<閑話3-2> 「奴隷王物語 (中編)」
最新の本文修正日は2015年1月14日です。
集落に滞在してアウタルス王子殿下は王都とその周辺で何が在ったのかの状況を把握すると皆を集めて作戦を練る。
王都では国王陛下と兄君で在らせられる皇太子殿下を亡くされ、近親者の殆どが奴隷から新たにアラレスティ王国の国王に成り代わったスルマーダという男に殺されてしまい、これからスルマーダにどう鉄槌を下すのか?
更に、どうやって王都を奪還するか? 噂で聞いた奴隷達がしていた隷属の首輪を外した方法から皇太子軍を破った新たな魔法術の噂などに対しての意見が皆から持ち寄られる。
「この国難に対して皆の意見を伺いたい。問題は多岐にわたり山積しているが各問題は大した事ではない。避難してきた民の話や物見の為に放った斥候から聞き及ぶ話を総合すると、今攻めるしかない事と自明の理である」
「我輩ガイセウスもその通りだと思います。彼らは唯単に王に成り代わっただけで実際はやりたい放題の略奪者に過ぎません。まだ王国を把握している訳ではありません。アウタルス王子殿下の仰る通りに今攻め込めば鎧袖一触、直ぐに瓦解する事でしょう」
「それには先ず後顧の憂いを断つ意味でまだ反乱が起きていない各領主達が治める領地の奴隷をどうするかである。これに対して私は解放を約束しようと思う」
そのアウタルス王子殿下の言葉を聞いた人々は目を丸くする。今まで奴隷に頼っていた領主や貴族が承知する訳がないと考えていたからだ。
その意見に異議を唱える者の多数は王子を慕ってきた人族の貴族の子弟などであった。そんな人々を何かの含みがあるのか苦笑いをしていたのは先住民族の長の子弟達だあった
「アウタルス王子殿下、それでは折角味方に立つと約束した領主達が納得しかねて今度は我らに刃を向けてくるのではありませんか?」
人族の中からそんな意見が飛んでくる。同じような言葉を発する者は全て人族である。そんな意見を一笑するようにアウタルス王子殿下は皆に向かって宣言をする。
「今回の反乱が起きた原因を考えろ! 過酷な仕事を奴隷に押し付けた結果、雨季の川が氾濫するが如く奴隷が反乱したのではないか?
しかし、突然奴隷を解放すると表明しても周辺国の手前宣言する訳には行かない。今は約束だけするだけしか出来ない。
その奴隷解放を先ずは先住民を優先して行う。解放された先住民は自由に故国に帰る事を約束する。但し、王国が危機の時には駆けつける約束をしてからだ。
ここに集まっている主な先住民族の長の子息や関係者は私を信じて盟約に納得している。残っているのはここにいる人族の関係者だけである。
突然、奴隷を解放するといっても納得しない人族にこの私が国王になった暁に奴隷をこの私が全て所有する事を了承させるだけで良い。後は皆まで言わなくても分ると思う」
こうやって人族を納得させたアウタルス王子殿下は次の問題の話を始める。
「次に背後にいると思われるアーベ神教の教徒と教会に対してだが、それはここにいる賢者が全て一任して欲しいと私に話してくれた。これによって各地の領地にある教会と奴隷の問題は解決する。
それに、国境を接している隣国に対しては親書を私の名で出して内乱が終結する前に手出ししたらどうなるかを記した。隣国が危ない所の領主は今回の作戦には参加させないので他国から邪魔される事は考えなくて良い。
それに、これから王都に攻めるのは私が信頼している人達であり心配はしていない。個別にどうやって責めるかは説明するので主な物は順に話を聞いた後に各地に出発してくれ。皆無事で王都に集まり祝杯を挙げようぞ!!」
最後にアウタルス王子殿下がそう仰ると、ここに集まった皆が「おう」と歓声を上げる。我輩を含む重臣達は次々に部下に指示を出して行く。それを聞いた小数の集団は直ぐに各地、反乱軍に占領された主要都市に散っていった。
それに、人見知りの賢者の弟子共が奴の差配によりこれまた皆と同じように各地に散って行く。一体何を話していたのかは窺い知れないがアウタルス王子殿下に頼まれたアーベ神教に対する手を打つのだろう。
アウタルス王子殿下は人見知りの賢者の作戦を取り奴隷王が取った叛乱方法に応用を利かせた作戦をとった。
そのアウタルス王子殿下は従者や信用できる仲間を少数精鋭に分散し王都近辺の周辺の主要都市に潜伏させた。そして、続々と集まる領主軍や先住民義勇兵、これらを使い周辺都市に進軍を指示、連絡は新しい方法の手紙ハトゥーを使った方法で行われる。今まで馬や伝令で取っていた方法とは違い半日で遠く離れた土地の情報が手に取るように分って行った。
これによって次々に疾風の如く主要都市が南から順次開放されて行く。
アウタルス王子殿下、名無しの勇者、人見知りの賢者は我輩ガイセウスを含む少数の護衛を伴い王都へ潜伏した。
この頃、各地の都市の住民は奴隷王の部下の治世に辟易しており領主軍が町の外に現れると、潜入した王子軍の手引きによって奴隷王の部下達を次々に排除して行った。
その際、王都に伝令が行かないよう街道や裏道を押さえ細心の注意で進軍、奴隷王軍も手紙ハトゥーを使ったようだがなぜか王都および周辺都市には届かなかったようである。
ここに来てまた我輩の疑問が出てくる。何故万能と思われた手紙ハトゥーが敵のだけ届かなかったのか?
