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030  突撃

 門を蹴り飛ばした俺に門番が驚いて動きを止める。


「な!」

「身体強化スキルか!」

「注意しろ、挟むぞ!」


 俺はメイスを手に取り、槍を構えた2人に挟まれないように壁際に立った。


「お前は何者だ!」


 答える義理はない。俺は兵士を引きつける役目を果たすだけだ。

 兵士の一人に近づきメイスを振る。狙うのは武器だ。


 バキィ!


 メイスを受けようとした槍の柄を叩き折る。


「ぎゃ!」


 兵士が槍を落とし、肩をおさえて大きく退がる。

 受け止めようとして、肩が脱臼したのかも。


「馬鹿力が!」


 もう一人が、懐から素早く笛を出して吹く。止めようと思えば止められたが、その必要はない。兵士を集めてくれるなら好都合だ。俺は笛を吹き終わるのを待って、その兵士に近づき、突き出された槍を掴む。


「は、離せ!」


 兵士の言葉を無視して槍を奪い取る。槍を必死に握っていた兵士が、その勢いで転がっていく。


「なんて馬鹿力だ」


 肩を痛めた兵士が、どこかへ走っていく。それとすれ違うように兵士が集まってくる。


「一人か! 囲め! 逃すな!」


 俺は大勢の人を相手にして戦ったことがない。囲まれるのは怖い。キマイラの牙より、剣や槍の方が鋭いから、受けたら大怪我しかねない。広い場所はダメだ。屋敷の中に行こう!


 兵士たちの囲みを駆け抜け、屋敷の壁を力任せに蹴飛ばす。勢い余って屋敷の中に転がって入る。


「待て!」


 俺が開けたら穴から兵士が追ってくる。一人が通れるくらいの穴だ。これならやれる。


「どこの刺客だ。名を名乗れ!」


 入ってきた兵士が怒鳴る。

 名乗るわけがない。


 パキーン!


 兵士が構えた剣にメイスを叩きつけて折る。


「えっ?」


 驚く兵士の首元を掴んで、穴に向かって投げる。入ってこようとしていた兵士の何人かが巻き込まれて倒れる。


「あ、こいつは!」


 次に入ってきた男が俺を見て目を見開く。

 まずい、たぶんこの人は俺のことを知ってる。きっとグレイシアを助けた時、あの場にいた人だ。


 男が何かを叫ぼうとするが、それよりも先に距離を詰め、男の首元を掴んで振り回す。


「うべぇ」


 バン!


 室内のドアが激しく開かれ、兵士が入ってくる。俺は掴んでいるグッタリした兵士を入ってきた兵士に投げつけた。そしてドアではなく、部屋の壁に向かって走り、その壁を蹴り壊して次の部屋へと逃げた。

 廊下から複数の足音と、装備のガチャガチャした音が聞こえてくる。


 もっと目立つ場所に行かなきゃ。こんな屋敷だ、きっとどこかにホールがあるはず。

 俺はさらに壁を蹴破って、また次の部屋に転がり込み、そこから廊下に出て、その壁も体当たりで突き破った。


「何なんだこいつは! 身体強化にしても滅茶苦茶すぎるだろ!」

「物理耐性スキルもあるはずだ。打撃は無駄だと思え!」


 追ってきた兵士から逃げ、さらに壁を突き破る。


「くそ、何が目的なんだ」

「どこに向かってるんだ」

「まさか、あの部屋か!」


 あの部屋? ロイネが囚われてる部屋のこと? いや、違うな。そっちは今いる場所の反対側だ。まあいい、適当に進もう。


「あの部屋を守れ、近づかせるな!」


 あの部屋が何の部屋なのか知らないが、そこに入られたくないならそこを目指そう。どこか知らないけど。嫌がってたからこの先だろう。

 斬りかかってきた兵士の剣を、メイスで叩き折って、その兵士を次に入ってきた兵士に投げつける。


「クソ、俺たちじゃダメだ。早く兵長たちを呼んでこい!」


 兵長ね。それがスレイドさんの言ってたAランク級の実力を持つ人か魔法使いなんだろう。

 

 ドカン!


 俺はまた部屋の壁を蹴破った。兵士の反応が薄い。これはハズレか。


 ドカン!


