表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森には魔女が住んでいる  作者: もちもちもちこ
26/26

あの日さよならしたのは恋か愛か平穏か

過去の話を書き始めたらちょうどいいところはなかったのだった。

ということで、いつもより少し長めです。


親の恋愛話って、できれば聞きたくないよねっ!














小島を捜索して、少し経つ。


「…多分、ここだよね」


「…まぁ、ここだろうね」


一番怪しい場所に、二人して立つ。

それは小島のほぼ中央に佇んでいた、十字架の、つまりは墓の前だ。

というか、これ以外、それらしいものはなかった。

少し前に作られたらしい白い十字架には、蔦やら草やらが絡みついていた。


「ママが十字架ってのも、何か気になるけど…」


「それでもこの島には他に何もないからね」


ロゼはゆっくりと十字架に近づき、様子を見る。

十字架の中央にはエメラルドがきらめいている。


『そのエメラルド、ロゼの瞳みたいねっ!』


ミラが嬉しそうに言うと、ノヴァはジッとロゼの瞳を覗き込む。


「うーん、ロゼの瞳はもっと明るい感じだけどね。ほら、青りんごみたいで、美味しそうな色だよ」


「…食べないでね」


自分の瞳を「青りんご」と言われたのは初めてで、少し気恥ずかしく感じるロゼ。

瞳、と言われて、ロゼももう一度宝石を見る。


「ママの瞳の方が近いかもね。ママの瞳はエメラルドグリーンだもん」


「そうか。じゃあやっぱり君のお母さんの封印した場所なのかもしれないね」


ロゼの頭を撫でながら、ノヴァは笑う。

何となく子ども扱いされた気分になったロゼは頬を膨らませた。


「それはともかく、白の十字架に目立つエメラルドってことは」


ロゼが中央のエメラルドに手を伸ばす。

ロゼの指先がエメラルドに触れると、十字架が光りだす。

光が収まると、十字架の前に現れたのは棺ではなく、小ぶりな箱だった。


『おー!お宝の登場―』


「ママか、ママの血族が触ると封印が解けるようになってたんだろうね」


ロゼはよいしょっと箱を開ける。

箱の中には、確かに魔導書や魔道具がいくつか入っていた。


「わ!流石ママの魔導書。難しい術がいっぱい書いてあるー」


パラパラと魔導書をめくるだけで、それが高度なものだとすぐに分かる。

しかも、その中の1冊はあの白雪姫を眠らせた毒リンゴの作り方や自分の姿を変える魔法などが書いてあるもの。

つまりは、あの『白雪姫』で『悪い魔女』が使った魔法が書かれてるもので。

それをノヴァに言うと、二人そろって苦笑いするしかなかった。


「ねぇロゼ、この魔道具はどうやって使うんだい?」


「ん?それはねぇ…」


宝物を見つけた子どもたちは、魔道具を確認しながらいつまでもおしゃべりを続けた。









「どう、ノヴァ。その炎除けのマントと、疾風の手袋の調子は」


ノヴァはロゼから受け取った魔道具を身につけ、調子を確かめる。

炎除けのマントは、その名の通り炎に耐性があるマントだ。

魔力の炎はもとからノヴァには効かないが、普通の火なども防ぐ効果がある。

そして疾風の手袋は、一回一回魔力をチャージする必要があるが、本人が魔法を全く使えなくても突風を巻き起こすことができる代物だ。

いざという時、相手を吹っ飛ばすことができる。

他にも装飾類系の魔道具がいくつかあったので、ロゼのバックに丁寧にしまう。


「ロゼ、他にも入っているけれど、これはどうする?」


箱の中から、ノヴァが取り出したのはもっと小さい箱だ。

開けてみると、綺麗な音楽が流れてくる。


「オルゴール…だね」


切ない音楽が、ゆっくり流れ始める。

ロゼもノヴァも、その音を聞いて口を噤む。

暫く音が鳴り響き、そして止まる。


「……なんか、悲しい曲」


ロゼの感想に、ノヴァも同意する。


「これも、ロゼのお母さんのものなのかな?どうしてここに入れたんだろう」


ここは、魔道具や魔導書を隠していただけではないのだろうか?

