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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第六章

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皇太子殿下の新しい恋人




『 魔女を皇太子宮で監視する事となった 』

 このニュースは直ちに国民達に知らされた。


『 皇太子宮での監視は、魔女の森には誰も入る事が出来ないから 』と言う、皇帝陛下の苦渋の決断があった事も新聞に掲載された。


 そこには皇太子殿下の強い愛があるのでは?と言うロマンス説が、平民達に強く浸透した。

 愛する彼女を、魔女の森になど住まわせたくないと言う想いが。



 そして、そんな二人のロマンスを邪魔しているのは貴族達。


 貴族達が、皇帝陛下に魔女を皇太子妃にする事を拒否する進言をしたと言う事は、国民達にも知らされている。


 その事から二人の()()()()を応援する声も出て来た。


 国民達は皇子様のロマンスが大好物。

 皇子様と魔女の悲恋なら尚更に。


 少し前までは、皇子様と聖女の恋に酔いしれていたのだが。



 国中が皇太子殿下と魔女の婚姻の行方に揺れる中、皇太子殿下に()()()()()が現れたとのでは?言う噂が流れ始めた。


 その新しい恋人は女官。

 外出時の皇太子殿下の傍には、何時もその女官がいるのだ。

 その女官が大層美しい女官だと言う事から、そんな噂が流れるようになった。


 ただ佇んでいるだけで美しい女官。

 他の女官達と同じ紺色の制服を着ていても、その美しさは際立っている。

 

 何よりも、時折美しい女官を愛おしそうに見つめている皇太子殿下の姿が目撃されている事から、民衆達はざわついているのだ。



『 皇太子殿下は美しい女官に夢中 』

『 皇太子殿下に二股疑惑 』

『 魔女を捨てて新しい恋人を皇太子妃に? 』


 スキャンダラスなゴシップ記事さえも、面白おかしく噂される事になった。




 ***




 この日は、港に皇太子殿下専用馬車が到着した。

 既に騎士達が民衆を整理した広場に。


 レイモンドが馬車から降りると、ワッと凄い歓声が上がった。

 これは毎度の事だ。

 見目麗しいレイモンド皇子は、昔から国民達から人気がある。

 勿論、彼が真摯に公務に取り組む姿勢も評価されているからなのだが。



 しかしだ。

 民衆の目的は()()()()()()()


