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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第五章

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10分のカウントダウン

 



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 しかしだ。

 世界を救う聖女を、元いた異世界に今から戻そうとしている。


 魔物が彼女に憑依しようとしているのならば、彼女がいなくなれば良いのではないのかと。


 それが天才ジョセフの考え。



 世界を救う聖女なのに、いなくなっても良いのかと言う懸念はあるが。

 どうにもタナカハナコが聖女とは思えないと言うのが、ギデオンが出した結論だった。


 今の今まで、彼女には聖女の片鱗は見い出せ無かった。

 何時かは能力が現れるのだと期待をしていたが。


 魔物を前にしても、聖女の能力が現れないのならば、彼女を聖女と認定した事が間違いだったのかと。


 それならば。

 世界を滅ぼす魔物が、千年前の魔女の魂などと言うややこしい事に対処する為にも、タナカハナコは必要がないと。


 我が国には魔女がいる。

 彼女の消滅の魔力ならば、魔物を消滅させる事が出来ると言うのもまた、ジョセフの考えだ。



 そんな事から、タナカハナコは元いた異世界にお帰り願おうと言う事になった。


 国防相は、魔物がタナカハナコに憑依すれば、タナカハナコごと消し去れば良いと主張していたが。

 それは全てが上手くいかなかった時の最終手段とした。


 彼女はまだうら若き乙女。

 何かの手違いで我が国に転生して来ただけならば。

 彼女を元いた異世界に戻す事が出来るのならば、それに越した事はないのだと。



 ギデオン皇帝は、魔物討伐に当たる全ての権限を皇太子レイモンドに与えた。




 ***




 銀色に輝くサラの魂が夜空に現れた。


 タナカハナコの存在がある限りは、やはり彼女に憑依しようとするのは必須。


 千年もの間、待っていた器なのだから。


「 ハナコを守れ! 」

 既に臨戦態勢に入っていたレイモンドが、抜いた剣を頭上に掲げながら騎士達に命令した。


「 御意! 」

 タナカハナコの周りを取り囲んでいた騎士達が一斉に剣を抜き、弓兵達は弓矢を構えた。



「 キャアーっ!! 私を守れだなんてぇ~~レイ様がカッコ良過ぎるぅーっ!!」

 タナカハナコは両手で両頬を押さえた。


 ただ。

 レイモンドはタナカハナコよりはかなり離れた場所にいるのだ。


 それがどうにも気に入らない。


「 普通は皇子様が守ってくれるものじゃないの? 」と、タナカハナコは口を尖らせた。


 可愛くない。


 タナカハナコに憑依し、レイモンドを連れ去る事がサラの目的ならば、二人を離れた場所に配置させるのは当然の措置。



 その時。

 自分の隣にジョセフがいる事に気が付いた。


「 あら?第一皇子が私を守ってくれるの? 」

 ジョセフはタナカハナコに返事をしないどころか、視線を合わせる事もしないで、ずっと空を見つめたままでいる。


 要は完全無視だ。



 その整った横顔を見つめながらタナカハナコは思った。


 背はレイ様よりは低いけど、この皇子もかなりカッコ良いのよね。

 でもね。

 何を考えているのか分からない男はごめんよ。


 ジョセフに求婚されたら困るなどと、無駄な事を考えている。


 ジョセフは何度もタナカハナコに何度も会いたいと言って来ていて、会えば熱心に自分の事を聞いて来たから、彼は自分の事を好きだと思っていて。


 勿論、全てが大いなる勘違い。

 ジョセフが興味があるのは異世界の事で、タナカハナコ本人には全く興味がないのだ。



 タナカハナコの話は、飛行機や新幹線や車が動いている程度の話。

 ジョセフが知りたいのはその構造や部品の事。

 しかし、普通の若い女が構造や部品など知らないのは当然で。


 タナカハナコの情報量では全く役に立たなかったが。

 スマホと言う実物があった。


 それは異世界の進んだ文明の代物だ。

 なのでジョセフは、スマホをタナカハナコから預かっている。


 全く作動しないスマホだったが。



「 そうだわ!私のスマホを早く返してよ! 」

 タナカハナコはジョセフに向かって頂戴の手を向けた。


 それは皇族に対しての有り得ない程の不敬な行為。

