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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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他国の異変―空白の4日間




 自分が泊まる部屋に案内されたレイモンドは驚いた。

 アリスティアが泊まる部屋と、同じシングルの部屋ではなかったからだ。


 倍以上はある部屋で。

 ベッドはダブルベッドが置いてある。



「 この部屋は? 」

 案内のスタッフの女に聞いたが、彼女は頭を横に振るだけだった。

 恥じらうような真っ赤な顔をして。


 何かの手違いか?

 まあ、それならそれで構わない。

 この部屋ならアリスティアと一緒に寝る事が出来るのだから。


 レイモンドとしては、やはり二人の部屋が離れている事が心配だった。

 いくら最強魔女だとしても何があるか分からない。


 ましてやここは他国。



 踵を返したレイモンドは、直ぐにアリスティアを迎えに行った。


 ……が。

 アリスティアの部屋から出て来た下働きの女に止められた。

()()は今湯浴みをしてます 」と、彼女もまた顔を赤らめている。



 どの女も、自分を前にしたら顔を赤らめる事はレイモンドも認識している。

 それは幼い心から。


 そして……

 その後に秋波が送られて来る事も。


 自分に婚約者がいるのは分かりきった事なのに。

 ましてや今は、()と同伴だと認識している筈なのにだ。



「 そうか……それならば僕も湯浴みを先に済ますか 」

 アリスティアを迎えに行くのはその後にしようと、レイモンドは直ぐに部屋に戻った。


 レイモンドの後を下働きの女が付いて来る。

「 閣下様の湯浴みの手伝いをします 」と顔を赤らめて。


「 その必要はない 」

 部屋に入ったレイモンドは、続いて部屋に入ろうとする彼女の目の前で、扉をバタンと閉めた。


 ガチャリと鍵を掛けて。


 得たいの知れない者を、自分に近付けない事は皇族として当然の事。

 ましてや部屋で二人っきりになるなんて言語道断。


 いくら手伝いの者であっても。



 その後湯船に浸かっていたら、浴室のドアの前に何やら人影が現れた。


「 お背中を流しますぅ~ 」

 ……と言いながら女は服を脱ぎ始めた。


「 !? 」

 鍵は掛けた筈。

 間違いなく。


 既に部屋に忍び込んでいたのか?

 ……迂闊だった。


 普段の外出の公務ならば、事前に騎士達が泊まる部屋を点検する。

 それにも関わらず、裸の女がベッドの中に潜んでいた事はあった。

 あれ以来、ベッドの中まで調べるようになったのだ。


 あの時はマルローがいた。

 爺が摘まみ出してくれたが、今は一人。


 それも浴室で()



「 どうやって部屋に入った!? 」

「 ウフフフ。貴方の運命の女が来ましたよぉ~ 」

 それは聞き覚えのある甘ったるい声。


 この声は……

 酒場にいた女か?


