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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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皇太子宮の魔女

 



「 それって事実婚じゃねーのかよ? 」

 皇太子宮で、レイモンドがアリスティアを24時間監視をすると言う事はそう言う事で。


 愛し合う二人が24時間一緒にいたら、当然ながらそう言う事になると言うのはオスカーだ。


 そこが聖女(タナカハナコ)を皇太子宮に滞在させた事とは違う事。

 それはオスカーだけでなく、誰もが思う事で。



「 くそーっ!そんな面白い事になってたとはなっ! 」

 昨夜の宴に出られなかったオスカーは、悔しそうに持っていたペンを握り締めた。


 執務机に座るレイモンドは、目の前にある書類から目を外さず、楽しそうにクスクスと笑った。



 アリスティアが魔物を消し去った夜から、オスカーはずっとジョセフに就いて魔物の調査をしていた。


 それは離宮の庭園の奥だったり、魔女の森の周辺だったり。


 調査はジョセフ1人では困難な事から助手が必要で。

 彼には秘書官が就いていないので、彼はアリスティアを指名して来たのだ。


 そう。

 アリスティアはジョセフの弟子なのである。


 アリスティアは学園の特進クラスの薬学部の生徒で、ジョセフは特進クラスの顧問をしているので、ジョセフはアリスティアの師でもあるのだ。


 魅了の魔力を無効にする『 削除 』の薬品を作った時には、ジョセフがアリスティアに丁寧に指導をしていた事からも、二人の関係が師弟関係にあるのが分かる。



 弟子も助手も作らずに独りで研究して来たジョセフだが、アリスティアだけは特別だった。

 それ故に、レイモンドがアリスティアをジョセフに就ける事など許可する筈がなく。


 変わりにオスカーを派遣したと言う訳だ。


 気難しいジョセフに、身分の低い他の秘書官など就けられない。

 オスカーには、『 消滅 』の薬品をちゃんと魔木に掛けたのかどうかを調べる必要があるとかなんとか理由を付けて。



 あの時。

 アリスティアが魔木に魔力を放った時。

 その衝撃でひっくり返ったオスカーが、薬品を掛けたかどうかは定かではない事もあって。


 本人は掛けたと言い張ってはいるが。


 レイモンドの公務に関する仕事は、当面はオスカーの下にいる他の秘書官達が担う事になった。

 勿論、自分の片腕である側近のオスカーがいないのは痛手だが。


 背に腹は代えられなくて。



「 それで魔物の事は何か分かったのか? 」

「 さあね。天才皇子様が何をしてるのかは、凡人の俺には分からんよ 」

 オスカーでなければ片付かない書類に目を通しながら、オスカーは首を竦めた。


 ジョセフの調査は朝早くや、深夜であろうがお構いなしに行われた。

 なのでオスカーは、ずっと離宮のジョセフの研究室の隣に寝泊まりしていた。


 因みに、離宮の使用人達はオスカーの世話を喜んでしていて。

 明るい性格のオスカーは、今やすっかり離宮の人気者となっている。



「 調査して来た事を精査する 」

 ジョセフが研究室に隠った事で、オスカーは2週間振りに解放されたと言う訳だ。


 しかしだ。

 彼は皇太子宮に戻って来るなり、溜まりに溜まった仕事をしなければならなくて。

 久し振りにレイモンドと仕事をしていたと言う訳だ。

 彼でなければ片付かない仕事があるのだから。



 バーン!!


