<4-1> 「ようこそ貿易都市ゴルムディアへ!! (前編)」
最新の本文修正日は2015年1月14日です。
俺を誘拐した犯人というかテロリストというか、彼らと寝起きを共にして何となく彼らの食事風景に哀れみを覚える俺ですが、まさか予定の地に誘拐されて到着するとは思っても見なかった。
護送というか輸送されている間は何処に連れて行かれるのか不安であったのだが、間抜けな犯人一味の一人のお陰で何となく行き先や行動の予定が分って拍子抜けというか呆れてしまって何も言う事が無くなる。
ゴルムディアに到着する朝に念願の風呂に入れたのだが水風呂というか水浴びであった。その後、ジョルジョネ大尉らと同じような軍服に着替えさせられた俺は、スペンサー大尉という事で公務の都合でゴルムディアに来た事にされてしまう。
嗚呼、しっかり犯人共に両脇を固められて身動きなど出来る訳も無い俺であった。
城門の取調べというか臨検というか、中に入ってきた係員が俺に見覚えがあるといわれて困惑してしまう。若干何処かで見た覚えが無い訳じゃないのだが、だんごっ鼻ににグレーの瞳、それに金髪という出で立ちなので一体誰なのか分らない。
しかし、とても嫌な感じのニヤケ方をするので、もしかするとは思っていたが‥‥‥。少し会話して確かめるか?
俺の横に居る奴が微かに腕を動かしてわき腹に当てていた刃物に力を入れる。いや~、でもここで会話しないと逆に怪しまれるよ?
そんなふうに小さく囁き会話の続きをする。
「確か私が傷だらけでうなされている時に話しかけてきた人ですよね?
あの時は皆に見放されたと思っていましてね~。人間不信だったのですよ?!
三日後ぐらいまでに訪れると思っていた友人は結局来なかったものでして!
そんな事があるとどんな人物でも人間不信になっても可笑しくは無いですよね?
逆に優しく俺を介抱してくれたあの人達のほうがまだマシでした」
もう不満を言うが如くべらべらとまくし立てる。さっさと助けに来ればいいものを‥‥‥。どうせ背後関係を纏めて絡める為に俺を利用したに違いない。それにここに居るという事はあの凄いミリクナ医務長辺りが俺の居場所を探し当てていたに違いない。
だったらさっさと迎えに来いと言いたいのだが‥‥‥。一瞬驚いたというか苦虫を潰した表情になった係員はまたいやらしい顔付きになると、俺との会話を続ける。
「そうでしたか。あの時はかわいそうだと思って最初に食事を奢ったじゃないですか? 美味かったでしょ? あの暖かい食べ物。
それで確か二日目に私の妹が来まして貴方に花を渡して見舞いに来たじゃないですか!
その後、貴方は何処かに言ってしまったので消息を聞いたのですが‥‥‥」
「話の腰を折って済まぬが、大尉は大事な命令を受けておりまして急いでおります。早々にここを通して貰いたい!!」
「そうですか~。折角、昔の故ある人と会えたもので、つい嬉くなってしまい申し訳ありません。別にこれと言って怪しい所もなさそうなのでお通ししますが、まさかと思いますが武器は所持していませんよね?
特に魔素陣を装備した魔素道具の武器はこの地は所持禁止となっております。たとえ国王陛下のご命令で武器所持を許されていましても、この地では通用いたしません。あっ、まあ分っていらっしゃるとは思いますが?」
そういって、またいやらしい顔を晒すと、彼に文句を言った人物に確認をする。
「そんな事は分っている!! 万が一、そのような事があれば正式な書類として抗議をしてほしい。こちらの大尉はお急ぎの命令で急いでいるから、抗議をするなら後日にしてくれればいい!」
いやらしい顔つきをした係員はもっと食い下がるかと思ったが、あっさりと引き下がる。
「これは失致しました! しかし、私も職務でしてご理解いただきたい。では良い滞在を!!」
そういって係員の彼はこの馬車から降りてこの箱馬車の扉を閉める。扉を閉めた途端に緊張の糸が切れたのか急に皆がため息をするのだが、あの兄貴分だけは周囲の様子に聞き耳を立てるように静かに座っていた。
「てめぇ! 何のつもりだ? てめぇは大人しく座っていろと言ってあっただろ!!」
「いや~、でもあの時ああやって誤魔化さないと返って怪しまれましたよ?
