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森には魔女が住んでいる  作者: もちもちもちこ
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目を覚ます魔法

眠り姫を起こしましょう。

朝になっても、少年騎士は意識がないままだった。

しかし容体は落ち着いているようなので、とりあえず水だけは飲ましてみる。

早く意識を回復させて食べ物も摂取したほうがいいのだろうけど、魔法も効かない、薬も効きづらい彼にできることはこれで限界だった。

一応拾ってしまった責任もあり、ロゼは甲斐甲斐しく世話をした。

幸いにも昨日大量の山菜を採ってきているので、食料には余裕がある。

セビリアーナも、別段何も言わなかった。


「…魔法が効けば、良かったのにね」


特技というか、自信を持っていたものが通用しないことが、実は密かにショックだった。

元々才能もあり努力もして何でもこなしていたロゼにとって、ある意味初の挫折でもあった。

顔にかかった髪を、そっと払う。

こんな至近距離で触れても、彼は目覚めなくて、少し悲しくなる。

傷は癒え始めてる。

でもこのまま意識が戻らなければ、間違いなく彼は死ぬだろう。

その時、ロゼは自身が更に悔しい思いをすると分かっていた。

水だけでは生きていけないのだから。


「ロゼッティ、私は薬草をもう少し採ってくるわ。…貴方は、頑張ってるわ。そんなに落ち込まなくていいの」


セビリアーナはロゼッティの気持ちに察し言葉をかける。

しかし、ロゼの心は晴れない。

セビリアーナはロゼの額に優しく口付けて頭を撫でる。

娘がこんなに落ち込んでいる姿を見せるのはとても久しぶりだった。


「おとぎ話の、お姫様みたい」


ポツリと、ロゼがつぶやく。

その言葉に、セビリアーナはプッと吹き出す。


「確かにそうね。目が覚めないお姫様。助かるには、愛の魔法が必要かしら?」


彼女は知っている。

どんな呪いにも打ち勝つ魔法があることを。

何せ、自分がそれに敗れたのだから。

しかし、それも過去のことと笑えるようになったのは、間違いなく目の前にいる娘の存在だった。

その娘の安堵の為にも薬草が必要だった。

嘗ての悪の魔女は、そっと家を後にした。





母が出かけた後、ロゼは考えていた。

おとぎ話のお姫様。

強力な呪いを跳ね返したのは、王子様からの真実の愛の魔法。

その魔法は。


「…!そうか!!」


ロゼは少年の顔を見やる。

傷も熱も大丈夫。あと一息、きっかけだ。


「…外側からが、ダメなら…」


自分の髪を耳にかける。

そっと少年に顔を近づけた。躊躇いは無かった。

ロゼと、少年の唇が、重なる。

そして、言葉に出さずとも彼女は心で魔法を放つ。


(…慈愛キュア


魔法は発動する。

少年が光に包まれる。

ロゼは、光が静まるまで、少年と口付けを交わし続けた。

こんな長い口付けは初めてで、若干息苦しい。

でもここで止めるわけにも行かなかった。

徐々に、光が収まる。

それと同時に、少年の瞼が揺れる。

ロゼは漸く顔を上げ、肩で息をする。

どうやら直接体内に魔法を掛けるのは、相当魔力を使うらしい。


「…うっ…」


小さな声と共に、少年は目を開く。

瞳の色は、綺麗な青だ。その瞳に、ロゼが映る。


「よかった、効いた…」


思い付きだったが、成功したことにロゼは心から喜んだ。

表のケガは、もう癒えているのだ。

それでも眠りから目覚めないのは、内面の傷があるからではないか、と考えたのだ。

そして、魔法の効きも内側からならば、と思って。

口付けとともに、魔法を彼の中で解き放ったのだ。


「こ…ここは、どこだ…君は誰だ…」


いささか疲労しているだろうが、はっきりと声も聞こえた。

これならば、回復は早いだろうとロゼは満足する。


「ここは魔の森。私はこの家に住んでいるロゼッティ・ルボアよ。今、スープ温めて持ってくるから待ってて。お腹すいているでしょう」


ロゼが早口で言うと、少年は思い出したかのようにお腹を押さえた。

簡単に温めて、今朝焼いたパンと一緒にスープを持ってくる。

まだ起き上がるのは難しいと判断して、そのままベッドの上で食べてもらうことにした。

食事を見ると、ますますお腹が空いたのか、少年はすぐに食べ始める。

どうやら食事するのも苦ではないくらい回復したらしい。

ぺろりとパンとスープを平らげ、少年は口を拭いてロゼを見る。


「…ご馳走様。すまない、食事の世話まで。怪我の手当てもしてくれたのか?えっと、ロゼッティ・ルボア嬢?」


ロゼは少年から食器を受け取り、サイドテーブルに移す。


「ロゼでいいよ。昨日、山菜採りを終えて家に帰ろうとしたら貴方が倒れてたの。とにかく無事でよかったね」


