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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第五章

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良き魔女をアピール




 ギデオン皇帝は、離宮の庭園から戻って来たレイモンドから、あの後の魔木との戦いを聞かされ困惑した。


 結果的に、魔物が討伐された事には違いないが。

 政府としては既に国民に向けて発表してしまっていたのだ。


 異世界に帰った聖女が、魔物を連れ帰り討伐したのだと。


 世界を救ったのは聖女。

 それは天のお告げ通りに。


  

 ここでギデオン皇帝を初め、政府の見解とレイモンドの見解が別れた。

 レイモンドは、聖女はアリスティアだと発表すれば言いと主張したのだ。


 そもそもタナカハナコは何もしなかった訳で。

 タイミング的に聖女だと認定しただけで、聖女かどうかも怪しい。


 ただ。

 ギデオンとしては、世界が滅びるかも知れない不安と恐怖の中で、聖女(タナカハナコ)が生きる希望になった事は確かな事。


 なので、聖女の存在を重要視したかった。



 それに……

 アリスティアが魔女だと言う事は、今は公表しない方が良いと言う考えだ。


 レイモンドの言う通りに、『 聖女はアリスティアだった 』と公表すれば、どうやって魔物を討伐したかを説明しなくてはならない。


 そうなれば、アリスティアは魔女だと公表しなければならないのは必須。


 魔女は昔から忌み嫌われる怖い存在。


 国民にとっては、恐怖の対象が魔物であろうが魔女であろうが然程変わりはないので、このタイミングでの公表は得策ではないと。


 因みに、国民達はこの国に魔女が存在する事は知っている。

 その魔女は魔女の森に住むリタと、最近現れた()()だ。



 魔女ゾイが隣国で人喰い熊を粉々にし、道端にある邪魔な大岩を粉々にした事は、ニュースになった事から知っている。


 それは、アリスティアが良き魔女をアピールしたからで。


 しかしその時も、やはり魔女は怖い存在だと言う声を上げた人々も少なからずいた。

 人喰い熊や大岩を一瞬にして粉々にする魔女が、自国に存在するなんて恐怖でしかないと。


 それを考えれば……

 やはりアリスティアが魔女だと公表する事は避けたい。

 それは父親してのハロルドの希望でもあった。


 何よりも。

 国民は既に『 聖女伝説 』を作り上げていた。


 国民にこれ以上は混乱する事は避けたい。



 そう判断したギデオンは、食事を終えた二人を皇宮にある応接室に呼んだ。

 そこにはギデオンの他には、宰相ハロルドがいるだけの。


 双方の親子面談だ。


 挨拶を終えた二人をテーブルを挟んだソファーに座らせ、ハロルドも席に着くと、ギデオンは徐に自分の考えを述べた。



「 そなた達が魔物を討伐してくれた事には感謝する 」

 レイモンドの負傷、アリスティアの魔力切れから、あの後、壮絶な戦いがあった事はギデオンやハロルドも理解していた。


「 当面は魔物は聖女が討伐した事にして、アリスティア嬢が討伐した事は、政府の記録書のみに記載し、後に発表すると言うのはどうかな? 」

 諭すように言ったギデオンは、珈琲の入ったカップを口に付けた。



「 嘘はいけませんわ! 」

 アリスティアは居住まいを正しながら、ギデオンを真っ直ぐに見た。


 ハロルドは身体が硬直した。


 まさか……

 陛下に対して、真っ向から否定の言葉を口にするとは。



 ギデオンは飲み掛けていたカップをテーブルの上に置き、アリスティアの次の言葉に耳を傾けた。


魔物(サラ)を討伐したのは聖女(タナカハナコ)ではありません。()()()()である魔女(わたくし)だと言う事は、紛うことなき事実ですわ! 」


 そう言い切ったアリスティアに、ギデオンは困ったように自分の眉を指先でなぞり、ハロルドは苦虫を潰したような顔をした。



 アリスティアは、更に辛辣な言葉を続ける。


「 これは、陛下とお父様が犯した失態を隠したいだけですよね? 当事者であるレイやわたくしの話も聞かずに国民に嘘の情報を発信してしまった事を反省して、ちゃんと訂正しなければなりませんわ! そうしなければ、後に真実を知った国民からの信頼を失う事になり兼ねません 」


 一気に捲し立てたアリスティアは、ハロルドの方を見やった。


「 今まで……政府は国民に真実を伝えて来たではありませんか! 」


 転生前のニコラス・ネイサン宰相が取った政策をアリスティアは知っている。

 皇宮全体に戒厳令を敷き、全てを秘密裏にした事を。


 魔物よりも……

 皇太子と聖女の結婚に重きを置いた事を。


 しかしだ。

 今生の宰相ハロルドは、全てをオープンにした。

 だから、きっとこの失態をしたのはギデオン皇帝だと言う事は想像出来た。


 そう。

 この件は、間違いなく皇帝陛下の()()()