適当に彼の話につじつまを合わしただけなので何も心配する事じゃないと思いますけど?」
「今度はぜってぇ黙っていろ!!」
今度? 良く分らないが今度というのはもしかしてまたこんな格好をさせられるという事なのか?
しかし、相変わらず間抜けな子分共である。馬車が問題無かったようで動き出すとなんだか和やかというか、気の抜けた雰囲気になってべらべらと話し出す子分共。それを諭すというか嗜めるように兄貴と呼ばれた人物は皆に注意を促す。
「おめぇらまだ喜ぶのは早い。まだこいつを取引しなければ金は入らない。先行させているやつらと連絡を密にして取引相手を調べてからだ。先程も話したが手筈通りやれば金は転がり込んでくる、抜かるなよ!!」
「へぇい!!」と、一斉に中に居た6人の子分が返事をする。それにしてもこのリーダーというか兄貴分の素顔は結構男前で若く、しわがれた声とは裏腹なんだが‥‥‥。その眼光は鋭く少しの隙も見せないといった感じは見た目の年齢よりも経験値は高いのかも知れない。
ここで俺に素顔を見せるのなら何でお面をしていたのか疑問であるのだが‥‥‥意味が分らない。もしかしたら取引の後に俺を消そうと考えを改めたのか?
身震いをしながらこれからの事を考え始める‥‥‥。どうなっちゃうの俺?
それに先程の会話を思い出すと二日目に助けに来るという意味なのか?
それとも二日目には俺の所在を確認出来ていたという事なのか疑問が浮かんで来る。ミリクナ医務長なら初日に俺の居所を確認していたと思うので、これは後二日我慢しろという意味だと自分を納得させる。
しかし、最初に飯を奢ったという恩着せがましい事を今更言ったって許さないよ?
さっさと連絡ぐらいしても良いじゃないか?
まあ、その隙は無かったのだけど。何時も子分共は笊な警戒態勢であったが要所要所はあの兄貴分ともう一人眼光が鋭いお犬様が目を光らせていたので仕方がないか。
それにしてもこれから俺は何処に連れて行かれるのだろうか?
等と、考えていると座っていた奴等が急に立ち上がって座席の板を持ち上げると、中から衣装を出してくる。
何がなんだか訳が分からないが急いで今着ている服を脱げと命じられ、代わりの服に着替える為に渡された物を見て困惑してしまう。ピンクのワンピースにロングの金髪の鬘である。
女装までさせられるとは思っても見なかった。すると、着ていた軍服を脱いだ一人がたわわな胸を見せ、俺と同じようなワンピースに着替える。
他の皆は偉そうな貴族のような豪華な服装だったり執事のような姿だったりとあっという間に貴族様御一行に変装してしまう。その貴族の服装を着た人物を見て首を傾げる。何処かで一度見たような気がしてならない。
たわわな胸の女性が鬘を被って納得してしまう。確か俺に会いに来た貴族御一行にこんな感じの人が居たような。ああ、その時に俺を確認しに来たのか?
その胸の黒子で思い出した。いや、ちゃんと顔を見ていましたよ。偶々、たわわな胸に黒子が目立っていたので思い出しただけです!!