「 うわっ! 」

「 何だぁ!? 」

 いきなり爆音と共にドアが開けられ、レイモンドとオスカーは飛び上がった。


 見ればドアの前にはアリスティアが立っていて、凄い顔でオスカーを睨み付けて。


 怒っている。


 どうやら魔力でドアを開けたようだ。

 魔力でなければ、公爵令嬢であるアリスティアがドアを音を立てて開けたりはしないので。



「 おい!ビックリするだろ! 」

「 オスカーお兄様! ずるいですわ! ジョセフ皇子殿下の研究のお手伝いをしていたなんて…… 」

 皇子殿下の助手はわたくしなんですのよと言って、部屋に入って来た。


 レイモンドの執務机の前にいたオスカーに向かってツカツカと。



「 オスカーお兄様の姿が見えなかったのは、てっきり仕事が忙しいのだとばかり思っておりましたのに 」

 アリスティアは昨日までは自宅にいた事もあり、オスカーが自宅に帰って来ない理由は知らされてはいなかった。


 魔物騒ぎの後始末でハロルドも忙しくしていた事から、オスカーもてっきりそうだと思っていたのだ。

 ハロルドは夜遅くには帰宅していたが。



「 どうして教えてくれなかったのですか!? 」

「 教えたら行くと言うだろが! 」

「 勿論ですわ 」

「 お前なあ、皇子殿下の助手は過酷だったぞ? 朝夜なしに付き合わされるわ、遠くまで行かされるわで大変だったんだぞ! 」

「 研究者がそれだけ熱心にするのは当然の事ですわ! 」


 薬師を目指していたアリスティアは、師であるジョセフを尊敬している。

 彼の研究は、自分自身の成長にもなると思っていて。

 だからこそ彼の研究を傍で手伝いたかったのだ。


 調査対象が魔物であるなら尚更に。



 ジョセフが研究室に籠ってしまったと聞けば、彼の助手になるのは諦めるしかない。


 しょぼんとしたアリスティアがソファーに座ると、レイモンドが侍女を呼んでお茶とお菓子を用意してくれた。


 彼は何時も優しい。

 それからは大人しくお茶を飲む事にした。

 お茶請けのケーキやクッキーを食べながら。


 カリカリとレイモンドがペンを走らせる音が心地好い。

 俯いて書類を熱心に目を通している姿がまたカッコ良くて。


 しばしうっとりと見つめる時間を楽しんだ。



 昔からここに遊びに来ては、レイモンドの執務が終わるのを待っていた。

 時には本を読んだりもして。


 しかしだ。

 それは小一時間位の事。

 流石に何時間もこれでは退屈だ。


 皇太子妃になる為にお行儀の作法は習得した事から、じっとしている事は得意だが。

 それも公務である事が前提。



 この日の午前中は、アリスティアの荷物が公爵家から運ばれて来た事から忙しくしていたが。


 まさか……

 監視ってこの状態が毎日続くのかしら?



「 ねぇ……レイの外出先にはわたくしも同行出来ますよね? 」

 外出先で困っている人達を助けたら、良き魔女をアピール出来るかも知れない。


 これは良い考えだわと、アリスティアはキラキラした目でレイモンドを見つめた。


 可愛い。



「 魔女は皇太子宮で管理するって言ったから……外出は無理じゃないかな? 」

「 でも、レイは僕の魔女だって言いましたわ。だからわたくしはレイの傍に24時間いないと駄目だと思いますわ 」

「 ……昨夜は僕のベッドで一緒に寝ないで、自分のベッドで寝たのは誰だ? 」


 24時間一緒にいるなら一緒のベッドで寝るべきだろ? と、レイモンドは指先にあるペンをクルクルと回した。


 ニヤニヤとしながら。


「 昨夜も言ったでしょ! わたくし達はまだ夫婦ではないのよ! 」

 昨夜も一緒に寝ようとしつこかった。


 レイモンドのニヤニヤとした顔がムカつく。

 そんな顔もカッコ良いから胸キュンしてしまうが。



 カチャリ。


 その時、丁度入室して来たオスカーに同意を求める事にした。


「 オスカーお兄様もレイに注意をして欲しいですわ! 」

「 良いんじゃないの? 先に子供を作っても 」

 二人の話を聞いていたオスカーは、そう言って手に持っていた書類の束をレイモンドの執務机の上に置いた。


「 この商会の……なんちゃらかんちゃら 」とレイモンドに仕事の説明をしながら。



 アリスティアは真っ赤な顔をしながら立ち上がった。

 まさか……

 兄に、未婚のまま子を産めと言われるとは思わなかった。


「 お……オスカーお兄様! わ……わたくしはグレーゼ公爵令嬢として、そんなふしだらな事は出来ませんわ! 」

「 前も一緒のベッドで寝ただろう?何を今更…… 」

「 あれは魔力切れを起こしていたから、わたくしの知らない事ですわ! 」


 レイが勝手に自分のベッドに運んだのですわと、アリスティアは怒り心頭だ。



 オスカーはアリスティアの前にドカッと座り、テーブルの上にあったクッキーを摘まんで口に入れた。


「 子供の頃にも一緒に寝てたじゃん 」

「 もう!レイと同じ事を言わないで! 」

 流石に子供の頃の話をされてはたまらない。


 大人になった今。

 正気の状態で一緒になんか寝れる訳がない。


 レイモンドを見やれば、執務机の上の書類ににカリカリとペンを走らせながら、クックと笑っている。



「 だけどさあ。24時間一緒にいるなら、流石にレイが可哀想だと思うぜ 」

「 どうしてですの?何が可哀想なんです? 」

 可哀想なのはわたくしだとアリスティアは眉を顰めた。


「 お前なあ、レイが何故お前と距離を置いていたのかを少しは考えろ! 」

「 あら? それはわたくしが聞きたいですわ! 」

 レイはわたくしが学園に入学した頃から、急に冷たくなりましたのよと、アリスティアはレイモンドを訝しく見た。


「 ……… オスカー! 明日の…… 」

 レイモンドはコホンと咳を一つして、オスカーと仕事の打ち合わせを始めた。



 何だか誤魔化された感じがする。

 これは追求あるべし!


