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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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滅び行く世界




「 魔物はまだいる。異変はそのせいだ 」

 ジョセフの低い声が静かな議会場に響いた。


 予想だにしなかった衝撃的な言葉に、議事録を書いていた文官達のペンを持つ手が止まり、顔を上げて固まっている。


 これまでのニコラスの失言や暴言に、噴火寸前のオスカーもまた。



「 魔物? 」

「 魔物がいるだと!? 」

 口々に騒ぎ出した大臣や議員達は皆、パニック寸前になっている。


 世継ぎの問題がどうとかを話し合っている場合ではない。

 そもそも確立した皇太子のすげ替えなど、病気などの特別な理由でない限りは有り得ない事なのだから。


 だけど……

 それでも魔女が皇太子妃になる事に、抵抗があるのは事実。



 魔物が討伐されて1ヶ月過ぎた。

 あの、得たいの知れない恐怖に怯えていた日々が、やっと終わったのだから当然の事で。


 何かの間違いでは?と言う声も上がった。


 しかし、科学者であるジョセフの話す言葉は全てが真実。

 彼が無駄な事は口にしない皇子だと言う事は、この場にいる皆が知っている。

 


 やがて……

 無機質な顔のままにジョセフは立ち上がった。

 彼の座る席は皇族の席。

 皇帝陛下や皇太子殿下の特別な席とは別の。


 騒がしかった議会場が静かになった。

 彼の次の言葉を待つようにして。



「 この議会は()()に対する議会ではないのか? 」

 ジョセフはニコラスを一瞥すると、そのままスタスタと歩き出した。


 くだらない話の議会などに、出る必要はないと言う顔をして。



「 いや……殿下……あの…… 」

 先程までの威勢は何処へやら。

 ジョセフの冷たい視線に、すっかり萎縮したニコラスはアワアワとしている。


 しかし、ニコラスを完全に無視をしたジョセフは、皇族専用の扉の向こうに消えた。


 ギデオンの前をスタスタと歩いて行く。


 ギデオンがやれやれと大きなため息を吐いた。

 ハロルドと目配せをしながら。



 気難しいジョセフを、これ以上引き留めるのは無理な事。

 それが父皇であっても。


 こんな事から、ギデオンはジョセフには甘いと言われているのだが。

 そもそも学者肌の彼が、皇帝になる者として相応しくないのが、こういった所である事はギデオンが一番理解している。




 ***




 魔物(サラ)が討伐された後、ジョセフは魔物の調査をしていた。

 オスカーを助手にして。


 木には根がある。

 魔木の根が魔女の森に伸びている事は確か。

 その証拠に、魔女の森には魔物(サラ)が分霊した()()()が存在していたのだから。


 なので。

 魔物(サラ)の魅了が消滅される薬品を、オスカーが魔木の根に掛けたかどうかが気になっていた。


 オスカーとしては魔物(サラ)は消えたのだから、掛けたかどうかは関係ないと言っていたが。


 アリスティアが放った魔力の衝撃で、ひっくり返った彼が持っていた小瓶は空になってはいた。

 しかしだ。

 魔木が消滅した後に、液体が零れ落ちたならば意味がない事なので。



 気がかりな事は徹底的に調べるのは学者としての性。

 そうしてジョセフは魔女の森の近辺を調べ始めた。


 中に入れない事をもどかしく思いながら。


 そう。

 アリスティアを助手に希望したのも、彼女が魔女の森に入れるからでもあったのだ。



「 皇子殿下! 」

 離宮への中庭を歩くジョセフに、駆けて来たオスカーが追い付いた。

 ハアハアと息を吐いて。


 ジョセフに詳細を聞くようにと、ハロルドから申し付かり後を追って来たのだ。


 気難しい彼の傍に、二週間もいる事が出来たオスカーをハロルドは買っている。

 それは、能天気であり人懐っこい彼ならではの事。

 難しい立場のレイモンドに、そんな彼がいる事はレイモンドの強み。


 そう。

 レイモンドを支えているのは、アリスティアだけではないのだ。



「 魔物が……いると言う、皇子殿下の考え……をお聞かせ下さい 」

 ハアハアと息を切らしながら。

 オスカーはジョセフの少し後ろを歩いて行く。


「 そなたは()をどう考えてる? 」

 自分の歩みを止めずに、後ろを歩くオスカーの方を見る事もなく、ジョセフは聞いて来た。


 彼の質問は何時も唐突だ。


「 へっ?道?……婆さん達が通ってる道の事ですか? 」

「 ……… 」

「 俺も通れるようになりたいですねぇ 」

「 ……… 」


 んんん?これじゃない?