着替えが終わるとハイヒールのような靴まで履かされて、その胸に黒子がある女性が俺に化粧を施す。きっと情けない顔をしていたと思うよ俺。
そうやってあっという間に女装させられた俺以外にも皆が次々に役どころの変装を終えると、馬車が急に止まる。
「急いで、ドアを出て通りの向うの馬車に乗り込む! 大人しく付いて来い!」
そういわれると細い路地に入ったのか周りが薄暗くて見えにくい。ドアの向こう側に確かに言われた通りにこの馬車より立派な箱馬車が止まっていた。
俺を含む皆は急ぎ足でその細い路地を走って行く。いや~、でも直ぐにハイヒールは履きなれていないので途中で転びそうになるが、素早く兄貴分が俺を支えて腕を掴む。そうやって躓きながらもようやく路地の向うの箱馬車に辿り着くと背中を押されて乗り込ませられる。
先程の箱馬車とは違ってこの箱馬車には窓がついていた。まあ、大胆というか、なんというか。確かにまさか誘拐犯が大胆にも外から中が丸見えになる箱馬車に乗って町の中を徘徊するとは普通の人は思わない。別に外の様子が眺められるので文句は無いのだが、相変わらず俺の横に乗った奴は俺のわき腹に刃物を衝き立てる。
当然窓にはガラスは嵌っていないのだが、やる事が無いので窓の外の風景を眺める事にする。外の世界は細い路地から少し広い通りに出て馬車は進む。
この町は結構発展しているようでどれも石造りの建物が3階から4階建てである。石の壁や柱なんかには装飾がしてあって、まるで中世のヨーロッパのある町に来たかと思えるような風景であった。
馬車が進むと少し開けた所があって公園のような広場まであるではないか。公園の中には噴水や皆が憩いの場のようで大道芸人のような人達が広場の中心で芸などを披露しているようだ。
それにしても皆は落ち着き払っていて大胆というかそんな感じであった。暫く外の風景を堪能しているとお屋敷というか立派な門扉の所に着て馬車は止まる。
外の御者と思われる人物が何か門番のような人に声を掛けると立派な門扉を開けてくれる。その門扉から建物までの距離も結構長く感じられる。10分ほど馬車が走り出すと立派な玄関というか入り口の前で馬車が止まると皆が降り始めて俺も横の奴に小突かれて降りる事にする。
馬車が雨の日でも問題ないように立派な屋根がある玄関ポーチに色んな装飾がしてあり天井中央に灯りがともされている。玄関ポーチに降りた俺は玄関前の豪華な大理石で出来た階段を上がり玄関ドアの前に立っている使用人が重そうな木製の扉を開けてくれる。
皆は堂々と足を運んで俺だけキョロキョロしてしまい不審者である。玄関から建物の中に入ると大理石の床にはふかふかな絨毯が敷いてあり、それに足を取られながらも歩いて行くとこれまた広いホールに行き着く。
中央に階段があってまるで何処かの宮廷のような作りであった。柱が驚く事に少なく天井が高いそのホールの天井を見るとドームのような形であり大空間を演出している。
そんな風景を半ば口をあけてポカーンと見ていると早く歩けと促される。俺等はその階段を上がる事は無く階段横の廊下を歩かされる。廊下には3m毎に明かりが灯されていて明るすぎず暗すぎず。いい加減何処まで歩くのか分らないが履き慣れないハイヒールに足が痛くなってくる。
ようやく観音開きの扉が開かれて一室に通される。中の装飾品はどれも高そうでまかり間違っても触る気にはなれない。外の明かりが室内に入ってくるようなので窓があってガラスかと思ったのだが違ったようだ。
空気の流れがあって窓にはガラスは嵌っていなかった。もしかしたら奴隷旅団所属中隊の馬車のように気象結界が張ってあるのかもしれない。
そんな様子を窺いながら早く椅子に座りたいとそわそわするのだが、中々皆は座ろうとはしない。応接セットが部屋の隅にあるのだからそこに座ればいいと思うのだが‥‥‥。誰かが入ってくるのを待っているようだ。
俺等が部屋に入って一旦閉まった扉からノックする音がして執事のような人物が扉を開けると、この部屋に入ってくる人物が部屋の中に入るまで扉の側で待っているようだ。
その目当ての人物が部屋に入ってくると皆が跪く。そこで俺はうんざりする。また担がれたようだ。この大げさな装いといい、一体何を考えているのか分らない。まあ、どうせこういった事が起きた時の為の演習か何かだと思う。
「はあ、お久しぶりですハルーツン閣下!!
