表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/145

他国でも悪役令嬢―空白の4日間

 



「 ねぇ……食事が終わったらアタシと一緒にあっちで話をしない? 」

 女給が指差ししたのは、ホールを出た廊下を挟んでの扉。


 そう言う事に使われている部屋だと言う事は分かる。

 要はワンナイトラブの部屋だ。



 店に入っていきなりのナンパ。

 それもこの店で働く従業員が。

 隣に連れの女がいるにも関わらず。


 気持ち悪い程の甘ったるい声で、レイモンドを誘惑して来たのだ。



 パンとメニューを閉じたアリスティアに、近くにいるジジイ達が口々に話し掛けて来た。


 身体を乗り出すようにして。

 既にかなり酔っぱらっている。


「 諦めな~!サリーちゃんに誘われたら誰でもイチコロだぜ 」

「 サリーちゃんが狙った獲物は逃さないからね~ 」

「 サリーちゃんは貴族キラーなんだぜ~ 」

 ボトルを手にしながらジジイ達が、ヒャヒャヒャと愉快そうに笑っている。



 レイモンドとアリスティアが、貴族だと言う事は一目瞭然で。

 それもかなりの高貴な貴族だと。

 それはマントを纏っていても。

 二人の立ち振舞いだけでも平民のそれとは全く違うのだから。


 その高貴な貴族がこんな場所に連れて来る女は、愛人か妾。


 貴族達が集う店では、流石に愛人を同伴出来ない事から、この店を利用する貴族は少なからずいる。


 アリスティアをレイモンドの愛人と思ったわけで。

 フードも取らすに顔を隠している辺り、かなり訳ありの二人なんだと。



 サリーちゃんはハーフ。

 茶色の髪は黒髪ばかりの人々の中で一際目立つ存在で。

 美人でスタイル抜群で愛嬌のある彼女は、この店の人気者だ。


 レイモンドが店に入って来た時から、サリーちゃんは目を付けていて。

 いや、正確には彼が店の外にいる時から。


 背が高くスラリとしたスタイル。

 深く被ったフードで顔は見えなかったが、少々顔が不細工でも構わない。


 サリーちゃんは高身長男が大好物なのである。 


 タルコット帝国の男は平均的に背が低い。

 なので外国からの旅人が多く来るこの店で働いているのだ。



「 僕には()がいる 」

「 そんな事はどうでも良いわ。愛人とよりも私と良いことしない? 」

 サリーちゃんは自慢のはち切れそうな白い胸の谷間を、レイモンドの顔の前に付き出した。


「 ? 愛人などいない。僕は()一筋だ 」

 横にアリスティアがいると言うのに、意味が分からない。


 そもそもこの手の女は話が通じない事は、今までの経験から明らかだ。

 何時もならオスカーかマルローが対処してくれていたが。


 自分では上手く対処出来ないだろうと、レイモンドは店を出る事にした。

 ややこしくならない内に立ち去る事が得策だと。



 その時。

 椅子から立ち上がろうとテーブルの上に手を付いたレイモンドの手に、サリーちゃんの手が伸びて来た。


 パシーン!!


 閉じたままの扇子がサリーちゃんの手を打った。

 勿論、打ったのはアリスティア。

 扇子は貴族令嬢の必須アイテム。



 他国で揉め事は犯したくはないのだ……が。

 レイモンドは、あちゃーとばかりに額を押さえた。


 フードでアリスティアの顔は見えないが。

 怒りのオーラをひしひしと感じた。




 ***




 危ない所だった。

 レイモンドが自分の事を「 妻 」と言った事にアリスティアは感動していて。

 危うくレイモンドに触られる所だったのだ。


 我が国の大切な皇子様を、こんな下衆な女に触られてなるものか!


