変わらない関係
手紙を読み終え、父親の本当の愛を知ったあの日から、どこか吹っ切れたような、けれどどこか寂しげな表情を浮かべることが増えた陣。
放課後、茜色に染まる旧校舎裏のベンチ。
夕風に揺れる陣の横顔を見つめながら、俺は胸の奥に閉じ込めていた言葉を、静かに口開いた。
「……ねぇ、陣は、一体何者なの……?」
その問いに、陣は驚いたように目を見開いた。
けれどすぐに苦笑いを浮かべ、ゆっくりと天を仰いだ。
「……気づいてたんだろ、宵」
「……うん。窓ガラスに映らなかったり、チェキに映らなかったり……他の誰とも話してなかったり」
陣は深く息を吐き出すと、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「俺は……とっくに死んでんだよ。人間じゃねぇ。お前も知ってる、人の捨て置かれた感情から生まれる『あやかし』って存在だ」
冤罪で学校を追われ、父親を恨んだまま事故で命を落としたこと。
信じてもらえなかった悔しさと孤独、学校への未練が強烈な「あやかし」となって、この場所に縛られ続けていること。
そして、あやかしは一度なれば途方もない寿命を一人で生き続けなければならない、悪夢のような存在——。
「お前に会った時から、いつか話さなきゃと思ってた。最初は……どうでもいいと思ってたんだよ。誰にも見えない俺が見えるお前を、ただ珍しがってただけだったからな」
陣は自虐的に笑い、それから俺の目をまっすぐに見つめた。
「でも……お前と過ごす時間が楽しくてさ。自分を『陣』って呼んで笑ってくれるお前とのこの関係が、怖いくらい大切になっちまった。本当のことを話したら、お前が離れていってしまうんじゃないかって……もう少し、あと少しだけこのままでいたいって……逃げてたんだよ」
痛々しいほど素直な陣の吐露。
それを聞きながら、俺の胸の中にも不思議な
感覚が広がっていた。
(……あぁ、陣も……俺と同じ気持ちだったんだ)
「……俺もね、陣」
俺は静かに微笑みかけた。
「陣があやかしだって薄々気が付いてたんだ。でも……俺も、陣との関係を壊すのが怖くて、ずっと聞けなかったんだ。陣が人間だろうがあやかしだろうが、俺を見つけてくれた大切な友達だってことに変わりないから」
「宵……」
「話してくれて、ありがとう」
お互いの秘密と恐れが溶けて消え、ふたりの絆がより一層深く、確かなものになった瞬間だった。
***
その日を境に、陣は昼間の教室へは顔を出さなくなった。
けれど、放課後になると——陣は必ず、あのいつものベンチで俺を待っていてくれた。
「…遅ぇ、宵」
「ごめんごめん、竹田たちとプリント配ってたからさ」
何が変わるわけでもない、いつものやり取り。
放課後、まっすぐに陣のもとへ向かうその時間は、限られた残りの命を生きる俺にとって、何物にも代えがたい愛おしい、変わらない日課だ。




