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11 クマ汁パーティー


 仕留めた獲物をえっちらおっちら引きずって、やっとこさ村に戻ってきた。

 城壁の上で少女が一人、銀の髪をなびかせている。

 ルノンだ。


「帰ったぞー」


 と手を振ると、彼女は体感マッハ2くらいで駆け寄ってきた。

 そして、俺の胸のあたりに飛びつき、鼻を鳴らして嗚咽する。


「ぐずんぐずん……っ」


 ボロ泣きであった。

 一体どうしたってんだ?

 まさか、ラオサ老が天寿をまっとうしたとか?

 それは悲しいな。

 俺はまだ狩人手帳の礼をしていないのに。


「お帰りになられたか、クレス殿」


 そのラオサ老があごひげをなでつけながら、やってきた。

 ま、そうだよな。

 その後ろには村の若衆も一緒だ。

 およそ10名がかりの出迎えである。


「ずいぶんと大袈裟だな。領主が訪ねてくる予定でもあるのか?」


 面食らってそう訊くと、ラオサ老はホッホッホと面白がるような笑い方をした。


「皆、クレス殿を待っておったのですじゃ」


「俺を?」


「というのも、このルノンがひどく泣くものでしてな。クレス殿が帰ってこなかったらどうしよう、と居ても立ってもいられぬ様子でして」


 それで、この泣きっぷりというわけか。

 亡くなった両親と重ねて不安になったのかもしれない。


「心配かけたようだな」


 俺は胸元に見える銀の頭をそっとなでた。

 さらさらだ……。

 いい匂いだし。

 というのは、置いておいて、


「案ずるな、ルノン。俺はこの通り、腕利きの狩人だからな」


 俺は狩猟の成果をじゃじゃーん、と披露した。

 横たわる3頭の巨獣。

 我ながら、圧巻だ。


 若衆がどっと沸き上がった。


「すっげえ、シュタール・ベアだぜ! なんつう迫力なんだ!」


「サーベル・ファングもいるぜ。こんなのどうやって仕留めるんだよ……」


「ほら! やっぱりクレス様は買いよ! ちょっとあんた、声かけてきなさいよ!」


「嫌よ! 私、お化粧してないもの。クレス様に嫌われちゃう……」


 ふむふむ。

 どうやらこの村じゃ仕事できる男がモテるらしい。

 だが、残念。

 俺は仕事はできても、する気はないのだ。

 今日は狩りをしたから、今週はもう何もしないぞ。

 1日の9割をベッドで過ごしてやる。

 すると、俺はモテなくなる。

 それは、…………嫌だな。


 麗しの婦女子たちが遠巻きに黄色い悲鳴を浴びせかけてくる一方で、男衆は渋い顔で歯ぎしりしていた。


「ぐぅ。悔しいが、クレスさんには敵わねえな」


「オレも狩りを覚えるかな。モテてえし」


「やめとけ。こんなでっけえ魔物、クレスさんじゃないと仕留めらんねえよ」


 男衆が畏敬の念を込めた目で見つめてくる。

 男に見つめられても嬉しくないが、今朝の敵視よりは断然マシだな。


「兄貴っ!」


「む?」


 くるんとしたアホ毛が俺の前で跳ねた。

 狩りに出る前、絡んできた青年だった。

 俺に銀幕のスターを見るようなキラキラの瞳を向けている。

 何キだって?


「自分、バルスルっす!」


「崩れそうな名前だな。大丈夫か?」


「クレスの兄貴、自分感動したっす! 兄貴って呼ばせてほしいっす!」


 お前が美少女で俺をお兄様と呼ぶなら隣に侍らせてもいいがな。

 あいにく、弟分を欲しいと思ったことはないのだ。

 あっち行きなさい。


「兄貴が仕留めてくれたせっかくの大物だ。とっとと運び込んで新鮮なうちにさばいちまおうぜ」


「今日は祭りね! みんなで大鍋持ち寄って、広場でクマ汁パーティーしましょうよ!」


 若衆が盛り上がっている間もルノンはずっと俺にしがみついて、ぐずっていた。


「クレスさんが帰ってこないような気がして」


 濡れた銀の瞳が一心に見つめてくる。

 俺はぐっと胸が熱くなった。


「クロ、俺な、思うんだ。王国にこんなお姫様がいて、凱旋のたびに泣きながら駆けつけてくれたら、どんなに過酷でも頑張れたのにって」


「あるじ殿、我輩もです。脚がスラッと長くて尻がデカい美犬と出会えていたら、猫になどならなかったのに……」


「そういえば、お前、憑依できるから、オスもメスも楽しめるんだな。いや、悪くないと思うぞ? ニッチな性癖だとは思うが」


「噛みますぞ、あるじ殿」


 おっさん同士?の馬鹿な会話をしていたら、ルノンはようやく笑顔を見せてくれた。


「ルノン、今晩はクマ汁だってさ。腹は空いているか?」


「はい。もうペコペコです。心配でお昼が喉を通りませんでしたから」


「じゃあ、俺たちもお邪魔させてもらうか」


「邪魔だなんて思いませんよ。今日の主役はクレスさんです!」



 (○○○)



 ルノンの言葉のとおり、パーティーは俺を中心に進んでいった。

 村中から人が集まり、誰かが持ち寄った酒でクマ汁そっちのけの大宴会である。

 気をよくした俺は火炎魔法で極大火吹き芸を披露してやった。

 だが、しゃべる猫のインパクトには敵わなかった。


 女衆になで回されて満更でもないご様子のクロを遠巻きに眺める主役の俺。

 クロよ、お前はもう二度としゃべるんじゃない。

 猫はねこっとしているときが一番可愛いのだ。

 いいな?


 というわけで、クマ汁パーティーは大盛況のうちに幕を下ろしたのだった。

 俺もすっかり村の一員って感じだな。


「すごいですね、クレスさん!」


 丘の上へと続く夜道をトコトコ駆けながら、ルノンは銀の髪をふわりと広げて振り返った。

 満面の笑みだ。

 ようやくいつもの天真爛漫モードに戻ってくれたか。

 おじさん、嬉しい。


「何がすごいんだ?」


「村中の人気者だったじゃないですか!」


「だな。クマ肉のおかげだ。胃袋を掴むってやつだな」


「じゃあ、明日はわたしが絶品豚料理でクレスさんを鷲掴みにしちゃいますね!」


 真夏の太陽みたいな笑顔でそう言うので、俺は楽しみにしつつ床についた。


「たまになら仕事もいいかもな」


「あるじ殿もなかなかニッチな性癖をお持ちですな」


「うるさいよ」


 そんな感じで、猫吸って寝た。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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