 アリスティアの防衛力はフルパワーに。



「 痛い! 何すんのよ! 」

 サリーちゃんが打たれた手を押さえた。


「 わたくしの()に触らないで貰えます? 」

「 えっ!?あんた本妻なの? 」

 周りの男達も驚いている。

 てっきりこの貴族男の愛人だと思っていて。


 サリーちゃんはニヤリと笑った。

 相手が本妻ならば、目の前で寝取ってやる価値は増大だ。


 お高く止まった貴族女を笑い者にしてやるチャンス。

 平民の女に男を寝取られた貴族女の悲痛な顔は、店にいる男達に取ってもメシウマなのだ。



「 あんたの夫がアタシを選んだんだけどねぇ~ 」

 チラリとレイモンドを見たサリーちゃん。


 彼女は勘違いしていた。

 レイモンドが立ち上がろうとしたのは、自分とワンナイトラブ部屋に行く為だと。


 一瞬にして自分に落ちた事に満足していて。

 それは今までの男と同じ様に。



「 飛んだ勘違いですわね。わたくしの()がお前などを選ぶ筈が無いでしょ? 」

 ホホホとサリーちゃんを嘲笑うアリスティアは、扇子で口元を隠した。


「 あんたの男はアタシに一目惚れしたんだよ!それが分からない? 」

「 わたくしの()がお前ごときに一目惚れしたですって!? ()()なくせに笑わせないで頂きたいですわ! 」


 それを聞いたサリーちゃんはケラケラと笑い出した。

 男達も皆。


「 みんな~ぁ。アタシがブスなんだってサ~。それならフードを取ってあんたの顔を見せな! アタシに勝ってる顔を拝んでやるわよ~ 」


 アタシに敵うわけがないと、胸を付き出したサリーちゃんの胸のボタンが弾け飛んだ。


 白い豊満な胸の谷間が露になる。

 ワーッと男達の歓声が上がった。


 最早、店の中にいる皆の注目の的。

 酒瓶やボトルを持って女の対決を楽しんでいる。

 今夜は貴族女の泣きっ面が見れるとニヤニヤとしながら。



「 ねぇちゃん止めとけ! サリーちゃんの美貌には敵わないぜ! 」

「 今までサリーちゃんが負けた所は見た事もないぜ 」

「 サリーちゃんはさ~顔も綺麗だけど~ヨダレが出る位のエッチな身体なんだよね~ 」


「 ティア! もう出よう! 」

 レイモンドはアリスティアの手首を持ち、店を出る事を促した。

 しかしアリスティアはレイモンドの手を振り払い、それを制止した。


 売られた喧嘩は買う主義だ。

 今まで負けた事などただの一度もない。


 美貌対決なら尚更受けて立つ。



 アリスティアは黒のローブのリボンを外しながら、ゆっくりと立ち上がった。

 そして徐にフードを取ると、ローブが肩から床にパサリと落ちた。


 ヤンヤと騒いでいた店の中が、一瞬にして水を打ったように静寂になった。



 現れたのは絶世の美女。


 サリーちゃんも凄い美女だが、それは単なる平民間の事で。

 公爵令嬢のその輝くような美貌は、全く比ではない。


 当然ながら平民達は公爵令嬢など見た事はない。

 それは何処の国の平民も同じ。

 公爵令嬢が()()()()()と謳われているのは、高貴過ぎるから。

 そこが民衆の前に立つ王女とは違う所で。


 ましてやアリスティアは持って生まれた美貌の持ち主。



 小さな顔。

 陶器のような白い肌に可愛い赤い唇。

 艶やかなミルクティー色の髪。

 長い睫毛のある大きな瞳はヘーゼルナッツ色。


 サリーちゃんの顔がデカク見え、厚化粧が何だか汚ならしい。

 先程までは美しいと思っていた顔なのだが。



「 わたくしの美貌は世界一ですわ! これで分かったでしょ? こんな美しい()のいるわたくしの()が、お前のような()()を選ぶ事は万が一にも有り得ないですわ! 」


 オーホホホ。


 胸を付き出し腰に手を当てたアリスティアが、腰を仰け反らしながら高笑いをした。


 スタイル抜群の自慢の身体を見せ付けるように。



 刹那!

