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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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異変

 



「 オスカー様。殿下はまだお戻りになりませんか? 」

 レイモンドの侍従のマルローが、灯りを持ってオスカーの執務室に入って来た。


「 おっ!? もうこんなに暗いのか 」

 目をゴシゴシと揉みしごきながら窓の外に目をやれば、太陽が沈みかけた薄暗さがあった。


 執務を終えたレイモンドが、アリスティアのいる魔女の森に向かった。

 オスカーは、その後は自分の仕事に精を出していた。



「 それで、殿下は? 」

「 魔女の森にいる。ティアも一緒だ 」

「 なんと!アリスティア様と魔女の森におられる……もしかして今夜はお戻りにはならないとかですか?」

「 うーん……ディナーまでには帰ると言ってたけどな 」


 今日の仕事に目処が付いたオスカーは、さっさと帰る支度を始めた。 

「 その内戻って来るでしょ 」と言いながら。



 ふむ。

 帰り支度をするオスカーを見ながらマルローは考えた。


「 魔女の森なら、ロマンチックな熱い一夜を過ごせるかも……」

 マルローはパンと両手を合わせた。


 二人を部屋に閉じ込める作戦は失敗した。

 あれ以来、アリスティアからはもうろくジジイ扱いをされている。

 だけど、ジジイの腰に湿布を貼ってくれる優しい令嬢でもある。


 それは昔から。



 全裸を見ても、見られても、何も起こらなかったのだから、ジジイの企ては一筋縄ではいかなかった。


 永すぎた春にはロマンチックが必要。


 マルローは窓から空を見上げた。

 新月であるこの夜は、星の瞬きが一段とロマンチックに輝いている。


 じいさんは魔女の森にロマンチックを求めた。

 期待のあまりに目をキラキラと輝かせ、無駄に長いまつ毛をパチパチとしながら。


 若かりし頃には、大勢の女達からアプローチされまくられたと言うのが自慢だ。



「 しかし……泊まるにしても、婆さん達がいるから熱い一夜にはならないとは思うぜ 」

 ……とオスカーは言ったが、マルローは聞いちゃいない。


 スキップをしながらオスカーの執務室を後にした。

「 ロマンチック最高ーっ!! 」と叫ぶジジイの声が、静かな廊下で木霊した。




 ***




 結局、レイモンドとアリスティアは昨夜は戻って来なかった。

 そして朝帰りをするのかと思いきや、その日は正午近くになっても戻っては来なかった。


 流石に何かあったのかと不安になる。

 午後から大事な打ち合わせがある事は、勿論レイモンドも知っている。

 何事にもきっちりとしているレイモンドが、忘れるとは思えない。


「 まあ、大丈夫だろう 」

 もしも何かあったとしても()()()()が傍にいるのだから問題はないと、オスカーは自分の仕事を開始した。



 しかし困った事が起こった。

 午後一番にギデオンから呼び出しを受けたのだ。


「 皇帝陛下がお呼びでございます。皇太子殿下は、至急陛下の執務室にお越し下さい 」


 まいったな……

 レイはまだ戻って来てないと言うのに。



 オスカーが部屋に向かうと、そこにいたのはギデオンとハロルドと…そしてジョセフ。


 ジョセフは窓際のソファーに座り、窓から外を見つめている。

 無機質な顔のままで。


「 オスカー?殿下は? 」

「 実は…… 」

 オスカーは、レイモンドが昨夜から魔女の森から戻って来ていない事を説明した。


 勿論、アリスティアと一緒だと言う事も。


「 そうか……戻ってこれない事情があると言う事か…… 」

 ギデオンがハロルドを見ながら頷いた。


 二人共に怪訝な顔をしながら。


 流石に親達は、ロマンチックと言う考えは浮かばなかったみたいだ。

 あの妄想ジジイとは違って。



「 何かあったのですか? 」

「 これを見てみなさい 」

 ハロルドはオスカーに数枚の書類を渡した。


 それは自警団の報告書。

 そこには、農作物が枯れたと言う内容が書かれてあった。


「 ? ……えっと…… 」

 農作物が枯れた程度の事で、何故陛下にまで報告がされているのかが意味不明。


「 水をやるのを忘れた 」……とかでは?