そう考えた時、ロゼは一番下にあった魔導書を手にして、眉をひそめた。


「あれ…これ、魔導書じゃない」


一番下にあった書物は、魔導書ではなかった。

パラパラっとめくっていくロゼは、驚きの表情を見せる。


「…これ、ママの日記だ」


ゆっくりと、ロゼは日記をめくる。

綺麗で見やすい字が、1ページ1ページと続いていった。














魔女協会が『けじめ』と言い、私を執拗に追ってきた。

あんな雑魚共遅れをとる私ではないが、人数がいるのは厄介だ。

手傷を負わされた私は、ここシャスター侯爵領へと逃げ延びた。

いい加減魔力も尽き、少し休もうと湖の畔で腰下す。

気付けば、いつの間にか意識を失った。

目を覚ましたら、知らぬ場所にいた。

思わず無意識に口の中で詠唱する。

その瞬間、扉が開く。


「…!目が、覚めたのか!」


扉の前に立っていたのは、身長の高い、知らぬ男だった。

私は何も言わない。

だが、男は私に駆け寄った。


「湖の畔で、倒れている君を見つけた。…無事で、本当によかった…!」


見知らぬ男はそう言って、私の為に涙した。













「…なんか、ママがこの領に来た時の話みたい」


そして、ロゼはこの日記を書いているセビリアーナが、ロゼを知っている母とだいぶ様子が違うことが分かる。

更にパラパラとページを進める。


「ママ、ここで何してたんだろう…」


しかし、最初は疑念や白雪姫やセビリアーナを追い出した魔女協会への憎悪に満ち溢れていた日記が、少しずつ様子を変えていく。






決まって私たちの会う場所は出会った湖の畔だった。


「リーナ、遅くなってすまない」


「特に待ってないわ。毎日毎日、本当にご苦労だこと」


そう言いながらも、私は日に日に彼に会うのが楽しみになっている。

それを自覚してる分、自分に腹立たしく感じる。

私の嫌味も、彼には通じないことをもう知っている。


「屋敷のメイドがスコーンを焼いてくれたんだ。紅茶は砂糖一つだったね」


お茶の用意が素早く行われる。

彼は貴族の子弟だというのに、やけにお茶を入れるのが上手い。

最初は彼がここに来ることを拒否していた。

だが、

何をするわけでもない。

ただ、彼は私の話を聞いているだけだ。

私の事を話せば自然と避けるようになるだろうと思い、白雪姫に対して行ったことや、魔女ということもすべて。

なのに、彼は今日もここにいる。


「昨日の話は面白かったな。覚えたての魔法を使ってみたら山一つ消えてしまった、なんて。見て見たかったよ」


「あら、私はその時師匠に散々説教されたのだけれど」


そして、その後、一人前の魔女と認められた。

そんなことまで話してしまうのが不思議だった。


「君は想像以上に面白いね。今まで出会った誰よりも」


その言葉に、何故か私は。


「…どこにでもいる安い女と同じに見られるなんて、心外だわ」


今まで彼が会った人間の誰と比べられるのも何か嫌な気がした。

こんな気持ちになったことは今までなかったので、何だか不思議だ。

彼がすっと私に手を伸ばす。

それを拒否することは、もうない。

嫌だと思っていないから。


「…そうだね、リーナ。君を誰かと比べることなんて、できやしない。…私にとって、唯一の人だ」


それを何というか、私は知っている。

そして、私の気持ちの名前も、もう気付いている。

今までにない気持ちを、彼が私に与えた。

私たちは互いに何も言わず、ただ目を閉じた。












母親の若い頃の恋愛話とは、こうもむず痒くなるものだということを、ロゼは初めて思い知った。

ロゼは日記自体をノヴァに手渡し、ただ赤くなった顔を両手で隠してる。

ミラもその話は知らなかったらしく、ノヴァに『早くっ!!続き読んで!!気になるっ!!!』と急かしている。


「えー…ノヴァ、ミラちゃん、もうやめよーよ…私もう辛い…」