 アリスティアの脱いだローブを拾い上げたレイモンドが、アリスティアの頭からすっぼりと被せた。


「 キャア!? レイ!何ですの? 」

 レイモンドはそのままアリスティアを抱え上げると、スタスタと店から出て行った。



 その時。

 レイモンドが被っていたフードがハラリと脱げた。


 現れたのは金髪碧眼の美丈夫。

 キラキラと輝く眩いばかりの美しい顔。


 他の女給達のキャアキャアと言う黄色い声が、店中に溢れて返っていた。




 ***




「 まだ言ってやりたい事がありましたのに 」

 公園のベンチに下ろされたアリスティアは不満満載だ。


 他人の男を寝取ろうとする女など、再起不能にしなければならない。

 それが世の中の為にもなる。


 そこは貴族も平民も関係ない


 アリスティアはレイモンドをむぅぅと睨み付けた。


「 君をハイエナどもに見せたくなかった 」

   レイモンドがアリスティアの顔を覗き込んだ。


 そんな顔も可愛い。



 騒ぎを起こしたくないのは勿論だが。

 何よりも。

 アリスティアを、男達のいやらしい目で見られるのが嫌だった。

 サリーちゃんを見ているあのいやらしい目が、アリスティアに注がれるのを。


 勿論、アリスティアが着ているドレスは、赤のチェックの普通の可愛らしいドレスなのだが。


「 店に戻ってギャフンと言わせて来ますわ! 」

「 だ~め! 」

 鼻息の荒いアリスティアの唇を、レイモンドはキュッと摘まんだ。



 店に入っての食事を諦めた二人は、屋台の食べ物を食べる事にした。

 あの店のエビ料理を食べられなかった事は残念だったが。


 屋台の食べ物は食べた事はない。

 食べ歩きもした事がなかった二人だから、それはそれでテンションが上がる。


 自分でお金を払う事も楽しい。


 因みにお金は、街に到着した時に既に両替屋で替えて貰っていた。

 旅人が多く往き来する国では、街には必ず両替屋がある。

 それはエルドア帝国とて同じ。



「 これ……焼き鳥って名前ですの? 」

 アリスティアは、今まで食べた事のない味にご機嫌だ。

 キラキラと大きな瞳を輝かせているのが可愛い。


「 うん。僕もこれが一番気に入ったよ 」

「 シェフがいたら調理の仕方が分かるのに…… 」

 残念だわと言うアリスティアの頬を、レイモンドは指先で拭いて、その指をペロリと嘗めた。


 可愛い頬っぺに焼き鳥のタレが付いていたのだ。


「 あら! わたくし達ってお行儀が悪いですわね 」

「 大丈夫。ここは他国だからね 」

 顔を見合せ、互いにクスクスと笑い合った。


 レイモンドは外遊の必要さを改めて感じた。


 結婚したら二人で世界を巡りたい。

 アリスティアと一緒ならば、楽しい事は間違いないのだから。



 お腹が満たされた二人は宿屋に泊まる事にした。

 魔女の森には明日の朝に戻る事にして。


 訪れた宿屋の店主は、シングルの部屋だけしかないと言う。

 小さなベッドは二人では寝られない程の大きさ。


 ならば別の宿屋を探そうとしたが。

「 もう遅い時間なので、空いている部屋はないだろう 」と、言う店主の言われるがままに、この宿屋の部屋を二つ取る事にした。


 宿屋の言う事が本当か嘘かは分からない。

 何しろ皇太子殿下と公爵令嬢。

 二人は当然ながら世間知らず。



 宿屋のスタッフが二人を部屋に案内する。


「 お休み。良い夢を 」

「 お休みなさい 」

 アリスティアの部屋の前で、アリスティアの頬にキスをしたレイモンドは、スタッフと一瞬に自分の部屋に向かった。



 アリスティアが部屋に入ると直ぐに、下働きの女が入って来た。

「湯浴みの準備は終わってます」と言って。


 バスタブには既に湯がくべられていて。

 タオルも着替えも用意されていた。


「 湯浴みのお手伝いをしましょうか? 」

「 一人で大丈夫だから下がって良いわ 」

 魔女の森で過ごした半年間があるので、一人でも事足りる。


 貴族の宿泊には手伝いの者を付けてくれるのは、何処の国も同じ。

 だから平民が泊まる時よりも、宿代はかなり高め。



 湯船に浸かっていると……

 何だか急に不安になった。


 レイは大丈夫なのかしら?


 レイモンドの世話をする侍従のマルローはいない。

 自分と同じ様に、手伝いの女がレイモンドに世話をすると言ってる筈だ。


 そうなれば……

 女がレイの湯浴みを手伝う?


 そもそもレイモンドと離れた場所に、自分の部屋がある事が怪しい。


 部屋に案内したスタッフは……女。


 アリスティアは直ぐに湯船から出た。

 乾かしてない髪は後頭部で纏め上げながら、急いでレイモンドの部屋に向かった。



 レイモンドの泊まる部屋が何処なのかは聞いてはいない。


 ……が、直ぐに分かった。


 下働きの女達が群がっていた。

 一番端にある部屋の前に。

 アリスティアの部屋に来た女もいる。


 何だかギャアギャアと揉めている。

 各々の手には桶やバスタオルを持って。


 何をしようとしているのかは一目瞭然だ。



「 お前達!何をしている! 」

 近付いて来たアリスティアの凄みのある声に、女達はあたふたしながら後ろに下がって頭を下げた。


「 この部屋はわたくしの()の部屋ですわね? 」

 一応は確認する。

 万が一違っていたら大変だ。


 女達は頷いた。

 頭を下げたままに。



「 わたくしの()の世話はわたくしが致します。お前達は下がりなさい 」

「 あの……それが……部屋に鍵が掛けられていて 」

「 だから……入れなくて…… 」

「 ……でも……あの……中に…… 」

 女達が口々に言う。

 びくびくとしながら。


「 そう。鍵が掛かっているのね 」

 鍵が掛けられていた事に安堵する。


 ……が。

 中から漏れて出て来た声にアリスティアは驚愕した。


 聞こえて来たのは女の声。

 気持ち悪い程の甘ったるい声。

 何だか聞いた事のある。



 アリスティアの瞳が赤くなる。

 それと同時に部屋のドアがバーンと開けられた。


 勿論、魔力でドアを開けたのだ。

 ちゃんと魔力は調節出来ている。

 ……が、小さいドアは吹っ飛んでいた。

 皇宮の大きな頑丈な扉とは違って。


 女達の悲鳴を後にしながら、アリスティアは部屋に入って行った。



 驚いた事にレイモンドの部屋は広い部屋だった。

 二人が寝れる程の大きなベッドも置かれている。

 店主にはシングルの部屋しかないと言われたが。


 混乱しながらも部屋を見回すアリスティアの視線は、部屋の奥に止まった。


 そこはサニタリールーム。



 そして……

 そこにいる女は……


 サリーちゃんだった。



 それも真っ裸。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あぁ、一難去ってまた一難。 イケメンさんも苦労が絶えないですねぇ。 それにしても。「サリーちゃん」だと? ………そんな羽虫は叩き潰しておしまいなさい。 あ…でも手に汁がつくときちゃないから丸めた新…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