第15話 池田先生の考察
いつも読んでいただきありがとうございます。
「どうしたの?話しがあるなんて珍しい、」
美術教師の池田に、愛は声を掛けていた。
「な〜に?相談事?」
「いえ…少し聞きたい事があって…」
「私の姉をご存知ですか?」
「知ってるよ…もちろん
お姉さんは元気かしら?」
「ハイ元気です、先生に聞きたいのは、
姉の事なんです。」
「あら、何かしら…」
「谷本寸くん覚えてますよね?」
「もちろんよ、私は彼の大ファンなんだから…」
「谷本寸くんは交通事故で記憶を無くしたのはご存知ですか?」
「知ってるわ、2年前くらいだったか、
学校に来た時に、私の事を忘れてて…
とてもショックだったのを覚えてるわ」
「実は、谷本くんの記憶喪失は、
中学以前の同級生の記憶を無くしてるモノで、
先生や両親など、大人の記憶は残っていたんです。」
「あら…そうなの?
でも、私の事はすっかり忘れてしまって居たわよ…」
「そうなんです、同級生と池田先生と絵画教室の先生、
2人の記憶が消えてしまってて…
谷本くんに絵を教えてた先生の記憶が、
無いって事が、最近わかった事で…」
「なるほど、そんな理由があったのね」
と、ニッコリ笑った。
「谷本くんは過去について、
もう振り返るつもりは無いみたいなんですが、
姉は気になるみたいで…」
「あら、美織さんが?」
「池田先生から見た、
谷本くんと姉の中学時代の事を、
少し教えてもらいたくて…」
池田の顔が一瞬真面目な顔になった…
「私が知る2人の接点は無いと思うわ。」
「中学時代に一緒に居た所を見た事が無いの…」
「谷本くんが、仲が良かった友達って記憶にありますか?」
少し池田が眉を顰めた。
「何?谷本くん浮気でもしたの?」
「えっ…なんでそうなるんですか?」
「えっ…違うの?
何か浮気の痕跡があって、
過去の交流を洗われてるのかと思ったわ…」
「谷本くんは浮気なんてしないですよ〜」
と、愛が笑うと…
池田は少し微笑んで、
「谷本くんは、基本みんなと仲が良くて…
ただ、中学の頃はもっと性格が幼かった印象よね…」
「男友達とばかり連んでいた記憶もある…」
「でも…木村麻乃さんとか…
良く話してたわね、
あとは、川上未来さんが、
仲良かったんじゃないかな…」
「でも、美織さんの事が一番好きなのは間違いない…
それは私が保障するわ…」
「なんでそう思うんですか?」
「だってほら…
中学時代の谷本くんは、まだ幼い感じが残っていて、
それなのに高校生になって会ってみたら驚くほど、
カッコよくなってしまって。」
「恋愛は人を変えるって言うでしょ…」
「私は、谷本くんの記憶から消えてしまったけど、
それで良かったと思うわ。」
「そうなんですか?
私なら忘れられたら、悲しすぎる…」
「そうよね…でも、学校の先生って職業は、
みんなの成長を見る事ができる素敵なお仕事なんだけど、
みんなの記憶に残るかと言うと、
そうでもない…案外と忘れられちゃうの…」
「私は、先生たちの事覚えてますよ、
厳しい先生も、優しい先生も…」
「ありがとう、伊東さん…」
「記憶の更新って言葉聞いた事あるかしら?」
「えっ?聞いた事ないです…」
「記憶には、記銘、保持、想起、
忘却という過程があるの、必要な情報は保持され、
必要無い情報は忘れる…学校の先生の名前は忘れるけど、
教えてもらった授業内容は、知識として発展して行くでしょ…」
愛は難しそうな顔で答えた。
「なんとなく分かります…」
「そうよね…私が思うに、谷本くんは
脳を損傷したわけじゃないから、
何かのきっかけで、記憶を取り戻すかも知れない、
それは谷本くんの意識と違う記憶かも知れない」
「だから美織さんは、今の自分を好きでも、
記憶が戻った時に、
自分より好きな人が現れてしまうんじゃないかと
思い悩んでいるわけよね…」
愛は頷き、
「そんな感じだと思います。」
「大丈夫よ、多分だけど、谷本くんは
中学の頃から美織さんが好きだった気がするわ…」
「でも、それは谷本くんが記憶を取り戻さないとわからない事…」
愛は小さく頷いて、
「私もそう思うんです、いろいろ考えて大好きな人を遠ざけて、
結局今更になって気持ちを伝えたいなんて…不器用すぎて馬鹿みたい。」
「それは少し違うわ、
素敵じゃない…簡単に思いを伝えられる人もいるけど、
相手の事を考えすぎてしまうだけで、
個人差もあるのよ、伊東さんは初めて会った人に告白できるタイプ?」
「絶対しません。」
池田はニコリと笑って、
「お姉さんの美織さんは、その距離が長いだけ…
谷本くんも長いタイプなんじゃないかな…」
「ありがとうございます。
あと…
姉の卒業式事件で、池田先生が一番に駆け付けてくれたんですよね?」
池田は無言で、頷いた。
「そうね!…よく覚えているわ…」
愛は深く頭を下げて
「先生ありがとうございました。
姉を助けてくれて、私は最近まで姉の事件を知りませんでした。」
「なのに、学校行かない姉のこと、
だらしないとかわがままとか、思ってた時期もあって…」
「その今の気持ちが、大切なのよ。」
池田は愛に視線を向けて肩に手を掛けた。
「私の思いを、美織さんに伝えてもらえれば嬉しいわ。」
「なんですか?」愛が尋ねると、
「記憶と言うのは、過去だから
結局は何も変わらない…」
「それでも、知りたい過去はある。
心のキズは思い出からしか治療出来ないもの。」
「美織さんの過去は、何日たっても、
知っても知らなくても…
今谷本君が美織さんを好きという事実は、
一生涯変わるモノでは無い。」
「だから自信を持って!と、伝えてくれる?」
「私は、美織さんと谷本くんが上手く行く事を願っているわ。」
そう言うと、職員室に戻って行った。
愛の中で、一つの決意が芽生えた。
「谷本くんと話てみよう」
そう決心していた。
今日のストーリーはいかがでしたか?
また次回も読んでいただけると嬉しいです。
スローなラブストーリーから少し、テンポアップします。
次回もストーリーで、お待ちしています。




