34 裏庭で出店
ラオサ老に調査結果を報告しておいた。
黒の森が凍りついた原因は不明。
しかし、どうやら何者かが魔法を使ったらしいということ。
異常気象ではないから、冬の到来が早まる可能性は低いということ。
以上のことから、とりあえずのところ、心配は要らないだろうという結論。
報告内容はそんな感じだ。
ラオサ老もバルスルもホッとした様子だった。
俺も普段通りののんびり生活に戻らせてもらうとしよう。
「警戒は怠るべきではないけどな」
「あるじ殿、どの辺が警戒中なのでしょう?」
ノーデン産ワインを片手に朝風呂を決める俺にクロが的確なツッコミを入れてくれた。
「やめてくれよ。俺がボケているみたいじゃないか」
「あるじ殿はボケでいらっしゃいます」
そうかもな。
聖剣どこ置いたっけ? まあいいや、な状態だもん、今。
何かあっても絶対に対処できないぞ。
自信を持って言える。
クロはクロで窓辺の置物みたいに寝息を立てているし。
「やっぱりこの村はいいなあ。時間がゆるーく流れていく」
「ですなぁ。矢も弾も飛んできませぬし、寝ているだけで新鮮な刺身にありつけます。ここは天国ですぞ、あるじ殿」
「刺身は俺がわざわざ釣りに行ってさばいてやってんだよ……」
さあて、ぐーたらするのもいいが、少しくらいは生産的な活動もするか。
今夜は楽しい楽しい豊穣祭だ。
バルスルたち男衆が出す出店に魔物の肉を卸す約束になっている。
仕事は嫌だ。
だが、楽しい夏祭りのためともなれば別腹だ。
というわけで、嫌がる黒猫に鞭打って森に繰り出した。
「働きとうないです、あるじ殿」
「王都にいた頃の俺みたいなことを言うな」
「お言葉ですが、あるじ殿は今でも働きたがりませぬ」
「お揃いだな、クロ!」
「あるじ殿とお揃いとは我輩光栄の極みです!」
主従でまったりしていたら、茂みから角を生やしたニワトリみたいなのが出てきた。
でっか。
3メートルくらいあるな。
4枚羽だし。
「猫ってニワトリ食うよな? あれにするか」
「うまそうです、あるじ殿」
俺が石を投げてニワトリを気絶させ、クロが魔爪で仕留める。
元・勇者と聖獣。
往年の名コンビの連携プレーで早くも仕事時間終了。
「おーし、退社するぞクロ助!」
「了解です、あるじ殿!」
ニワトリは血抜きしてバルスルに卸すとして、手羽先の1本くらいもらってもいいだろう。
クロのおやつ用と、それから……。
○
巨大ニワトリでバルスルたちの度肝を抜いた後、俺はエロナ教会に立ち寄って、子供たちを自宅の裏庭に招いた。
で、何をするのかというと焼き鳥屋の出店だ。
出店と言っても、キッチンの窓を開けただけなんだがな。
キッチンで焼き上げた焼き鳥を外にいる子供たちに手渡せば、出店っぽくなるだろう。
「ありがと、隣のおっちゃん!」
「お兄様と呼びなさい」
魔族の子供たちはお祭りには行きにくいからな。
せめて雰囲気だけでも味わってもらいたいのだ。
という話をルノンにすると、彼女は大きな目をうるうるさせて俺の手を取った。
「クレスさん! 優しいです!」
「ふふふ、そうだろうとも」
「ぜひ、うちの豚肉も使ってください。特価でお譲りしますから」
「そこはタダで……」
「じゃあ、ツケでいいです!」
まあ、お仕事でやってんだもんな。
協賛してくれるだけありがたく思おう。
「ほら、ルノンも食べろ。焼きたての鶏肉だ」
「わたしもいいんですか?」
「ルノンも今夜の祭り、参加しないんだろ? なら、今楽しんでおくべきだ」
「……やっぱりお祭り、行こうかな」
焼き鳥を受け取ったルノンは憂いのある顔で空を見上げた。
あいにくの曇り空だ。
「体調は大丈夫なのか?」
「はい。村長さんのヒゲ占いによると、今日は一日曇り空みたいですし」
ラオサ老のひげにそんな隠しギミックがあったのか。
しかも、めちゃくちゃよく当たりそうだな。
つか、天候って関係あるのか?
女の子の日に。
「ねえ、クレスクレス! 子供たち、すっごく喜んでいるわ!」
エロナがスキップしながら駆けてきた。
そして、そうする決まりでもあるように揺れる胸を俺の腕に押し付ける。
ルノンの目が極まった。
こわい……。
「クレス、ありがと。やっぱりあんた、パパの才能あるわよ」
サキュバスには似つかわしくない純真な瞳でそう言われた。
俺は思わずニヤけてしまった。
仕方ないだろ、姫級淫魔にヨイショされて嫌な思いになる男なんていない。
そして、ますます険悪になるルノンのご尊顔。
「エロナママ、お祭りいきたい!」
「お祭りお祭りー!」
「いーきーたーいぃぃ!」
子供たちが群がってくれたので、険悪なムードはいったんお開きとなった。
ありがたい。
「悪いな、エロナ。俺が中途半端にお祭りごっこしたものだから、かえって祭りに興味を持たせてしまったらしい」
「いいのよ。そのうちきっと村の人たちも受け入れてくれるから。今は我慢のときよ」
あの『淫姫』エロナルーナが我慢だってさ。
人は変わるもんだな。
俺は窓辺でくつろぐクロと苦笑を交わした。
「子供たち、お祭りに行けるかもしれませんよ?」
そう言うとルノンは上着のフードをかぶった。
豚の顔を模したフードだ。
たるんだ耳がなんとも愛らしい。
ルノンなら何を着ても似合うだろうけどな。
「こうして、角を隠せば魔族の子だとバレないでしょう? お祭りにも行けますよ」
「ルノン様、マジ天使だわ!」
エロナが膝をついて祈りを捧げている。
サキュバスに祈られたルノンはというと、凄まじい嫌悪感を表情ににじませていた。
漫画でいうと劇画調になるくらいに。
基本天使のルノンからこの表情を引き出せるサキュバスってやっぱりすごいな。
「これで子供たちも祭りを楽しめるわ! ルノン、ありがとう!」
「ああ、まあはい……」
複雑なご様子のルノンであった。
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