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未来を変える為に魔女として生きていきます  作者: 桜井 更紗
第五章

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魔女は夜空を箒に乗って




 サラは待った。

 レイモンドの唇が自分に重なる事を。


 アリスティアの顔と身体で。

 あの美しい皇太子殿下と、口付けを交わす事にドキドキと胸をときめかせながら。


 しかしだ。

 待っていても一向に触れて来ない。


 薄目を開けると、自分の目に飛び込んで来たのは、レイモンドとアリスティアが口付けをしている姿。


 えっ!? これは?


 私は……

 追い出された?




 ***




「 レイ。わたくしですわ……だから安心して 」

「 ……遅かったね 」

 アリスティアならば、自分とサラの口付けを絶対に看過する事など出来る筈がないと思っていて。

 身体はサラに憑依されていたとしても。


 レイモンドはアリスティアの唇に自分の唇を重ねた。

 とても嬉しそうに。


 キスをしているのは間違いなくアリスティア。

 サラが憑依していた時とは全く違う。


「 ティア……愛してる 」

 唇を離した二人はコツンと額を合わせた。



「 仕方がなかったとしても、わたくし以外の女とのキスは嫌ですわ 」

「 うん。ごめんね 」

 レイモンドの首に回していた手を離したアリスティアは、自分の指先でその形の良い唇をチョンチョンとした。


 そのスネたような所為にレイモンドは胸厚だ。

 やはり可愛くてたまらない。



 危なかったわ。

 レイがサラにキスする所だったわ。


 何とかサラを成仏させようとするレイの立場ならば、キスをする事も仕方ないと理解はしているが。

 流石にキスの相手が自分の唇でもそれは無理。


 中身は自分ではないのだから。



 アリスティアが、サラを追い出す事に遅れたのには理由がある。

 彼女の頭の中にある記憶に触れていたのだ。


 魔力の持たないタナカハナコは、サラに憑依されれば自我はなくなるのだが。

 しかし、魔女のアリスティアならばその魔力の強さで自我を保てるのである。


 なので、サラに憑依されたアリスティアは自分自身の頭の中を閉じた。

 サラに覗かれないようにと。

 そして、反対にサラの頭の中を覗いていたと言う訳だ。



「 サラは……一途な女では無かったわ 」

 若きセドリック王に逢いたい想いで、千年も待っていた事には同情すらしていた。


 その一途な想いは自分にも共通する想いだと。


 しかしだ。

 サラはセドリック王だけでなく、騎士達とも関係があったのだ。

 セドリック王の側妃になってからも何人かは。


「 だから、セドリック王に一途な女であると言う認識は間違っておりますわ 」

「 ……そうか…… 」

 アリスティアの話にレイモンドはショックを受けた。


 レイモンドとてアリスティアと同じで、サラの一途さには胸を打たれていた。

 平民だった事で王妃になれなかった事にも。


 それだから。

 約束の場所で口付けを交わせば、その想いが成就すると思った。

 成就すれば彼女の魂が成仏出来るかと。


 性に抱懐な時代の人間だから、それが今の感性とは違う事は仕方が無いが。

 それにしてもと、レイモンドは少しガッカリした。



「 それに…… 」

 アリスティアは口ごもった。

 サラは更にショックな事を考えていたのだ。


「 何?言ってみて 」

「 わたくしの身体なら……レイだけでなく、団長や……その……陛下とも関係を持てると……思っているわ 」

 若いレイモンドも良いが、ロマンスグレーの渋い男にも惹かれると。



「 な……何だって!? 」

 レイモンドはすっとんきょうな声を上げた。


 今生は、レイモンドに恋をしているのかと思えば。

 とんでもない女だった。


 これならば、レイモンドだけを狙うタナカハナコの方がまだマシに思える程で。



 アリスティアはレイモンドの胸に顔を埋めた。

 両手をレイモンドの腰に回して。


