必要は魔法開発の母?
予想以上に話が長くなってしまった。
ささやかな朝食をいただき、ロゼとノヴァは湖の畔へやってきた。
朝早くということもあり、湖には霧が立ち込めている。
「幻想的でとても綺麗だね」
「そう?魔の森の朝は結構こんな感じだったよー」
湖があるわけではなかったけれど、朝に霧が立ち込めることは多かった。
それが周りの人々から気味悪がられていた理由の一つでもある。
「こういった霧が出てるときは、魔法薬に使う材料が結構とれるんだよ。ママとよく手分けして集めてたなぁ」
まだ森を離れてからそんなに経っていないが、ロゼは急に森が懐かしくなった。
どんなに君が悪くて何もない場所だったとしても、あそこがロゼにとっての故郷なのだ。
「自然に関しては、ロゼの方が私よりも詳しいね。…と、あれがボート乗り場かな?」
湖の畔に、ボートと小さな小屋がある。
ノヴァは軽くドアをノックする。
暫くして出てきたのは初老の男性だった。
ロゼとノヴァを見て、おいおい、と言いながら頭を抱える。
「こんな朝早くからデートか?悪いがもう少し後になってからにしてくれ。それにこんなに霧が立ち込めていては、ボートに乗るのは危険だ」
どうやら二人が朝早くからデートに来た恋人同士と勘違いしたらしい。
そこまで驚かない、ということは、結構あるのだろうか、そういう事が。
「いや、残念ながらデートじゃないんだよ。元侯爵から湖の事に貴方が詳しいと聞いて、話を聞きに来たんだ」
侯爵の名前を出されて、ただのカップルじゃないと理解してもらえたのか、ボート小屋の中へ通してもらい、事情を掻い摘んで伝えた。
王国の危機、となると大事になりすぎてしまうので、ノヴァとロゼは国から派遣された騎士と薬師で、
昔この湖に隠されたと言われている国宝を探しに来た、と。
「私たちが生まれる前、白雪姫を狙った女王がこの国に攻めてくるかもしれないってことがあったでしょう?実際は襲ってくる前に女王は討たれて追放されたけど。その時に、もしもの事を考えてここに隠したらしくてね。でもそれを実際に行った人はもう亡くなってて、私たちが派遣されたの」
ロゼは淡々と説明した。
これは、昨夜ノヴァと一緒に考えていた言い訳だ。
もっともらしいことを言っておかないと、辻妻が合わなくなる、ということで。
隠したのはその悪い女王様なのだけれど。
そこは言わないお約束。
「そうだったのか。確かにシャスター侯爵は代々王家に仕える名臣。国宝を任されるのも無理はないな」
…とりあえず、この領の人たちにシャスター侯爵家が愛されているのがよくわかる一言だった。
だが確かに、シャスター侯爵領ならば、と納得してくれそうだからこの言い訳にしたのだけれど。
「それだったら、あれだな。きっと湖の中央にある島だな」
管理人は、間違いない、と確信したように言った。
「この湖には、小さいが中央に島があるんだ。だが、確か兄さんらが生まれる前後くらい前から、その島の周りにだけずっと霧が立ち込めるようになったんだ。おかしいってなって何人も捜索に行ったんだが、不思議と霧の中に入った筈なのに、気付けば外に出てる。危険はないが、君が悪いってんで、その島には近づかないようにしているってわけだ」
その話を聞いて、ロゼとノヴァは顔を見合わせる。
管理人がお茶を取りに行っている間に、小声で話す。
「ロゼ…さっきの話…」
ノヴァも同じことを思ったのだろう、ロゼはコクリと首を縦に振る。
「多分、魔の森と同じ魔法だと思う。島の何かとママが契約して、それが島に結界を張ってるのかも」
そこまでするのだ、探し物はきっとその島にあるという確信が持てる。
ノヴァは管理人にボートを借りたいと頼み、二人はすぐに湖に出ることにした。
幸いなことに、朝霧はすっかり収まっていて、周りを綺麗に見渡すことができた。
昼には戻ることを伝え、二人はボートを漕ぎだす。
まだ早い時間だということもあり、湖には誰もいる気配がしない。
「ロゼ、ミラは?」
ノヴァがオールでボートを漕ぎつつ聞く。
ロゼは手鏡を覗き込むが、首を横に振った。
「まだ戻ってないみたい。ママに詳しい話を聞いてくるって言って、結構経つんだけど…」
もうちょっと詳しい内容を聞いてくる!と鏡の相棒は姿を消したままだ。
つまりは、詳しい内容を聞き出すのが塩梅よく行ってないのだろう。
「でも、案外ヒントが多くて助かったよ。島まで行ったら、何か分かるかもしれないし」
結界は厄介なものだが、こっちには魔力無効化ができるノヴァがいる。
彼は、魔の森の結界も効かない程の力の持ち主だ。
この湖の島にも同じことが起こる可能性が高い。
暫く行くと、確かに徐々に霧が出てくる。
普通の人が見ればただの霧だが、ロゼにはその霧が魔力を帯びているのがよくわかった。
