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猫と青年  作者: オムラ
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03





ある日、本屋でカーミュは眠っていた。

二人が初めて出会った時のように、フェイの胸の中に収まっている。

店に来た当初から眠そうで、本を読んでいるうちに本格的に寝てしまった。

ピクピク動く耳と、時折動く尻尾を視界の隅に入れながら、フェイは読書に勤しんでいた。


ちりん、と来客を告げる音が鳴った。

意識を本から現実へと向ける。

ドアを見るとそこにはフェイにとって見慣れた姿があった。


「センか、久しぶりだな」


センは、フェイにとって昔馴染みである。

この街の治安を守る警視団に勤めており、今も制服を着用している。

他の警視団員と比べるとやや細身に見えるが、着痩せする性質らしく、実際はかなり鍛えた身体をしている。

時折本屋を訪れることがあったが、カーミュが来てからは初めてのことだ。


「お前……」

「何だ」


店内に入ってから一歩も動かずにいるセンを、フェイは訝しげに見る。


「隠し子がいたなんて、何で言わなかったんだよ!」

「……とりあえずこっちに来い」


冗談のような言葉を本気で言うセンに、フェイは度々困らされていた。

目の前まで来たセンに、眠っているカーミュを起こさないように声を落としてカーミュとの出会いから現在までについて説明する。

センは漸く理解し、険しかった顔を和らげた。


「獣人の女の子がこの街にいるってのは聞いていたけど、この子のことかな」

「他には聞いたことないし、そうじゃないか?」


センはあまり見ることのない獣人に興味津津であった。

フェイの腕の中で眠っているカーミュを間近で見ようと、顔を近づけた。

カーミュの人間不信っぷりを気にかけていたフェイが、あまり近づきすぎないように注意しようとしたときだった。

カーミュの耳が、ぴくんとやや大きめに動いたかと思うと、ゆっくりと目を開いたのだ。

その目の前にはカーミュを見ようとしていたセンの顔。


「みゃっ」


猫のように声を上げたカーミュは、しなやかな動きであっという間にフェイの腕の中から抜け出してしまった。


「カーミュ!」


フェイが名前を呼ぶも、そのまま走って店から出て行ってしまった。

フェイもその後を追って店の外に出るが、もうカーミュの姿は見えなかった。

フェイが店内に戻ると、眉を八の字にさせているセンが立ち尽くしていた。


「……俺、何かやらかしたか?」

「あの子、前に住んでいた所で色々あったらしくて、人間が怖いみたいなんだ」

「あー」


そう言って頭を掻くセン。

フェイはカーミュを追いかける際に落としてしまった本を手に取り、棚へ戻す。

そしてフェイが椅子に腰を降ろした時、センが声を上げた。


「思い出した!」

「何を?」

「あの子、数か月前に母親を亡くしているはずだ」

「……父親は?」

「ここに越してきた時点で居なかったらしい。他に家族も居ないから、役所で保護しようとしたけど逃げられたって聞いた」

「……」

「最近隣の町で獣人が浚われる事件があったから、あの子の周りを警備しているって……でもあのすばしっこさなら本当に警備出来ているのかも怪しいよな」


フェイは暫く考え込むように黙っていたが、徐に腰を上げ、センの目の前に立った。


「あの子のこと、もっと詳しく調べて来てくれないか」

「わかったよ、なるべく早く調べてくる」


センは励ますようにフェイの肩に手をポンと置き、颯爽と店から出て行った。


フェイはセンを見送った後、再び椅子に腰を降ろし、一点を見つめたまま暫く動かなかった。





カーミュは森に来ていた。

無我夢中で走っていたら、いつの間にかここまできていたのだ。

カーミュとフェイが出会った森。

しかし、カーミュがいるのは森の奥深いところだった。

まだ昼間ということもあって明るいはずだが、木が生い茂るそこは、やや薄暗い。

なるべく早く帰ろうと、カーミュは来た道を戻ろうとした。

振り返ったその時にカーミュの視界に入ったのは、あまり見たことのない花々だった。

それに駆け寄るカーミュ。

一つ一つ摘み、周りを見て他にはないか探すと、また新たな花や木の実を見つけた。

帰ることをすっかり忘れて集中していた。


暫くして、花や木の実がカーミュの腕に抱えきれないほどの量になった頃。

カーミュはピタリと動きを止めた。

耳をピンっと立たせたかと思うと、ある一点を凝視する。

そして、凝視していた所とは逆方向に駆けて行った。





サイとカーミュが初めて対面した、その日の夜。

営業時間も終えて、フェイは店仕舞いをしていた。

すっかり日も暮れ、本屋の面する通りは弱い光を放つ街灯に照らされるも、暗い。

店の鍵を閉めようとした時、昼間に会ったばかりのあの声が聞こえた。


「フェイ!!!」


センはフェイの元に走ってきた。

センの只ならぬ形相に、フェイも眉間に皺を寄せる。


「あ、あの子の行方がわからなくなったそうなんだ」

「!」


乱れていた息を、すぐに整えるとサイは説明した。



昼間、センが巡回を終わらせ警視団の詰め所に戻ると、早速カーミュについての情報を集めようとしたらしい。

しかしカーミュの住む地域担当の警視は出払っていて、中々有益な情報を得ることが出来なかった。

しょうがないと、帰ってくるのを待っていると、詰め所にカーミュの近所に住む者だと名乗る人が現れた。


曰く、いつもなら帰宅している時間なのに帰って来ていない。周辺を探してはみたもののやはり姿が見つからない。最近獣人が標的の事件があったと聞いて心配になった、と。


それを受けてカーミュを警備しているはずの団員に連絡を取ると、案の定見失ってしまったとの答えが返ってきた。

今、警視団員の多くがカーミュの捜査に当たっている。ということだ。



センの話を聞いて、フェイは店の鍵を閉め、走った。


「フェイ!どこに行くんだ!?」


走るフェイと、それを追いかけるサイの向かう方角には、森があった。







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