 団長や騎士達は怒りに震えた。

 だけど……

 このブスはもうすぐいなくなるのだとグッと我慢をした。



「 ねぇ。ス・マ・ホ!あれは戻った時に必要なんだから 」

 タナカハナコは早く出せとばかりに、差し出した手の指先をクイクイッとした。


 手に懐中時計を持ったジョセフは、アリスティアに視線を向けながら、タナカハナコに言い放った。


「 10分後にはそなたに返す 」




 ***




「 アリスティア嬢!後、10分だ! 10分この女に憑依させないようにしてくれ! 」

 アリスティアはコクリと頷いた。


 手には箒を持ったままで。


 後10分でタナカハナコがいなくなる 。

 わたくしを苦しめたタナカハナコが。


 それは転生前は勿論だが、今もそれは同じ。


 レイモンドの愛は自分にある事は分かっているが、やはり他の女がレイモンドの側にいる事はよろしくない。

 彼に当たり前のようにエスコートされている女などいらない。


 もう、婚約者でないからと、そんな想いは抑えに抑えていたが。


 アリスティアの中では、サラを消し去る事よりもタナカハナコを異世界に戻す事の方が重要になっていた。


 サラはその後に消し去れば良い。

 タナカハナコさえいなくなれば、それは容易い事に感じた。



 アリスティアは箒に跨がると、フワリと空に舞い上がった。


 すると……

「 ティア! 」

 アリスティアが視線を下に向けると、そこにはアリスティアに向けられるレイモンドの不安に借られた顔があった。


「 レイ…… 」

 レイモンドの下がった眉毛に、胸がキュンとしたアリスティアは急旋回し、フワフワと浮いたままでレイモンドの前に止まった。


「 本当に大丈夫か? 」

「 たったの10分ですわ! 」

 アリスティアは自信たっぷりに微笑むと、レイモンドの唇にチュッと軽くキスをして、直ぐに上空に登って行った。



 魔女になったアリスティアの赤い瞳は、妖艶でゾクゾクする程に美しい。

 近くにいたカルロスとオスカーでさえも、妹の美しさに見惚れる程で。


 暗い空に浮かぶのは銀色の光のサラの魂。


 その銀色の光に向かって、箒に乗ったアリスティアが近付いて行った。



 魔物VS魔女の戦いが始まった。


 一定の距離まで近付くと、指先に魔力を込めた。

 次の瞬間。

 消滅の魔力を放った。


 目も眩むような強い銀色の光が夜空に輝いた。


「 やったか!? 」

 ワッと騎士達の歓声が上がる。


 サラはアリスティアの魔力を辛うじて交わした。

 そして、時の魔力を使ってその場から消えた。



 アリスティアの消滅の魔力は凄い威力だ。

 彼女もかなり魔力を消耗してる筈だとサラは考えた。


 魔女の魔力は限りがあるのだ。

 自分の身体のエネルギーを魔力に変えているのだから当然で。

 サラが時戻りの剣を作った後はすっかり老婆のようになった程で。


 サラは、アリスティアが魔力を使い果たした後に、レイモンドを連れ去れば良いと言う事に思い至った。


 アリスティアを挑発し、彼女の魔力を使わせる作戦だ。

 当たれば自分が消滅してしまうから慎重に。



「 キャアッ! 」

 またもやアリスティアからの容赦ない攻撃があった。


 彼女の魔力は、時空間の中にまで入って来る事が出来るから始末が悪い。


 サラはアリスティアの攻撃から必死で逃げた。

 縫う様にして夜空を動き回り、アリスティアを挑発した。



「 今度は皇宮の空が光っているぞ! 」

 そんな二人の攻防戦を民衆達が見ていた。


 大聖堂の上空で繰り広げれていた攻防戦が、皇宮の上空で繰り広げられているのだから。


 しかし先程は、銀色の光が点いたり消えたりしていたが、今はずっと輝いたままにあちこちに動き回っている。


 そして……

 その後を追うように、箒に乗った魔女が追い掛け回しているのだ。


「 一体何が起こっているのか!? 」

 人々は不安に借られながら暗い夜空を見上げていた。


 先程よりは、格段に飛び方が上手くなった魔女を応援しながら。




 ***




「 あれ? ティアの魔力が無くなって来たのか? 」

 アリスティアの様子が明らかにおかしい。


 魔力を込める指先の銀色の光も、少しずつ弱々しくなって来ていて。


 そう。

 消滅の魔力は最大級の魔力。

 その消費量はやはり凄いもので。


 サラの挑発に乗り、放出しまくっていた事から、アリスティアの魔力も底が突き始めていた。



 まだなの?

 まだ10分経たない?