腹も膨れて、少し落ち着いたのだろう。

少年は「そうか…」と思い出す。


「狼に襲われてな。剣で対抗したのだが、やはり獣は人間相手とは違うものだな」


剣を使ったことのないロゼにはピンと来なかったが、狼は素早いのだから、剣を当てるのも大変なのだろうと憶測する。


「それで、貴方はどうしてこの森に来たの?そもそも、この森って人が立ち入ることが出来ない筈なんだけど」


少年の様子からして、やはり自殺願望者ではないようだ。

ロゼの言葉に少年はハッとなる。


「…そうだ、私は、この森に住むという魔女に、呪いを解かせようと…」


魔女、と言われてポカンとするロゼ。


「この森には、私とママしかいないよ」


そして一呼吸置いて。


「ママと私は、魔女だよ」


少年は目を大きく丸にして、ロゼを見た。



























驚きの表情から、少年は身構えようとする。

だが、自身の剣を探して見渡すがそれはドアの近くに立掛けられていることに気付く。

少年から殺気を感じたロゼだが、気にすることはなかった。

彼がまだ、動ける体じゃないことを知っているからだ。

そのことに少年も気付いたのだろう。

先ほどまでの優しい表情は消え、疑いの眼差しをロゼに向ける。


「…お前が、魔女だというのか?」


「正確にはまだ『魔女見習い』だけどね。目下修行中」


サイドテーブルに置かれたティーポットから、二人分のお茶を入れる。

はいっと少年に手渡し、自分もお茶を口にする。

少年は口をつけようとはしなかった。


「…お前の、母親は?」


「ママは力ある魔女よ。この森全体に魔法を掛けているのもママだもの」


その言葉に、少年はギュッと拳を握る。


「…ある日、シュタット王国の城でパーティが行われた。そして、そこにいた全ての人間が、眠りの呪いを受けたのだ」


とても悔しそうに、少年はつぶやく。

その言葉を、ロゼは静かに聞いた。


「こんなことが出来るものは、力ある魔女以外ありえない。しかし本当に力のある魔女はごくわずか。シュタット王妃の命を狙った魔女の話を、私は思い出した」


シュタット王妃の物語は有名で、ロゼも絵本で知っている。

そしてその結末も。


「あぁ、だからこの森に来たのね。シュタット王妃の命を狙った魔女、私のママだからね」


白雪姫を狙った悪の魔女。

それが自身の母親だということは本人に聞いている。

少年は「やはり、そうなのか」呟く。


「でもそれは濡れ衣というものよ。ママはもう別に誰も恨んじゃいないもの」


それはロゼも聞いたことがあった。

昔は王妃として幸せに暮らしていて、今は自業自得とはいえ森の中に隠居状態。

原因となった白雪姫を恨んでいるのか、と。

しかし、セビリアーナは首を横に振った。


『私は、愛しのロゼッティと静かに暮らせる今が一番幸せよ』


その晴れ晴れとした表情は、嘘には見えなかった。

母親にそんな風に愛されていると感じ、ロゼも嬉しくなったのを覚えている。



「悪い魔女は、王国の全てのものにつま弾きにされて、逃げ込んだ森の中で静かに、でも慎ましやかな幸せを手にしたの」


物語では語られることのなかったこと。

魔女は、静かに自身の幸せを知ったのだ。

だが、少年はそれで納得はしなかった。


「だったら!!どうしてまたシュタット王妃が!!!!」


勢いよく言うと、むせて咳が出てしまう。

苦しいだろう、とロゼは少年の背中をさすってあげた。


「それは分からない。でも私はママがやってないって信じてる。…それを、証明してあげる」


それだけ言うと、ロゼは少し退室し、少し大きめの杯を持ってきた。

中にはなみなみと水が入っている。

それがなんだか分からない少年は、首をかしげる。


「これはね、魔力の質を調べるものなの。見ててね」


そう言ったロゼは、自分の髪の毛を1本その杯の水の中に入れる。

すると。




透明だった水が、徐々に白く濁った色に変わった。




少年は驚いてその水を見続ける。


「私の魔力の色は白。こんな風に、魔力って人によって色が違うの。で、これはママの髪の毛」


ロゼが水を張りなおし、セビリアーナの髪を入れる。

すると、今度は水の色が真っ青に変わった。


「そしてこれがママの魔力の色。ね、人それぞれで変わるでしょ?」


「その道具の特性は分かった。だが、それがどう無実の証明になるんだ」


ロゼはまた水を捨て、少年を見る。


「これから、私が城に行ってその呪いの魔力の質を計ってあげる。まだ呪いがその場に残ってるなら、髪の毛とかいらないし」


それで、青以外が出れば、無実の証明でしょう?とロゼは言った。

少年は考えているようだった。


「どうせママが行ったって貴方信じないでしょ?だから私が行く。他に知ってる魔女もいないんだろうし」


