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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第4章 振り回される年季奴隷 》
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<4-6>  「年季奴隷と幼女と教師?  (前編)」

最新の本文修正日は2015年1月15日です。

 この世界の人達は色々と流れ者というか新たにやって来た者を試すのが下から上まで。あっ、神様も含めて好きなようで呆れてしまう俺ですが、これから気が抜けなくなる日々になりそうで嫌になってくる。あの懐かしいのんびりとした日々を返してほしい。


 王女殿下との謁見後におやつのような物を貰って食べている間に閉鎖空間に閉じ込められるは、その閉鎖空間では俺を押しつぶそうとするはで、人心地ついた時に試験をするのは反則です。


 何となくその空間を脱出出来た時の役得な出来事はありがたい出来事でしたけどね。いや、決して堪能なんかしてませんよ?


 ‥‥‥。初めてこの地に来て良かったと実感した訳じゃ有りませんよ?



 その王女殿下の旅支度では驚かされることばかりで今も宝箱のような箱の中から金貨が沢山詰まっている様子を見て腰が引けた所であった。そう俺はチキン。こんな大金というかお宝を目撃してしまって、どうしていいのか分からなくなる始末の俺であった。






 ジョルジョネ大尉は沢山の金貨が入った箱を皮切りに次々に残りの箱を開けて行く。大尉が最後に開けた箱の中身を見てため息を付く。その箱の中身は銀色と金色の中間の色をした硬貨であった。


 金貨はまだだけど銀貨、それに銅貨なんかは既に見た事があったのだが、これは一体どんな通貨なのか俺には分からない。先程まで金貨の山を見て怖気付いていたのだが好奇心には勝てなかった。


 「大尉、その金貨のような物って何ですか?」




 「ったくこれだけ有れば国家予算何年分あるのやら分からない‥‥‥。あっ、嗚呼、これか? これが白金貨しろきんかと言ってな。


 そこの王国金貨千枚でこれ一枚になる。これは一般に出回るものじゃなく。隣国の貿易の決済なんかに使う場合があるし、国庫に収めて為替なんかに使う場合も有るな」




 なっ、なんですと!! これ一枚が10億円だと?! 思わず震えてしまうチキンな俺である。またもや、そんな大金を目の前にして怖気づいてしまい近寄る事さえ出来ない。


 すると、旅行鞄からコイン入れのような小箱を取り出すジョルジョネ大尉は順番にその箱に硬貨を入れて行く。硬貨の大きさはそれぞれ違うのだが、その大きさに合わせて硬貨が入るようになっている。金貨と銀貨は五百円玉ぐらいの同じ大きさで、白金貨はふた周りぐらい大きく、逆に銅貨はふた周り小さい。


 白金貨は10枚、金貨は100枚、銀貨140枚、銅貨150枚、全部で硬貨500枚である。それをコインケースに入れると蓋をして旅行鞄に仕舞う。その際、俺に魔技箱のどの場所に仕舞うのか教えてくれる。


 そして、懐から革袋を出すと銀貨20枚に銅貨50枚ほどを入れて、突然俺に渡してくる。行き成り渡された現金に対して俺は困惑してしまう。




 「勘違いするな。君は今日からそこの王女殿下のお世話係になるのだから、王女殿下の雑多な出費をその革袋から払うのだよ。俺等が馬車町になんか着いた時には君が彼女達に付き添って彼女が食べ散らかした料理の料金を払うのだ。


 「本人達はそんな事不要に思っているのだがそういう訳には行かない。君が責任持って支払いの管理と予算の管理をしたまえ。これは俺の専属秘書の仕事でもある」


 「但し、移動日や作業日は免除される場合があるからそのつもりでいい。どうせあの魔素術使いの二人と同じように俺等に関係なくほっつき歩くに違いないからな。町に着いた時だけで良い、分かったな?!」




 行き成りとんでもない事を仰る上司である。そういえば顔パスとか言っていたけど他の町ではさすがにそういう訳には行かないか‥‥‥。それに神様だから料金を踏み倒しちゃうかもね。


 「はあ? それじゃあのデウシー先生に魔素術を教えて貰えないのですか?


