約束
「……あ、そうだ。宵」
俺の髪を乱暴に撫で回していた陣が、ふっと思い出したようにニッと口角を上げた。
「俺さ、最近……少しなら学校の敷地の外に出られるようになったんだよ」
「え……!? 本当に……!?」
思いもよらない陣の言葉に、俺は思わず目を丸くした。
「おう。前にお前のおかげで、親父のこと……未練っていうか、腹の中にあったドロドロしたもんがスッキリしたろ? そのおかげか知らねぇけど、学校の門の先に行っても身体が消えかけなくなったんだ」
陣は少し誇らしげに胸を張ると、どこか気恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「だからよ……冬休み、少しなら学校離れてお前と出かけられるぞ。どっか行きたいとこねぇのか? 街のケーキ屋でも、神社でもよ。俺が付き合ってやる」
嬉しそうに、少年みたいに目を輝かせて「出かけよう」と言ってくれる陣。
何十年も学校という狭い場所に縛られてきた陣が、俺のために外の世界へ一歩踏み出そうとしてくれている。
その気持ちが痛いほど嬉しくて、愛おしくて——そして、胸が張り裂けそうなくらい苦しかった。
(陣……せっかく外に出られるようになったのに……)
陣と一緒に行きたい場所なんて、山ほどある。
竹田や田中と一緒に、放課後に買い食いをした場所。
来年の春、満開になる桜の木の下——。
でも、春が来る頃には、俺はもうこの世にいない。
卒業式をみんなと迎えることも、陣とこれから先の季節を何度も巡ることもできないんだ。
陣が手に入れた「自由」と「これからの時間」。
それに対して、刻一刻と減っていく俺の「残された時間」。
「……宵? どうしたんだよ、急に黙り込んで」
陣が心配そうに顔を覗き込んできた。
俺は必死で込み上げる涙を噛み殺し、胸の奥の痛みを押し殺して、とびきりの笑顔を作った。
「ううん! うれしくて、びっくりしちゃっただけ……! ありがとう、陣。冬休み、絶対一緒にお出かけしようね!」
「おう! 任せとけ!」
無邪気に笑う陣の顔を見つめながら、俺は心の中で静かに謝っていた。
(ごめんね、陣……。俺、ずっと一緒にはいられないんだ……)
12月の冷たい風が、二人の間を吹き抜けていった。




