#003
「痛ってェェ! なにすんだ!」
ぶたれた頬を手でおさえながら涙目で俺を睨みつけた。
「ガキが生意気なこと言ってるからだ。それでお前、誰だ」
「へへんっ! よくぞ聞いてくれた! オレはリョウ! オマエの親友だ!」
自分でこんなこと言いたくないが俺に友達はほとんどいない。ましてや親友なんて。
「腹減った! なんか奢れ!」
図々しいにも程がある。
「で、お前は俺のなんなんだよ」
「わかったよ、とにかくオレは小四の夏に事故で死んだけど、訳あって復活したんだ!」
「復活ってそんな馬鹿なこと……」
小四の夏?
偶然なのか俺が事故にあった時期とリンクしていた。
「俺は小四以前の記憶がない。もしかしてそのときの……」
「だから覚えてなかったのか! そうだ、ちょっとまってな……ほらこれ!」
と言ってリョウはテープ式の財布をぺりぺりとめくって一枚の写真を見せてきた。そこには子供の頃の俺と目の前の姿から少しも変わっていないリョウが写っていた。
ん?
「ここに写ってるもう一人の女は誰だ?」
俺とリョウの間には、くしゃっと笑った少女がいた。
「アヤカだよ。覚えてないのか?」
さっぱり覚えてない。
「思い出せない」
「まあいい、こっからが本題だ。トウヤお前ループしたろ」
「っっ! なんでそれを!」
唐突にループのことを言われ、心臓が飛び跳ねた。
そしてリョウは天井を指差すと、淡々と語り出した。
「死んだらどうなると思う?」
「どうって……なにもなくなるんじゃないのか?」
「いや違う。肉体から魂だけ抜けていくんだ。肉体は消えてなくなるけど、魂だけは残るってこと」
そんな日本昔ばなしみたいなことが本当に起こるのか?
「魂って炎みたいにプカプカ浮かんでるあの?」
「全然違う、普通に人の形をしてる。ほら、そこにも爺さんの魂があるだろ?」
リョウは俺の奥の椅子を指差した。
「げっ!」
そこには、にっこりと微笑んだちょっと透けたの爺さんが椅子に座りながら手を振っていた。
「そして、生きてる人には見えない」
「でも、俺には……」
「トウヤ、一回死んでるだろ? たぶんそのせいだ。詳しいことはオレもよくわからん」
にわかに信じ難い話だが。
すると、さっきの爺さんがテーブルの上に置いてある俺のミンティアに手を伸ばした。
魂は現実の物に触ることが出来るのか? と思っていると、爺さんがミンティアに触った途端、本物のミンティアから薄いミンティアが複製された。
すっげぇ!
とりあえず複製されたミンティアは薄ミンティアとでも呼ぶことにする。爺さんは薄ミンティアから一粒取り出して食いはじめた。
どうやら薄ミンティアは複製した時点での中身を引き継いでいるらしい。
「てことは普通の人にリョウは見えないのか?」
「そうだ! オレのことが見えるのは魂か悪魔かあるいは特殊な訓練を受けてるやつだけだ!」
「へー」
ん?
小指で耳をほじる。
「聞き間違いだとは思うけど、いま悪魔って聞こた気がする」
「うん悪魔」
「え」
「ついでに言うと、トウヤを殺したのもその悪魔の仕業」
悪魔?
あの漫画でしかみたことない化け物の?
「トウヤ聞いてるか? だから悪魔が」
俺は両手で耳を塞いで店内で大声を出した。
リョウが大きくため息をついた。
「あのなぁ、ガキじゃあるまいし、みっともないぞ? それに、どうせ殺されるんだ、喚いたって無駄だ」
「ひどい! なんでそんなこと言うんだよ! ……殴るぞ?」
俺はリョウの胸ぐらを掴み前後に揺らしながらそう言った。
「急に殴ろうとするな! 怖いだろ!」
「はぁ、どっちみち死ぬのかよ。なあ、今から死ぬやつの気持ちわかるか?」
「大丈夫だ。そのために俺が来た! 何かあったら助けてやる!」
こんなチビガキに俺の命を託せられっかよ。
「このままうじうじしてたってなんも始まらないぞ?」
「……それもそうか。ところでお前あの爺さんよりくっきりしてないか? 普通の人間と遜色ないぞ」
視界の端で何やらとてつもないスピードで前後運動している物体が映る。気づけば爺さんは激辛ミンティアにもだえ苦しんでいた。おいおい爺さん死なないよな。あ、もう死んでるのか。
「オレはちょっと特別なんだよ。まあそれはおいおい話す」
「信用していいのか? 後ろから、こう……ズブっといこうしてないよな?」
「オレはトウヤを助けにきたんだ。そんなことしない」
不思議とこいつと喋っていると安心する。八方塞がりだし頼ってみるか。
その時、リョウが顎に手を当て、何かを考えはじめた。
「オレなんか大事なこと忘れてる気が……」
「なんだよ大事なことって」
「んー……忘れた!」
「お前なぁ……で、今から俺はどうすればいい?」
「それなんだけどな、トウヤを殺したのはさっき言った悪魔の仕業だろう。悪魔の詳細もおいおい話す」
「おいおい話すことばっかじゃねえか」
「とにかく学校行って、怪しいやつがいないか探そう」
俺ってもしかしなくても悪魔と戦うのか?
はあ?
なんでそんなことしなきゃならないんだよ。
なんか腹がたってきた。俺は一生、動画でもみて悠々自適な生活を望むさえない高校生でありたかった。
そこで聞くべきことを一つ思い出した。
「俺が死ぬ直前に、伏せろって言ってきたのお前か?」
「なんだそれ。そんなことしてないぞ」
じゃあ誰なんだ? 助けてくれようとしたんだし味方であることに変わりはないだろうが。
俺は椅子から立ち上がり、両頬を軽く叩いて気合いを入れ直した。とんでもないことに巻き込まれた気がするが、もうふっきれた。とことんやってやるよ。
「よし、行くか」
「おう!」
まだリョウを信じきったわけではない、全てに警戒するべきだ。ただ、もう死ぬわけにはいかない。なにがなんでも生き延びなくては。
☆
僕は冥斬士の家系に生まれた。
父の指導で、小さい頃から悪魔を殺すことだけを徹底的に叩き込まれた。友達もつくらず、孤独で、ひたすら道場にこもり稽古をつけられた。
そんな父は数年前に他界した。稽古稽古で親子の会話はまったくといっていいほどなかった。
僕が実際に悪魔を見たのは忘れもしない小学四年生の夏だった。悪魔は人に取り憑き、体を蝕み脳を侵食し操る。
あの日はトラックの運転手に取り憑いていた。低級のザコだった。しかし気づいたときには犠牲者がでていて三人が事故に巻き込まれていた。
僕の最大の失態はそれだ。