 この日も同行しているかどうかと期待を膨らませながら、皇太子殿下専用の馬車の後ろに停まった馬車を見つめている。


 馬車の扉が開かれると、女官達が次々に降りて来た。

 女官は三人いたのだが、一人の女官に釘付けになった。


 一番最初に下りて来た美しい女官に。

 何だか一人だけ偉そうな美しい女官に。


 そして……

 その女官に視線を向けた皇太子殿下が、一瞬甘い顔をしたのを民衆は見逃さなかった。


 キャアキャアと黄色い声で辺りが騒がしくなった。



 皇太子殿下は頭を下げて佇んでいる三人の女官達の前を通り過ぎて行く。

 側近と騎士達をゾロゾロと引き連れて。


 その時。

 またもや民衆は目撃をした。

 皇太子殿下が美しい女官に小さなメモを手渡したのを。


 あのメモには何が書かれているのかが気になる。

 メモを開いた美しい女官は、とても嬉しそうな顔をしたのだから。


「 この美しい女官が皇太子殿下に新しい恋人に間違いない! 」

 目撃した皇太子殿下と美しい女官の恋に、民衆はテンションが上がるのだった。



 勿論。

 この美しい女官はアリスティアだ。

 ミルクティー色の髪を後ろで束ね、着ている女官の制服は自前だ。


 彼等はアリスティアの顔を知らない。

 それは、貴族令嬢が平民達の前に出る事は殆どない事から。

 レイモンド皇子と永く婚約関係にあったアリスティアでさえも。


 因みに、アリスティアの姿が世に出たのは記者会見の日の姿絵だ。

 勿論それは転生前の事。

 レイモンドとのツーショットの幸せそうな姿絵。


 もう二度と描かれる事のない、アリスティアだけが知る姿絵だ。



 アリスティアはレイモンドの外出に付いて行きたいと駄々を捏ね、女官として同行していたのである。


 魔女として役に立つ事があるなら頑張りたいと言って。


「 お願~い 」とレイモンドに甘えて。

 ゴロニャンとレイモンドの膝の上に乗っかったりして。


 アリスティアと過ごす夜に、欲を抑えているレイモンドとすれば、そんな肉弾戦のオネダリ攻撃をされたらたまったもんじゃない。


「 分かった分かった! ティア!君の同行を認めるから、早く僕の膝から下りて! 」

「 キャアーッ!! レイ!だぁぁい好き 」

 喜んだアリスティアはレイモンドに抱き付き、そしてその豊満な胸をレイモンドの顔に押し付けた。


 ムギューっと。


 拷問だ……。

 勿論、嬉しい。



 レイモンドとアリスティアの部屋は隣同士で、皇太子夫婦の部屋だから中で部屋が繋がっている。

 なので夜は何時も一緒に過ごしている。

 ベッドで一緒には寝てくれないが。


 困難な婚姻に、オスカーの言う通りに既成事実を作ってしまう事もありだと思ったりもしたが。


 やはり……

 自分の花嫁になる事を夢見て来たアリスティアの、幼い頃からの想いを大切にしてあげたかった。



 転生前。

 あれ程に、彼女を辛い目に合わせたのは自分。

 なのでアリスティアの今生は、彼女を必ずや幸せな花嫁にすると決めたのだ。


 彼女がトラウマとなっている大聖堂で。

 永遠の愛の誓いの口付けをし、彼女を世界一幸せな花嫁にする事。


 それがレイモンドのアリスティアへの贖罪。

 時戻りの剣を使わなければならない程の原因を招いた事への償い。


 そして……

 アリスティアが皇太子妃になった時。

 アリスティアの転生前に起こった全てをギデオンに話そうと思っている。


 国宝である『 時戻りの剣 』を使った事を。



 アリスティアは女のあざとさを全開にして、レイモンドの外出の同行を勝ち取った。


 彼女が女官姿なのは、まさか公務に普通の令嬢を同行させる訳にもいかないからで。


 公務に同行出来るのは正式に皇族の一員になってからだと決められている。

 ましてや今のアリスティアは、レイモンドの婚約者ではないのだから特に。


 その事で変な噂が立ってしまっては元もこもない。


 結局は何度目かの外出で、変な噂が立ってしまったのだが。




 ***




 今回の港の視察の目的は古くなった港の改修だ。

 出迎えた出入国管理所の所長とレイモンドが歩いて行く。

 その後ろには、オスカーや騎士達がゾロゾロと付いて来ている。


 勿論、女官達もいて。


 荷物を持ち運んでいる女官の前を、アリスティアは優雅に歩いている。

 海から注ぐ陽の光が眩しくて、白い手で額にひさしを作りながら。


 帽子を持ってくれば良かったと思いながら。


 民衆は改めて思った。

 あの美しい女官はやはり、皇太子殿下の特別な女官なのだと。


 そもそも女官ではない。

 女官の制服を着てはいるが。



「 あの岩が無ければ、遠回りをしなくて済むのですがね~ 」

 倉庫に行く為に波止場を歩いていると、所長が海に向かって指を指した。


 波止場から数キロメートル向こうには、大きな岩が波の合間ににょきりと頭を出している。


 あの岩があるから、全ての船が遠間りをしなければならないのだ。

 暗闇では、船がぶつかる事故も起こっている事はレイモンドも報告されている。


「 流石にあの岩には手出しが出来ない 」

 大岩は海の中にあるのだから。


 レイモンドは首を横に振った。



 港を全面的に改修する事が決まり、この日の視察は所長の満足するものとなった。


 上機嫌な所長がパンと手を叩いた。


「 殿下。折角皇都からこんなに遠い港に来られたのですから、お帰りになる前に船に乗って見ませんか? 」

 今からなら夕陽が綺麗に見えますよと、所長が停泊中の船を指差した。


 美しい女官が彼の恋人だと言う事はジジイの所長でも分かる。

 ここは一つ。

 ロマンチックな演出をして差し上げましょうと言う訳だ。


 今、停泊中の船はエルドア帝国から隣国へ出向前の船。

 明日の早朝への出向に向けての準備は既に終わっている事から、船の上ではゆっくり出来ますよと揉み手をしながら。



「 そうだな 」

