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正午過ぎに未来人歴史ツアー終わり、解散した。アトリたちは、中央広場の日時計を見にきた。黄土色の三メートルの日時計は、ハーリキン市のシンボルであり、最も有名な観光場所でもある。
「未来人が生きていた頃からあるのはこの日時計と数字のレリーフだけだ。入口のヒントはこのふたつにあるって決めていいんじゃないか」
「同感。エナちゃんはどう思う?」
急に振られ、エナガは思わずびくついてしまった。
「え、あ、はい、わたしもそう思うと、思います……」
「はっきりしねぇな」
アトリはエナガの煮え切らない態度にじれったさを募らせる。
「ごめんなさい」
エナガは結局いつものように俯いてしまう。そんな自分が情けないのはわかっているが、自分で決めるという恐怖からエナガはずっと抜け出せないままでいる。シジューの命が終わるとき、エナガはけして間違えてはいけない選択肢を間違えてしまったと思い込んでいる。その後悔からずっと乗り越えられないまま、自分は正しいものを選べないと信じてしまっていた。
「あのね、アトリ。エナちゃんみたいな子は優柔不断ではなく、いじらしいっていうんだ。いい男なんだから、そういう言葉も覚えておきなさい」
「なんかムカつく」
アトリたちは日時計に、なにかヒントになることが書いてないかと、日時計を周回してみたが、引っかかるものを見つけられなかった。
「これだけ時計に関するものがある街だからな。時間に関係する、十二と六という数字が怪しいかもしれない」
ヒクイが仮説を捻り出す。
「じゃあ、『12』と『6』のレリーフを同じタイミングで何かしたら、この日時計の下から入り口が出てくるんじゃないか?」
アトリがヒクイの仮説におおざっぱな答えを導き出す。
「何かって?」
期待せずにヒクイはたずねる。
「何かだよ」
アトリは根拠のない答えを押し通す。ヒクイはツアーで歩いた疲れもあってか、ため息を吐いた。
「けど、日時計が入り口ってそのまますぎないか?現地人に知られちゃいけないんだ。もうちょっと捻るだろう」
「ああ?なんだよ、じゃあお前何かほかにいい場所思いつくのか?」
アトリが食ってかかる。
「まだなにも」
ヒクイは悪びれず答えた。
「さっきからなんなんだよ、お前!」
アトリが苛立ちと不機嫌にむしゃくしゃしていると、エナガは周りが騒めいているのに気がつく。皆が同じ方を見ている。聞こえてくるエンジン音。エナガはアトリの裾を引っ張った。
「なんだ」
返事をしたと同時に、アトリはバイクの集団がこっちへくるのに気がつき、エナガを背後に隠した。ヒクイもそれを補うようにアトリの横に並んだ。中央広場にいた観光客たちは不安からひとり、ふたり、逃げ出し、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていった。アトリたちはあっという間にバイクに囲まれてしまった。エナガはアトリの背中の服を無意識に掴んだ。アトリたちの前に停まった二人乗りバイクの後ろに乗った、深紅のパーカーをはおった少年がヘルメットをはずすと、ハンドルを握っていた仲間のチゴに預け、バイクから飛び降りた。身長はアトリよりも少し低かった。緑ぽい黒褐色の髪を無造作にかき上げ、目はなぜか充血していた。深紅のパーカーの下はグレイのタンクトップを着ていて、黒いパンツに目がちかちかするような、イエローのシューズを履いていた。バンはアトリたちの前まで歩いていく。だらしがなく着ていたせいか、パーカーは右肩からずれ落ちる。バンはアトリたちの三歩手前で立ち止まった。バンはアトリとヒクイの頭の上から、つま先までそれぞれ見ると、変な顔をした。
「中途半端な変装をしているが、あんたらヒガラ兄弟だろう?」
バンの声はしゃがれているのに、なぜかよく通る声だった。
「中途半端だってよ」
アトリがにやつく。ヒクイは落ち込む演技をする。
「手厳しい。バン・ヒモゲイトーだね」
