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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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帝国に続く道―空白の4日間




 新月の夜。

 魔女森にある湖の前で、レイモンドとアリスティアはロマンチックな夕暮れの時をゆったりと過ごした。


 幸せな時間はあっと言う間に過ぎ、やがて帰城する時間になった。


 アリスティアはリタ達と一緒に道を通ってここに来たが、レイモンドは馬で来ていた為に、帰りは2人乗りをして一緒に帰城する事にした。


 二人で馬に乗って、皇都の夜の街を駆けるのもロマンチック。


 魔物が討伐された今は、街では毎日のようにお祭りをしていて。

 街路樹に吊るされた、綺麗な灯りを見るだけでも楽しめるのだから。



「 ねぇ……ティア?酒場に寄り道をしようか? 」

「 えっ!?本当に? 」

 アリスティアはレイモンドを仰ぎ見た。

 大人扱いをされた事が嬉しくて。


 皇太子が行ける店は限られている。

 レイモンドとオスカーがお忍びで行っている店は、高位貴族達が集うお洒落なバー。

 女性も安心して出入り出来る上品で落ち着いた店で、個室もあるので身バレをせずに楽しめるのだ。

 

 そしてその店は、カルロスと妻のマリアが結婚前にデートを重ねた店でもある。

 恋人達が愛を育む人気店だ。

 マリアから素敵な店だと聞かされていたから、アリスティアはずっと行きたいと思っていたのだ。



 勿論 、レイモンドにおねだりもした。

 しかしだ。

「 大人の世界はまだ早い 」と言って、連れて行ってはくれなかったのだ。


 その時のアリスティアは学生だったからではあるが。

 レイモンドより5歳年下のアリスティアは、ずいぶんとオマセな令嬢だった事は確か。


 愛しの皇子様に釣り合うようにと、背伸びをしていた時期でもあった。



 勿論、これは転生前の話。

 レイモンドの記憶にある話だ。


 そう。

 アリスティアが行きたがっていた店だと言う事を、レイモンドは思い出したのだ。



「 あっ!……でも予約してない……な 」

 レイモンドは頭に手をやりカリカリと掻いた。

 シュンとしたアリスティアに、申し訳なさそうな顔をして。


 電話もメールもない時代。

 前触れを出さないと、皇太子であるレイモンドは迂闊には動けない立場でもあった。



「 近い内にオスカーに予約をさせる。二人だけで行こう 」

 レイモンドはそう言ってアリスティアの頭を撫でた。


 仕方がない。

 皇太子であるレイモンドの顔は国民も知るところだ。

 そんな彼が予約もなしに店に行けば大騒ぎになる。

 ましてや護衛騎士もいないのだから危険が伴うのは必須。


「 約束ですわよ 」

 小指を立てて、指切りげんまんをするアリスティアが可愛い。



 二人が小屋に戻って来たら、婆さん達がタルコット帝国に行くと言って、アリスティアの部屋に入る所だった。


「 わたくしも行きますわ! 」

 以前からロキとマヤの魔女の森に行きたいと思っていた。

 こんなチャンスを逃したくはない。


 ロキとマヤは定期的には自国に帰っているみたいだが、何時もいつの間にか帰ってシマっているのだ。



「 僕も行く! 」

 それはレイモンドとて同じ思い。


 不思議な魔女の森の事を、知りたいと思うのは皇太子としては当然の事。

 ジョセフからは、魔女の森の事を調べて欲しいと言われているから余計に。



 道を通る為には、婆さん達と両手を繋がないとならない。

 何故だかは分からないが。


 なので、ロキ―レイモンド―マヤ―アリスティア―リタの順で手を繋いで道のある床の前に立った。


 レイモンドが道を通るのは初めての事。


 だけどレイモンドとしては、自分が通れないかも知れないと言う考えはなかった。

 魔女の森に入れたのならば道も通れる筈だと。



 ニョニョニョと順番に床に沈んで行く。


「 うわっ! 」

 道はウニョウニョとした空間。

 ……だと思った瞬時、あっと言う間に部屋に出て来た。


 床からニョニョニョニョと。


 サラと一緒に()()()を歩いた事は覚えている。

 その時の感覚とはまた違った感覚だった。



 それから二人で、タルコット帝国の魔女の森を探索した。

 しかしだ。

 エルドア帝国の魔女の森と変わりはなかった。


 ロキの小屋はやはり小さな小屋で。

 小屋の裏には畑があり、森の奥には湖まであった。