まったく持って呆れてしまいました。こんな七面倒くさい事をして一体幾らお使いになったのですか?
そのお金で結構な人数の民に美味しい物を食べさせる事が出来ると思いますが、いかがでしょう?」
「あらら~? もっと驚くかと思ったのに。それに相変わらず手厳しいな~リョウジ殿は。何時頃から気付いたの?」
「大体、初日から何となく可笑しいと思っていましたよ。大体人質に対して待遇が良すぎました。普通は縛られて樽に詰められるのが当たり前ですよ?
それに態々外を見せたり。あっ、そうそう。間抜けな手下も出来すぎというか。こんなに間抜けなのに肝心な所は締めているとか実際はありえないですよ。まあ、そんな所でしょうか。
あ、確信が持てたのはこのゴルムディアに着いた時にニヤ付いたジョルジョネ大尉が箱馬車に入ってきた時ですよ。一応遠まわしに文句を言って置きましたが」
まったく持って迷惑な話であった。恐らく俺がこの地を進む度に何か起きたので、その何かを確かめる為に誘拐されたというシチュエーションで回りの動きを確かめたのかもしれない。
それに皆まで解った事を殊更アピールする事も今になっては何か恥ずかしいのだが‥‥‥。あれ? 何か違うのか?
そんな俺の話した事に対しても彼は驚くことなくニコニコというよりはイケメン特有の微笑で俺に返してくる。
「それで、もうこの格好は勘弁してほしいのですが?
脱いでも良いですよね?
これは閣下の趣味ですか?」
「あ~、君に肌の色ならその色が似合うと思ってね。思った通りに似合うよ!
‥‥‥。もう脱いじゃうのかい? 勿体無いな~、もう」
あ~、つまんないという表情をして片方の眉毛が若干上に上がると、体をくるっと反転して閣下が突然叫ぶ。
「第一回特別演習終了!!
別室にて今回の評議を行う。主だった物を参集させよ!
リョウジ殿には一旦下がって貰い、少し休んだ後に参考人としてその評議の場に参加して貰う。それまで別室にて休まれると良かろう」
そう言葉を発すると、テキパキと部屋にいた皆が動き出す。俺はその中の品の良い感じの執事さんに「こちらです」と案内される。
逆に俺のほうが何か畏まってしまい、ぎこちなく歩いてしまうのは履き慣れないハイヒールだからではない。部屋に案内されると執事さんから「御用の時はお呼びください」と一言言われて、彼はこの部屋から出て行く。
部屋を見渡すと20帖ぐらいの広さでドアが何箇所かあって順に開いていくとバスルームだったり仮設トイレと同じような便所など、俺には必要ないドレッサールームなんかの部屋を確かめるように徘徊してしまう。
途中足が痛くなったのでハイヒールを投げ捨てて歩き回る。ベットの上には真新しいジンベが置いてある。
着ていた衣装というか着せられたワンピースを脱ぐのに一苦労しながらバスルームに行くと湯船にはお湯が満たされていて、チョロチョロとお湯が天井から降りてきている管から流れていた。ここもかけ流しか?
しかし、久々の暖かいお風呂を堪能しながらもこれからの対策を練らなければならない。と、いうのも先程は呆れたというか内心色々と不満に思っていた為に言いたい事をぶちまけてしまった。もう少し冷静になって少しは驚いた振りをすれば良かったと反省をする。
そうしないと彼らに良い様に使われかねない。今度はまた何をさせられるか分かったものじゃない。そんな事を呟きながら湯船につかると洋風に泡沫石、石鹸を身体にこすり付けて体を荒い頭もついでに洗って湯船に潜って数十秒、頭を冷やす為というか少し冷静になる為に考える。
あいつ等というか俺以外の人間、特に組織に所属している人間はあれほど注意しろと言っただろ! と、自分を反省させる。
何処で目が光っているのか分らないから駄目な俺を演じろ!!
