04
「ちょっと!あなたたち警視団の人かい?」
森まであと少し、という所でフェイとセンを呼びとめたのはカーミュの家の近所に住む者達だった。
カーミュのことが心配で何かしたいのだが、既に夜も更けてしまっていて、下手に行動しても逆に危ない。けれど家でじっとしているのも無理だった。
彼らは、カーミュのことを心から心配していた。
カーミュが母親と初めてこの街に来た時に、母親から今までの生活のことを聞き、彼女らを出来る限り支えて行こうと彼らは誓った。
二人が来て一年も経たずに母親が亡くなり、カーミュを引き取ることを提案した者もいたが、カーミュは拒否してしまった。
その後、彼らは話し合って、カーミュを陰ながら支えることにした。
食べ物や日用品など、直接渡せることはできなかったため、家の扉の前にそれらを入れた籠を置いた。
初めてそれを行った時、カーミュが恐る恐るそれを手にして家に持ち帰ったのを、遠くから覗き込んでいた彼らは嬉し涙を流した。
そしてその翌日、彼らはさらに涙を流すこととなる。
朝、彼らが目を覚まし活動を開始し、家のドアを開けると、そこに森でしか見ない花や木の実があったのだ。
不思議に思って周りを見回してみると、少し離れた壁からはみ出ている猫の尻尾が。
そう、それはカーミュからのお返しだった。
それから、彼らとカーミュのやり取りは続いた。
彼らはカーミュを我が子のように思っていた。
だから、隣街で獣人が攫われるという事件が起こったという話を聞いて、彼らはカーミュを心配した。
見回りを強化するか、少々強引にでもカーミュを保護するか。警視団とも相談してこれからどうするかを考えていた時だった。
いつもならドアの前にある籠を取って、家に帰っている時間にカーミュが帰ってこない。
暫く様子を見ても、付近を探してみても、カーミュの姿は見えなかった。
そしてセンも出くわした通り、警視団へと駆けこんでいったのだった。
彼らはフェイらと警視団に自身の思いを訴える。
「カーミュのこと、頼むよ」
「カーミュちゃんを、見つけてください!」
「お願いだよ!あたしはあの猫耳を触るまで死なないって決めたんだからね!」
「そうよ!あのもふもふを堪能するって私たち誓ったんだから!」
「もふりたい!」
「もふもふ!」
「あんたたち欲望をむき出しにしすぎるのはよくないよ。――警視さん、カーミュはよく森に行っていたんだ。私らでは無理だから、頼んだよ」
不可解な言葉を聞いた気がしたが、フェイは無言で頷いて森へと向かった。
*
フェイらが森に入っていき、姿が見えなくなっても近所に住む者たちはその場を離れなかった。
たとえ1時間経とうと、日が変わろうと、朝が来ようと、彼らは動くつもりがなかった。
カーミュの居るであろう森を見つめ、何もかもを飲み込んでしまいそうなほどの暗闇に怖じ気づきながらも、彼らはカーミュの姿を見るまで動かないと決意したのだ。
1時間が経とうとした時、暗闇の奥から何かがちらついて見えた。それに気付いた彼らは、僅かに震え、自然と身を寄せあう。
何かは彼らの方に向かって来ていた。その何かが大きくなるにつれて、合わせてガサガサと葉が擦れるような音も聞こえてくる。
彼らは一つの塊の如く隙間なくくっついた。
何かと彼らの間の距離が縮まるにつれて、何かの形が明瞭になってくる。
それは背の高い人間のようだった。
先ほど見た警視団の人かもしれない、彼らはそう思ったが、もしかしたら噂の人攫いかもしれない、とも思った。
警戒して近づく人影を見つめる。
その距離が数メートルになった時、彼らはその人影が腕に何かを抱えているのに気がついた。
そしてその何かのお尻のあたりから、細長い何かが垂れていることにも気がついた。
「カーミュちゃん?」
彼らのうち誰かがそう呟いた時にはもう、彼らは人影がフェイであることに気がついた。
そしてその腕の中で幸せそうな顔をしたカーミュにも。
彼らが安堵し、喜んでいる中で、フェイとその真後ろに居て彼らからは全く見えていなかったセンは苦笑していた。
*
フェイとセンが森に入っていき、最初はフェイとカーミュが出会った場所へと向かった。
しかしカーミュはいない。
森の奥まで行ったのかもしれないと、二手に分かれて探すことにして何十分が経ったとき。
それを見つけたのはフェイだった。
森のそれなりに奥まった所にカーミュは居た。
そこにはカーミュ以外にも居た。
フェイや警視団の人たち、近所の者たちが想像していた獣人攫いではない。
カーミュと共にいたのは、獣たちだったのだ。
獣と言っても大型の熊とかではない。
ウサギやリス、キツネ、タヌキ、シカなどの小動物が、地面に横たわって寝ているカーミュの周りを囲んでいたのだ。
最近肌寒くなってきていて、外で寝ていたら風邪をひいてしまいそうだが、カーミュの周りには暖かそうな毛皮がぎっしりと詰まっていて、寒さなんて感じそうもなかった。
幸せそうな寝顔のカーミュと、多くの小動物が密集している光景は、フェイの張りつめていた緊張感を一気に緩ませた。
思わずため息を吐くと、ウサギの一匹がその細長い耳をピクリとさせ、目を開き赤い瞳を覗かせる。
その瞳でフェイの姿を見つめると、あっという間に立ち上がりフェイとは逆の方向に駆けて行った。他の動物たちもつられるように目を覚まし、駆けて行く。
あっという間に動物たちはいなくなり、そこに残ったのはカーミュとフェイの二人だけ。
呆けていたフェイだったが、耳をぷるぷるさせて冷えた身体を温めるように、身体を丸めたカーミュに気付き、慌ててカーミュの元へ行く。
フェイが近づいても、先ほどの動物たちのように目を覚ます気配がない。
寝たままのカーミュをフェイが抱き上げる。
すると、カーミュは温もりを求めるようにフェイにすり寄り、頬をフェイの胸元に擦りつけるような仕草をした。
そんなカーミュを見つめて思わずフェイは微笑んだ。
抱えたカーミュが落ちないようにしっかり抱え直し、元来た道を戻り、途中センと合流し、近所に住む者たちの元へ現れたのだった。
次でラストです。