「 わたくしの身も心もレイだけのものよ 」

「 うん 」

 ウンウンと何度も頷きながら、レイモンドはアリスティアをもう一度抱き締めた。


 産まれた時から自分だけを一途に想ってくれるアリスティアが、どれだけ尊い存在なのかを実感する。


 嫉妬深い悪役令嬢大歓迎だ。



 それにしても……

 女って怖い。




 ***




 疲弊したサラの魂は暫く空を漂っていた。


 アリスティアの魔女の能力は高い。

 その強い魔力で、サラの魂は弾き飛ばされた。

 アリスティアの強い魔力は、サラのエネルギーをも弾き出した言う訳だ。


 そして、憑依したアリスティアの身体に、何の感情も感じられなかったのは、アリスティアが全てをコントロールしていたからだったのだ。



 あの不細工な女の身体に戻らなければ。


 アリスティアに憑依出来ないのなら、タナカハナコに憑依するしかない。

 千年探して見付けた器は、二つしか無いのだから。


 サラが時の魔力を使おうとした時。


 銀色の魔力が横切った。

 いつの間にか外に出て来ていたアリスティアが、消滅の魔力を放ったのだ。


 一際強く輝いた魔力は、サラの直ぐ側に黒い穴を空けた。


 空間を消し去ったのだ。

 直ぐに閉じてしまったが。


 アリスティアを見れば、指先をサラに向けている。

 ミルクティ色の髪はフワフワと空中で揺れ動き、その瞳の色は赤い。


 その妖艶な美しさはサラも見惚れる程に。


 全く口惜しい。

 あの身体は私の身体。

 折角、手に入れたと言うのに。



 サラは時の魔力を使った。

 辺りは銀色に包まれ時の空間に入った。


 誰もいない空間にホッとする。


 刹那!

 空間にアリスティアが入って来た。

 オーホホホと高笑いをしながら。


 そうだった。

 この女の魔力は時空間をも消し去る事が出来る魔力。


 そして……

 直ぐにアリスティアの指先が銀色に耀いた。


 その顔は本気だ。

 狂気すら感じる顔。

 恐ろしく冷たくて……

 そして美しい。


 ()()()()

 恐怖がサラを支配する。


 サラはタナカハナコに向かって飛んで行った。



 レイモンドは夜空を見上げてその様子を見守っていた。

 拳を強く握り締めながら。


 何も手出しが出来ない事が歯痒かった。


 今まで魔物討伐に向けて訓練に訓練を重ねて来たが、まさか魔物が魂だとは思ってもみない事だったのだから。



 サラの魂が皇宮に向かって飛んで行くと、直ぐにアリスティアが空中から降りて来た。


 アリスティアを抱き止めようと、両手を上げたレイモンドの腕の中に。


「 ティア。大丈夫か? 怪我はないか?」

「 ええ 」

 アリスティアの肩に顔を埋めながら、レイモンドは心底安堵した。


 サラの魔力が、攻撃性のない魔力なのが幸いだった。

 彼女が、アリスティア程の攻撃魔法を持つ魔女だったならばと考えれば、ぞっとする。


 尤も、そんな魔女ならば他の魔女達と同じ様に、魔力の暴走で早い内に処刑されていただろうが。


 それは転生前のアリスティアのように。



 レイモンドは、ここに来てサラの目的は何なのかと気になっていた。

 今の彼女に、世界を滅ぼす程の魔物と言う片鱗は見えない。


 寧ろ、その力があるのはアリスティアの方だ。

 オスカーが言う、魔物はアリスティア説は笑えない冗談だと。


 サラの望みは皇太子妃になりたいと言う事。

 だからこそ皆が困惑していた。


 ギデオンやハロルドも手を駒根いているのは、なにも彼女が聖女に憑依している事がその理由と言う訳ではなかった。


 セドリック王に対するその一途な想いには、同情に値する事だったからで。


 全く一途ではなかったが。



『 近い未来に魔物が出現する。世界を救うのは帝国に現れる一人の聖女 』


 その聖女を補佐する為にずっと準備をして来た。


 世界を滅ぼす事態とは何なんだ?


 今のサラは完全体ではないと言う。

 それはリタの見解だから間違いない。


 だからこそ魔物(サラ)が完全体になる前に、成仏して貰う事を最優先に対処しなければならないと。


 完全体になれば……

 どんな惨事が起こるのだろうか?