『いーえ!ちゃんと最後まで読まなきゃ!!もしかしたら、ロゼのお父さんかもよ、この人!!』


ミラに言われて、ノヴァもロゼも口をあんぐり開ける。

その可能性に気付いていなかったのだ。


「確かに…ロゼのお母さんがこんな風に愛した人なんだから、この人物がロゼの父親である可能性は高いな…」


今まで父親がいるとは思ってなかったロゼは、途端に気になりだした。

再び、ノヴァは日記をめくる。

暫くは穏やかで、そして優しい思い出が綴られていた。

それは、悪の女王としての影はなく、少しずつ一人の女性らしさが出てくる。

しかし、幸せな日々を綴った日記は突如終わりを告げる。

最後のページ以降は真っ白だ。

セビリアーナが最後に書いた日記。

そして書き終えた後、魔道具や魔導書と共に、封印された。

綺麗に描かれた文字を、ノヴァは読んでいく。











「…明日、この地を去ることにしたわ」


私が唐突に言うと、彼は私の瞳をジッと見て、それでいて何も言わなかった。

沈黙が痛い、とはこのことを言うのだと知る。

彼が私の頬に触れる。


「…何故、と聞いてもいいかい?」


彼は止めない。私が止まらないことを知っているから。

私という存在を、理解してしまっているから。


「そもそも追われている身で、こんなに長居するつもり、なかったもの。もうじき春になるし、ちょうどいいわ」


これでこの穏やかな日々とはお別れ。

いや、ここでの日々が異色だっただけだ。

これ以上ここにいたくない。

いや、居てしまったら、いけない。


「私が君を必ず守る、と言っても君は納得しないだろうね」


去ろうとする私を、彼の手が引き止める。

それを嬉しいとは思ってはいけない。


「…私は、悪い魔女。白雪姫を殺そうとした、悪いお妃さま。でも私は自分のしたことに後悔していないわ。その私が、誰かに守ってもらう必要があると思う?」


その言葉に彼は何も言わない。

何も言わない代わりに、少し苦しそうに笑った。

そしてそのまま私を抱きしめる。

これが最後。お互い分かってた。


「…私は、この生涯最後の愛を、君に捧げる。…私が君に唯一渡せるものだから」


「…そんな重いものはいらないわ。貴方は…」


最後によく顔を見せて。

彼と一緒にいる時間が、私にとって初めての安らいだ時間だった。

それこそ、白雪姫への復讐を少し忘れるくらい。


「…フランピエール・シャスター。貴方は普通に恋をして、普通に結婚をして、普通に父親になって、普通に幸せになって、そして普通に天寿を全うしてちょうだい」


私は彼から離れる。

魔法で霧を作り出し、私と彼が離れていく。





こうして私は、恋と愛と平穏に、さよならをした。













「…ここで、日記は終わっているよ」


一気に読み切って、ロゼたちはシンと黙る。


『……なんか、リアナとは思えないぐらい、少女漫画的恋愛してたんだね…』


流石の私も照れるわー、とミラが言う。

ロゼもそれに同意した。


「…私としては、途中から何となく予感はしていたけれど、彼の名前が出たことに驚きを隠せないよ…」


シャスター侯爵の名前が最後に出た。

リアナの愛する人として。

つまりそれは、一つの可能性を示している。

もしそうだとしたら、大変なことになるぞ、とノヴァは心の中で呟く。

国内でもかなり力と人望を持っているシャスター侯爵に子どもがいるとすれば、それは大スクープだ。

しかもそれが、あの悪いお妃の娘で。


「…この日記だけ、もっかい封印しよっか」


見なかったことにしよう。

ロゼの言葉に、異を唱える人は誰もいなかった。









ということで、セビリアーナとシャスター侯爵のお話しでした。

一応最初からシャスター侯爵の役割は決まっていたので、どんでん返しとか『実は違う人が…』とかはないです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