バンはニヒルに笑う。
「俺のこと知ってるんだ。それは、嬉しい」
「噂は聞いているよ。ハーリキンの不良を束ねている。十六でたいしたもんだ。君らのおかげで、スリをする奴らが減ったって聞いているよ」
ヒクイは寛容で理解のある大人のように話した。
「俺らも、あんたらヒガラ兄弟が、ハーリキンで昔、いちばん強かったって知ってるよ」
アトリが我慢できずに笑った。
「昔って、ほんの数年前だろう。俺たちまだ、二十代の入り口にいる若人だぜ」
「十代にとっちゃ、三年前は昔なんだよ」
バンが嬉しそうにアトリに投げつけると、アトリは顔を引きつらせた。
「嫌なガキ!」
バンはアトリの足元を見て、後ろに人がいるのに気がついた。誰かは見当がついていた。
「お前、モックオレンジだろう?」
エナガはアトリの背中から顔を半分だけ出した。
「知り合いか?」
アトリが聞く。
「同級生だってさ」
エナガの代わりにヒクイが教えた。
「昨日、あんたらがこいつの父親の車を追いかけていた黒い車とやりやってたのは、知ってる」
「別にやりやってなんかねぇよ。巻き込まれてだけだ」
必要以上の敵意は持たれたくなく、アトリは自ら巻き込まれにいったことは隠した。
「あれで、俺らの仲間がやられた。あの黒い車に乗ってたのは、国際指名手配の奴だろう?」
アトリとヒクイは驚きを顔に出さないようにした。いくら情報網が広くても、オークロのことを不良少年が一晩で調べ出すとは想像しなかった。
「窃盗、傷害、殺人を両手で足りない以上やってる極悪人だろう?そりゃあ、路地裏でランチャーをためらいなく、ぶっ放せるよな」
「そっちか!」
アトリは思わず声に出してしまい、ヒクイに弁慶を蹴られた。アトリは声にならない悲鳴を上げ、蹴られたところをさする。
「その男の名前わかるかい?教えてくれない?」
ヒクイにバンは険しい顔で考え「いいよ」といった。
「交換条件だ。運転してた男の名前を教えろよ」
ヒクイはとっさにごまかしたが、見破られていた。
「馬鹿な弟を持つ兄は気苦労するよ」
「お前が蹴ったから俺の失言がばれたんだろうが!」
「兄弟喧嘩はあとにしてくれ。勘違いしてるかもしれないが、俺らはあんたらに報復する気はない。あいつらは何者だ?」
本当のことを説明するには、タイムマシンの操縦室のことを話さなければならない。けれど、そういうわけにはいかない。
「聞いてどうすんの?」
アトリは静かに聞いた。
「落とし前をつける」
バンの答えをアトリは嘲笑した。バンは腹立ちに眉を痙攣させる。
「骨折ですんだんだろうが。よかったって喜んどけよ。落とし前って、あいつらの足を折るのか?目には目を、歯には歯をてか?それで世の中うまくいかないから警察さんがいるの。裁判してくれる人がいるの。そんなことも知らないの?」
小馬鹿にまくし立てるアトリにバンは怒りの頂点を迎え、アトリの胸ぐらを掴み引き寄せた。エナガが荒立つ状況に怯えていると、ヒクイがエナガの肩を抱いて引き寄せた。
「今、どっちも興奮してるから落ち着くまで待とう」
のんきにエナガの耳元で囁いたヒクイの余裕さは、エナガにとっては不安でしかなかった。そんなエナガの心持ちなど男たちは気にも留めるはずはなく、アトリとバンは至近距離で怒鳴り合う。
「ろくでもない風来坊の説教なんざ、いらねぇんだよ!」
「ろくでもない?お前だっておめめが真っ赤っかの真っ赤だぞ!喧嘩ふっかけてくる前にどっかで泳いできたんだろう。お前の方がろくでもねぇよ」
「何いってんだよ。お前だって髪が赤いじゃねぇか!泳いできたんだろう!」
「アホか、お前!生まれつきだよ、こっちは!」
「こっちだって生まれつきだ!それに俺は泳げない!」
「それなら、落とし前の前にクロールと平泳ぎと犬かきの練習でもしてこい!」
「俺は犬は好きじゃねぇ!」
「それも生まれつきか!」
「脇道を爆走しすぎだよ。口喧嘩で本道離れるのはルール違反ですよ」
そろそろ頃合いだと、ヒクイが喧嘩をとめようとすると、遠くからサイレンが聞こえてきた。




