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出会い、秘密の共有

 

 初めは友達をつくろうと意気込んだものの、転校初日からクラスメイトの質問責めで、逃げるようにして誰にも邪魔されない場所を探した。   

 

 見つけたのは、校舎の裏手にひっそりと置かれているベンチ。


 青々とした葉が日差しを遮り、吹き抜ける風が心地いい。

 ここなら、気味の悪いあやかしたちもいないようだし、人に気を遣う必要もない。最高の場所。

 そのベンチに座ったときだった。


「……誰だ」


 不意に、頭上から低くガラの悪い声が降ってきた。


 驚いて見上げると、クスノキの太い大枝の影から、ひとりの男子生徒がズカズカとこちらに近づいてきた。

 乱れた制服の着こなしに、不機嫌そうに寄ぜられた眉間のシワ。

 一目で「関わってはいけないタイプ」だと分かる威圧感があるのに、驚くほど顔立ちが整っていた。


 鋭い眼光に、通った高い鼻筋。彫りの深い綺麗な顔立ちをしているからこそ、その不機嫌な表情が余計に鋭く、どこか浮世離れした美しさを際立たせている。


「……あ、ごめん。誰かいるとは思わなくて」


 関わりたくなくて、すぐにその場を離れようと一歩引く。


 「待てよ。……お前、転校生か?」

 

目の前に来た男は、驚いた顔をしながらドサッと音を立てて隣に座った。

 背が高く、見上げるほどの威圧感がある。


 やっぱり関わるべきじゃなかったと後悔しかけたその時、男が鼻をヒクッと鳴らして、あからさまに嫌そうな顔をした。


 「ーーーなんだ、お前。生の匂いがほとんどしねぇ。」


 「……え?」


 意味が分からなくて首をかしげる。

『生の匂い』って何だろう。でも、威嚇するような強い言葉の割に、彼の目にはどこか焦ったような、気遣うような色が混ざっている気がした。


 「俺は、白石 宵。……君は?」


 怖がるべきなのかもしれないけれど、なぜかその不器用な眼差しに毒気を抜かれて、俺は素直に名前を名乗っていた。


 男は忌々しそうに髪をかき混ぜると、「……烏丸(からすま) (じん)」と不機嫌そうに吐き捨てた。


(烏丸くん、か……)


 学校から離れたこんな場所に一人でいたことや、トゲのある言い方。


 直感的に思った。彼もまた、その見た目や性格のせいで周りから浮いてしまい、一人でここにいたのかもしれない、と。


 そんなことを考えていたその時。

 

 カサッ、と足元の草むらが不気味に揺れる。


「っ!!!」


 ゾワッと背筋に冷たいものが走り汗が吹き出た。

 草むらからでてきたのは、黒くて、ギョロギョロとした複数の目と口をもつ"ナニカ"。


 幼い頃から、俺を怯えさせてきた不快な怪異。


ーーーあやかしだ。


 足元へじわじわと這い上がってくる恐怖に、足がすくんで動けなかった。

 だが、悲鳴をあげるよりも先に、


「…鬱陶しい。ーーー消えろ」


 陣が舌打ちをし、鋭い眼光で、低くい声で告げた。

 それまで不気味に動いていたあやかしは「ヒイィッ」とひきつった空気の振動とともに消えた。


「…ぇ」


 驚いた。あやかしが消えた。それだけではない。今陣は、はっきりと"それ"をみて追い払ったのだ。


 (みえてる…?烏丸くんも、、あやかしが、みえるんだ…!)


 ずっと誰にも言えず、気味悪がられ、一人で抱え込んできたコンプレックス。

 それが今、目の前の彼と共有できたことに胸の奥から溢れだすような喜びが込み上げてくる。


「…烏丸くんも、みえてるん、だよね!?」


 思わず前のめりになって近づいてしまった。


冷たかったはずの陣の表情が「あ?」と、ぽかんと固まる。


「俺、ずっと誰にも信じてもらえなくて。"見える"人と出会ったのはじめてなんだ。仲間ができて凄く、凄く嬉しい…!」


陣は興奮する俺をみて、気まずそうに目をそらした。

そして、罰の悪そうな顔で


「勘違いすんじゃねぇ。お前と俺は"仲間"なんかじゃない。…取り敢えず、他の奴の前でこんなこと、話すんじゃねぇぞ…」


と、不機嫌そうな顔で言い捨てた。けれど、彼は俺の顔を直視することなく、足早に去っていった。


 あやかしがみえることで人に気味悪がられてきた俺と、学校に馴染めずにいる烏丸くん。

どこか同じ孤独を抱えているような気がして、"見える"という共通点をもっていることに親近感を抱いて勝手に喜んでしまった。


ーーーそれからというもの、俺たちの『秘密の時間』が始まった。


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