白石宵
俺、白石 宵は数日前、この田舎にある高校に転校してきた。
昔から体が弱く、ろくに学校に通えたためしがない。たまに行けても、みんな気を遣っているのが伝わってきて、居心地が悪くなって足が遠のいてしまうのだった。
……それに、昔から『他の人には見えないもの』が見えてしまうという、気味の悪い体質があった。
黒くうごめく影や、人の形をしていないあやかしの類。
幼い頃、それを口にして気味悪がられたり、怯えられたりした経験は、自分の中で大きなコンプレックスになっていた。両親も心配こそしても、信じてくれてはいないようだった。
病弱な上に、変なものが見える気味が悪い子供。
だから余計に他人と関わることを避けるようになっていったのだ。
ーーーそんな俺に、先月、医者が言った。
「ご両親も、心を決めてください。ご本人の体は、もう長くはありません」
母も父も絶句し、その場で泣き崩れた。
けれど当事者である俺は、「あぁ、そうか」とどこか他人事のように達観していた。
生きていても、病院と家を往復するだけの毎日。友達もいないし、遊びにも行けない。あやかしを見てはビクビクして過ごす日々。
でも、もう入院する必要すらないのなら——残り少ない余命を理由にして、両親にお願いをした。
「普通の高校生として、学校に通って、友達をつくりたい」
両親は目元を潤ませながら、何度も話し合い、それを許可してくれた。
この見渡す限りの緑に囲まれた田舎の学校を選んだのは、自分のことを誰も知らない場所で、穏やかに『普通の毎日』を過ごしたかったからだった。
窓の外を見渡せば、見渡す限りの青い空と木々の数。潮の匂いを含んだぬるい風が静かな教室のカーテンを揺らす。
「白石くん、体調大丈夫??無理しないでね」
「身体、弱いんだってね。辛くない?」
「何かあったら言ってね!」
新しいクラスメイトは、みんな親切だ。だけど、その優しさの裏にある『病弱で可哀想な転校生』を見る視線が少し痛かった。
あれほど言わないでほしいと言ったのにも関わらず、両親と先生が心配して身体が弱いことを転校初日にみんなの前で勝手に告げた。
「みんな、宵くんは持病のせいで身体が弱いの。優しくしてあげてね。」
と。親切心だろうが、こちらからしたら大迷惑だった。さすがに余命のことは隠しておいてくれたらしい。
せめて、最後の時間くらい、腫れ物に触る扱いではなく、一人の高校生として笑い会える友達が欲しかった。
…なんて、友達がいたことのない俺には高望みというものだろう。
昼休み。転校初日からクラスメイトからの質問責めに耐えきれず、その熱気から逃げるようにして席を立った。
誰にも見つからなそうな一人になれる場所を探して…。