 あっ、そうか。移動日は免除と言っていましたか。それに作業日も‥‥‥。じゃあ俺は貴方の専属秘書で筆頭宮廷魔素術使いの魔素術の弟子で、尚且つこちらの王女殿下のお世話係ということですか? ‥‥‥。分かりました。でも‥‥‥」



 皆まで話そうかと思ったらジョルジョネ大尉が先に話し出す。




 「嗚呼、町や村に行く時は‥‥‥。そのなんだ。交渉係にプイホン君を付ける。彼は商人見習いだからな。値下げの交渉は君より上手そうだし、だけど数字の管理がな。ほれ、君に教わっている途中だろ? そういう事だ。後、これを四六時中、身に着けていなさい」




 そういうと何時も作業時に身につけている革ベルトを渡される。バックルの金具はもちろん革袋なんかを引っ掛ける金具が何個か付いている。それに大尉がベルトの細工を外して見せてくれる。


 中はコイン入れのような仕掛けになっていた。それに先程の沢山硬貨が入った箱からそれぞれ硬貨を取り出して順番に入れて行く。金貨3枚に銀貨7枚、全部で十枚の硬貨が収まってしまう。


 それを俺に渡して締めさせる。革袋の紐をベルトに巻いて端っこの金具に引っ掛けると引張っても中々取れる事は無かった。巾着切りに遭ったらどうしようもないけどね。ああ、刃物で革袋を切られることだよ。




 「その腰帯の金貨などは万が一の為のものだ、滅多やたらに使うなよ! その革袋の銀貨は新しく着く町や村の近くになったら補充してやる。君の財布とは別にして置けよ。あくまでもそれは魔人国の公金だからな。


 横領罪が魔人国にあるかは知らないが一応はこれから向う土地はアラレスティ王国であるから、この国の法律が適用されて犯罪になるからな! 犯罪になれば分かっていると思うが犯罪奴隷行きだからな!!」




 「はあ、それは分かっているのですが、万が一暴漢にでも襲われたら俺では対処できませんよ? それも複数なんかでやって来られた日にはもうお手上げですよ?」




 「君ね、少しは自身持ちたまえ! 朝の素振りの稽古をしているのであろう?


 少なくても町の半端者では君には敵わないと思うよ?


 それに君からそんな奴等が居るような所に首を突っ込まなければ問題は無い。あっ、そうだ。本隊は明後日の昼までにゴルムディアに着く。その後、二、三日はどうせ馬車の総点検や整備をしていて直ぐには出発できないのだから‥‥‥。そうだ、実地訓練でもやってみるか。そうだ、そうだ。そうしよう」




 なんだか知らないが勝手に予定が組まれて行くようです。ウムを言わさず俺の実地訓練が行われるようです。仕方がないよね、だって年季奴隷だもの。俺に選ぶ権利や自由がある訳は無い。



 「はあ、分かりました」と、いう事しか俺には言う事は無い。俺が実地訓練がどういったものなのか頭の中で考えていると大尉はまた別の革袋を用意して、金貨や銀貨をつめると王女殿下の秘書のラシャネスさんにも渡す。彼女はいたって無表情で大尉の注意事項に耳を傾け頷いていた。


 どうやら俺が居ない時なんかの支払いの事だと思う。それにしても旅支度が終わると金貨の入っていた箱まで消えてしまう。嗚呼、消せるなら旅支度はいらないように思えるのは俺だけであろうか? そんな俺の疑問にため息をした王女殿下が答えてくれる。




 「他人の領分を侵すなかれと言われたのでな。妾は他人の土地で力を使うつもりは無い。それに今回は傍観者として旅に参加する身でもある。身に危険がある時以外は何もせぬ」




 嗚呼、そうか。あの親書や書状に書かれていた事の一部なのかも知れない。繁盛に神様が下界にちょっかい出されては下々の者はたまらない。それがアラレスティ王国内を旅するなら一層不満に思う人族がいるのかもしれない。



 ジョルジョネ大尉に旅行鞄を持つように言われて蓋を閉じて封印すると、手に持った瞬間見た目の大きさと実際の重さのギャップに驚くが軽々それを持って大尉の後を付いて行く。


 そのまま彼の後を付いて行くと部屋を出て何となく明るい廊下を2分ほど歩くと直ぐに外に出る事が出来てまたもや驚いてしまう。


 何故驚いたかというと、俺がここに来た時は随分長い廊下を歩かされたからである。しかし、あれは夢うつつな世界の話なので考えるなと自分に言い聞かせる。


 外に出てから建物の外観を眺めていると、始めはこの敷地に歩いて入って来たのだが、俺達が乗って来たジョルジョネ大尉の指揮車が丁度こちらに向ってくるではないか。よく分からない手続きである。まあ、彼らというか御者親子も受付をしたのかもしれないよね。