あまり優秀な面を見せると後悔するぞ?! 演じろ俺! そうしないと帰れなくなるぞ?!
‥‥‥。だけど流されちゃうよね?
‥‥‥。いやいや、流されちゃ駄目だろ!
葛藤の途中で息が苦しくなって水面に顔を出す。
そんな事を何回か繰り返して色々と自分に言い聞かせて湯船から出ると、かけてあった手拭を取って水滴を拭く。さすが公爵家の備品はどれも高級品で手触りから肌触りまで感心するほど上等なものであった。
ひょっとして客間だからそうなのかな?
確か大尉は貴族は最近華美を廃するとか言っていたような。濡れた頭を上等な手拭で拭きながらベットまで行くと、置いてあった着替え一式を身に着ける。サンダルもあったのでいつでも外にいけるように履いてしまう。
もう少し、あのハルーツン閣下のようにとぼけた風にしないと生き抜けないな~‥‥‥。そう思いながらベットの上に横になり天井を見ながら呟いていると、お腹の虫がなってくる。
そういえば今朝も何時もと同じように何も食べていなかった。起き上がると周りを見回すのだが小奇麗な応接セットのテーブルの上にも何も乗っかっていない。キョロキョロするのだが何処にも食べる物は無かった。
執事が用がある時は呼んでくれと言ったので呼び鈴のような物があるのかと思い、あちこち捜すがそんな物も無かった。仕方なく部屋の外に出て何か食べ物でも持ってきて貰おうかと思って扉をそ~っと開けると、廊下で立っていた執事さんと目が合ってしまう。
「あの~、すいません。何か食べ物を頂ければありがたいのですが?」
「畏まりました。お部屋で少々お待ちを」
そういうとそそくさと彼は何処かに行ってしまう。その彼の後姿を見送り部屋に戻ると外の世界が気になってくる。部屋の窓から外を覗くとフランスの有名な宮殿の庭園のように左右対称になった庭園が広がっていた。
所々ペアになった軍人のような連中が見回りをしている。大体300m間隔で歩いていてペアもそうだが離れた者どうしで偶に合図して庭園を見張っているようだ。犬が居ないのが責めての救いで、あんなのが居た暁には落ち着いてこんな所には居られない。
再び視線を部屋の中に戻してベットに寝転がり、ふと何かの視線が気になって部屋の応接セットのソファーに偉そうに座っている人物を目撃してギョットする。
「あ~、妾は直ぐに来いといったのに何時まで待たすのじゃ?
こんな所のまずい食べ物より妾がこの町を案内して美味しい物をご馳走しようぞ!」
そういうと先程まで普通の壁であった所にいつの間にか扉が現れていて、俺はベットに寝転びながらその様子に呆然としていた。すると、ずかずかと俺の側に寄って来て首根っこのというかジンベの襟をつかまれて信じられない力でその扉までズルズルと引きずられてしまう。
「ちょっ、ちょっと待ってください? なんていうか貴方は誰ですか? それに何時の間に現れて‥‥‥」
引きずられていた俺は一度彼女というかその人物を静止して立ち上がると、開いた扉を見て唖然とする。そこはどこかの街角のような所でそこを歩いている人々は何故だかこの扉や俺達には気が付かないようで、無視したように通り過ぎて行く。
あ~、俺はまたいつの間にか寝てしまって夢でも見ているのか?
