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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第五章

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皇太子殿下の魔女




 大広間の両開きの扉が凄い勢いで開けられた。

 凄い爆音と共に。


 音の割には扉がバラバラにならなかったのは、魔力を完璧にコントロール出来ている証拠だ。



 会場の多くの者はアリスティアの登場に喜んだ。

 絶妙なタイミングで現れたアリスティアに。


 そう。

 アリスティアは、レイモンドの婚約者としてエルドア帝国で君臨して来た存在。


 今更他の令嬢など考えられない事は確か。


 しかしだ。

 その漆黒のドレス姿を見たとたんに、皆は現実に引き戻された。


 彼女が魔女であると言う事実に。

 そこにあるのは()()


 今、目の前にいる彼女は、世界を滅ぼす魔物を一瞬にして消し去った魔女なのだから。



「 ティアのやつ。怖がらせてどうする 」

 アリスティアの後ろ姿を見送りながら、扉の前にいるカルロスが頭を抱えた。


 アリスティアを凝視する皆の顔が、恐怖で凍り付いた顔をしているのだから。


 まさかいきなり魔力を放つとは思わなかった。

 他の令嬢達との格の違いを見せ付け、少しずつ()()()()を浸透させて行こうと言うのが、カルロスが企てた計画。


 人々の頭の中にある『 魔女は忌み嫌う存在 』と言う認識を払拭する為に。


 勿論、レイモンドとアリスティアも了承済みだ。



 そもそもアリスティアが、漆黒のドレス姿で現れた事から間違っていて。

 予定では、レイモンドとお揃いの衣裳のロイヤルブルーのドレスで踊る筈だったのだが。


「 わたくしは魔女である事を主張したいですわ! 」

 それは魔女である事を隠して生きて行くつもりは更々ない事から。


 皇太子妃になるなら尚更に。


 それがアリスティアの覚悟なのだと知れば、漆黒のドレス姿で愛するレイモンドの元へ歩みを進める可愛い妹に、何だか泣きそうになる兄だった。




 ***




 人垣が割れて出来た道をアリスティアは歩いて行く。

 コツコツとハイヒールの音と共に。

 その先にいるのは、彼女が一途に愛する皇子様。

 元婚約者であり、今は恋人であるレイモンド皇太子殿下だ。


 レイモンドの前で佇んでいるニアンの横に、アリスティアがスッと並んだ。


 佇んでいると言うよりは、驚き過ぎて固まっていたと言うのが正解だ。

 まさかこの場にアリスティアが現れるとは思わなかったのだ。

 もう、皇宮には来る事はないと思っていた。


 何故ならば……

 彼女は魔女なのだから。



 ニアンのドレスは、オレンジ色と黒のレースの鮮やかで大人なデザインのドレス。

 胸の谷間を強調するように襟繰りは広く、華やかな場で着用する事には悪くは無い。

 しかし、そのドレスを着る彼女が皇太子妃に相応しくない装いなのは一目瞭然だった。


 一方。

 隣に並んだアリスティアの漆黒のドレスは、そのシンプルさが彼女の気品を際立たせていた。


 今や貴族達の関心は、誰が皇太子妃に相応しいかどうかで。

 これは魔物騒ぎが終息した事であり、エルドア帝国に平和が戻って来た証でもあって、喜ばしい事なのだが。



 隣にいるニアンには目もくれずに、アリスティアはその場で膝を折ってレイモンドにカーテシーをした。


 フワリと漆黒のドレスが翻る。

 その美しい所為に、ほぅぅ……と溜め息が漏れ聞こえて来る程に。


 これが最高位の貴族である公爵令嬢の気品。

 皇太子妃になる為に生きて来た彼女が、他の令嬢達と違うのは当たり前の事だった。



 ニアンは、自分の胸の谷間を両手で隠すように押さえた。

 直ぐ横に立つアリスティアが見ているのだ。

 じっとりとした視線を感じる。


 ニアンよりは背が高いアリスティアからは、ニアンの胸の谷間がバッチリ見える筈で。


 怖い。

 怖過ぎる。


 アリスティアに何を言われるかを想像すれば、そこには恐怖しかない。


 この状況に耐えられなくなったニアンは、胸を押さえながらその場を立ち去った。

 足がもつれて、ヨタヨタと立ち去る姿は不様なものだった。


 先程までは自信たっぷりな令嬢だったのだが。



 あら?

 もう立ち去るの?