「 レイ!理由を…… 」

「 仕事の邪魔! 」

 アリスティアの言葉を遮ったオスカーは、ソファーから立ち上がり、バタバタと自分の執務室に戻って行った。


 続いてレイモンドも、書類を持ってオスカーの執務室に続く。

 アリスティアの頬に手をやり「 ディナーは一緒に食べよう 」と言って、レイモンドはオスカーの部屋の扉を閉めた。


 彼の良い匂いを残して。



 ふむ。

 確かに忙しそうだわ。


 これ以上は邪魔をしてはいけないと、アリスティアはテーブルの上の少し冷めた紅茶を一口飲んだ。


 これから何をしようかと思案しながら。

 距離を置かれた理由は謎のままだが。



 コンコン。


 暫くするとドアをノックする音がした。

 部屋には誰もいないので、アリスティアが返事をしようとした。


「 殿下ぁ~隣国の王太子殿下からぁ~お手紙が届いてますぅ~。ニアンがぁ~持って参りましたぁ~ 」

 それは気持ち悪い位に鼻にかかった甘ったるい声。


 カチャリ。


「 失礼します 」

「 いらっしゃい 」

 ニアンがドアを開けると、立っていたのはアリスティア。


 腕を組んでいる。



「 げっ!? 」

 アリスティアを見たとたんに、ニアンは蛙のような下品な声を上げ、慌てて自分の胸元を押さえた。


 やはり女官の制服のブラウスのボタンを2つ外している。



 本来ならば、全ての執務は側近であるオスカーを通さなければならないのだが、ニアンは常に直接レイモンドの所へやって来るのだ。


 転生前はこのシチュエーションがあり、しっかりニアンをやり込める事が出来たのだが。

 今生はそれが出来ずにいた。

 


 退屈していたアリスティアは、獲物が来たとニヤリと笑った。




 ***




 こうしてアリスティアの皇太子宮での生活が始まった。

 皇太子妃になれば公務があるだろうが、公務のない今の状態ではする事がない。


 暫くは大人しくするようにとは、カルロスの伝言だ。


 カルロスは一旦領地に帰った。

 妻子を置いて行ったのは、直ぐに戻るつもりでいるからで。


 そこには可愛い妹の未来を見据える為。


 あれ程辛い目にあった妹が、幸せな花嫁になる姿を見届ける事が、グレーゼ公爵家の嫡男であるカルロスの執念。



 そんなカルロスの伝言もあり、皇太子宮で()()()()過ごしているアリスティアに、クリスタ皇后からお茶の招待があった。


 そう。

 クリスタは魔女アリスティアに助けられた恩がある。

 アリスティアが魔女でなければ、今頃は謹慎処分を下され、皇宮にいる事さえ出来なかった筈。


 そもそも二人の関係はずっと良好である。

 レイモンドの婚約者にアリスティアを選んだのは、彼女なのだから。



 数日後のお茶会では、大臣の夫人達も呼ばれるようになった。

 勿論、グレーゼ公爵夫人であるアリスティアの母キャサリンもいて。


「 お母様! 」

「 ティア 」

 互いに駆け寄って再会を喜ぶ二人。

 そこには当然ながら普通の母娘の姿があった。


 夫人達は目頭を押さえた。

 グレーゼ公爵家が置かれた境遇に。



 魔女は人間の突然変異。

 記録では男の魔法使いは存在しなくて、魔女になるのは女性限定なのだが。


 歴代の魔女は、魔力の恐ろしさで直ぐに処罰されて来た事からその実態は分からずにいた。

 人々からは、ただただ怖がられて来ただけで。



 しかしだ。

 アリスティアは今までの魔女とは違う。


 魔力の暴走はしていない。

 ましてやその魔力で魔物を討伐してくれたのだ。


 なので魔女との共存が出来るのではないかと言うのが、皇帝ギデオンとクリスタ皇后の見解だった。



 ただ。

 やはり皇太子妃にするなら国民の理解は必要で。

 永らく『 魔女は忌み嫌う存在 』だと植え付けられていた事は確かなのだから。


 先ずは高位貴族達の懐柔からと、両陛下も動き出したのだ。


「 魔女を娶りたければ国民の理解を得よ 」と、レイモンドに告げて。



 まさか……

 魔女を皇太子宮で監視をすると言い出すとは思わなかったが。

















 いよいよ最終章です。

 思った以上に長いお話になってしまいましたが(^^;


 最後まで宜しくお願いします。


 読んで頂き有り難うございます。

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