森の中の眠り姫(ひめではない)
眠りの森のヒーロー登場。
この森の山菜が群生しやすい場所には色 別のリボンが巻かれている。
それを目印に、ミラが映し出した場所を探せば、効率よく山菜が採れるのだ。
他にもいい感じに罠が仕掛けられそうな場所や、美味しそうな木の実がなっている場所など様々なものをミラは映し出してくれる。
今日もミラに映された場所で籠いっぱいの山菜を採り、ロゼはホクホク笑顔だった。
セビリアーナ特製の山菜炒めや漬物はロゼの好物でもある。
今日の夕飯にもせっかくだから使おうかなと考え、帰路についた。
その帰り道だったのだ。
目の前に倒れている、銀髪の人間を見つけたのは。
最初思ったのは、「なんだこれ」だった。
変なものがあるなーと思って、近付いた。
近付くにつれて、 その変なものが更に変だと思った。
何せ、形からして動物には見えなかったのだ。
どっちかというと、ロゼやセビリアーナ、つまりは人間の形で。
というか、人間で。
目の前に来て、間違いなく倒れているのが人間だと判断した。
意識はない様だ。
だが、生まれてこの方人の形をしているものを母親とミラしか見たことないロゼとしては、どうしたらいいのか判断がつかなかった。
しかし、放っておくのも後味が悪い。
近くにある棒を持ち、銀の髪をつつく。
申し訳ないとも思ったが、ロゼの精一杯の誠意だった。
「…あのー、大丈夫?」
反応はない。だが、息はしているようで、背中はゆっくり上下している。
仕方ない、とロゼは倒れている人間に手を触れた。
少し位置 をずらすと、この人が倒れている理由が分かった。
倒れていた位置からは分からなかったが、肩を怪我しており、血が流れていた。
傷から見ると、狼辺りに襲われたのだろう。
狼と断定した理由は、この人間の周りに狼の気配が現れたからだ。
だが、ロゼが慌てることはない。
狼がこの森にいることくらい、ロゼは知っている。
狼がロゼに手を出すことはない。
ロゼが狼よりも強いことを、彼らは知っているからだ。
「んと…治癒」
とりあえず止血しないとな、と思ったロゼは魔法をかける。
だが、傷が塞がるどころか何の効果も現さない。
「あれー?おかしいな、ちゃんと使えてるのに」
自分の魔法が上手くいってないのかと思ったが、間違いなく発動はしている。
どうやらこの人間には魔法が効かないということに驚いてしまう。
しかしこのまま放っておけば、血を流しすぎてこの人間は死んでしまう。
全く持って知らない人物だが、やっぱり放置はできなくて。
ロゼは山菜のカゴを一度置き、自分よりも背丈の高い人間をよいしょっと背負う。
小柄なロゼにはいささか厳しかったが、他にどうすることもできない。
まだロゼには荷物を運ぶ魔法は使えないのだ。
覚えておけばよかった、と若干悔しい気持ちになったが今悔やんでも仕方ない。
意識のない人間一人を背負い、ロゼは少しずつ家に進んだ。
後には血溜まりと、山菜のカゴ、そして少し残念そうに唸る狼だけが残された。
ロゼは 自身のベッドに怪我人を運んだ。
怪我人の服を脱がし(どうやって脱がせばいいか悩む服だった)、傷口に薬草を当てる。
幸い、薬草の効果は受け付けるらしく、少しずつ血は止まってくる。
それを見て、ロゼは残っていた傷薬を持ってきて傷口に塗ってやる。
殺菌効果もあるこの傷薬は街でも人気でそこそこ高価なものだ。
それこそ結構な傷でも一瞬で治してしまうものなのだが、どうやらこの人間には効果が薄いようで傷口が完全に消えるまでに夜になってしまった。
熱も出ていたようだが、ロゼが懸命に汗を拭いてやったりと看病したこともあり、今では落ち着いた呼吸を取り戻している。
一安心、と思ったところで、ロゼの お腹が鳴った。
「あ…。ご飯作るの忘れてた」
「ただいまー、私の可愛いロゼッティ…ってええええええええ何で血だらけなのおおおおおおおおお!?!?」
大荷物で帰ってきた母親の第一声で、ロゼは初めて自分の服が血だらけだということに気付いたのだった。
「…というわけで、お客さん?」
「…というわけで、の意味が全然分からないのだけれど、仕方ないわねぇ」
セビリアーナは娘の意思を尊重してくれる。
例え愛する娘が血だらけで部屋も血だらけだったとしても。
二人がかりで部屋の血を綺麗にして、簡単にご飯を用意して、やっと夕飯にありつくことが出来た。
そ の後、怪我人が寝ているベッドのシーツも変え、やっと落ち着いて事情を説明できたのだ。
「そもそもこの森に入ろうなんて馬鹿な真似をする奴がいるとはねぇ。自殺願望者だったのかしら」