「…だが」


「ごちゃごちゃうるさいなぁ。それに、私だって魔女の端くれ。もしかしたら呪いの解き方が分かるかもしれないでしょう?」


籠は籠屋、というわけだ。

そうと決まれば、とロゼは自分のバッグの中に準備を始める。

実は、少しドキドキしている。

ロゼは、生まれてこの方この森を出たことがなかった。

出る必要がなかったともいう。

だが世界が気にならないわけではないのだ。

必要最低限のものを用意し、今度は少年の準備を始める。

手を貸してベッドから降りた少年は、少しふらついていたがしっかり立つことが出来ていた。

元々鍛えていたこともあるのだろう、普通に歩く分には問題はなさそうだった。


「…こんな子どもを連れて行って、大丈夫なんだろうか」


ぽつりと呟いた少年は気付かなかった。

真横の鏡が揺らいだことに。


『大丈夫もなにも、決めちゃったじゃない、ロゼが自分で行くって。だったら何言ったってもう無駄よ』


少年は驚き鏡から距離を置く。


『はぁい、私ミラよ。魔法の鏡のミラ。ロゼの大親友ってところかしら』


少年は思い出す。かの魔女は、唯一自身の持つ魔法の鏡を持って行ったと。

つまり、それがこれなのだろう。


『ロゼはしっかり者だけど、一度決めたら曲げないからね。まぁあの子強いし大丈夫でしょう』


大親友という割には心配しないのだな、と密かに少年は思う。

この森に来てから道に迷うわ、狼に出くわすわ、魔女親子に手当てされるわで、不思議なことに耐性ができつつある少年は話す鏡にも臆さない。


「しかし、親に承諾もせず…」


勝手に連れ出すのは如何なものだろうと言うと、ミラはきょとんとした顔をする。


『何をいまさら。アンタがロゼ連れて行ったところで、もうキスまでしてんだから大した罪の上塗りにはならないでしょ』


やれやれ、という彼女の言葉に、少年は思考を停止させる。

聞こえるべきじゃない単語が、この鏡から今出た気がした。


「………キス?」


何のことだ、と小さな声が漏れる。

何せ心当たりがない。


『よくわからないけど魔法が効かなくて昏睡状態だったアンタを見かねて、ロゼがアンタにキスして体内から魔法掛けたの。だからアンタ今起きてられるのよ?』


言われて、少年は自然と自分の手を口に当てる。

確かに、目覚めるとき暖かかった気がする。

だが、それ以上に色々気になって、その考えに至らなかった。


「ロゼと、私が……キス?」


『だからそー言ってるでしょ。ったく、何でロゼが名前もしらんどこの馬の骨ともわからない奴にファーストキス捧げなきゃならないのよ』


しかも、ファーストキス。

少年は、目まいがするのを何とか意識を繋ぎ止めた。


「そ…そうだったのか。それは…悪いことをしたな…」


謝ろう、とする少年をミラは止める。


『あー、謝んない方がいいわ。あの子気にしてないし、寧ろ自分でできることをしたのにって臍曲げると思うから』


年頃の乙女としては、それはどうなんだろう。

少年はそう思ってしまうが、だがそれを飲み込んだ。

それよりも少年は自分が名前すら名乗っていなかった事実を思い出す。

それに、何よりも大切なことを言っていない。


「ロゼ!」


世話しなく部屋を行き来するロゼを、呼び止める。


「なぁに?」


首を傾げながら見るロゼはとても愛らしく、少年は少し緊張してしまう。


「私の名前は、ノヴァ。命を助けてくれて、どうもありがとう。これから、どうぞよろしく頼む」


差し出した右手に、ロゼは笑顔で手を取った。








ミラちゃん


容姿:(外見)金縁の姿見  (鏡に映る姿)髪→シャルトルーズイエロー 瞳→サンシャインイエロー

通称:魔法の鏡・ミラちゃん

年齢:神話の時代

魔法:千里眼


全ての元凶ともいえる魔法の鏡。金縁の大きな姿見。

元々は声だけ聞こえるマジックアイテムだったが、ロゼが生まれ彼女が初めて鏡を覗いた後、少女の姿を映すようになった。

そしてそれ以降鏡としては全く使い物にならなくなった(ミラしか映らないから)

鏡だからミラちゃん、と名前を付けたのはロゼ。

ロゼの成長に合わせて自身の姿も成長させているが、やろうと思えば妙齢の美女にも老婆にもなることができる。

リアナのことはあまり好きではないが、ロゼを溺愛している部分に関しては気が合う。

ロゼに対して害あるやつには辛辣な言葉を掛ける。というかロゼ以外には基本毒舌(リアナ含む)

ロゼの我儘なら何でも聞いてあげると言ってるが、基本ロゼが頼むのは山菜がいっぱい生えてる場所探してくれとか、

効率よく狩りが できるように罠を仕掛ける場所探してとかサバイバル的なものばかりで少し悲しい。


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