 ジョセフの沈黙が、どうやら求めている答えじゃないと理解する。


 自慢じゃないが、彼の質問に彼が満足する答えを出した事はない。



「 えっと…… 」

「 道は何から出来ていると思う? 」

「 何って? 」

 そんな事は考えた事もない。


「 あの道は()()()だ 」

「 木の根だったのか…… 」


 婆さん達は自然を司る妖精だと言う事はアリスティアから聞いた。

 それならば道が木の根だと言う事も理解できる。



 それは理解出来たのだが。


「 それが、魔物がいると言う事と何か関係がありますか? 」

「 あの魔木の根が、魔女の森と繋がっている事は理解しているか? 」

「 繋がっている? 」

「 動く木が魔物(サラ)の分霊ならば、魔木と魔女の森は繋がっている事になる 」


 ジョセフの見解で、今まで深く考えもしなかった事が面白いように繋がって行く。



「 でも、動く木は魔木に吸収され、魔木と共にティアによって消えりましたよ? 」

「 消え去る寸前で、根を通って魔女の森に逃げ込んだとしたら? 」


 木の根が繋がっているのならば、有り得る事だとジョセフは言う。


「 今起きている異変は、魔物が地上のあらゆる植物のエネルギーを奪っているからだ 」

「 えっ! 」

「 魔物はまだいる。そのエネルギーを蓄えたら……やがて完全に復活するだろう 」


 ジョセフは恐ろしい事をサラリと言った。

 オスカーはその言葉に震え上がったが。



「 魔木の根は皇都の街にも伸びている 」

「 皇都にも? 」

「 タルコット帝国やレストン帝国もだな 」

「 ……あっ! 」

 そこでオスカーは気が付いた。


 リタ達が通っている道が木の根ならば、彼女達が現れる場所は皆繋がっているのだと。

 タルコット帝国にはロキが、レストン帝国にはマヤが、各々()を使って自由に行き来している。


 そうなれば……

 タルコット帝国とレストン帝国も同じ現象が起きていると言う事。



「 魔物は復活した 」


 それが天才科学者であるジョセフの答え。

 彼の言葉には『多分』や『もしも』と言う言葉はない。


 考え尽くした確信のみ。



「 じゃあ……世界は?どうなるのですか? 」

 オスカーの問いに、ジョセフは答えなかった。

 それが余計に事の重大さを思い知る。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 世界を救う筈の聖女は……いないのだから。




 ***




 ギデオンとハロルドは、オスカーからジョセフの見解を聞いた。

 その話の全てに確信を得た事から、直ちに政府の声明を発表した。


 この異変が魔物のせいだと議会でジョセフが言った事から、その話が直ぐに国民に伝わる事は必須。

 既に議会に出ていた大臣や議員達はパニックになっていたのだから。


 国民がパニックになる前に、ちゃんと政府から伝えなければならないと。

 魔物が討伐された世の中になり、皇太子の婚姻の話題で盛り上がっていた所なのだから。


 そんな話が出来る事はとても幸せな事。

 当人達は必死だったが。



『 霊である魔物はしぶとく魔女の森で生きていた。この異変は魔物が農作物のエネルギーを吸い取っている事から起きている 』


『 今、政府で対策を練っている事から、慌てずにこの後の指示を待つ事 』



 魔物の正体が、千年もの間魔木に憑依していた霊だと言う事は国民にも知らされている。

 その霊の正体が千年前の魔女だと言う事は伏せられているが。


 それは魔女の印象を悪くしない為で。

 何しろ魔物を討伐したのもまた魔女なのだから。


 勿論、魔物(サラ)がレイモンドを狙っていたと言う事も伏せている。


 魔物である魔女が、皇太子妃になる事を望んでいるなんて事は、アリスティアとの婚姻が更に難しくなるのは間違いないのだから。



 これは魔物騒ぎが始まった頃と同じだ。


 きちんと政府の見解を国民に向けて発表した事から、国民達は政府を信じ冷静になれたのだから。


 兎に角、冷静に行動し、パニックを起こさないようにする事が重要。



 しかしだ。

 国民はパニックを起こした。

 前回とは違って。


「 聖女様がいないのに、誰が世界を救うのか!? 」

 それはオスカーが思った事と同じ。


 いや、ギデオンもハロルドも思った事だ。


 そう。

 今まで国民が冷静にいられたのは、聖女と言う救世主がいたからで。

 聖女が世界を救う存在であったからこそ、世界は救われると信じて、冷静でいられたのだ。



「 何故聖女様を異世界に戻したんだ! 」

「 結局魔女は魔物を討伐出来なかったじゃないか!」

「 農作物が実らなければ、我々はどうやって生きていけるんだ! 」


 その日から、皇宮に民衆が押し寄せる事態となった。

 抗議の輪が日々大きくなる。



 そう。

 魔女の森の木々がどんどん大きくなっている事から、余計に国民の不安が強くなっているのだ。

 その間も農作物は枯れて行っているのだから余計に。


 植物が枯れてしまえば動物は生きてはいけない。



 そして……

 この現象が起きているのはエルドア帝国だけではなく、タルコット帝国やレストン帝国も、同じ事が起きているだろう事はジョセフから聞いている。


 まだ二ヶ国からの報告はされてはいないが。


 しかし……

 やがては周辺国も同じ事になるのは必須。



「 これが世界が滅ぶと言う事なのだな 」

 皇宮の自分の執務室の窓の側に立つギデオンは、独り言ちた。


 一段と大きくなっている魔女の森を見ながら。



 レイモンドとアリスティアは、魔女の森からまだ戻って来てはいなかった。


 二人が魔女の森に行ってから、既に3日が過ぎていた。















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