「いやー、そんなことないんじゃない?それだったら獣に襲われる前に首括るでしょ」
いないわけではないのだ、そういうのが。
どんなに平和な時代でも、命を捨ててしまう人はいる。
因みにそういう人がいると、ルボア親子は丁寧に埋葬してあげる。
親切心ではなく、精神衛生上の問題だ。
それに負の感情は別の負を呼び寄せることを知っている。
だが、大抵そういう奴は森の最奥まで来ない。
「山菜とか木の実採りに来たって感じでもないし。ほら、剣も持ってたよ」
家に着い てから、怪我人が剣を所持していたことをロゼは知った。
こんな重そうなの置いて来ればよかったと気付かなかったことを後悔したが、仕方ないので壁に立掛けておいたのだ。
セビリアーナはロゼから剣を受け取り顔を渋らせた。
「…あら、これシュタットの騎士団のものだわ」
剣にあった紋章を見て、セビリアーナそう言った。
「シュタットって、この森の東にある?」
この魔の森は二つの国の丁度真ん中に位置している。
地図でいうと左半分がシュタット王国に面していて、右半分がサーブルク王国だ。
そして魔の森の真ん中、最奥に位置するルボア親子のこの家はまさに両国の中心に位置する。
そんなこと、ロゼはなんの興味も持っていないのだが。
因みにこの魔の森 以外の国境は山脈で遮られている。国境を超えるには山道か魔の森か、という二択しかない。
そして誰もが山道を選択するのだ。むしろ選択はないともいえる。
魔の森はその名の通り、抜け出ることは出来ない不可侵の森とも呼ばれているのだ。
その理由は目の前の魔女、セビリアーナにある。
有能な魔女セビリアーナは、この森に結界を張っているのだ。
自身の平穏な生活を守るために。
セビリアーナが許したものしか、この森を通り抜けることは出来ない。
これが魔の森と呼ばれる所以だ。
そもそもこんな森の奥まで入ってこれる人間はそうそういない。
とりあえず、ロゼが知っている限り、初めてのことである。
「そうよ。私はあんまり好きな紋章じゃないんだけどねぇ」
紋章に好き嫌いなんてあるんだろうかとロゼは思うが、さほど興味もなかった。
きっと母の人生で嫌なことがあったんだろうなぁー程度に思うことにした。
「ってことは、この人騎士なの?」
「それにしては若いけどね。見習いとか、関係者なんじゃないの?」
騎士、という職業については知っている。
この家には母が集めた本がある。
殆どが魔導書だが、小さいロゼに読み聞かせてあげるための物語などもあるのだ。
その中には、お姫様を救う騎士の本なんかもあったりする。
ロゼが好きなのは、大抵魔法使いの本なのだが。
同じ年くらいの少年が、自分と同じ見習いなのかもしれない、という点では少し興味を持った。
自分は魔女見習いで、彼は騎士見習い(仮)
どんな勉強しているのかなーと聞くと、セビリアーナはクスッと笑った。
「普通の子なら、こんな綺麗な子見た瞬間に恋に落ちるだろうに。やっぱり私の可愛いロゼッティは大物だわ」
「いや、血だらけで倒れてた奴に一目ぼれとかないでしょ普通」
結局少年はその日目を覚ますことなく、ロゼのベッドを占領して眠り続けた。
ベッドが使えないという免罪符を得て、ロゼは久しぶりに母と一緒のベッドに潜り、少し甘えることが出来たので結果オーライだなぁと目を閉じた。
セビリアーナ・ルボア
容姿:髪→ローズ 瞳→エメラルドグリーン
通称:リアナ・ママ・魔女
年齢:??
魔法:黒魔法・呪術・魔法薬学。魔法的なものなら手あたり次第。
白雪姫の嘗ての義母。近隣の人間には『最も凶悪な魔女』として有名。
同じ魔女たちの間でも、魔女という職業を著しくイメージダウンさせたことで嫌悪されている。
そのこともあり、城を追い出された後も寄る辺する場所はなく、魔の森に住み着いた。
自分が美しいことが自尊心だったが、今ではこの世の誰よりもロゼが可愛いと思っている。
かと言って、鏡に「この世で一番可愛いのは?」と聞いたりすることもない。
その理由としては、3歳のロゼが「え、かわいいとかって、ひとのこのみしだいでしょ?ママ」とか常識を説いたからである。
当初白雪姫を厭い、嫌悪し、呪おうと思っていたが、それ以降はそんなくだらないことよりロゼと平穏に暮らすことを望むようになる。
ロゼに依存と言えるくらい執着しており、「あぁ、私の可愛いロゼッティ」が口癖 。
それだけ見ると明らかにダメ母親だが、ロゼ自身がある程度自立しており、母親を広い心で受け入れているので無問題。
また、娘の魔法の才も認めており、自身の技術をすべて叩き込んでいる。




