新しい足音
季節は10月、俺が転校してきて1ヶ月がたった。そこそこまわりにもなじめるようになったことが嬉しい。
「白石ー! 今日の小テストどうだった?」
「俺はまあまあかな。竹田は?」
「俺は自信アリ!」
こいつは竹田てつ。転校してきてから俺がわからないことがあると度々助けてくれるいいやつだ。
「いいよなぁ! お前らはっ!! そんなによゆーそうで。俺は、俺はぁ。終わりだぁ……やべぇまじで、これじゃあ赤点だ」
「おいおい、田中は塾にも通ってるじゃん?」
「そーだけどっ! 塾に通ってるからといって頭がおいつくとは限らん!!」
「なんだよ……その開き直りかたは……」
小テストがうまくいかなくて嘆いてるのは田中そうや。こいつはお調子者でよくクラスの中心にいる。竹田と田中は二人とも元々仲が良い。俺をよく遊びに誘ってくれる優しいやつらだ。
「お、そーいえば、そろそろあの時期だな」
「立ち直りはやいなぁ。……でもそっか、もうそんな時期かぁ」
「ん? なんの時期だ?」
「わかんないのかよー? 白石ぃ。秋だぞ? 季節は10月! もうすぐで11月だぞ?」
「???」
「文化祭だよぉぉぉぉ!!!」
文化祭……。話にしか聞いたことない。俺にとって本やニュースの世界でしか知らないもの。俺は胸が高鳴った。
「おいおい、白石はこっちきてまだ1ヶ月しかたってないんだぞ? それに、文化祭に対してお前ほど熱くはならないよ」
「冷たいなー! 文化祭といえば、食べ物! 祭り!! そんでそんで一番大事な他校の女子!!」
「おいおい……」
俺は、楽しみなのと同時に陣のことが頭をよぎる。
陣も、文化祭くらいはちゃんと来るよね……?
そしてホームルームの時間、周りを見渡したが、陣はもういなかった。朝と1限は席にいたので、2限辺りからとんだのだろう。
今日のホームルームは文化祭の内容を決めるものだった。田中のゴリ押しでメイド喫茶になりそうしたよね?だったが、女子が反対したため、メイド執事喫茶に決まった。女子は執事の格好、男子はメイドの格好をするというものだ。
田中は残念がっていたが、やるからには全力でと燃えている。俺は裏方をやろうと思っていたが、田中と竹田に引っ張られ、俺もメイドの格好をすることになった。少し恥ずかしいが、 はじめての文化祭なのでわくわくが勝っていた。
放課後になってすぐに陣のもとへ行った。案の定いつものベンチに腰を掛けていた。
俺は真っ先に今日の出来事を話した。文化祭の内容が決まったこと、準備がこれから始まる話、そして俺もメイドとして出ることになったこと。
すると陣が、
「……最近、よく聞くな」
「へ?」
「竹田と田中ってやつ」
「あぁ、その二人は俺を色々誘ってくれたり、教えてくれたり……すごく優しいんだ」
「……そりゃよかったな」
俺はその時気がつかなかった。陣が寂しいような嬉しいような、どこか遠くを見るような複雑な顔をしていたことを。
「あ、陣も手伝うよね?? 文化祭準備!」
「あ? なんで」
「いいじゃん! 一緒にやろうよ!!」
「やんねぇ」
「だと思ったけどさ……じゃあ、せめて……一緒に文化祭まわりたいなぁ、なんて思ってみたり……ま、まあ、嫌だったら、全然っ」
「……一緒にまわるだけ、な」
「!!! 本当!?」
思わずパッと顔を輝かせると、陣は「うっせぇな」とバツの悪そうに横を向いてしまった。
(嬉しい……! 陣と一緒に、文化祭をまわれるんだ)
竹田や田中と過ごす賑やかな時間も楽しい。けれど、やっぱり俺にとって陣は、暗闇の中にいた俺を最初に見つけてくれた、誰よりも特別な存在なのだ。
残り少ない自分の時間。
もしかしたら、これが俺にとって最初で最後の文化祭になるのかもしれない。
(だからこそ……陣と、たくさんの思い出を作りたい)
照れくさそうに夕空を見上げる陣の横顔を見つめながら、俺は胸の奥で、静かにそう誓っていた。




