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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第五章

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お帰り下さい

 



 サラの魂は再びタナカハナコの身体に憑依した。


 アリスティアの身体と違い、この身体はやはり居心地が悪い。


 ……が、背に腹は変えられない。


 自分が成仏出来ない魂だと知った今。

 この身体に憑依しなければ自分の未来はない上に、皇太子妃になりたいと言う夢も叶えられなくなる。


 魔女であるアリスティアには、もう憑依出来ないのだから。



 アリスティアを見れば、遠くの空でプカプカ浮いていて。

 一向に近付いては来ないでいた。


「 間に合わないわね 」

 それを確かめながらサラはクククと笑った。

 サラの魔力が攻撃的で無いからと安心しているんだわと。


 レイ様を誰もいない所に連れて行けば良いのよ。

 私とレイ様しかいない世界なら、こんなブスでも愛してくれる。


 それが男の性。


 もっと早くにそうすれば良かった。

 セドリック陛下()()()()拘らずに。


 サラの魔力は時空間を自由自在に移動する魔力。

 アリスティアの空間を消し去る魔力で、レイモンドを連れ去る事を邪魔をされたが。

 離れていれば何処へ移動したのかは分からなくなる。


 そう。

 アリスティアが遠い空に、浮かんでいる今が最大のチャンスなのである。



 そしてその時、レイモンドが現れた。

 サロンに繋がるダイニングから。


 次の瞬間。

 サラがレイモンドに向かって駆け出した。


「 レイ !危ない! 」

 いち早くサラの動きに気付いたオスカーが、サラの前に立ちはだかろうとすると、「 お兄様! 邪魔! 」と言う叫び声がした。


「 えっ!? 」

 見ればアリスティアが物凄い顔で迫って来ていた。



 空から急降下で降りて来る。

 まるで、馬をトップスピードで走らせる騎手の様に。

 上半身を姿勢を低くして。


「 うわーっ!!! 」

 オスカーは慌てて後ろに下がった。


 身体に接触するスレスレの位置を、アリスティアが通って行く。


 凄いスピードで。



 アリスティアがサラに突っ込むと、「 ギャッ! 」と言う声と共にサラは弾き飛ばされた。

 銀色の強い光がサラの身体を包んでいる。


 その衝撃でアリスティアもゴロゴロと転がっていて。


「 えっ!? 」

「 いつの間に? 」

 今の今までヨタヨタと空を飛んでいたと言うのに。


 正しく瞬間移動。


 レイモンドの危機には、どんな状態であろうとも現れるアリスティアに、カルロスもオスカーも今更ながらに感嘆する。


 流石だと。


 感嘆するオスカーを押し退けて、レイモンドはアリスティアの側に駆け寄った。


「 ティア! ……大丈夫か? 」

「 魔力を纏っているから大丈夫よ 」

「えっ!?そんな事も出来るようになったの? 」

 魔力のレベルをあげているアリスティアには驚くばかりで。


 レイモンドから抱き起こされたアリスティアは、直ぐに片方の手を伸ばした。

 地面にお尻を付き、上半身を起こして頭を左右に振っているサラに向かって。



 指先が銀色に光る。

 この至近距離ならば完全にサラを消せる。

 タナカハナコごとにはなるが。


 現にアリスティアは、転生前にタナカハナコを殺ったのだ。

 魔力が命中し、力なく宙に舞い上がり床に落ちる光景は今にも夢に見る程で。


 それでも今、殺らなければならない。

 魔物は世界を滅ぼす存在なのだから。


 アリスティアは覚悟を決めた。

 聖女を殺した大罪人になろうと。


 アリスティアは指先に最大限の魔力を込めた。



「 レイ。命令して! タナカハナコごとサラを消せと! 」

「 ティア! 君がそんな事をしなくて良い! 」

 レイモンドはアリスティア止めた。


 タナカハナコに向けられている指先を、自分の掌で包み込んだ。

 アリスティアの瞳からは、涙がボロボロ溢れていたのだ。

 握った手は少し震えていて。


 銀色の魂であるならば消し去る事も出来るが、流石に人の身体ならば誰だって躊躇する。

 ましてや、サラを消し去ると言う事は、タナカハナコも消し去る事になるのだから。



 転生前には聖女を殺ったアリスティア。

 今でもそれで苦しんでいる。

 きっとこの後。

 彼女は自分の罪を許さない筈だ。

 

