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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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魔女の森へ




 魔女アリスティアが海にある大岩を消し去った事が、港街新聞でニュースになった。

 そしてその後に、匿名希望のインタビュー記事が皇都新聞に載った。


 それは政府が発行している新聞。


『 魔力で人々の役に立ちたいと願う公爵令嬢は、素晴らしい皇太子妃になると思います 』


「 よしよし、女官達良くやった! これで国民のティアへのイメージが良い方に向かって行くぞ! 」

 国民は流されやすいんだと、リビングにあった新聞を読んでいたオスカーはダイニングの扉を開けた。


 昨夜は遅くまで仕事をしていたので、この日は遅番。

 なので遅い朝食だ。



 中から香る紅茶の香りがオスカーを包むと同時に、彼の足が止まった。


「 はぁっ!? 何でお前がここにいるんだよ? 」

「 お早うございます。オスカーお兄様 」

「 オスカー! ティアのお土産の舶来物のお紅茶が美味ですわよ 」


 ダイニングにはアリスティアがいた。

 母親のキャサリンと兄嫁のマリアと一緒に優雅にお茶を飲んでいる。


 まるで、ここにアリスティアがいるのが当たり前のように。

 ホホホ、ホホホと三人で楽し気にお喋りをしている。


 因みにこの香りの良い紅茶は、港のお土産屋さんで買って来た舶来物の紅茶だ。


 そして……

 アリスティアの隣には婆さん達が三人並んでいて。

 彼女達も紅茶を飲んでいる。

 珈琲も何でもミルクマシマシがお気に入りだ。



「 そうか、婆さん達がいたな 」

 グレーゼ家のダイニングと皇太子宮のダイニングはリタの()で繋がっている。


 婆さん達とアリスティアとレイモンドだけが通れる道だ。

 勿論、婆さん達と仲良く手を繋がないとならないが。



 道を通る為には婆さん達が必要だ。

 なのでアリスティアは、昨日の内に公爵家に遣いを出して婆さん達を皇太子宮に呼び出した。

 美味しい朝食を一緒に食べようと言って。


 アリスティアが帰宅したのは二週間ぶりになる。



「 外には出てないのだから、隔離されてる事には違いないですわ 」と、フフンと腰に手を当てて胸を張って。

 