 それにしても王女殿下が出てくるのが遅い。結構待っているのだけど出てこない。ふと誰かの視線が気になって視線の先を見ると洋館の3階の窓枠からあの王女殿下が手を振って、またねと言った感じにまるで俺か大尉を見送っているようだ。


 それにその横にはラシャネスさんも澄ました顔で横に居て、旅支度をしたのに行かないのか? そんな疑問が浮かんでくる。


 もしかして今日はこのまま帰って明日辺りに迎えに来るのかなと思い、ジョルジョネ大尉に聞こうかと思うと、大尉はまったく別人の所に立っていて何か話しているではないか。


 首をかしげながらも大尉の側に行くと、そこには見かけない女性と子供? 幼女? その二人立っている。両方とも金髪でどう見てもアラレスティ大陸に来てから目に触れることが多いこちらの住民の方々で彼女達は王女殿下のお付の人かと勘ぐってしまう。


 しかし、その大人の女性は分かるが幼女はどう見てもお荷物にしかならない。そんな思考を巡らせていると、先程の大尉の会話を思い出す。確か「あなた達は姿を変えられる」と、いっていたような‥‥‥。




 「遅い! 何をやっておる!! ぼけっとしとらんで早く乗れ!!」




 幼女にそのような事を言われると、さすがに温厚な俺でもカチンと来るがきっと中身は王女殿下なんでしょ?


 するとニヤッと口角が上がった幼女は俺の手を引張り大尉が開けた指揮車の入り口へと俺をいざなう。後ろの席にどかっと座ると俺に何か耳打ちしてくる。その言葉にどっと俺は冷や汗が出てくる。




 「そなたの記憶にこのような姿の少女が多数出てくる動く絵の物語を参考にした。なんでも、『ツンドロ』と、いうのがそなたの好みなんじゃろ?」




 殿下、それは『ツンデレ』といって先程の会話はただの罵倒ですよと心の中で嘆くと少し驚いた表情をする幼女。それに言い訳すると偶々であり決してロリコンではない!!


 偶々見ていたアニメにそういう人物が多数出ていただけで、それが目的でアニメを見た訳じゃ無いですよ? 誰に言い訳したのか分からないが彼女は最後にボソッと何か話す。



 「奥が深い物なんだな」と、俺に呟いた幼女は登録をしていないはずの俺が抱えていた鞄を奪い取ると蓋を何もなかったように開け、中に入っていた例の馬車町料理屋見聞録の本を引っ張り出すとブツブツ言いながら読み出す。嗚呼、さすが神様、魔技箱の仕掛けは関係ないようです。



 すると、ジョルジョネ大尉が後ろにやって来て話し始める。




 「あ~、分かっていると思うが。そのお子様が王女殿下でその保護者のような姿がラシャネスさんである。これから話すことは隊の皆には口外しないように。


 名目はゴルムディアのある商家の娘さんがアラレスティ大陸を見聞する為に俺の奴隷旅団所属中隊に便乗して旅をする事になったという事だ。


 まあ、こういうお金持ちの商家が偶にやっている事なので皆は不思議には思わない。それに奴隷旅団所属中隊に便乗すれば旅が安全に過ごせるので旅行する者が偶にお金を払って便乗するので珍しい事ではない。だからリョウジ、君はその彼女達のお世話係の従者という仕事に就いているという事になる。


 それで普段はミリクナ医務長達の指揮車に乗り込んで貰うことになるのだが、今までの指揮車だと手狭になるのでこの際少し大型の指揮車になると思う。今、奴隷組合の車庫で整備していてまだ中隊には配属されていないのでなんともいえないが。それで自己紹介といきたいのですが王女殿下?!」




 「あ~、面倒じゃな~‥‥‥。あっ、そういえば今の名前はなんて名乗っていたかなラシャネス?」




 「はあ、主様。今は魔人王、王女サグジュワーン殿下でございます」




 「そうか‥‥‥。リョウジそのシャムネコとはいったいなんだ?」




 突然シャム猫の話でまたもや俺の思っていた事を口にして驚いた俺であるが、なんて言っていいのか分からない。こちらでは猫種は立派な人間、獣人の一部であり人である。


 そんな事で苦慮していると、猫ですよと頭の中に思い浮かべる。ついでにどんな姿かも同時に思い浮かべる。なんでシャムネコを思い浮かべていたのかというと、気品があって優雅で長い手足が何となく目の前に居る彼女に似ていたのだけど、実際は猫特有の気まぐれで手がつけられないからだ。