「 君にこれ以上辛い想いをさせたくはない 」

「 ……でも……今、消さなきゃ…… 」

「 良いんだ……別の方法を考えよう 」

 レイモンドは優しくアリスティアを抱き締めた。

 黒いローブの上から背中をゆっくりと撫でながら。



 その時。

 フラフラしながら立ち上がったサラが、アリスティアをキッと睨み付けた。


「 ちょっと!痛いじゃん! あんた!私に何かした? 身体中が痛いんだけど?」

「 えっ!? 」

 アリスティアを抱き締めていたレイモンドも、抱き締められていたアリスティアもそのままタナカハナコを凝視した。


 この口調に馬鹿そうな顔付き。

 ここにいるのはタナカハナコだ。

 サラとタナカハナコの違いは一目瞭然。


「 お前は……タナカハナコなのか? 」

「 ? 私が誰に見えると言うのよっ? 」

 オスカーの問いにタナカハナコは声を荒らげた。


 何時もレイモンドから自分を遠ざけるオスカーが、タナカハナコは嫌っている。


 ()()の兄であるから尚更に。



 アリスティアに突進された時に、タナカハナコの身体からサラが出たのだと皆は理解した。


 そう。

 タナカハナコとぶつかる瞬間、アリスティアは自分の魔力を纏っていた。

 その魔力が、タナカハナコの身体からサラの魂を放り出した形になったのだ。


 あの銀色の光はサラを魔力で飛ばした光なのだと。



 価千金だ。

 再びサラの魂をタナカハナコから出したのだ。

 四面楚歌だった状況から動き出したのだ。


 アリスティアが介入している今。

 怖いものは何もないと、オスカーは改めて思った。


 転生前とは違う今生の未来は……明るい。



「 直ちにその女を第一演習場に連れて行け! 」

 騎士達に命令したのはジョセフだ。


 もう一つ明るい未来があった。

 それは間違いなく、ジョセフ第一皇子の介入なのであった。




 ***




「 その女を魔物に憑依されないように守れ! 」

「 御意! 」

 ジョセフの命に、騎士達が倒れているタナカハナコの側に集まって来た。


 バタバタと足音を立てて。


「 えっ!? 何なの? 」

 屈強な騎士達に囲まれたタナカハナコは……

 怖がるどころか何だか嬉しそうにしている。


 男達に囲まれる事など年齢分無かった事で。

 それも第一皇子からは『守れ』と命令されているのだ。


 良き良き。

 ここで動けない振りをすると、絶対にお姫様抱っこをしてくれる筈。


 それは憧れのお姫様抱っこ。


 騎士達にお姫様抱っこをされるのも良き。

 でも、お姫様抱っこならばやっぱり皇子様よね。

 私がお願いしたらレイ様は拒まない筈。


 なんたって私は聖女。

 今までもレイ様はどんなお願いも聞いてくれたのよ。

 あの、朝食の件以前では夕食も一緒に摂ってくれていたのだから。


 タナカハナコはニコラス・ネイサン公爵を恨んでいた。

 奴さえいなかったら、今頃はレイモンドとは良い関係になっていた筈だと。



「 レイ様~痛くて立ち上がれないのぉ~ 」

 タナカハナコは甘えた声を出した。


「 ちょっと騎士達! どいて! 」

 少し後ろに下がった騎士達の間から、レイモンドに向かって両手を差し出した。


 可愛くない。



「 目障りだ!早く連れて行け! 」

 ジョセフは騎士達に命令した。


 何時も無機質な顔のジョセフさえも、ウザイと言う顔になっている。

 勿論、この場にいる皆も。


 流石タナカハナコだ。



 一際大きい騎士がタナカハナコの側に立った。

 大男の騎士は、無言のままにタナカハナコを自分の肩に抱き上げた。


「 キャア! ちょっと!レイさまぁ~」

 短いドレスから、足をバタバタとさせているタナカハナコを騎士が運んで行った。


 まるで荷物を運ぶかのように、エッホエッホと。


「 私は聖女よ!お姫様抱っこを~……… 」

 タナカハナコの声が小さくなって行った。



「 我々も演習場に行こう 」

 タナカハナコが運ばれる姿を見送りながらめた、彼はずっと懐中時計を持ったままだ。

 やたらと懐中時計に視線を落としていて。


 そして片手はずっと上着のポケットに突っ込んでいる。


 ポケットに何かがある?



