気揚々と神たちの前に進み出たヤガが心痛な面持ちで述べた。


「事故とは、お前の口からそんな言葉を聞こうとは…」

 ヌメラが冷ややかに返す。


「それはどういう意味でしょうか?」


「全てがそろい過ぎている。」

 そう言って、あどけない顔立ちにはそぐわない鋭い目つきをヤガに向けた。


「揃い過ぎている?偶然とはそういうものでしょう?」


「エシャはソナイが消滅するために準備された道具に過ぎない。その道具をソナイに与えたのは…誰だろうな?」


「もしそうだとして、ソナイが自らそう差し向けたのでは?」


「お前は神になりたがっていた。ソナイが消滅すれば、その空席を自分が埋めることになると思っていたのか?それはあり得ない。神の空席を埋められるものなどいない。」


「どうしてそんなことが言える?」

 神妙な面持ちでヤガが尋ねた。声がほんの少しだけ震えている。


「神になりたいと願う時点で、既に次元が違うのだ。それがどういうことか理解ができるか?」


「…」

 ヤガはヌメラの言葉に何も言い返せずにただ、手を握りしめ、唇を噛みしめている。


「神になって、何をしたかったのだ?」

 畳みかけるようにヌメラはヤガに尋ねた。


「…」

 何も答えずに、ただ唇を噛みしめるヤガ


「哀れだなあ…」

 そう言い放つと、ヌメラは自分の神使たちを連れてその場を離れた。


 後に残された、ヤガはその場に立ち尽くし、そして一言言い放った。


「なぜ、誰も私を神と認めない。」


 彼女の目は憎しみで満たされているように見えた。





 その後、処分が決まるまで、ヤガはヌアの宮殿に留まることとなった。

 ヤガは何をするでもなく、ただ部屋で水たばこを吸い、物思いにふけっているようだった。

 彼女の処分が決まった。

 それは、肉体を手放し、魂になって永遠にさまよい続けるというものであった。


 その処分をヌアに言い渡されたヤガは、声もなく涙を流した。


 そんな彼女を見ていて、僕はなぜか心が痛んだ。


 処分の内容よりも、ヌアにそれを言い渡されたことが辛いんだと思った。神になれなかったことよりも、ヌアの気持ちが遠のいていくことが辛いんだと思った。

 そんな彼女の気持ちを想像すると、自分の胸が張り裂けそうに傷んだ。

 なぜかわからないが、僕はそう思い、そう感じた。

 ヤガには何の思い入れもなかったけど、彼女を助けてあげたいと思った。

 なぜかわからないけど…そう思った。





今回のお話はいかがでしたでしょうか?

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