 違う壁を蹴破る。


「や、やめろ!」


 こっちが正解か。行こう。


「止めろ、あの部屋に入られたらラウル様に殺されるぞ!」


 そこまで必死になる部屋か。兵士を集めるのにちょうどいいな。

 兵士の反応を見ながら屋敷の中を進み、入り口を兵士に守られた部屋を見つける。ここが入られたくない部屋らしい。


「絶対に通すな!」


 兵士たちが必死の形相になってる。これなら役目が果たせそうだ。


「こいつか。侵入者は」


 背後から部屋を震わせるような太い声が響く。


「バルモンテさん!」


 兵士たちの声に安堵の色が見える。頼りにされてる人なんだろう。


「どこのどいつか知らねえが、その部屋に入りたいなら、ラウル様のお気に入りにならねぇと無理だぞ」


 屈強な男がニヤニヤと笑いながら、重そうなメイスを肩に担ぐ。


「バルモンテさん、そいつにはたぶん打撃耐性があります!」

「俺のメイスが耐えられるとでも?」


 そのメイスは痛そうだ。打撃がどうとかより、トゲトゲがダメだ。モーニングスターってやつだ。これ見た目がこわすぎる。そんなので殴られるのはさすがに勘弁してほしい。

 俺はバルモンテが動くより先に近づき、メイスの柄を握った。


「のわっ!」

「これで殴られるのは嫌なんで、貰いますね」


 バルモンテの手からモーニングスターをさっと奪い取る。


「え、ええ?」


 バルモンテが自分の手と俺を交互に見てる。


「バルモンテさんが力負け……だと。嘘だろ」


 呆けるバルモンテを加減して蹴り飛ばすと、背後の兵士を巻き込んで転がっていった。


 なかなかしっかりしたメイスだ。これであの壁を壊そう。


「これ、そっちに投げるんで、怪我したくなかったら避けてくださいね!」


 兵士が守る部屋の壁に向かって、モーニングスターを振りかぶる。扉を守っていた兵士が慌てて飛び退く。

 

「よっ!」


 ドゴゴゴーン……


 力任せに投げたモーニングスターが複数の壁を突き破り、かなり先まで見通せる穴が出来上がった。


「あっ……やば!」


 人に当たってたらどうしよ。今のが当たってたら……いや、そんな心配が必要な相手じゃない。気にせず行こう。今はこいつらが俺に集中するように暴れないと。


「よーし、その壁の中に何があるか見せてもらおうかなー」

「こ、こいつ、殺せ、一斉にかかれ! 絶対にここを通すな!」


 バルモンテが叫ぶ。その声に応じて2人の兵士が俺に槍を突き出す。だけど俺が怖いのが、今一つ力の入ってない突きだ。俺はその片方をメイスで叩き折り、もう一つを手で掴んだ。

 しかし、次の瞬間、背中に鋭い痛みを感じた。何かで刺された痛みだ。


「痛い!」


 掴んだ槍を無理やり振って、兵士を振り払い後ろを見ると、槍を持った兵士が呆然としている。

 3方向からの同時攻撃だった。背後からの突きには全く気づけなかった。やはり刃物は痛いな。キマイラの牙が鋭いと言っても、研いだ刃物ほどじゃない。さっきの痛み、たぶん少し刺さって血が出てる。


「なんで? なんで貫けないんだよ。今のは完璧な突きだったのに」

「斬撃耐性? いや斬撃耐性を持ってても、今の突きは刺さるだろ」


 そんな突きだったんだ。危なかった。丈夫でよかった。


 バキャ!


 呆然としている兵士の槍をメイスで折って、モーニングスターで開けた穴に向かう。

 するとまた3人の兵士が向かってくる。


「何とかしろ! こいつは王家の調査員だ!」

「こんな滅茶苦茶な調査員なんています?」

「そうじゃなくても、止めねぇとアストレア家も俺たちも終わりだ!」


 またバルモンテが叫ぶ。兵士の顔には恐怖が浮かんでいるが、それでも向かってくる。ってことは、この先によほどの見られたくないものがあるってことなんだろう。

 俺は奪った槍の柄で、向かってきた兵士3人を薙ぎ払った。払われた3人が壁まで吹っ飛んで崩れ落ちる。そして次が向かってくるより先に、穴に飛び込んだ。

 中にあるものが何だって構わない。ロイネを助け出す時間が稼げればそれでいい。

 そう思って飛び込んだ。


 しかし、その部屋に入って室内を見回した俺は、その光景がすぐには理解できず、頭が真っ白になった。

 そして理解が追いついた時、激しい吐き気に襲われ、全く耐えることができずに、胃の中のものを全て吐き出した。


「何なんだよ……これは」


 自分の声が震えているのがわかる。恐怖と嫌悪と不快感、そして怒りに震えた。

 そこにあったのは、獣人女性の剥製と、その作製途中の死体だった。



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