 候補としてペルシャ猫も在ったがあれは全身毛が長くて丸っこい印象があってこのお嬢様とはかけ離れていたので除外した。それに猫界の女王的な位置だしぴったりだと思ったので別に名前をシャム猫だとは考えていなかった。


 偶々ぼうっと今までの行動を思い浮かべて昔見た猫辞典を思い出しただけであった。その思い出した時の思考を彼女は読んだのだ。これじゃおちおち良くない事を思い浮かべることは出来ないよね?




 「ふ~ん。じゃあ今回は「シャムネア」でいいか。何処にでもいそうな名前だし探られても分からなさそうな名前だ。家名はいらないよな、ジョネ?」




 「はあ、そんな適当で宜しいのですか? それに今の名前も仮というか適当につけた名前だったのですね。少し驚きましたが貴方の事だからそんなものかと思ってしまいました。では、その名前で軍や組合に登録しておきます。


 それで一応は左手に一級市民である証を付けて貰えないでしょうか? 一応用意されているその紋章はこちらにあります。これは実在するというか王国に認められている紋章なので、これ以外ですと町には入る事は叶いません。貴方々にはどうにでもなる事ですよね?」




 大尉がそういい終わると彼女達の左手に例の紋章が浮かんでくる。それぞれに見せられた紋章と寸分たがわぬ大きさと左手だけではなく首筋にも小さな紋章が浮かんで、皆と同じような位置に紋章が現れる。さすが神様‥‥‥。




 「それと隊の皆との接触は極力避けてくださいね。皆まで言わなくても分かると思いますが。あっ、後お食事なんですが、その移動日なんかは指揮車の中で召し上がってください。彼か、もう一人の従者に運ばせます。それから‥‥‥」




 大尉が皆まで話し終わらない内に、その口を塞ぐようにため息をしながらシャムネアお嬢様が口を開く。




 「分かった、分かった。皆まで言わなくても良い。要はなるべく目立つ行動を控えよという事かえ? それならそうと端的に言えば分かる。それにそなたの上司が認めたあの書状にも書いて在った! それを含めてあい分かったと了承したのだが?!」




 「はあ、分かっていると思いますがその言葉使いも少し下々に合わせてほしいのですが。幾ら金持ちの商家の娘だとしてもその言葉使いは怪しまれます」




 「分かったわ。大尉のおじちゃん! 私は良い子だから、これぐらい屁でもないわよ! それともジョネお兄ちゃんとでも呼んであげようか?」





 久々に大尉の困った顔を拝んだのだが、確かにおじちゃんだよね。そうすると俺もおじちゃんと呼ばれるのか? 25でおじちゃんか? 見た目10歳ぐらいの少女、幼女からすると立派なおじちゃんか。嗚呼、確かにおじちゃんか。たぶん30台の大尉の場合、確実におじちゃんだよね?



 ジョルジョネ大尉がそれぞれ注意事項を俺を含む全員に話し終わると天井を叩いて合図をする。すると馬車は進み出して肝心の話が終わっていないというか忘れているのではないこと突っ込みたい。


 「あのー、大尉? ラシャネスさんはなんとお呼びすれば宜しいのですか?


 それに彼女の役回りというか、一応聞いて置かないと困るように思えるのですが」



 大尉が口を開く前にシャムネアお嬢様が口を開く。




 「考えるのが面倒だし、また違う名前を覚えるのが面倒だからラシャネスはラシャネスでいい。それに保護者役なんだからどうせ家庭教師とかそういうものじゃろ? 少しは空気を読め!! ‥‥‥。こういう使い方で良いのかリョウジ?」




 嗚呼、言われて見ればそうである。明らかに見た目は保護者役だよね。それに配役の名前を考えるのが面倒ってまるで何処かの作者だよね‥‥‥。それに空気読めの使い方だけと、間違いじゃないがこんな時に言わなくても良いような。それにジョルジョネ大尉はぽかんと口を開けて何のことだという顔をしているでしょ?