 アリスティアが半年間住んだ痕跡がないだけの。



 その後。

 二人がロキの小屋に戻って来ると、婆さん達は寝ていた。

 ロキのベッドに可愛らしく三人が並んで、既にすやすやと寝息を立てている。


 婆さん達は、朝早く起きて畑の仕事をして朝食を食べたら昼寝をする。


 たまにはその後に、街へ収穫した野菜を売りに行く時もあるが。

 夕方には公爵邸に行き、夕飯を食べ終わると魔女の森に戻り寝るのが日課となっているのだ。



 この日は既に公爵邸で夕飯を食べて来ていたみたいで。

 確かに後は寝るだけなのだが。


 一体何しにここに来たのかと二人で笑ってしまった。

 婆さん達の所為は人間には分からない。


 レイモンドとアリスティアは小屋の扉をそっと閉めた。

「 お休み 」と言って。



 時刻は既に19時を過ぎている。

 二人は夕食は食べてはいない。

 婆さん達が小屋で寝てるので、その側で料理を作るわけにもいかない。


 そもそも料理をする器具さえない。

 リタの小屋にある物はアリスティアが持ち込んだもので。

 元々は湯を沸かす鍋があっただけで、フライパン一つなかったのだから。


 泊まる部屋も確保しなければならないが。

 先ずは夕飯だ。



「 今から街に行ってみないか? 」

「 ……レイは危険ではないかしら? 」

「 ここはタルコット帝国だよ?僕の顔は誰も知らないよ 」


 確かにそうだ。

 手繋ぎ街デートをしたいとずっと思って来たが、それは実現しなかった。


 学園時代には、カップル達が当たり前のようにする街デートをどんなに羨ましく思った事か。


 レイモンドは五歳年上。

 それに皇太子殿下と言う身分。

 レイモンドの姿絵は国中に出回っていて。

 立太子の式典の時には、皇都の街を馬車でパレードしたのだ。


 溢れ返る民衆の前を堂々と手を降って。


 なので普通のカップルのする事を、望む事すらも出来なかったのだ。



「 行きたいですわ! 」

 勿論、お腹も空いているから行かない選択肢はない。


 二人は街に行く事にした。

 小屋の裏にあるロキの荷馬車に乗って。

 馬も荷馬車もちゃんとある。


 レイモンドの運転で魔女の森の木々の中を進んで行く。


 ガタゴトと言う車輪の音を、荷台に乗っているアリスティアは聞いていた。

 マントを靡かせているレイモンドの背中を見ながら。


 以前にも、こんな風に二人で荷馬車に乗った事を思いだして、アリスティアは泣きそうになった。


 あの時は動く木達が、荷馬車を追い掛けて来ていた。

 くねくねとした木も。

 皆がレイモンドを愛していたのだ。


 千年ぶりに現れた主君を。


 あれから色んな事があった。

 本当に……



 二人の乗った荷馬車は、魔女の森を無事に抜ける事が出来た。

 もしかしたらタルコット帝国では、抜け出すのは無理かもと思っていたのだが。


 魔女の森を抜けると、二人の乗った荷馬車はエルドア帝国の魔女の森の出入口と同じ小さな橋を渡った。



 勿論この時の二人は、この夜を境に異変が起きる事になった事は知らない。




 ***




 世界にある三つの帝国の言語は、世界共通語の言語だ。

 だから言葉には不自由はない。


 魔女の森はエルドア帝国と同じようなものだったが、街並みは全く違っていた。

 レンガ造りのエルドア帝国とは違い、この国の殆どが木の家だ。


 だが、街の賑わいは同じでかなりの人かま行き交っている。


 夜の灯りが灯され始めた街はお祭りをしていた。

 エルドア帝国と同じく、魔物が討伐された事のお祭りだ。

 提灯をあちこちにぶら下げてとても賑やかなお祭り。



「 エルドア帝国ばんざーい 」

「 強い魔女最高! 」

「 エルドア帝国の未来の皇太子妃に乾杯! 」


 エルドア帝国や魔女を称賛する声が、あちこちから聞こえて来る。


「 タルコット帝国の国民は君を皇太子妃にと認めているんだね 」

 フードの中から仰ぎ見たレイモンドは嬉しそうにそう言った。



 そりゃあそうだ。

 遠く離れた他国の皇太子妃が、魔女だとかどうとかなんて事は関係ない事で。


 自国の皇太子妃が魔女ならば、きっとエルドア帝国の国民と同じ様に反発するのに決まっている。


 因みにタルコット帝国の皇太子は既に結婚をしていて、世継ぎの皇子もいる事から国の骨格は既に安定をしている。



 街の広場では、見た事のない楽器で音楽が演奏されていてとても楽しい。

 屋台からは美味しそうな匂いがする。


 街並みを楽しみながら二人は手を繋いで歩いた。

 自分を知る者がいないのが心地好い。


 周りを見れば、自分達と同じ様に手を繋いだり、腕を組んで歩くカップルだらけで。