あ~、そうだそうなんだ。もうこうなったらどうにでもなれ~‥‥‥。彼女が先導してその街角に出ると入って来た扉が閉じて消えてしまう。
便利なドアだねと、それに首を傾げながらも俺は彼女の後をついて行く。何か良い匂いがしてそれに吊られるように彼女もその匂いの発生場所の店に入って行く。
「いやいや! 俺。いや、私はお金を持っていませんよ? それにここは何か高そうな店なのですが? 大丈夫ですよね? お金持ってますよね?」
「ごちゃごちゃと五月蝿いの~。妾は顔パスじゃ!!」
そういうと身なりが整ったボーイのような執事のような人物が俺等を席に案内してくれる。そんな彼は俺のジンベ姿をなんとも思わないのか、ただひたすら俺の目の前の彼女に傅いている。
テーブルの席に着くとメニューのようなものを俺と彼女に渡すと跪いてオーダーが読み上げられるまでボーイは待っている。彼女は手馴れているのか次々にメニューを読み上げて行く。って、いうか上から順番にメニューを読み上げているだけであるのだが‥‥‥。
おいおい大丈夫なのかそんなに頼んで? 俺は払えないぞ? そんな事が心配になってくるのだがオーダーを聞いている彼はそんな些細な事というように気にはしていないようだ。
それにメニューを見せられた俺自身も困惑してしまう。聞き慣れないカタカナの料理名を見せられてもただ困惑するだけだ。そんな俺を無視するように彼は彼女のオーダーに聞き入っている。
「お嬢様、今朝の取れたてのあの素材が手に入っていますがそれはどうしますか?
‥‥‥。畏まりました。では順次お運びいたします」
彼には目の前に座っているのはお嬢様に見えるようだ。俺には何か別のように思えて仕方がない。具体的に何と問われても困るのだが俺には違う何か‥‥‥。一応は人に見えているからいいか。
そんな事を思っていると前菜というか軽めの物から順に運ばれてくる。もう俺は前菜だけでお腹が一杯になってくる状況の中、彼女は片っ端から手をつけて美味い美味いといって食べ始める。
次々に運ばれてくる料理を片付けて行くのだが運ばれてくる料理に負けないように、まるで競争をしているようで見ていて飽きない。
段々重い料理になってくると再び俺も手を付けてしまうのだが明らかに彼女の方が食べる量は多い。それにあんなに食べた質量が一体何処に行ったのか分らなくなる。
どう見ても俺の目の前に居るのは10歳ぐらいの少女である。あれ? ‥‥‥。
今、俺はこの人が10歳児に見えるのか? そんな不思議な事がこみ上げてきてますます混乱してくる。
まるで彼女はプイホンさんのようにモゴモゴ言いながら俺に料理を食べろと促する。視線を外して料理を食べて、ふと見上げると今度は目の前の彼女が24、5の女性に見えてしまう。一体どういう事なのか誰か説明してほしい。
俺が驚いている中、とうとう料理はデザートになってしまう。デザートも何十皿も運ばれて来たのだが結局殆ど彼女が食べてしまう。最後に爪楊枝を咥えてシハー言っていたのは15歳ぐらいの少女であった。
「よし、次ぎ行くか! 次のはあれが美味いのだ!
あの汁が掛かった奴がな~‥‥‥」
こいつ何を言っているのか分らない。いま十人前以上食ったばかりなのに梯子宣言とか‥‥‥。ありえないだろ。
結局屋台のような所に連れて行かれて、そこでも彼女の独壇場であった。俺は彼女が美味しそうに食べる料理を眺めながら胃から酸っぱい物がこみ上げてくるのをずっと我慢していた。先程、一瞬吐き出しそうになったのだがそれもなんとか我慢した。
そんな屋台のような食べ物屋を4、5件梯子して日がどっぷり落ちて辺りは真っ暗になる。周囲は飲んだくれが繰り出して、賑やかなになってくる。不思議な事に最初のレストランのような所も今梯子している屋台も同様に料金は請求されなかった。
今いる屋台では頼んだ物が次から次へと今座っているテーブルに運ばれてくる様を俺は眺め、更には運ばれてくる料理を片っ端から手をつけては空いた皿を彼女は積み重ねて行く。
気が付くと目の前の彼女の様子というか風景を俺はただ彼女がこの屋台の料理全てを食べつくす様を呆れながらも眺めていた。
そんな状況を眺めていた所に俺の肩を叩く人物がいたので、そちらに視線を向けるとジョルジョネ大尉であった。俺はテーブルの前に座っている彼女を指差しパクパクと言葉にならない言葉を吐いてしまう。
「こんな所で何をやっていたんだリョウジ!! 随分探したぞ?!