「 兄上?そこで何をするつもりですか? 」

 レイモンドの問いかけには何も答えず、ジョセフは彼の隣にいるアリスティアの顔を見据えた。


「 そなたは、魔物が現れてもある時間まではあの女に憑依しないようにして貰いたい 」

 勿論、消し去る事が出来れば、さっさと消し去っても構わないと言って。


「 兄上?ある時間とは、何の時間なのですか? 」

「 あの女が転生して来た時間だ。同じ時間ならば、もしかしたら元いた異世界に戻る事が出来るかも知れない 」

「 確かに…… 」

 レイモンドはジョセフの説明に納得をした。



 しかしだ。

 ただ、演習場にいたからと言って異世界に戻れるのかと言う疑念が出て来る。


 それはアリスティアも同じように頭を捻った。

 少し離れた場所でジョセフの話に耳を傾けてにいるカルロスとオスカーも然りで。


「 憑依出来る器がなくなれば、その後の魔物討伐は容易くなる 」

「 勿論、それはそうですが……でも、どうやって異世界にタナカハナコを戻すのですか? 」

 今度はアリスティアが口を開いた。



「 私に策があると言ったろう? 」

 ジョセフは、不思議そうにするアリスティに向かって微笑んだ。


 それは、何時も無機質な顔をしているジョセフとしては珍しい顔。


 ティアには優しい口調になってる事に、兄上は気付いているのだろうか?

 優しく微笑んだ顔など、アリスティアにしか向けられない顔だ。


 やはり兄上は……



 その時、ギデオンが隣の応接室から出て来た。

 この騒ぎをハロルド達と共に一部始終を見ていたのだ。


 先程までは国防相と共に様々な意見を交わしていたが。



 レイモンドが慌ててギデオンの元へ駆け寄って行った。

 自分とアリスティアの無事を報告する為に。


 簡単に事の詳細を話しながらもレイモンドは考えていた。


 まさか自分の父親と、騎士団の団長と関係を結ぼうと思っていたなんてと。

 それを思うと身震いがする。


 勿論、この話はアリスティアと二人だけの秘密なのだが。


 もしも本当にそんな事になったのなら……

 千年前の女であるサラの存在は、色んな意味で危険だと改めて思うのだった。



 ギデオンを先頭に一行は演習場に向かった。


「 僕達も行こう 」

 レイモンドがそう言うと、アリスティアは箒に跨がった。


 フワリと浮かび上がると、レイモンドの歩みに沿って付いて行く。


 彼の肩辺りをフワフワと浮かんでいる。

 先程は箒のコントロールが出来なくて苦戦していたが。


 今は上手に乗っている。


「 僕の護衛は魔女なんだね 」

 産まれた時から、護衛のいる暮らしが当たり前だった。


 現にギデオンの周りにも、ジョセフの周りにも護衛の騎士達がいる。

 勿論、レイモンドの周りにも。


 アリスティアがいるから少し離れた位置にいるが。



「 そうですわ!陛下からレイを守るようにと、わたくしに命が下されたのですからね 」

 アリスティアがフンムと鼻息を荒くする。


「 父上から命が下されたのが理由なの? 」

 レイモンドが眉を上げて、悪戯っぽい顔をアリスティアに向けた。


「 ……レイがサラに取られるのは嫌ですわ 」

 ちょっとスネたように言うアリスティアに、レイモンドは満足そうな顔をした。


 アリスティアの揺らぎない愛に。



 レイモンドの横でフワフワと箒に乗ってついて来るアリスティアに、自分の掌を上にして差し出した。

 アリスティアが手を乗せると、レイモンドはそっと引き寄せた。


 箒に乗ったままに、フワリとレイモンドの横に並ぶ。


「 好きだよ 」

 アリスティアの耳元でそう囁くと、アリスティアは嬉しそうな顔をして。


「 当然ですわ 」

 そう言って胸を張るアリスティアが愛しくてたまらない。


 レイモンドは自信たっぷりのアリスティアが大好きだ。

 自分への愛も、自分からの愛も、信じて疑わないアリスティアが。


 それは幼い頃からずっと。



 皆は演習場に到着した。

 既に運ばれて来たタナカハナコは、騎士にブーブー文句を言っていた。


 お粗末に運ばれた事に怒り心頭で。

 荷物じゃないんだからと。


「 ここで何が起きるって言うのよ? 」と言うタナカハナコの言葉には、皆が賛同した。


 彼はここで何をするつもりなのか?


 ジョセフを見れば……

 やはり手の中にある懐中時計をじっと見つめていて。


 皆は固唾を飲んで時が来るのを待った。

 静かな演習場に、タナカハナコだけがギャアギャアと騒いでいたが。



 今宵は新月。

 もうすぐ聖女が転生して来た時間が来る。



 やがて……

 夜空に銀色のサラの魂が現れた。
















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― 新着の感想 ―
次の更新が待ち遠しい・・・! アリスティアの一途っぷりがもう可愛くて可愛くて。 ・・・とか言いつつも。実は別の箇所ににやりと致しておりました。 「大男の騎士は、無言のままにタナカハナコを自分の肩に…
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