 会議椅子から立ち上がったレイモンドは、女官達がいるテーブルに向かって歩いて行った。

 ソファーに座り、優雅にお茶を飲んでいるアリスティアの前に。


 他の二人の女官は、隣のテーブルでオスカーと熱心に書類の整理をしている。



「 ティア! 今日は遠くまで来たから疲れただろ? 」

 いや、少しも疲れていない。

 ここの紅茶は舶来製で、美味である事を知っただけで。

 2杯お代わりをした。


「 船の上から一緒に夕陽を見よう! 」

「 えっ!? 船に乗れますの? 」

 アリスティアが船に乗るのは初めての事。


 港に来たのも初めての事で、この日はずっとテンションあがりまくりだったのだ。


 嗅いだ事のない潮の香りに。

 海を見つめる皇子様があまりにも格好良くて。



 レイモンドを見つめるヘーゼルナッツ色の瞳が、キラキラと輝いている。


 こんなに喜ぶなんて。

 これからはもっと色んな場所に連れて行こう。


 破顔したレイモンドは、アリスティアにエスコートの手を差し出した。



 そもそもデートが久し振りで。

 転生前のまだ幸せだった頃に観劇に行ったのが最後。


 ここに到着した時にレイモンドから渡されたメモには、『 視察が終わったら海辺でデートをしよう 』と書かれていたのだ。


 折角海に来たのだからと。

 だからそれを楽しみに、公務が終わるのを良い子で待っていたのだ。


 良い子で待つのは得意なので。


 まさか船に乗れるとは思わなかった。

 夕陽を見ながらの船上デートなんて嬉し過ぎる。


 レイモンドも何時になくテンションが上がった。



「 後の細かい詰めは俺に任せて、デートを楽しんでこい 」

 女官達と書類の整理をするオスカーからそう言われて、レイモンドとアリスティアは連れ立って管理所を後にした。


 外に出ると、騎士達に綺麗に整理された人垣から大歓声が上がる。

 皇太子殿下が美しい女官をエスコートしているのだから。



 彼女の足元を気に掛けながら、二人で楽しそうにタラップを上がって行く姿は、まるで一枚の絵画のようで。


 港がオレンジ色に染まる中。


 黄金の髪がキラキラと輝く皇子様と、ミルクティー色の髪がオレンジ色に染まった()()が船上に消えて行った。




 ***




 甲板の上に立つと潮の香り風が二人の頬を撫でた。


 気持ち良い。


 レイモンドは、手摺に手を掛けて海を見つめているアリスティアに目を細めた。


 目の前に広がる沈む夕陽で、海からの光が一段とオレンジ色に染まる。

 海を見つめるアリスティアの頬もオレンジ色に。


 何時もよりは薄い化粧だからか、その透明感にドキドキと胸が高鳴る。



「 ティア……綺麗だ」

 想像以上のロマンチックなシチュエーションに、レイモンドはアリスティアに向かって顔を傾けた。


 アリスティアとキスをしたくて。


 刹那!

 アリスティアのヘーゼルナッツ色の瞳の色が《《カッ》》と赤く輝いた。


「 !? 」

 驚いたレイモンドは、アリスティアの顔に近付く寸前で固まった。



 アリスティアの束ねていたリボンが解け、ミルクティー色の髪がフワリと宙に浮き出した。


「 この高さからなら、あの岩を綺麗に消し去る事が出来るわ 」

 高さのある船上からなら大岩に魔力を放出しやすい。


 アリスティアは所長の話を聞いていた。

 だから、レイモンドとの海辺のデートで岩を消し去る事を考えていたのだ。


 やっと人々の役に立つ事が出来るのではと。



 そうだ!

 アリスティアならば……

 魔女の消滅の魔力ならば、あの大岩を消し去る事が出来る。


 何故気付かなかったのだろう。



 アリスティアの指先はさらに強く銀色に輝き出した。


「 レイ!命令して! あの大岩を消せと言って! 」

「 ああ……魔女アリスティアに命じる!あの岩を消し去れ!」

「 はい! 」


 元気良く返事をした魔女アリスティアは、更に指先に魔力を込めた。

 消滅の魔力を放つには膨大な魔力が必要なのだ。


 銀色の光が一際強く光ると、アリスティアは大岩に向けて魔力を放った。

 魔力は銀色に輝きながら海の上を飛んで行く。


 茜色に染まる空に向かって。


 銀色の光は大岩を包み込み、大岩を包み込んでいた銀色の光が消え去ると、大岩は綺麗に無くなっていた。


 それは音もなく静かに。

 波だけが強く荒れ、船もまた大きく揺れた。



 レイモンドは恍惚化していた。


 魔力を放つ瞬間のアリスティアの妖艶さは、その姿を見た者は誰をも魅了する。


 地味な女官姿でも。


「 やったわ! 」

 そう言って大きく息を吐いたアリスティアは、グラリとふらついた。


 消滅の魔力はかなりの体力を消耗するのだ。



「 !? 」

 アリスティアの妖艶さに惚けていたレイモンドが我に返り、慌ててアリスティアを抱き止めた。


「 大丈夫か? 」

「 わたくしの魔力は……皆の役に立てた? 」

「 ああ……勿論だ 」

 アリスティアは嬉しそうに笑ったが、顔色が真っ青だ。

 肩で大きく息をしている。


 アリスティアが魔力を放つ度に、魔力が彼女の命を削っているのではないかと不安になる。


「 無理はして欲しくない 」

「 大丈夫よ。魔力が皆の役に立つなら本望ですわ 」

 それでレイのお嫁さんになれるならと言って、アリスティアはウフフと笑った。


 いじらしい事を言うアリスティアに、レイモンドは胸熱だ。


 毎日、この可愛い魔女を好きになる。



「 僕の魔女を、早く僕の花嫁にしたい 」

 レイモンドは、自分の腕の中にいるアリスティアの唇に自分の唇を寄せた。


 オレンジ色の光が、一つになった二人を優しく包む。



 国民が皇太子殿下の新しい恋人である美しい女官が、魔女アリスティアだと判明するまで後少し。


 それは……

 港街新聞のトップニュースから。















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