 「もう少しお嬢さんの口調でお願いします、シャムネアお嬢様! 普段から口調を直さないといざという時に地が出てしまうものですよ?」




 「あらそう? ではこれで宜しいですかリョウジお兄ちゃん!!」




 妹属性は所持していないので背中が痒くなってくる。確かに一時期は友人の妹というか他人の妹に憧れを抱いた時期は在ったのだが、無いものねだりはして駄目だと自分に言い聞かせたものだ。そのせいか非現実に走った時もあった。嗚呼、ありましたとも!! 一人っ子の俺が妹や姉に憧れて何処が悪いのか?


 ‥‥‥。どちらかというと姉属性でした。




 「私が間違っていました、私は召使の従者なので呼び捨てで良いですし、その命令口調でお願いします」




 「意気地無し!!」と、言ったシャムネアお嬢様はプイと横を向くとまた例の見聞録を読み始める。良く分からないがこれってバツゲームだよね?


 横に座っているラシャネスさんは何も無かったように澄ました表情で前を向いていて我関せずである。俺が彼女の表情を見ても何も無かったような感じだあった。


 ジョルジョネ大尉は大尉で表面上の注意事項を話した後は係わり合いになりたくないように直ぐに前の席に座ってしまう。



 ため息を付く俺にシャムネアお嬢様はボソッと呟く。




 「ジョネは過去の男じゃ。今はそなたに目が向いているから前を向け!!」




 そんな事を呟くとまた本を読み始める。


 宿舎かあの屋敷に着くまでの時間は針の筵であった。下手な事を考えると促突込みが入りそうだし、違う事を考えるとその考えた事に突込みが入るよね?


 もう何も考えないでぼ~っとするしかないようで、何も考えないようにしようかと思い始めたら、先程のあの閉鎖空間の事を思い出す。人がほっとしたり気が抜けた瞬間に何か仕掛けてくる事が多くて身構えてしまう。


 すると、僅かに誰かが舌打ちしたように聞えて横の二人を見る。一瞬、俺のほうを見ていたラシャネスさんが何も無かったように前を向いたまま何も無かった振りをしているではないか。油断も隙もあったものじゃない。




 「ラシャネス! もう良い。それじゃリョウジョが落ち着けないじゃないか。妾達と違って人は丈夫に出来ているとはいえない。体も精神もじゃ! まあ、それが人のいい所でもあるが‥‥‥」




 そんな言葉をラシャネスさんに投げかけると、幼女は本の続きを読む。当のラシャネスさんは返事をするとまた何事も無かったように前を向いて澄ました表情で沈黙している。


 それに幼女の読んでいる本に一体何が書いてあるのかと思いチラ見すると、本の内容はいたって普通のグルメリポートであり、神様ぐらいなら全部暗記出来そうな気もするのだけど‥‥‥。




 「分かってないな~、そなたは。こういうものは自らの足を使って調べて記事を集め、更にはその場所に言った時の事を想像するのが面白いのであって、全部暗記してなんとする。


 あ~、そなたの言葉で言うと『で~たべ~す』とか言ったか? それだけでは面白みの欠片もない。想像するのが楽しいのじゃ!


 妾は時間だけはたっぷりあるからの。これはほんの一部じゃ。本当なら全部持て行きたかったが。ほれ、前のわからんちんが20冊しか許してくれなかったからな。仕方なく最新版だけ厳選して持って来たのじゃ!!」




 そういってにっこりと微笑んだ彼女が俺に本の表紙を見せてくれる。王国歴1545年度版と書いてある。確か今は王国歴1548年であるのだけどこの地の文化レベルから言うと3年前の物であるが遥かに最新版なのかもしれない。




 「仕方が無かろう。そなたの国とは違い「ジョウホウ」の伝達は桁違いに違う。それでもそなたの国には無い物もこの地にはあろう。それを考えると団栗どんぐりの背比べじゃ」




 「あのですね、普段はそれで構わないのですが。そのなんていうか人の心の中を覗いて会話すると周囲から不振がられますよ?


 それで時々私の言葉にカタカナに聞えてくるのはあの首輪の影響ですか? ‥‥‥。あっ、そうか。こちらの言葉に当てはまる物がないということか」




 そういうと彼女はニコッと微笑む。しかし、この短時間で凄く疲れるのは仕様なのであろうか。これがあと4年と半年続くと考えると‥‥‥。考えるのを辞めた。だって俺の顔をじっと見つめる視線を感じたからであった。



 その、なんというか。目的地に着くまでの間、一体どうしたらいいのか分からなくなる俺であった。




 次話へつづく

次話は3/27木曜日に投稿する予定です。

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