竹田てつ
こんな田舎の学校に転校生がやってきた。無口で静かな転校生だった。
そのくせ顔はやけに良い。
いけすかないやつ。正直、最初はそう思っていた。
転校生というものが珍しかったのか、田中はよく白石に構うようになった。
そんなある日、俺が教室で一人残っていた時のことだ。
「あ、竹田くん。このノート、田中に返しといてくれないか?」
俺は驚いた。白石から話しかけてくるなんて、今まで一度もなかったからだ。
「いいけど。……呼び方、『くん』はいらないだろ」
「え?」
その間抜け面に、俺は思わず小さく笑ってしまった。
「いや、普通に呼べばいいだろ?竹田って」
そしたら白石は、ほんのり頬を染めて恥ずかしそうに、
「そ、そうだね。……竹田」
と言った。
……なるほどね。この顔、女子が見たら黄色い
声援だらけだろうななんて思う。
「ところで、どこに行くの?」
「ん?ああ。これから部活。野球部入ってたんだ。引退はしたけど、ちょこちょこ見に行ってるんだ。白石も来るか?」
「いや、俺はいいよ。みんなも知らないやつがいたら嫌だろ」
「うちのやつらは、そんなこと気にしないぞ?」
「大丈夫だよ。ありがとう。竹田っていいやつだな」
俺はまた驚いた。今日だけで二回も、こんな風に白石の柔らかく崩れた笑顔を見ることになるなんて。
それからというもの、田中と仲が良い俺は、田中を中心に自然と白石とも話すようになった。
話してみると、最初の印象とはだいぶ変わっていた。冗談を言えばちゃんと返すし、よく笑う。
ただ、ひとつだけ違和感があったのは、異様に感謝の言葉や純粋な思いを、恥ずかしげもなく口にすることだった。
そんなある日、また白石と二人きりになる時間があった。
「あのさ、竹田。……ごめんな」
急に白石が申し訳なさそうに謝ってきた。
「は? 何のことだ?」
「田中と竹田って、元々すごく仲良かっただろ? なのに急に俺が入ってきて……もし邪魔だったら、すぐに言ってな」
「……はぁ? 何言ってんだよ」
俺
は思わず呆れた声を上げた。
「そんなこと気にしてたのか。邪魔だと思ってたら、田中も俺も最初から話しかけないって」
「そっか……ううん、ありがとう。でも、本当に邪魔だと思ったら遠慮なく言ってね」
そうやって嬉しそうに笑う白石を見て、俺の心にはモヤモヤとした疑問が残った。
(こいつ、なんでこんなに自分に自信がねぇん
だ? 俺たちと仲良くしたくないのか……?)
どこか踏み込みきれない壁を感じて、白石のことがまたよく分からなくなった。
***
そんなモヤモヤを抱えていた中で起きたのが、あの文化祭の事件だった。
受付の近くで白石が突然倒れ、田中は「白石!? オイ!!」と完全にパニックになっていた。
「落ち着けっ!」
俺は田中に一言叫ぶと、倒れた白石をおぶって保健室まで走った。
内心、俺だってパニックになりそうだった。だけど、俺には妹が三人いる。昔から急に熱を出したり倒れたりする妹たちの世話をしてきたから、突然の事態にはまだ慣れている方だったのだ。
でも——背中に背負った白石の体は、驚くほど軽かった。
まるで、少し強く握ったら折れてしまいそうなほど、頼りない背中だった。
保健室のベッドに寝かせた後、田中に理由を聞くと、白石は元々体が弱くて、今まで学校にもまともに通ったことがなかったらしい。
それを聞いて、納得した。
あの自信のなさも、気恥ずかしい感謝をストレートに言える純粋さも、人との距離感が分からなかったのも、全部それが理由だったんだと妙に納得した。
白石が目を覚ました時、俺は「なんで体が弱いこと言わなかったんだよ」と言おうとした。
けれど、一足先に田中が「心配したんだぞ!」と怒り出した。
(さすがに言い過ぎだろ)と思って止めに入ろうとした、その時だった。
「……えっ? ……俺でいいの? ……友達になってくれるの……?」
消えそうな声で尋ねてきた白石に、俺と田中は呆気にとられてフリーズした。
「「……は?」」
次の瞬間、俺たちの爆笑が保健室に響き渡った。
本当に、こんなに笑ったのは久しぶりだった。
俺たちはとっくに『友達』だと思っていたのに、白石は友達の作り方も、なり方も知らなかったのだ。
「友達っていうのはさ、わざわざ『友達になりましょー』なんて言わなくても、もうなってるものなんだよ!」
そう言って笑う田中と、ぽかんとした顔で「そうなの?」と首を傾げる白石。
こいつは不器用で、世間知らずなやつだと思う。
でも、だからこそ——友達になれて良かった。
「そうだよ、白石。だからもう、邪魔だなんて二度と言うなよ」
呆れながらも、俺は白石の頭をぽんぽんと乱暴に撫でた。
白石は少し驚いたあと、今日一番の、とびきり眩しい笑顔を見せてくれた。