 まだ何も言ってないじゃない。

 やはり王女でないと張り合いがないですわね。


 ニアンをやり込める気満々だったアリスティアが、不服そうな顔をしている事に、レイモンドは眉を下げながらクスリと笑う。


 そして彼は、片方の手をアリスティアの前に差し出した。


 掌を上に向けて。



「 美しい魔女さん。僕と踊って頂けますか? 」

「 ええ。勿論ですわ 」

 魔女だと言われて季を気を良くしたアリスティアは、ニッコリと微笑んでレイモンドの掌の上にそっと手を重ねた。


 彼はその手を持ち上げて、その細い指先に唇を落とす。

 甘く蕩けそうな顔をして。


 キャアッと女性達の声があちこちから上がった。



 ホールの真ん中に進み出ると、宮廷楽士達が待ってましたとばかりに音楽を奏で始めた。

 もう、何度も二人で踊って来た二人のお気に入りの曲を。


 柔らかな旋律の中での二人のダンスは、やはりうっとりと見惚れる程の美しいダンスだった。


 先程、レイモンドと若い令嬢達と踊ったダンスと比べるまでもなく。


 それもその筈で、永らく練習を重ねて来た二人のダンスは、人々に()()()()()()


 他国の王室の舞踏会で踊っても大丈夫なように、講師から教わったもの。


 何度も何度も二人で練習し、何曲ものレパートリーを覚えさせられた。

 他国の曲のダンスまでも完璧に。

 足が痛くて泣きそうになりながらも。



 ロイヤルブルーの衣裳を着たレイモンドが、アリスティアをクルリとターンさせると、漆黒のドレスのドレープがフワリと綺麗な弧を描いた。


 ギャラリーは、そのワールドクラスの美しい二人に、大いに魅了されるのだった。



「 もっと密着した方が効果があるかも 」

 アリスティアは、レイモンドに身体を寄せて、その逞しい胸に顔を寄せた。


 会場にいる女性達に見せ付けるようにして。


 レイモンドとの、初のダンスの機会を逃したニアンには勝ち誇ったような顔を向けた。

 皆の輪の中に混ざって、その他大勢になり悔しそうに爪を噛むニアンに。


 ホホホホホと笑いながら。



「 そのドレス……良く似合っている 」

「 魔女ですもの。黒のドレスが似合うのは当然ですわ 」

 アリスティアはウフフと得意気に笑って、クルリとターンをした。


 可愛い。


 レイモンドも、アリスティアが黒いドレスで現れるとは思わなかった。

 魔力を放出しての登場にも驚いたが。


 それがアリスティアの覚悟だと思えば、レイモンドも腹を括った。


 そして……

 自分の胸にピタリと密着して、ホホホホホと謎の笑いをしているアリスティアの頭に、そっと唇を寄せた。


 アリスティアの美しいデコルテに輝く、自分がプレゼントした瑠璃色の宝石のネックレスに満足しながら。




 ***




 ダンスが終わると、大きな拍手が湧き起こった会場だったが。

 レイモンドはアリスティアの手を引いて歩き出した。


 先程魔力を放って開けた扉に向かうのかと思いきや、レイモンドはギデオンのいる王座の間に向かったのだ。


 予定ではダンスを踊り終えると直ぐに退場する筈だったが。

 流石に両陛下に挨拶をしない訳にはいかないわよねと、アリスティアはレイモンドに手を引かれるままに歩いて行った。



 王座の間がある場所ほ、ホールよりも7段の階段を上った場所。

 大広間を見渡せる事が出来、皇帝陛下と皇后陛下が座る玉座が設置されている。

 周りには騎士達がいてその守りは厳重だ。



 レイモンドは階段を上った。

 アリスティアの足元を気遣いながら。


「 ? 」

 アリスティアは焦った。

 この階段を上る事は、アリスティアとて初めての事だったので。


 両陛下への挨拶は、階段の下でするのが常なのだが。



 玉座に座る両陛下に二人で挨拶を終えると、レイモンドはクルリと皆の方に向き直った。

 当然ながらアリスティアも自分の隣に立たせた。


 何をするつもり?