 レイモンドは青ざめた。

 折角この女から逃げて来たのにと。




 ***




 レイモンドが店を出た時に、サリーちゃんは彼を追い掛けて店を出た。


 レイモンドの去り際に、フードが脱げた事で彼の顔の全容が見る事が出来た。


 キラキラと輝く黄金の髪。

 その顔は息も止まる程の極上な顔。

 二度と出逢えない外国からの旅人を、このまま逃したくはない。



 その後も物陰からレイモンドを見つめた。

 それは屋台の後からだったり、木の陰からだったり。


 一緒にいる女が手強過ぎて、突出来ない事が口惜しい。

 あんなに根性の座ったヤバイ貴族女は見た事がなかった。

 自分よりも()()()()美しい女だった事がまたムカつく所で。



 やがて二人はある宿屋に入って行った。


 それを見たサリーちゃんは確信した。

「 やっぱりね。アタシと彼は結ばれる運命なのよ 」と。


 二人が入った宿屋は、サリーちゃんの父親が経営している宿屋。

 彼女が酒場で働いている理由は、旅人を父親の経営する宿屋に案内する事でもあった。



 裏口から先回りしたサリーちゃんは、父親に二人の部屋を別にするように懇願した。


「 彼は極上の貴族よ! 多分侯爵……違う!もっと上よ!もしかしたら公爵かも知れないわ! アタシは彼の愛人になるわ! 」

「 脈はあるのか? 」

「 勿論よ!」

 男がアタシを拒む筈はないわと、サリーちゃんは胸をボヨヨンと振った。



 店主は小躍りした。

 公爵は王族の血筋。

 愛人になったサリーちゃんに子が産まれたら、親家族は貴族になれるのだ。

 それは他国の貴族であろうとも。


「 男爵か……」

 店主は貴族になった自分の未来に酔いしれた。


 勿論。

 レイモンドが皇太子の身分であると言う事は夢にも思わない事。



 レイモンドが泊まる部屋に、先回りして入ったサリーちゃんは、戸棚の中に隠れてレイモンドが入って来るのを待った。


 この大きなベッドで乱れるのだわと、いやらしい妄想をしながら。



「 閣下様の湯浴みの手伝いをします 」

「 その必要はない 」

 ドアの閉められた音の後に、ガチャリと鍵が閉まる音がした。


 そして暫くすると、浴室から水音が聞こえて来た。


 部屋には鍵が掛けらている。

 あの邪悪な女はいない。

 この部屋には二人だけ。


 サニタリー室に入ったサリーちゃんは、服を脱ぎ出した。

 一緒に風呂に入ればこっちのもの。

 この美しい裸体に発情しない男はいないのだから。



「 お背中を流しに来ましたぁ 」

 サリーちゃんはガラス戸のドアに手を掛けた。

 ガチャガチャ……が、ドアが開かない。


 レイモンドが浴室からドアノブを引っ張っているのだ。


 ガラスに越しに見える彼の裸体姿の影に、サリーちゃんは鼻息を荒くする。

 なんて逞しい胸なのかと。

 下半身は板戸で見えないが……きっと立派な筈。



「 背中など流す必要はない! 下がれ! 」

「 遠慮はいりませんよ~ここを開けて下さいな~ 」

「 誰かいないのか!? 」

「 アタシがいま~す!この部屋にいるのはアタシだけですから~何の心配もないですぅ~だからドアを開けてくれますか~ 」


 裸の二人がドアの引っ張り合いをするなんて、最早カオス。


 このままだとらちが明かない。

 もしかしたら朝までこの状況かも知れない。


 浴室から出てサリーちゃんを摘まみ出そうと決めたレイモンドは、床に落ちていたタオルを拾い上げ腰に巻いた。



 その時。

 バーンと凄い爆音がした。

 これはドアを吹っ飛ばした音。


 アリスティアが部屋に入って来たのだ。


 皇宮の大広間に入って来た時のように、 魔力で扉を開けて。


「 助かった…… 」

 安堵したレイモンドは、大きく息を吐いた。




 ***




 真っ裸のサリーちゃんを見たアリスティアは、魔力を放つ寸前で止めた。


 金色に輝いていた指先の光は消えた。


 転生前。

 聖女に魔力を放った光景を思い出して、辛うじて理性を取り戻したのだ。


 魔力が当たり空中に舞い上がった聖女は、アリスティアのトラウマになっている。

 今でも夢に出て来る程に。



 驚きのあまりに、固まったままのサリーちゃんの髪を鷲掴みしたアリスティアは、もう片方の手で彼女が脱いだ洋服の入った籠を拾い上げた。


「 痛い!何するのよ!離してよ!」

 外から覗いている下働きの女達の前を、サリーちゃんの髪を掴んだままに引き摺って行く。


 そして……

 この騒ぎで駆け付けて来た宿屋の店主にサリーちゃんを突き出すと、彼女が脱いだドレスや下着が入っていた籠を彼女の頭からぶちまけた。


「 キャア! 何するのよ! 」

 茹でダコのように赤くなったサリーちゃんは、自分の服を掻き集めた。


 こんなハレンチな女でも、恥じらいはあるのだとアリスティアは感心した。



「この女を、不法潜入と露出罪で自警団に突き出して貰います?」

「アタシはここの娘よ!」

 座り込んだままで、急いで服を着ているサリーちゃんが側にいる店主を見上げた。


「いや、その娘はうちの……下働きの女でして……」

 店主はサリーちゃんに目配せをした。


 ここは、一従業員の仕出かした事にした方が得策だと考えて。



「そう……下働きなのね」

 アリスティアはニヤリと笑った。

 最早どっちでも良い事。


「 お泊まりの皆様!この宿の下働きは裸で背中を流してくれるんですって! 」

 アリスティアが周りを見渡しながらそう言うと、ワッと歓声が上がった。


 この騒ぎを聞き付けていたのは、店主だけではなく宿泊客も同じ。



「 美人な姉ちゃん!ワシの背中も流してくれ! 」

「 服なんて着ないでよ〜 」

「 次は俺の部屋に来てくれよな~ 」


 宿屋の造りはコの字型になっていて、真ん中には中庭がある造りだから。