 勿論、レイモンドには許可を貰っている。


「 お母様、お義理姉様。わたくし、これからもちょくちょくここに帰って来ますわ 」

「 まあ!だったら泊まるのも大丈夫なんでしょ? 」

「 ティア!次は泊まりの許可を殿下から貰ってらっしゃいな 」

 またもや、ホホホ、ホホホと三人で楽し気に。



 朝から煩いと思いながら、席に着こうと椅子を引いたオスカーに、アリスティアが思い出したように告げた。


「 レイが早いめに登城して欲しいって言ってましたわ 」

「 ふーん。じゃあ、朝飯はあっちで食べるわ 」

 彼の朝食の準備をしようとしていたメイド達にそう告げると、オスカーはダイニングを後にした。


「 俺も()を通れるようになりたいぜ 」

 そうすれば馬車に乗らずに、直ぐに職場に行けるのにとブツクサと言いながら。




 ***




 優雅な朝のお茶会が終わると、アリスティアは婆さん達と魔女の森にやって来ていた。


 勿論ちゃんとレイモンドの許可を得て。


「 元々魔女の森は魔女を監視する場所なのだから、わたくしが行っても問題はないですわよね? 」

 何故かレイモンドには鼻を摘ままれたが。



 公爵邸のダイニングから道を通って行くから、リタの小屋にあるアリスティアの部屋まではあっという間に到着した。


 アリスティアがここに来るのは、魔物を消し去ってからは初めてだ。


 婆さん達は午前中は畑仕事をする事が日課。

 なのでアリスティアは、直ぐに小屋の掃除を開始した。


 公爵令嬢ならば決してしない掃除だが、この魔女の森ではただの魔女。

 ここでの日常は全てが修行だとアリスティアは思っている。



 皇太子妃になるという目標が再び自分の中に芽生えていたが、この魔女の森で魔女として生きたいと気持ちも確かにあった。


 皇太子宮の人々は魔女であるアリスティアに好意的だが。

 しかし皇宮の使用人達は違う。

 アリスティアを腫れ物扱いしたり、あからさまに怖がっている使用人達もいるのだ。


 皇宮に訪れる貴族達は特に。

 たまに鉢合わせをすると、怯えた顔をしながら逃げて行く人達もいる。


 そもそも皇太子殿下の婚約者だった事から、好奇な目で見られる事には慣れてはいるが。

 何しろ悪役令嬢だと揶揄されて来たのだから。


 だけど、誰の目を気にせずに生きて行きたいという思いがある事も確か。

 この魔女の森にいる事が、こんなにも心地良いのだから。



「 でも……駄目ですわね。レイがわたくしを手離す筈がないですわ 」

 だってレイはわたくしを大好きなのですもの。


 転生前と変わった事がある。

 それはレイモンドが、自分の気持ちをちゃんと伝えてくれるようになった事で。


 時には戸惑ってしまう程に情熱的に。

 最近はキスも毎日。

 それも濃厚……


「 キャアー! 」


 アリスティアは一人でキャアキャアと言いながら、手に持っていた桶を振り回した。

 ブンブンと。


 魔女の修行は公爵令嬢を力持ちにしている。



 その時。

 何やら不自然に木々が揺れた。


「 ………何? 」

 違和感を覚えたアリスティアは、辺りを見渡した。

 辺りには大きな木がそびえ立っていた。


 この違和感は魔物を消し去った事の影響?


 そう。

 魔女の森にはもう動く来達はいない。

 レイモンドを狙うクネクネとした木も。


 アリスティアは寂しさを感じながら、小屋の前にある小川で水を汲んだ。




 ***




 午前中は婆さん達の小屋の掃除に明け暮れていたアリスティアは、午後からは薬草摘みに精を出していた。

 婆さん達は日課である昼寝中だ。


 魔女の森には沢山の薬草が生えているのだ。

 中には貴重な薬草もあって。

 薬学の教科書を片手に薬草摘みに没頭した。



「 あら?もう、こんな時間…… 」

 太陽は既に傾き始めていた。


 外の世界は夏だが、この魔女の森は快適だ。

 魔女の森は年中温暖で、快適な気温を保っている事から、ここで過ごしていると季節を忘れそうになる。


 時間が経つのも忘れる程に時間の流れは緩やかだ。



 薬学の教科書から顔を上げて、うーんと伸びをしたアリスティアの目に飛び込んで来たのは……


 光輝く素敵な皇子様。


「 ……レイ…… 」

「 やっと気付いてくれた 」

 岩に腰掛けている皇子様は、長い足の膝の上に両肘を置いてアリスティアを見ていた。


 組んだ手に顎を乗せ、眉を下げながらクスクスと笑っていて。

 爽やかな笑顔が……格好良過ぎてドキドキと胸が高鳴る。


 好き。


 本当に……

 何年経っても大好きで。

 アリスティアの想いは少しも変わらない。



「 何時からここに? 」

「 少し前にね 」

 レイモンドは、この日にアリスティアが魔女の森に行く事は聞いていた。


 魔物が消滅した魔女の森がどうなっているのかを、ジョセフが気に掛けていた。

 勿論レイモンドも。


 なのでこの機会にと思い、執務を早く終わらせ魔女の森の入り口から馬に乗ってやって来たのだ。


 アリスティアと一緒に来れなかったのは、急ぎの公務があったからで。



 アリスティアはレイモンドに向かって駆け出した。

 ピョンピョンと跳ねるようにとても嬉しそうに。


 魔女の森に行く事は予め伝えていたが、まさか来てくれるとは思わなくて。

 