間違いなくここだと、確信した。
予想通り、ノヴァを乗せた船は霧を順調に進み、勿論押し戻されることもなく小島へとたどり着く。
「どうだい、ロゼ」
「間違いないと思うよ。霧の中は凄い魔力」
そして、この魔力は間違いなくロゼがよく知っているセビリアーナの魔力だ。
これで魔道具や魔導書がなければ、何のためにこの場を作ったのか分からない。
小島はあまり大きいところではなかった。
「どうやって探す?」
ノヴァは船からスコップや工具を下ろす。
しかし。
「…ノヴァ、それ、要らないかも…」
ロゼはギュッと自分の魔導書を握りしめる。
後ろを向いていたノヴァも、何かを察してスコップでなく腰にある剣を手にする。
二人の会話がなければ、島は風の音すらしない。
しなかった。次の一瞬までは。
『たっだいまー!遅くなってごめんねー二人とも!あのねあのね、大ニュース!リアナが少し思い出してね、魔道具とか隠した場所に魔道ゴーレム配置したんだって!あれめったくそ硬いし、挙句に魔法に対して抵抗力もそこそこ高いから対応策考えないと…だ…ね?』
手鏡から若干楽しめな声が響く。
だが、途中でそれも小さくなる。
鏡から見えたから。
巨大な岩の化け物が。
「ミラちゃん…それ、ちょっと言うの、遅い…」
「…ロゼに同意」
グゴォォォォォ!!!という咆哮が、戦いの幕が上がった。
「よっと!氷球!!」
ロゼが魔法を繰り出すが、先ほどミラが言っていた通り、魔道ゴーレムは魔法を簡単に打ち消す。
ロゼは不満そうに口を尖らせる。
「困ったな。私の剣も全く通らないし。ロゼの魔法も効かないとなると…」
「でも弱点はある。ゴーレムの弱点は力の源である呪文なんだけど…」
『…リアナ言ってたよ。「私のゴーレムの呪文はお腹の中よ」って…』
つまりは、倒すためにはゴーレムの中を暴かなければならない。
せめて外にあれば…と思わずにはいられない。
「…私の得意な魔法は炎と闇だから、あんまりゴーレムと相性よくないんだよね…」
特に炎は、土属性であるゴーレムは相性が悪い。
広範囲の魔法が多いので、貫通性も弱い。
「貫通性が高い魔法はどんなのがあるんだい?」
ゴーレムの繰り出す強力なパンチを、ノヴァが剣で弾く。
二人とも再びゴーレムと距離を取った。
「うーん…雷系の魔法かな。炎と水の魔法の合わせ魔法だから、苦手じゃないけど…」
しかし、セビリアーナが作った超強力なゴーレム相手に効くかどうかが問題だ。
そこで、ロゼはふとアイディアを思いつく。
「!そうだ、一人がダメなら二人でやればいい!」
ロゼは急いでノヴァの後ろに回る。
「?ロゼ?」
「今から私が、ノヴァの『剣』に雷魔法を掛ける。貫通性の高い魔法だから、剣の素早さや貫通性を上げることができると思うの」
云わば、魔法剣だね、とロゼはニヤリと笑う。
妙なところで思い切りのいいノヴァは、即座に首を縦に振る。
「分かった、それでいこう!」
「…いや、考えた私が言う事じゃないけど、初めてやるし、危なくない保証ないんですけどね」
そう言われて、ノヴァは微笑む。王子スマイルだ。
「私はきっと大丈夫。信じているよ、私の小さくて有能な魔女殿」
「…そんな風に言われたら、絶対ミスができないじゃない」
ミスするつもりもないけれど、とロゼは魔導書をめくった。
何となく、ノヴァからパワーを貰った気がした。
それからは、もうミスするイメージは湧かなかった。
「猛き雷よ、全てを貫く剣となれ!稲妻!!」
ロゼの放った雷は、ゴーレムではなく避雷針のようにノヴァの剣に吸い込まれる。
ノヴァは若干ふらつきながらも、それを受け止め切った。
「やっちゃえ!!ノヴァ!!」
ロゼが叫ぶのと、ほぼ同時にノヴァはゴーレムに剣を向けた。
「はぁぁぁ!!」
掛け声と共に、ノヴァの剣は、ゴーレムを軽々と貫いた。
ズズン…と大きな音を立ててゴーレムが崩れ落ちると、ようやく2人の間に一息つける。
「はぁ…よかったー成功して」
「たしかに。でも私はロゼが失敗するとは思ってなかったよ」
こんな時でも笑顔のノヴァは凄い、とロゼはほとほと思う。
『でもロゼ本当に凄いよ!新しい魔法作っちゃうなんて!!』
ミラは興奮したように言う。
『名付けるなら、魔法剣?2人が協力したから強敵にも勝てたんだねっ!』
「魔法剣ってまんまだね。まぁ嫌じゃないけど。分かりやすいし」
「でもこれはかなり強力な魔法だよ。この魔法が確立すれば、騎士たちも魔獣と戦うことが可能になる」
確かに、とロゼもノヴァの言葉に納得する。
『さーて!邪魔者もいなくなったし、早速みんなでお宝さがし再会よー!!』
鏡から元気な掛け声を出すミラ。
ロゼとノヴァはスコップを用意する。
さぁ、宝さがしの始まりだ。
次回はお宝発見!
ついでに別のものも発見!!