 どの部屋からもこの騒ぎを見る事が出来るのだ。



 その時。

 レイモンドが部屋から出て来た。

 服を着ていて、フードで顔を隠す為にマントまで羽織って。


「 僕としては、別の部屋を用意してくれればそれで良い。そうすればこの女が仕出かした事は不問とする 」

「 閣下……有り難き配慮に感謝します。直ぐに別の部屋を用意させて頂きます 」


 店主が、地面に頭を擦り付けるようにしながら頭を下げた。



 レイモンドとしては、兎に角ここは穏便に済まさなければならなかった。


 タルコット帝国への入国証は持っていない事から、自警団から事情徴収されれば、立場が危うくなるのは自分達なのだから。



 店主はニヤニヤとしながら二人を別の部屋に案内した。

 この後に及んでも顔を隠すあたり、この男は身分を明かせない訳ありの人物だ。


 公爵だと言う事もあながち間違いではないのかもと。


 逃がすのは惜しいが、自警団に関われば違法な商売をしている事がバレるかも知れない。

 この場を上手く収めたいと言う気持ちは、店主も同じだった。



「ちゃんと良い部屋があるじゃない!」と、抗議するアリスティアを黙らせながら、レイモンドは店主から案内された部屋のドアを閉めた。


「 アタシの裸のサービスは彼にだけよ! 」

 サリーちゃんが中庭で叫んでいる声が聞こえる。

 宿泊客達のヤンヤと言う黄色い声も。



 オスカーから、泊まりの外出ではよくある事だと聞いた事はあるが。

 まさかこんなにエグいとは思わなかった。


 昔から、レイモンドを狙うハイエナ共を駆除して来たが。


「 レイがしっかりと断らないから悪いのよ! 」

「 えっ!? 僕のせいなの? 」

 プンスカ怒るアリスティアに、レイモンドは納得がいかないと言う顔をした。


 そう。

 レイのせい。

 レイが格好良過ぎるのよ。


 そして……

 優しいレイモンドは、男女問わずキツイ言葉を言わない皇子様だ。


 然程気にする事もなく、ソファーに座って寛いでいるレイモンドが何だか憎たらしい。


 それはあの状況に慣れている証拠。


 裸の女を何度も見ているのだと思うと。

 アリスティアの中に嫉妬のエネルギーが溜まるのだった。


 アリスティアの魔力の根元は嫉妬。




 ***




 翌朝、早くに起きた二人は直ぐに身仕度を始めた。


「 早く魔女の森に戻ろう 」

「 嫌ですわ!サリーちゃんをギャフンと言わさなきゃ、帰るに帰れないですわ! 」

 この宿屋の娘なら、今から叩き起こしてやりますわと言って。


 昨夜。

 真っ裸なサリーちゃんが、くねくねしながら追い掛けて来る夢を見たのだ。


 消化不良は身体に悪い。



「 駄目だ! リタ達も待ってる 」

 アリスティアの肩にローブを掛けたレイモンドは、首元のリボンを結びながらそう言った。


 世話をされる事が当たり前の皇子様が、唯一世話をするのがアリスティアだ。

 それは彼女が幼い頃からずっと。


 アリスティアもまた、それを当たり前のように受け入れている。

 それが二人の関係性だった。



「 皆にパンを持って行くんでしょ? 」

「 ………そうね。忘れていましたわ 」

 夜市を楽しんでいた時に、朝一番に開店するパン屋さんを見付けていた。


 そこでパンを買って帰ろうと。

 婆さん達へのお土産に。


 レイモンドとしては、午前中にはエルドア帝国に戻りたかった。

 午後から大事な打ち合わせがあるのだ。

 オスカーが資料を準備して待ってる筈だ。



 そうして二人は部屋を出た。

 持ち物は、屋台で買った魔除けの飾り物が入った袋。


 魔除けグッズがやたらと安くなっていたのは、魔物が討伐された事で売れ残ったから。


 タルコット帝国の国民達も皆、恐怖に怯えていたのだ。

 多分、世界中の国も同じ。


 魔除けグッズが必要でなくなった世界。

 世界に平和が訪れた事を、二人は改めて実感した。


「 全てが君の功績だよ 」

 レイモンドはアリスティアを褒め称えた。


「 エルドア帝国の自慢の皇太子妃だ 」と言って。




 ***




「 あら? 」

 部屋を出た二人が中庭を通った時に、アリスティアは違和感を抱いた。


「 どうかした? 」

「 ううん。何でもないわ 」

 宿屋の中庭には色んな花が植えられていた。

 しかしその花の彩りが感じられない。


 気のせいかしら?


 それよりも気になるのはサリーちゃん。

 追い掛けて来るかも知れないのだから。

 奴の執念は侮れない。



 早急に宿を出た二人は、馬車置き場に向かった。

 馬小屋には預かった馬の世話をする男がいて。

 彼は別の旅人にぼやいていた。


「 俺ん家の畑の作物がいきなり枯れちまった 」と。


 何だか気になる話だ。


 魔女の森に続く道の両側には畑が広がっている。

 来る時は陽が落ちていたから、周りの風景を気にする事はなかったが。


「 一体どうなっちまったんだ? 」

「 何で枯れちまったのか!? 」

 あちこちから農民達の悲痛な声が聞こえて来る。


 明らかな異変に、皇太子としては馬車から降りて確かめたくなるのだが。

 他国なのでそう言う訳にもいかない。


 レイモンドはそのまま荷馬車を走らせた。



 荷馬車は魔女の森の入り口である小さな橋を渡った。




 ***




 途中で寄った店で買ったパンを抱えて、レイモンドとアリスティアは、婆さん達がいる畑に向かった。


 早朝から畑仕事をするのが婆さん達の日課。



 畑に行った二人が見たものは……

 作物が枯れた畑だった。


 あれだけたわわな実りのあった畑が、見るも無残な姿になっていた。

















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