 レイモンドは何時も公務で忙しい。

 自分の部屋に戻って来ても、テーブルの上に書類を置いて書き物をしている位で。


 隣の部屋で過ごすようになって、皇太子は多忙なのだと改めて認識した。

 思うように会えないのが寂しいと、不満を言っていた世間知らずな自分を反省している。



 レイモンドの前にやって来たアリスティアは、嬉しそうな顔をしている。

 ウフフとやけに楽しそうに。


「 とても貴重な薬草がありましたの 」

 レイモンドアリスティアは手にしていた籠の中にある白い花を、指先で摘まんでレイモンドに見せた。

 大発見だと少し興奮気味に。



「 この薬草は、ジョセフ皇子殿下にお持ちしますわ 」

 皇子殿下ならば新薬を作ってくれると言って。


「 そうだな。兄上には報告したい事があるから、帰城したら僕も一緒に行こう 」

「 ええ 」

 アリスティアが満足そうな顔をした。


 皇太子宮での生活はあまりにも退屈で。

 最近は中断していた薬学の勉強を再開している。

 学園には行けない事から、ジョセフに聞きたい事が沢山あるのだ。


 ジョセフはアリスティアの師なので。



 それからは二人で魔女の森を巡回した。

 何か異変はないかと。


「 何処も異常はないみたいだな 」

「 ええ。動く木達がいなくなっただけですわね 」

「 うん……少し寂しいかな…… 」

「 ……… 」

 眉を顰めたアリスティアの視線は、レイモンドの形の良い唇に注がれた。


 そして。

 エプロンのポケットからハンカチを徐に取り出した。


「 何? 痛いよ 」

「 ……… 」

 アリスティアはレイモンドの唇を拭いた。

 ゴシゴシと。


 目を吊り上げながら。

 無言で。


 クネクネとした木から、レイモンドがキスをされた事を思い出したのだ。


 アリスティアは木にさえも嫉妬する女。

 それもしっかり根に持つ女。




 ***




 オレンジ色の夕焼けに染まり始めた頃、二人は湖にやって来た。


 湖畔はキラキラと輝き、杭に繋がれたボートがユラユラと湖に浮かんでいる。

 このボートは、アリスティアを助ける為にリタが漕いで来たボート。


 広い湖の向こうには、アリスティアが魔力の練習をした一枚岩がある。



 レイモンドはここには何度か来た事はあるが。

 アリスティアの転生前の事を聞いてからは始めての事。


 そう。

 転生して来たアリスティアが落ちた湖だ。

 レイモンドの手で、時戻りの剣で心臓を貫かれた直後に。


 その事を考えると胸がキリキリと痛む。

 あまりにも壮絶な転生前の二人に。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 その全てが、リタが聞いた天のお告げから始まった事。


 結果的に、魔物が討伐されたのはアリスティアが魔女であったからなのだが。

 魔女になったアリスティアを、レイモンドが()()()()()で転生させたからでもあるのだ。



 アリスティアと静かに湖を見つめているレイモンドは、ふと考えた。


 もしも……

 自分が()()()()()を使わなかったなら、世界はどうなっていたのだろうかと。


 魔女アリスティアは、当然ながら騎士達に処刑されていただろう。

 皇帝から射殺命令が下されていたのだから。


 そして……

 やはり魔物(サラ)はその後に現れる筈だ。

 今生と同じ様に。


 その後、魔物(サラ)はタナカハナコに憑依する。


 その時ハナコはどう対処する?


 あの、タナカハナコが魔物(サラ)を討伐出来るとは到底思えない。


 タナカハナコが聖女でなれば……

 世界は魔物に滅ばされてしまう事になる。



 ただ。

 レイモンドとしては魔物(サラ)が世界を滅ぼす存在だとは、どうしても思えなかった。

 彼女は、自分の愛した王の生まれ変わりであるレイモンドを求めただけで。


 そんなサラには同情の余地はある。

 千年もの間。

 ただひたすらに愛する男を待っていたのだから。

 セドリック王に騙された事も知らずに。



 いや……

 もう過去を振り返るのは止めよう。


 そもそも、アリスティアを失った自分が正気でいるとは思えない。

 きっと狂ってしまうだろう。


 もしかしたら……

 アリスティアの後を追うかも知れない。


 アリスティアが魔女の森に消えた半年間でさえ、生きているのか死んでいるのかが分からない状態だったのだから。



「 全て終わった事だ 」

 レイモンドは、静かに湖を見つめているアリスティアの肩を抱き寄せた。


「 えっ?何が? 」

「 何でもないよ。それより僕達の結婚式にはリタ達は参列してくれるのかな? 」

「 勿論よ!リタ様はわたくしの命の恩人ですもの 」


 レイモンドは、カルロスの記録帳に書かれてあった事を思い出した。



 そう。

 魔女の森に転生して来たアリスティアを助けたのはリタ。

 魔女になったアリスティアに、()()()()()をレイモンドが使った理由を教えてくれたと。


「 リタがいなければ、ティアは生きてはいなかっただろう 」

 カルロスはそう言っていた。


 だからこそ。

 公爵家の皆はリタに感謝をしているのだと。

「 我が家ではローストビーフを食い放題だぜ 」と言うのはオスカーだ。



「 リタ様にはピンクのドレスを着て貰いますわ 」

「 ピンクのドレス? 」

「 ええ。ロキ様にはブルーのドレスで、マヤ様には……そうねぇ、黄色ドレスが良いわ 」

 三人にはウェディングドレスの裾を持って貰うと言うアリスティアは、本当に楽しそうだった。



 そこにあるのは……

 転生前には叶わなかった二人の未来。


 今生では絶対にアリスティアを自分の花嫁にする。

 転生前にあれ程辛い想いをさせたのだから。


 その為に今は尽力している所だ。

 世論を味方にする為に。



「 ティア……幸せにする 」

 レイモンドはアリスティアの頬に手を添えて、そっと口付けをした。



 夕焼けが優しく二人を包む。

 風に揺れた木の枝の葉が静かに揺れる。


 カサカサと。



 幸せな未来を夢見る二人は気付いていなかった。

 何故今でも、二人が魔女の森に入る事が出来たのかを。



 今宵は新月。

 月のない夜。







 










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― 新着の感想 ―
またしても何かが起きそうな風向き・・・?! そういえばクネクネの木はもう居ないんでしたね。 サラの影響があったとはいえアレはあれでいいキャラだった気がします。
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