第27話 記憶の再会
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荒木が来た翌週の休日
美織は谷本と二人で、植物園に来ていた。
「珍しいよね…美織が絵を描いて見たいなんて…」
「そうだね、そんな日も有るよ…」
「せっかくの休日なのに…なんだか
自分の趣味につき合わせてるみたいで…
悪いんだけど、僕は嬉しいよ。」
「私も嬉しいよ、
それに…植物園にも来て見たかったから…」
2人は景色の良さそうな場所を周り、
高台の階段に座った。
「景色が良いけど、絵を描くにはポイントが無くて難しいから、
少し階段降りた所の時計台でも描こうか?」
「先に言っておくけど、私は寸くんと同じ物は描かないからね…」
「えっ…そうなの…」
「そりぁそうでしょ…
寸くんの方が上手いとわかってるけど、
その差は…私が可哀想でしょ…
寸くんはここから描いて、私は階段の下で描くから…」
谷本は少し笑って…
「なんか、今日の美織は積極的だね…」
「じゃあ、下に降りて場所を決めたら、
手を振るから…」そう言って、
美織は階段を降りて行った。
谷本から見えて、
時計台から遠い位置で
場所を決めて谷本に手を振った。
谷本も階段から、軽く手を振って座った。
美織は、
これで準備OK…と、ベンチに座った。
調度、あの時とよく似た2人の位置を再現する事ができた…
あの日も、私は寸くんの座っている階段を見ながら、
その風景を描いていた。
寸くんが絵を描き始めるのを見て、
美織もスケッチブックを開いた…
美織から見える、
谷本の姿は、小学4年の思い出が重なって蘇った…
あの時、寸くんはペンを動かさなかった…
でも、今はスケッチブックに絵を描いているのがわかる…
それが、ただ嬉しかった。
15分くらいが経った頃…
…あっと、いけない…計画実行〜っと、
美織は谷本の様子を眺めた。
寸くんは集中すると、視野が狭くなるから…
その時を見計らって、
ゆっくり立ち上がり…
谷本に見つからないように、場所を移動した。
谷本が座って絵を描いている反対側に周り込んで、
階段を駆け上がった。
高台の上から近づいて声をかけてみよう…
寸くんの性格上、心配症だから
私が居ない事に気が着くと、
きっと心配して不安になる…
そこで後から声を掛ける…
それが…美織の計画だった。
反対側の階段から、上まで上がり
寸くんの座っている階段を上から、
見た時…
谷本が腰を下ろしていた場所には、
画材は有るが、寸くんの姿が無かった。
「あれ…?居ない…」
探しに行っちゃったのかな?…
…寸くんが、この場所を離れる想定は考えてなかったな…
美織は谷本が座っていた場所に座って、
谷本のスケッチブックを手にした。
スケッチブックを開くと、
今日描いた風景が綺麗に描かれていた…
まだ…完成では無いのに、
どこか暖かく柔らかい線のタッチ、
美織は呟いた
「やっぱり、寸くんの絵…好きだな〜」
その時、背後から谷本の声がした。
「美織…今なんて…」
美織はびっくりして後ろを振り返った。
「わっ!!びっくりした~」
谷本が美織を見て立っていた。
「そうか…美織だったんだね…」
「えっ?…どういう事?」
美織は、しまった…計画が崩れてしまったと、
この計画を諦めた。
「ごめんなさい寸くん…、
後ろから驚かせるつもりが…私がびっくりしちゃったよ。」
谷本の様子が少しおかしい…
小さく震え、目を閉じていた…
「大丈夫?走って来たの?」
「違うんだ…記憶が…。
…思い出したんだよ…」
美織はそれを聞いても、
状況を把握出来ていなかった。
「美織…、今の言葉…
小学5年の時…写生大会の校内展示の絵を見て…
同じセリフ言わなかった?」
「えっ?…同じセリフ?…」
美織は昔を思い出した、
確かに廊下に展示された絵を見て、
『やっぱり、谷本くんの絵…好きだな〜』
と、友達と話していた記憶はある…が、
「言った記憶はあるけど…
寸くんには言って無いよね?」
谷本は小さく頷いた…
「後ろに居たんだ…その言葉は、
僕の捻くれた感情を解いてくれた…
今まで、忘れてた…」
「あの時は、恥ずかしくて
その場を逃げ出してしまったんだ…
誰が言ってくれたのか分からなかった…
でも、すっごい嬉しくて…
あの時に、
ちゃんとお礼が言えてたら良かったのにね…」
「記憶が残っていても、
多分…分からなかった真実だと思う…
でも…今の声やイントネーションが…
同じだった。」
「間違いない…美織だったんだよ…」
「記憶が戻ったの?…」
「ありがとう…やっと小学5年の美織に再会出来たよ…」
美織は、谷本の胸に飛び込み抱きしめた。
「ちょっと美織…」
「寸くんが、思い出してくれた記憶は、
私の捻くれた感情を解いてくれたみたい…」
高台の階段で、二人の影が重なった。
本日もありがとうございました。