   首を傾げるオスカーに、ハロルドは経緯を説明した。


 勿論、初めは皆もオスカーと同じ様に考えた。

 しかし、自警団への訴えがあまりにも多い事から、宰相のハロルドの耳に入る事となり、その後ギデオンに報告する事態となったのだ。


 今、騎士達が調査に向かっている所だと言う。



「 グレーゼ公爵の次男。外を見ろ 」

「 はっ、はい 」

 ジョセフを見れば、彼の視線は窓の外に注がれたままだ。


 オスカーは直ぐに窓に駆け寄った。


「 ……… 」

 しかしだ。

 よく分からなかった。


「 ? 何かあるのですか? 」

「 そなた……私の弟子をしていたのに分からないのか? 」

「 ……スミマセン。分かりません 」

「 魔女の森だ 」

「 魔女の……森? 」


 ここからは魔女の森が見える。

 何時も通りに深い緑の木があるだけの。


 そもそも皇宮は高台にあるので、皇都の街が見渡せるようになっている。

 かなり遠くまで。



「 木が昨夜の内に巨大になってる 」

「 巨大に? 」

 言われてみれば、森全体が大きくなっているような……いないような。


「 魔女の森に異変が起きている 」

「 ……異変? 」

 すぅ~っと血の気が引くのをオスカーは感じた。


 その異変が起きている魔女の森に、昨夜からレイモンドとアリスティアがいるのだから。


 そう。

 何かあったのは確か。

 ロマンチックではない何か。


 頭が痛いのは、魔女の森には騎士達は入る事は出来ない事で。

 二人が出て来るのを待つしかない状況だ。


 先程からギデオンとハロルドが険しい顔をしているのは、そう言う理由だからだ。



「 まあ、何かあったとしても、最強魔女がレイの傍にいるから大丈夫だぜ! 」

 ギデオンやハロルドだけでなく、自分自身を鼓舞するように明るく言う。


 親指を立てようとしたが、ハロルドに睨まれているから止めた。

 皇帝陛下の前なので自粛。



「 ……確かに 」

 ハハハと笑ったギデオンが、少し安心したような顔をした。

 笑ったギデオンを見ながら、ハロルドも安堵の表情に変わる。


 アリスティアならば、命を懸けでもレイモンドを守るのは間違いない。


 親であっても兄であっても、先ず心配視するのは皇太子であるレイモンドの事。


 レイモンドはエルドア帝国の皇太子殿下。

 守られるべき立場にあるのだ。



 取りあえずはレイモンドとアリスティアの事は置いて、皆は騎士達からの報告を待つ事にした。


 ジョセフは何かを考えているのか、その後もずっと窓の外を見たままだ。


 天才の頭の中は凡人には分からないと言うのが、二週間彼と過ごしたオスカーの見解だ。



 その後も自警団からの異変の報告が上がって来た。

 その異変は皇都周辺の農家の人々だけではなく、皇都から程近い土地の領主である貴族達からも悲痛な声があがった。


 調査に出た騎士達からも続々と。


 事態は深刻だとし、大臣達や議員達も呼び出して緊急議会が開かれる事となった。




 ***




「 これは全て()()()()()なのではありませんか? 」

 議会が始まるや否や、口を開いたのはニコラス・ネイサン公爵だった。


「 ニコラス。それはどんな根拠があっての事か? 」

 ハロルドが眉を顰めた。


 アリスティアの事に関しては、何時も静観していたハロルドだが。

 流石にこれは看過出来ない。


 これは明らかなアリスティアへの侮辱なのだから。


 ハロルドの握り締めた拳が震えている。

 秘書席にいるオスカーの拳もまた。



「 魔女は消滅の魔力の持ち主だと聞く。その魔力を農作物に放ったのかも知れん 」

「 魔女が何故そんな事をする必要がある? 」

「 魔女は()()()()()なのを忘れましたかな? 」

 ニコラスの顔こそが邪悪な笑いを含めた顔になった。


「 グレーゼ宰相。そなたも魔女が娘ではなかったのなら、私と同じ事を思った筈だ! 」

 娘だから庇うのだと嘲笑う。


 二人の舌戦を、皆が固唾を飲んで見守っている。

 何時も冷静沈着なハロルドが、こんな風に誰かに食って掛かるのは初めての事なのだから。



「 ネイサン!何の思い違いをしているのかは知らんが、我が娘は皇太子妃となる為に教育をされて来た娘だ 」


 ハロルドは大きく息を吸い、ネイサンを更に睨め付ける。


「 そんな我が娘は、魔女であっても……国民を苦しめるような事はしないと断言しよう! 」

 ハロルドのその堂々した宣言に、議会場に拍手が起こった。


 皆がウンウンと頷いている。


 そうなのだ。

 アリスティアが幼い頃からお妃教育を受けて来た事は、ここにいる貴族達なら誰もが知る事だ。


 皆は口々に言う。

「 グレーゼ宰相に賛同します 」と。



 オスカーは鼻の奥がツンとした。

 兄貴がこの場にいたら感動するだろうなと思いながら。


 宿敵ニコラスに反撃する父の姿に。

 ハロルドの味方をするに貴族達がいる事に。


 転生前のハロルドは宰相ではなかった。

 皇太子殿下の婚約者の父と言う立場であった。


 転生前の彼は沈黙するしかなく。

 四面楚歌状態であったと想像出来るのだから。

 それがどれだけ無念だったのかと。



 しかしだ。

 この期に及んでもニコラスは屈しなかった。


「 では、魔女をこの場に呼び出し、ハッキリさせましょう! 」

「 なっ!? 」

 アリスティアを晒し者にしようと言うのか!