「 陛下とお父様 」と言って自分の父親を失態の仲間にしたのは、アリスティアの温情だ。


 アリスティアは、他国の王女だけでは無く、自国の皇帝陛下さえも戒める事が出来る強い女だった。



 図星されたギデオンは、気まずそうな顔をし、天を仰いだ。


 アリスティアの為にと言う思いも、国民の混乱を避けたいと言う思いがある事も本当だったが、今更間違いだったと否定するのは、些か体裁が悪いと言う事も事実。


 そして……

 こんな風に否定されるのは初めての事で。



「 アリスティア! 言葉を慎みなさい! 」

 青ざめたハロルドがアリスティアを叱り付けた。

 ハロルドとて、皇帝陛下を嗜める者を見るなど初めての事で。


 ましてやそれが自分の娘。



 アリスティアはツンと顎を上げた。

 そして……

 今度は自分の横に座るレイモンドに、身体ごと顔を向けた。


「 それからレイ! わたくしは聖女ではありません! そんな嘘を国民に向かって吐いてはいけませんわ! 」


 矛先が自分に向いたレイモンドは、慌ててアリスティアの両の手を取り、自分の両の掌で包んだ。


「 天のお告げでは、世界を救うのが聖女なんだろ?だから魔物を討伐した君こそが聖女なんだよ。それに……君が聖女ならば、僕達は結婚出来るじゃないか!? 」


 アリスティアが魔女であるから皇太子妃になれないと、婚約を解消したのだ。

 アリスティアが聖女ならば、皇太子妃なれる筈だと。


 現に、転生前の自分は聖女と結婚をしたのだと言う事は、アリスティアから聞いた話だ。

 勿論、今生のレイモンドとしては、アリスティア以外と結婚したのは、全くの不本意な事なのだが。



 アリスティアは眉を顰めてレイモンドを一睨みした。


「 わたくしは魔女である事に誇りを持っております! だから……魔女として国民の前に立ちたいですわ。そして、正々堂々と()()()()()()()になりますわ! 」


 そう言い切ったアリスティアは、レイモンドを見やりながら微笑んだ。


 それは……

 魔女になった自分が、魔女として生きて行く事を決めた覚悟。



 なんて可愛らしい事を。


 レイモンドの胸は、アリスティア愛で射ぬかれた。

 ズッキューンとノックアウトされて。


「 レイ。わたくしは()()()()として、皆に認められますよう最善を尽くしますわ」

「 君は()()()()だよ。きっと国民も認めてくれる 」

 手を握り合ったままに、スッと立ち上がった二人はそっと抱き締め合った。


 溢れる想いに、父親達がいるのを忘れて。



 そんな二人を見ている父親達の胸は痛んだ。


「 レイモンドが皇太子で無ければ良かったのが…… 」

 ギデオンがハロルドに向かってそう呟くと、ハロルドは小さく頭を下げた。



「 そなた達はもう下がりなさい 」

 レイモンドの頭にある包帯が痛々しく、魔力切れを起こしたアリスティアもまだ少し顔色が悪い。


 長時間の拘束は忍びない。


「 では、失礼致します 」

 アリスティアがカーテシーをし、レイモンドが頭を下げると、レイモンドはアリスティアにエスコートの手を差し出した。


 満面の笑顔で。


 皇帝陛下の前でも、一歩も引かないアリスティアが頼もしくて。

 その白くて小さい手を握り締めた。



 部屋から退室する時、アリスティアは振り返ってギデオンを見やった。


「 陛下!魔物は()()()()に討伐されたと、国民達に発表して下さいね! お父様!()()()()を大見出しにして下さいね!」

「 分かった。分かった。そなたの言う通りにしよう 」

 絶体ですわよ!と、しつこいアリスティアに、ギデオンは片手を上げて答えた。


 眉尻を微かに下げて。


 そんなやり取りをする二人に、レイモンドはクックと肩を揺らした。

 フンムと、鼻息の荒いアリスティアの頭に唇を寄せながら。


 ()()()()()()()は頼もしいと笑って。




 ***




 そして……

 その日の内に政府から訂正の声明が発表がされた。


『 魔物を討伐したのは聖女ではなく()()()()


 そして……


『 魔物を討伐した()()()()は、アリスティア・グレーゼ公爵令嬢である 』


 アリスティアが魔女である事も、国民に向けて正式に発表された。



 国民はそれを冷静に受け止めた。

 何故なら、箒に乗った魔女と魔物の空中戦を多くの国民達が見ていたからで。


 やはり箒に乗っているのはどう考えても聖女ではなく魔女。

 寧ろ、魔物を討伐したのが聖女だと発表された事に困惑していた人々もいた。


「 やっぱりな! あれは魔女だったよな 」

「 天の御告げが間違っていたのか? 」

「 まあ、神様も間違う事もあるって事か 」


 祝い酒を飲み喜んでいる国民達には、最早、聖女であろうが魔女であろうがどうでも良かった。

 魔物が居なくなった事が何よりも重要な事なのだから。



 そして……

 その魔女がアリスティア・グレーゼ公爵令嬢だったと言う事には皆は驚いていた。


「 悪役令嬢が魔女だったとは…… 」

「 魔物を討伐してくれたんだ! 魔女万歳!」

「 公爵令嬢は魔女になったから、皇太子殿下との婚約を辞退したんだわ 」


 様々な声が上がったが。

 永く婚約関係にあった二人が、婚約を解消した理由にも人々は納得する事となった。

 公爵令嬢の病気が原因だとされていたが。


 それに関しては、特に女性達からの同情の声が集まった。



 アリスティアが魔女だと言う事が、概ね真摯に受け入れられた事に、ギデオンとハロルドは安堵した。


 国民の反応が何よりも心配だったのだから。


 他国にも勿論、()()()()が魔物を討伐した事を伝えた。


 世界に平和が訪れた。



 そうして……

 エルドア帝国の国民達が日常を取り戻して行ったある日。

 とある新聞に、ある記事が載った。


『 皇太子殿下が()()()()()()を皇太子妃にしようとしている 』


 その記事をリークしたのは、ニコラス・ネイサン公爵だった。













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