 不思議そうな顔をしながらレイモンドを仰ぎ見ているアリスティアに優しく笑い、その後レイモンドは皆の方を向き直った。



「 ずっと僕と婚約関係にあった彼女を、今更紹介するまでも無いが、ここにいるアリスティア・グレーゼ公爵令嬢が、世界を滅ぼす魔物を討伐した魔女だ 」


 レイモンドは、魔女アリスティアを社交界の場で正式に紹介した。


 「 え!? 」

 レイモンドを仰ぎ見ているアリスティアの視線に、レイモンドは自分の視線を送る。


 その甘い距離はまるで今からキスをするようで、皆はドキマギとした。


 そして……

 会場にいる皆からアリスティアに拍手を送られると、ニッコリと微笑みを浮かべたアリスティアは、ドレスの裾を持ち、膝を折って皆の称賛に答えた。



 しかしだ。

 拍手が治まるや否や、一人の男が階段の下に進み出て跪いた。


「 陛下に進言致します 」


 男は、ニコラス・ネイサン公爵。


「 申してみよ 」

「 我々は魔女が怖い。魔物を討伐した事の感謝をする気持ちは別にして、この場に魔女がいる事さえ怖いのです 」

 いくら皇太子殿下の恋人だとしてもと、言ったニコラスはその場で頭を下げた。



 アリスティアはレイモンドの耳に顔を寄せ耳打ちをした。


「 こいつを消しても良い? 」

「 だーめ! 」

 レイモンドが慌てて止めた。


 転生前にはニコラスには殺意を持った程で。

 今も、常に邪魔をしてくる彼が憎たらしい事には変わりはないが。



 ニコラスの進言に同調した大臣達や議員達が、彼の横に次々に跪いた。


「 私もネイサン閣下と同じ思いであります!魔女が太古の時代から忌み嫌われる存在である事は誰もが承知の事実 」

「 その魔力で街を破壊し、大量殺戮をした事は史実にも残っております 」


 議会では、レイモンドの想いを汲んでいた議員達までもが否を唱えた。

 魔女アリスティアを目の当たりにしたら、彼等もまた自分の身の危険を感じていた。


 国が崩壊する姿を想像して。



「 それで?そなた達はどうしたいのだ? 」

 玉座に座るギデオンは上半身を前に乗り出す仕草をした。


「 魔女は魔女の森に閉じ込めて、監視をするべきです! 」

「 陛下!今までもそうして来たではありませんか! 」


 この国には魔女に対する一つの認識がある。

 魔女の森にいるリタは魔女の森から出られない。

 それは魔女の森に人は入る事が出来ないからで。


 魔女の森に魔女を閉じ込めているから、人々は安心して暮らせしているのだと。


 実際にはリタは普通に街に出ていて。

 自分で育てた野菜を売ったお金で、日常品を購入すると言う生活をしているのだが。



「 皇太子。そなたの考えを申してみよ 」

「 はい 」

 レイモンドは隣にいるアリスティアを見やった。


「 ティア。僕の肩に乗って 」

「 ? 」

 レイモンドの突然の要求に驚きはしたが。


 コクンと頷いたアリスティアは、フワリと宙に浮かび上がった。


 そしてレイモンドの肩の上にお尻を乗っけた。

 いや、レイモンドの肩には乗ってはいない。

 魔力でお尻を浮かせているだけで。



「 ヒッ! 」

「 ま……魔女…… 」

 フワリと浮かんだ魔女の姿に、会場の皆は恐怖のあまり後退りをする。


 ニコラスや跪いていた男達は後ろに退けぞった。



 ここにいる殆どが、アリスティアの魔力を見るのは初めての事。

 助けを求めるように騎士達を見た。


 しかしだ。

 周りにいる騎士達は身動きすらしていない。


 騎士達は、空を飛ぶアリスティアを見た事があるのだから当然で。

 魔力を放って魔物(サラ)と戦うアリスティアを、必死で応援していたのは騎士達だ。



「 皆も知っているように、彼女は僕の事を大変慕ってくれている 」


 ええ。合っているわ。

 レイモンドの肩にいるアリスティアは、ウンウンと頷いた。


「 だから、彼女は僕の命令にはどんな事でも従う 」

「 あら?そんな事はないですわ 」

 アリスティアが透かさず答えた。


 いくらレイを好きでも、嫌な事は嫌だと言いますわよ。

 わたくしはそんな従順な女ではありません事よ。


「 ティア? ちょっと黙っていてくれないか? 」

「 ……はい 」

 レイモンドに叱られたアリスティアは、シュンとしてレイモンドの肩から床に下りた。


 フワリと下りたアリスティアに皆の顔は微妙だ。

 いつの間にかアリスティアのいる場所から、かなり遠くに移動している。



 あの議会の後。

 レイモンドはギデオンから言われたのだ。


「 魔女を娶りたければ国民の理解を得よ 」と。


 本来ならば皇太子の婚姻は、宰相のハロルドが尽力する事なのだが。

 実直な彼は、自分の娘の事だからと決して口を挟む事はしない。


 だから皇太子自ら動けと言う事なのだ。


 以前、ギデオンからは「 魔女は皇太子妃にはなれない 」と否定していたが、これは一歩前進したと言う事。



「 魔女は魔女の森で監視をする事は、僕も賛成だ。しかし僕達は魔女の森には入れない !」

「 あら? 入れま…… 」すわよと、言い掛けたアリスティアの唇を、レイモンドはムニュッと摘まんだ。


「 メッ 」と睨んで。



「 そう言う事から、魔女は皇太子宮で監視する事にする。()()()()として24時間監視をしよう。 父上!魔女の管理を僕に任せて貰えますか? 」


 王座に座るギデオンにレイモンドが頭を下げると、ギデオンは椅子から立ち上がった。



「 よかろう。魔女の管理場所を皇太子宮とする。魔女の森には誰も入る事が出来ないのだから、それが得策だろう。ハロルドはどうだ? 」


 魔女の森に二人が入れる事は既に報告されている。

 レイモンドの案に、ニヤニヤと笑うギデオンは会場の隅にいるハロルドに声を掛けた。


「 皇太子殿下の御心のままに 」

 ハロルドは頭を下げ、ハロルドの横にいたカルロスはガッツポーズをした。



 こうしてアリスティアは、皇太子殿下の魔女となった。
















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