 証拠もないのに。


 ハロルドの怒りは頂点になった。

 オスカーは噴火寸前だ。



「 そう言えば……殿下のお姿が見当たらないようですが? 」

 何かを知っているのか、ニコラスがオスカーを見てニヤニヤとしている。


 オスカーはレイモンドの側近だ。


「 レイ……殿下はティアと……アリスティアと魔女の森に行かれておられます 」

「 ほほう。この大変な時に、二人でデートですか?……殿下は魔女の色香に狂ったと思われますなあ 」

「 何だと!? 」


 あまりにも無礼な言葉を口にしたニコラスに、ハロルドが声を荒らげた。



「 殿下の旅先にも同行させていると聞く。婚約者でもないと言うのに…… 」

 ニコラスは、やれやれと肩を竦めた。


「 あの真面目な皇太子殿下の傍に、そんな邪悪な魔女がいるのは、我が国の行く末を案じずにはいられません! 」


 会場のざわめきが大きくなる。

 ニコラスは片手を上げて皆を静かにさせた。


 またもやアリスティアを排除する言葉が出るのかと、オスカーはうんざりとした。


 しかしだ。

 ニコラスは予想だにしない言葉を口にした。



「 魔女を皇太子妃に望む殿下は、最早皇太子として相応しくないのでは? 」

「 !? 」


 議会場が騒然となった。


「 我が国には第一皇子殿下がおられるのをお忘れですか?天才の名を欲しいままにしておられる皇子殿下こそが、皇太子に相応しいのではありませんか? 」


 なんと……

 ニコラスは皇太子のすげ替えを提案して来たのだ。



 オスカーは怒りのあまり顔が真っ赤になった。

 ガタガタと震える程に。


 これは……

 花嫁のすげ替えを告げられた時の、転生前の自分が感じた怒りと、同じ憤りなんだろうと唇を噛みしめた。



「 確かに……皇太子殿下がどうしても魔女を皇太子妃にと望まれるのであれば、その方法も一理あるのでは? 」

 そんな声が囁かれた。


 多分。

 ニコラスサイドの議員達だ。

 何らかの打ち合わせをして来たのだろうと推測される。


 貴族達は、魔女を皇太子妃にする事に反対する意見が多いのは確か。

 平民達は軟化されて来たが。



 皆がジョセフを凝視した。

 ずっと窓から外を見ている彼を。


 足を組み、テーブルの上に肘を付き、掌に自分の顎を乗せて。

 黄金の髪を風に靡かせて。


 その丹精な横顔は相変わらず無機質のまま。


 しかしそのオーラは独特のもの。

 彼もまた、皇族の威厳を持ち合わせている存在である事は確かな事。


 ジョセフは無機質な顔のままニコラスに視線をやった。



「 皇子殿下は……その……私の意見をどのようにお考えですか? 」

 先程の威勢の良い態度とは、うって変わってのオドオドとした態度で。


 ニコラスには確信があった。

 皇族に生まれ落ちたならば、皇帝になりたいと思うのは当然の事。


 事実、皇太子としての地位に、彼も意欲的だった事もある。


 ある時期までは。


 天才である彼が、研究に邁進するあまり皇位継承の欲を棄てただけで。


 彼は正妃の子ではないが、第一皇子である。

 皇位継承に相応しい立場でもある。


 そして……

 ギデオンがジョセフを推していた事は、誰もが知る所だ。



 そんな彼が皇太子の座を望むのであれば、皇太子のすげ替えは可能だ。


 何もレイモンドだけに拘る必要はない。


 レイモンドとアリスティアの二人を、皇太子と皇太子妃から除外すれば、グレーゼ公爵の鼻を明かせる事は必須。



 ジョセフの答えに皆が注目する。


 レイモンドが皇太子に確立されたが、彼の気持ちは誰も聞いた事はなかった。


 父皇であるギデオンでさえも。


 何時ものように、議会での皆の意見を静かに聞いていたギデオンも、少し身体を前のめりにさせている。


 静まり返った議会場に緊張が走る。

 皆はジョセフの言葉を待った。



「 魔物はまだいる。異変はそのせいだ 」



 …………えっ!?


 皆は絶句した。

 ジョセフの発した、思いもよらない言葉に。















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何故でしょう、作者さまの作品に出てくるジジイども、 どいつもこいつもみんな何だかカワイイのですが・・・ 無駄に長い睫毛とか。ヒーローとヒロインを矢鱈とくっつけたがるとか。 作者さまのジジイへの愛をひ…
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