第3話 懐かしい人
いつも読んでいただきありがとうございます。
「美織ちゃんおはよう!」
ひろえが今日も声を掛けてくれた。
「おはようひろえちゃん」
大学は高校よりも、教室も広いし
クラスメイトの様な雰囲気はない…
自由な感じだ。
受けたい講義を選んで参加する、
ひろえとは、調整した訳では無かったが、
だいたい顔を合わせた。
「美織ちゃんサークルとか…入るの?」
「あ〜、入学式の日にいくつかチラシをもらったね…」
「私迷ってて…美織ちゃんはどこか決めてるの?」
「私?…うーむ」美織は少し考えて、
「バレーボール…」
「えっ!意外〜!」
「冗談だよ…」美織が笑う…
「だよね、完全に男目当てかと思った…」
と、ひろえが返すと、
「そんなわけない…」と、苦笑いする。
「自分からボケたんだから…」と、
ひろえが肩を叩いた。
「だね…妹がバレーボール部だったから、つい…」
「へぇ〜、妹がいるんだ〜何年生?」
「うん、中学2年生だよ」
「あら、ちょっと歳の差があるんだね、
バレーボールいいよねー、私さ春高バレー見てさ、
県代表戸陽高校の谷本君とかカッコいいよねー…」
美織が耳を塞いでいた…
「え…どうしたの?」と、
ひろえが心配そうに覗き込んだ。
「イヤ、別に…少し目眩が…」
「大丈夫?ちょっと水買ってこようか?」と、
立ち上がろうとした。
「大丈夫…、大丈夫だから座って。」
まさか、こんな所で寸君の名前が出るとは、
ていなかったけど、有名人になってから、
周りは誰も、寸君の名前を口にしなくなった。
特に妹の愛は、春高バレーも部活の友達の家で見ると言って家では見なかった。
父と母も、
知ってか知らずか、
仕事に出て行ってしまった。
結局、家で1人で応援してた、
時々来る由依からのLINEに、
とても救われた。
あの日以来、
私の周りの人達は、
寸君の名前を出さなくなった…
ひろえちゃんは、普通に世間の情報から
寸君の名前を出しただけだから、
過剰に反応することはなかった…
多分…私が一番意識してるから、
周りも口に出来ないんだよね…
わかってる、
私が谷本君の事を話さないから、
周りが気を使うんだ…
美織は少し深呼吸をして、
「ひろえちゃん、私…
私も谷本君、好きだな…」
ひろえも笑顔になって
「やっぱり美織ちゃんとは気が合うよ!」
二人は楽しそうに、笑っていた。
帰りの電車に乗って、
美織はスマホを見つめていた。
小学生の頃は、好きなんて言えなかったな〜
見てるだけで、満足してた。
寸君は、白紙で提出した写生大会の絵について、
親が呼び出されたらしいと噂になっていた…
男子が話しているのを聞いたが、
それが原因で、絵画教室に行く事になったらしい。
その翌年5年生になって、
学年行事で近くの動物園で写生大会があった。
谷本は友達数人と、楽しそうに
絵を描いていた…
昔の笑顔に戻っていたように感じた。
4年の時みたいに、
話しかける事は出来なかった。
数日後に廊下に貼り出された動物園の絵は、
昨年の白紙で貼り出された絵より、
インパクトがあった…
あの幼かった、寸君が
大人が描いたような絵を描いていた、
凄い!!
それは、憧れでもあり
興味が恋に変わった瞬間だったと思う。
みんなは、もともと上手かったと言っていたが、私は知っている。
昨年は白紙で展示された、谷本の作品を
誰よりも眺めたのが、美織だったから…
あの絵が、教えてくれた。
彼は、この1年で変わったんだと。
彼が得たモノは絵を描く技術ではなく、
周囲に溶け込む、笑顔だった。
寸君の周りに友達が集まり、笑い合っている。
それが、美織には嬉しかった。
「懐かしい…」そう呟くと、
電車の扉が閉まった…
美織が降りる駅だった。
通り過ぎる駅を見て…
「ホント…懐かしい…」
と、もう一度呟いた。
3話 完
また次回、お会いしましょう。