 自分達が特別なカップルではない事が嬉しかった。



 しかしだ。

 フードは取る事は出来ない。


 タルコット帝国の人は黒髪に黒い瞳を持つ人種。

 金髪で瑠璃色の瞳のレイモンドは、流石に目立つ存在だ。

 勿論、ミルクティー色の髪にヘーゼルナッツ色の瞳のアリスティアも。


 灯りはあるが、暗い夜である事が幸いしている。



「 屋台の料理も美味しそうですわね 」

「 そうだね 」

 お金は何時も持参している。

 いくら皇子様であっても、それは大人の男として当然の事で。


 勿論、自分で支払った事はないが。

 実は……

 今宵は自分で会計をしなければならないと、レイモンドは少しだけ緊張している。


 人前で話す時は、決して緊張などしないのだが。



 二人でキョロキョロと辺りを見回している所に、誰かが近付いて来た。

 レイモンドはアリスティアを自分の後ろにやり、マントの下にある帯剣に手を掛けた。


 他国だと言う事もあり警戒心はマックスだ。

 周りにはオスカーも騎士もいない。


 最強の魔女は後ろにいるが。



「 は~い!お兄さーん。二人は旅行者かな? 楽しい思い出をうちで作っていきなよ~ 」

 声を掛けて来たのは、派手な帽子を被った陽気なおじさん。


 安堵したレイモンドは、帯剣から手を離して警戒を解いた。



 陽気なおじさんの指差す場所は大衆酒場。

 誰もが入れる平民達が集う場所。

 当然ながらレイモンドは入った事もない店だ。


 窓から覗いて見れば……

 歌ったり踊ったり、肩を組んだり、大笑いをしていたりと大騒ぎをしていて。


 中にいる女は給仕の女だけで、平民の女すらいなかった。

 旅人達は結構いるようだが。



 流石にアリスティアを連れてこの店に入るわけにはいかない。

 オスカーがこの場に居れば、また別なのだが。


「 いや、いい 」

 貴族の入る店を探そうと、レイモンドはアリスティアの肩を抱いて陽気なおじさんを振り切ろうとした。


 ……が、アリスティアはwktkの顔をしている。


 そう。

 平民の次女や護衛のいるアリスティアは、平民の中でも平気。

 高貴な貴族令嬢は平民を毛嫌いしていて、接触する事は決してしないのだが。



「 は~い!お二人さんをごあんなーい 」

「 喜んで~ 」

 陽気なおじさんが叫ぶと、店の中から陽気な声が返って来た。


 大衆酒場には酒のつまみだけではなく、ちゃんとした料理もある。

 アリスティアの目に止まったたのは、客が食べているテーブルに乗っている海鮮料理。


 タルコット帝国は海に囲まれた国だから、海の幸が豊富な国もであるのだ。



 陽気なおじさんに促されるままに二人は中に入った。

 スパイシーな匂いが空いたお腹に堪える。


 思わずお腹が鳴りそうになるのを堪えた。

 公爵令嬢は、ここはお腹を押さえて頑張る。



 二人が店に入っても誰も見向きもしなかった。

 黒いローブ姿のアリスティアと、レイモンドも黒のマントを羽織っているからなのか。


 自分達の話に夢中になっている人々を見回したレイモンドは、ほっとしながら席を探した。


 店にある席はほぼ満席で。

 空いている席は、ホールの真ん中にある皆が囲んで座る大きなテーブル席のみ。


 椅子は高貴な二人が座った事もない丸椅子。

 座り心地が悪すぎる椅子に二人は座った。



「 注文は? 」

 メニューを差し出しながら、女給がメモを持って聞いて来た。


「 君の好きなものから注文をして良いよ 」

「 そうねぇ……エビとカニとなんたらかんたら…… 」

「 ……… 」

「 それから……なんたらかんたら 」

「 ……… 」


「 ? 」

 注文しているのに女給の反応がない。


 メニューから目を離したアリスティアが女給を見ると……

 彼女の視線は、アリスティアの隣でメニューを見ているレイモンドに釘付けだ。



 フードは深く被ったままで取ってはいないのに。

 彼女の目は完全にハート。


「 やっぱりイケメン……格好良い……素敵……こんな男見た事もない 」と、フードの隙間から見えるレイモンドに、まるでうわ言のように呟いている。


 頬を朱色に染めて。



「 ねぇ……食事が終わったらアタシと一緒にあっちで話をしない? 」

 茶色の長い髪を垂らしながら、腰を屈めた女給はレイモンドの顔を覗き込んだ。


 まさか店に入っていきなりのナンパ。

 顔を隠しているのにも関わらず。



 レイモンドは……

 何も皇太子だから騒ぎになる訳ではなかった。














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