 ジョセフを見やれば懐中時計に目をやっている。


 今、攻撃を止めれば、サラはタナカハナコに憑依する。

 今度こそレイを連れ去られるかも知れない。


 アリスティアは指先に残りの魔力を込めた。

 なんて長い10分なのかと思いながら。



「 ティア! もう良い!降りて来るんだ!! 」

 レイモンドがアリスティアを呼んだ。


 10分が長く感じるのはレイモンドとて同じ。


 今までも……

 魔力切れになったアリスティアを、何度も目の当たりにした。

 ぐったりとして苦しそうに目を閉じているアリスティアを。


「 でも……まだ10分経ってないわ 」

 アリスティアがレイモンドを振り返ると、誰かが彼の隣に現れた。


 それは……女?


 薄暗くて顔はよく見えないが、ドレス姿だから間違いない。


 どうしてここに女が?

 まさかタナカハナコ?


 タナカハナコがいる場所に目をやると、騎士達の中にいる。

 あのオカッパのシルエットは正しくタナカハナコ。

 それに奴は丈の短いスカート姿。


 アリスティアはもう一度女に視線を移した。


 すると……

 女はレイモンドの腕に手を回した。

 立派な胸を押し付けているように見えた。


 キーッ!!


「 わたくしのレイに触らないで! 」

 急旋回したアリスティアは、二人に向かって突っ込んで来た。


「 わーっ!! ティア! 」

「 止めろ! 」

 レイモンドとカルロスの声が辺りに響く。


「 誰がわたくしのレイに……えっ!? 」

 アリスティアの目に飛び込んで来た女の顔は……


 わたくし?



「 えっ? えっ?えっ? 」

 アリスティアは急ブレーキをかけた。

 箒の柄を上に上げて。


 レイモンドに腕を絡めているのはアリスティア自身。


 なんてお似合いの二人なの。

 美男美女の……


 などとうっとりしている場合ではない。


 それは婆さん達の誰か。

 誰かがアリスティアに変身したのである。


 いくら嫉妬深いアリスティアでも、流石に婆さん達には嫉妬心は湧いては来ない。

 変身したアリスティアは、今もレイモンドに腕を絡めて、胸を押し付けてはいるが。


 婆さん達は妖精なので。


 皆の移動に婆さん達も付いて来ていて。

 何時もならとっくに寝ている時間なのだが、今夜は頑張っていた。


 婆さん達は歴史の傍観者。

 又は野次馬とも言う。



 因みに変身アリスティアの横には、若きセドリックの他に()()が一人いた。


 みすぼらしい身なりをした男が。


 誰に変身したの?……と聞く前にオスカーがやって来た。


「 どうだ?魔力が戻っただろ? 」

 オスカーがニヤニヤしながらアリスティアの側にやって来た。


「 戻った……かも 」

「 本当に? 」

 アリスティアはレイモンドにコクンと頷くと、自分の指先に魔力を込めた。


 指先には強い銀色の光が輝いていた。

 魔力は完全に戻っていた。


 アリスティアの魔力の根元は嫉妬。

 先程までの身体のキツさが嘘のようになくなっていて。


 エネルギーが身体に溢れている。


「 まだまだ大丈夫ですわ! 」

 アリスティアはレイモンドに向かってピースをした。


 可愛らしい。

 死にそうだ。



「 うわーーっ!!! 」


 その時、空を見上げていた騎士達が叫び声を上げた。


 見れば銀色のサラの魂が、タナカハナコに向かって飛んで来た。


 弓兵達が一斉に矢を放ったが、魂に物理攻撃など効く筈もなく。

 矢は銀色の魂を通り抜けて地面に落下して行った。



「 しまった!! 」

 レイモンドや皆が青ざめる中、アリスティアが再び空に浮かんだ。


 凄い勢いでタナカハナコに向かうサラに、自分の指先を向けた。


 ダメ!

 間に合わない。


 銀色の光は、タナカハナコの身体に憑依した。


 万事休す。



 刹那!

 タナカハナコの顔面が光り輝いた。

 それは誰も見た事もない光。


 その瞬間。

 タナカハナコは、真っ直ぐ空にスウウと浮かび上がって行った。


 高く高く。

 丈の短いドレスが揺れている。



 やがて空が銀色に光ると……空がパカッと割れた。

 それはタナカハナコが転生して来た時と同じ。


 タナカハナコはそこに入って行った。

 まるで吸い込まれるように。


 そして……

 またもや空が銀色に光ると、空は静かにゆっくりと閉じた。


 何事もなかったように、暗い空には無数の星達が瞬いていて。

 辺りは水を打ったような静けさに包まれた。



 タナカハナコはいなくなった。














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― 新着の感想 ―
ついに! ついにっっ!!! かなり手に汗握るハラハラなスペクタクル場面なのに、 空にすぃっと吸い込まれていくブスの絵面に笑ってしまいました。
よっしゃあ!お帰り遊ばせ!
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