急に屋敷から消えたと聞いて町中を捜せば、屋台で何をやっていたかと思えば訳の分らない事話しやがって‥‥‥」
それまでは勢いよくまくし立てるように俺に説教をしていたジョルジョネ大尉の様子が可笑しい。まるで俺が目の前の彼女の食べっぷりに驚いていたように大尉も言葉にならない感じに口をパクパクしている。
ふと、視線を俺の目の前で食事していた彼女に向けるといつの間にか彼女は消えていた。周囲を見渡して見てもそれらしい人物は見えない。俺がキョロキョロしていたもので大尉がまた俺の肩を叩いて先程と同じ台詞を話す。
「こんな所で何をやっていたんだリョウジ!! 随分探したぞ?!
急に屋敷から消えたと聞いて町中を捜せば、屋台で何をやっていたかと思えば訳の分らない事話しやがって。それで一人で屋台なんかに居て何やってたんだ?
さあ、帰るぞ? 皆がお前が来るのを待っている。それにあの閣下も君の事が気になるらしい」
そういって2度同じことを話したかと思うと、通りの端に待たせていた箱馬車に連れて行かれる。箱馬車まで行くと屋根の上にメルディム護衛分隊長がいて、俺に手を振る。「元気だった?」っとそんな事をいわれて俺は顔が引きつりながらも彼女に答える。
しかし、返事だけでそれ以外は言葉に出来なかった。指揮車の中では終始無言になってしまって、一体何が起きたのか頭の中を整理するので手一杯であった。馬車が屋敷に付く頃に呆然としていた俺に大尉は謝ってくる。
「いや~すまんかった。ひもじい思いをさせてしまって、それに俺も先程これが演習だと聞かされてな。もう少しで奪還作戦を発動させて大騒動になるところだった。という訳なので許してほしい」
「いや、その事はどうでも良いのですが。俺はあの屋台に一人で居ましたか?
本当に一人でしたか?」
「何をいっているんだ? 一人でぼうっとしている所をメルディム護衛分隊長が見つけ、俺に知らせて君を保護したのが先程の事だぞ?
他に誰かが居たのか?
‥‥‥。チィッ、またか。あの王女様にも困った物だ。そうかあの要塞から連れ出したのは王女様だったか。まったく困ったお方だ。
あ~、俺も昔、お前のように連れ廻されてな。今回のお前は酷い目に会っていないと思うが当時の俺は酷い目に会った。彼女が食べた料理の代金を全て払う嵌めになってな。その代金がなんと給料一か月分。貰ったばかりであった給金が全て一晩の彼女の食事代に消えた時はさすがに誰に訴えれば良いのか分らなくて狼狽したぞ?!」
そんな事を話し始める大尉は何となく困った顔をしていた。その話を聞きながら馬車が止まると先程入った玄関のような所に通されて奥のほうに歩かされて行く。再び階段ホールを眺めてため息をすると、上のほうからハルーツン閣下の声がして見上げてしまう。
「いや~、私達の事を怒って出て行ってしまったと思ってしまったよ~。まったくあの王女様にも困った物だね。
では、皆が首を長くして待っているので上に上がってきてくれないかな?」
そんな暢気な話し声を無視するように仕方なくその階段を上がって行く俺であった。
次話へつづく
次話は3/16日曜日の昼頃に投稿する予定です。




