田中そうや
今日は朝から転校生がくるという話題でもちきりだった。
「なぁ、きいた? 今日転校生が来るってよ! 女子かなー! 女子がいいな~」
「朝からその話題でもちきりだもんなぁ。誰がくるんだろうな」
竹田とそんな話をしていると、朝のチャイムがなり、先生が入ってきた。
「みんなも知っていると思うが、今日は転校生を紹介する。入ってきていいぞ」
ガラッ。
「……転校生の白石宵です。短い期間だけどよろしくお願いします」
「じゃー白石はあ、あそこ。一番奥の空いてる田中の隣の席」
先生の指示があり、その転校生は俺の隣の席になった。
「よろしくなっ! 白石!」
「……よろしく」
大人びてて静かなやつ。それが白石の第一印象だった。俺とは真逆のキャラっぽいな~なんて思っていた。せっかく隣の席になったんだ、もっと仲良くなりたくて俺は話しかけた。
「なぁなぁ。どこ出身? なんで今の時期になって転校してきたんだ??」
「え、あ、俺は東京からきたんだ。少し体調が悪くて、空気の良いところに引っ越そうってなったんだ」
「へー! 東京! じゃあさ、今日の昼飯一緒に食おうぜ!」
俺がノリノリで誘うと、白石は少し申し訳なさそうに首を振った。
「ごめん、今日は先生によばれてるんだ。」
「えっ……あ、そうだよな、転校初日だもんな。無理すんなよ!」
断られて一瞬しゅんとなった俺に、後ろから竹田が「おい田中、グイグイ行きすぎだぞ」と苦笑いしながら肩を叩いてきた。
その後、俺と竹田で教室や学校の中を案内してやると、白石は「ありがとう、すごく助かる」と丁寧にお礼を言ってくれた。
***
そんなある日の放課後。
鞄に教材をしまっている白石をみつけ、
「お、白石!今帰り?」
と声をかけると、白石が振り返った。
だが——白石の視線は、俺の顔ではなく、何もない俺の後ろの空間に向けられていた。
まるで、恐ろしいバケモノでも見ているかのような、青ざめた恐怖の表情。
「……ひっ……」
「え? なに? 俺の後ろに何かあんの?」
振り返っても、そこには黒板と壁があるだけだ。
白石はハッと正気に戻ると、「ううん、なんでもない! 気のせいだったみたい。先に帰るね」と言って、荷物を纏めて教室を出て行ってしまった。
遠ざかる背中を見つめながら、俺は首をかしげた。
あいつはよく具合が悪そうに顔を白くさせている。
(……もっと周りを頼ればいいのに。なんであいつは何も話さないんだ?)
けれど白石は、本当に純粋なやつだった。
俺がノートを貸したり、他愛もない雑談をしていると、白石は真顔でこんなことを言ってくるのだ。
「田中って本当に優しいよね。俺、田中のそういう明るくて優しいところ、すごく良いと思うな」
「っ〜〜〜〜!!?」
面と向かって真っ直ぐ言われると、こっちが恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
後から分かったことだが、白石は昔から病弱で、まともに学校に通ったことがなかったらしい。友達同士のこういうおしゃべりの経験が少ないからこそ、あんな気恥ずかしい言葉も純粋に口に出来たのだ。
そんな白石は、放課後になるとよくどこかへ走っていく。
靴は下駄箱にあるから、まだ校内にいるはずだ。不思議なやつで、時々ふっと消えてしまいそうに見えることがある。
だいぶ仲良くなったとは思う。でも……白石が俺たちのことをどう思っているかは分からない。
うざいやつ? うるさいやつ? それとも、友達と思ってくれてるのかな。
(思っていることは話してほしい。もっと頼ってほしい。友達なんだから)
***
あの日——文化祭の受付で白石が突然倒れた時、俺はパニックになった。
「白石!? オイ、白石!!」
「落ち着け田中! 保健室に運ぶぞ!」
竹田に言われ、二人で抱えるようにして保健室へ連れて行った。
ベッドの上で目を覚まし、「ごめんね」と申し訳なさそうにする白石を見て、俺の中で溜まっていた感情が爆発した。
「ごめんねじゃねぇよ!! 心配したんだぞ!? 具合が悪いならちゃんと言えよ!! 友達だろ!!?……お前はそう思ってなくても、俺は思ってるんだからな!!」
思わず叫んでしまってから、俺はハッと息を呑んだ。
(やべっ……言い過ぎた……!)
あせって謝ろうと白石の方を見ると、白石は目を丸くして驚いた顔をしていた。
「えっ……? ……俺でいいの? ……友達になってくれるの……?」
消えそうな声で尋ねてくる白石に、俺も竹田も一瞬フリーズした。
「「……は?」」
次の瞬間、俺と竹田は顔を見合わせて笑い出してしまった。
「はははっ。白石っ、お前なぁ……!はぁ、 友達っていうのはさ、わざわざ『友達になりましょー』なんて言わなくても、もうなってるものなんだよ!」
「……そうなの?」
ぽかんとする白石に、俺はニッと笑って「そーなの! そーなの!」と頷いた。
(なんだよ……全然大人びたやつなんかじゃなかった)
心の中で、白石に対する印象がガラリと変わった。
あいつは俺たちと同じ子供で、ただ人との関わり方に不器用なだけの同じ高校生だったのだ。