 それは気にはなるが。

 最悪の事態になると言う未来があるならば、未然に防ぐ事に尽力する事が国を守る者の責務。


 それを信条として皆は動いているのである。


 全ては聖女を中心に。



「 ごめんなさい。消しそこなったわ。サラはタナカハナコの身体に再び憑依しますわね!」

 それは間違いない。

 憑依出来る身体は自分と彼女だけなのだから。


 今から追い掛けますわと言って、アリスティアは大聖堂の壁に立て掛けてあった箒を手に取った。


「 ? ……それで何を? 」

「 魔女の移動は箒ですわ! 」

 赤い瞳をキラリと輝かせたアリスティアは、レイモンドの頬にチュッとキスをすると、箒に跨がりフワリと宙に浮いた。


 魔女と言えばその移動法は箒。


 幼い頃に読んだ絵本に描かれていたように。

 箒に乗って夜空を優雅に飛ぶ魔女に憧れていたのだ。



「 レイはリタ様達と一緒に来て 」

「 えっ!? 」

 アリスティアにキスをされて嬉しそうにしていたレイモンドは、アリスティアの視線の先を見た。


 婆さん達が部屋の中に入って行く所で。

 その姿は婆さん達ではなく、若きセドリックの姿だったが。


 婆さん達は消えたサラ(アリスティア)とレイモンドを、リタの道を使って追い掛けて来ていたのだ。


 王太子時代のセドリック王の姿のままで。


 婆さん達は歴史の傍観者。

 又は野次馬とも言う。



 箒に跨がったアリスティアはフワリと高く舞い上がり、夜空に消えて行った。

 アリスティアの甘い残り香が、風に乗ってレイモンドの鼻を擽る。


 そう言えばここに来たのはサラに憑依されたアリスティアと一緒に来たのだった。

 今、リタ達を逃せば徒歩で帰城しなければならない。


 それも困難なのだが。

 リタの道を通れる事にワクワクする。

 レイモンドは慌ててセドリック達の後を追った。



 セドリック達はダイニングに行くと、先頭のセドリックから床に沈み出した。

 レイモンドは咄嗟に後方のセドリックの手を取った。

 二番目にならんでいるセドリックの手も反対の手で。


 アリスティアからは、道を通るにはリタ達と手を繋ぐのだと聞いていたので。


 そうしてレイモンドも床に沈んで行った。

 両手にセドリックで、何だか妙な気持ちを抱えながら。


「 うわっ!? 」と言う驚きの声と共に。




 ***




「 あれは何だ!? 」

 皇都の空で繰り広げられるている激しい銀色の光に、民衆達が騒ぎ初めていた。


 魔物が現れたと言う事は政府から発表されていた。

 それは皇宮の離宮に。


 非常事態宣言が皇帝陛下から出された事から、皆は自宅で静かに待機をしている状態にあった。



「 もしかしたらあの銀色に光るものが魔物なのか? 」

 空では、明らかに異変が起きている事だけは分かった。


 銀色の光は強く光ったり消えたりとしていて、まるで何かが何かと戦っているかのように見える。


 時に女の高笑いも聞こえて来る。

 それがとても不気味に。


 不安を胸に抱えながらも窓から空を見上げたり、外に出て空を指さしながら近所の者達が集まって議論をしたりと、その騒ぎはどんどんと大きくなっていった。



 やがて銀色の光は皇宮に向かった飛んで行った。


 そして……

 その銀色の光を追うかのように、夜空に何者かが浮かび上がって来た。


 よく見れば箒に乗っている。


 箒に乗って空を飛ぶのは魔女が定番。

 ミルクティ色の長い髪は多分女。

 黒のローブ姿なのもやはり魔女だと想像出来る。



「 魔女だ!! 魔女が空を飛んでいる 」

「 魔女の森に住む魔女が魔物なのか? 」

 魔女と言えば魔女の森に住むリタの事。


 今いる魔女は大昔の魔女とは違って、人々の前には現れず、魔女の森で静かに暮らしている。


 それが人々の魔女に対する認識。



 魔女は忌み嫌われる存在。

 昔は魔女の魔力の暴走で、街が壊滅状態になった事もあると聞く。


 人々は恐怖におののいた。


「 いや、魔女は邪魔な岩を砕いて立ち往生している人々を助けた 」

「 隣国に現れた狂暴熊をやつけたんだぞ! 」

 わざわざ隣国にまで行って。


 そんな魔女が魔物である訳がないと、人々の情報が錯綜する。



 人々の目は空を飛ぶ魔女に釘付けになっている。

 この魔女が魔物なのかどうかを見極めていた。


 だけど……

 この魔女は何か変。

 ヨタヨタとしていて中々前に進んでいかない。


 何だか魔女らしくない。

 時々キャアキャアと言う可愛らしい声も聞こえて来ていて。


 頑張れと応援する者も現れた。


 人々は……

 ハラハラしながら夜空に浮かぶ魔女を見つめていた。














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