これもアウタルス王子殿下に聞いたが秘密とだけ言われてしまった。今の所、五個目の疑問である。
話は戻るが王都周辺の都市が制圧されつつあった頃ようやく兵力分散の愚を悟った奴隷王、この時スルマーダは奴隷王と呼ばれていた。奴隷からアラレスティ王国の王を名乗ったからである。
その奴隷王は各地に散った部下を集め王都に立て篭る。しかし、この時すでにアウタルス王子殿下一行は王都に潜入して、王都の外に領主軍が現れるのを待っていた。
主な主要都市が再占領し始めると我々は奴隷王の命令によって王都に退却する王都近隣の主要都市を占領していた反乱軍に混じり、敗走して行く彼らと共に堂々と王都に入城したのであった。
物の見事というか、拍子抜けであった。いつか発覚するのではないかと気が気でなかったが、アウタルス王子殿下が言うには堂々としていれば発覚する事は無いと仰っていた。
確かに堂々と王都の出入り口である、あの跳ね橋を渡って見事王都に潜入した我らは地下で抵抗していた貴族達と接触をする事になる。
きっかけは我輩が作ったのだが、敢て書くと名無しの勇者が偶然酒場で少女を助ける事から始まる。酒場で絡まれていた奴隷の首輪、あ~、ここでは『服従の首輪』といわれる物をされていた少女が我輩の目の前で倒れて我輩の大事な一張羅を汚した事から始まる。まあ、色々あってその少女を助けた事になった名無しの勇者が次の日に地下に潜った貴族達と接触して来たそうだ。
そこでまた不思議な事が起こる。それは隷属の首輪と同様に服従の首輪も使用者以外に解除できない物のはずであった。それが何時の間にか解除できるようになっていて、後は外に集結する領主軍を待つだけになったからだ。
あ~、これも我輩の疑問になってアウタルス王子殿下にお聞きしたのだが秘密と一言、仰られてしまう。これで6個目の疑問になってしまった。
王都周辺に集結する領主軍は我々が到着して一月ほどして現れる。それまで、王都にいる新たに奴隷にされた人々に繋ぎをつけていつでも連携できる体制にまで持っていく時間はあった。
そこで繰広げられた恋の話もあったが、所詮他人の話であるから省きたいが‥‥‥。皆が気になる名無しの勇者とあの少女の事である。実に羨ましい話であるがそんな事があったりして暇も無い日々であった。
そして、とうとう王都の外に集まったのは物見の報告通り1万人前後の領主軍、ここで我輩を含む数人は奴隷王の配下の中に紛れ込むことに成功する。
なんと我輩は奴隷王に報告出来る伝令の役を何回か経験する事が出来た。その時の奴隷王スルマーダは最初は策略かと疑ったがすぐに軍を編成、『服従の首輪』を付けられ今は奴隷である者達をも編入し総勢4万人、それでも城内には1万人程度防衛軍が居る。奴隷王は自信をもって領主軍を殲滅するために出撃したのであった。
この時の奴隷王の心境は後から捕らえた身近にいた者の話を参考に書き記す。
出陣を決意した奴隷王は軍を進めながら一瞬、数ヶ月前の光景が過ぎったようだ。一瞬不安な顔をするが周囲に悟られないように強気に振舞う。それは『服従の首輪』は奴隷王が自ら考えた魔法術より強力な魔素術で作ったものであったからだ。絶対の自信があり魔素術を開発した自分の才能に酔っていた為、杞憂だと自分に言い聞かせ自らを奮い立たせる。
城門から出撃し、領主軍に対峙した奴隷王は一応特使を出して向うの口上を聞こうという尊大な王を演じる。自ら先頭に立ち尚且つ、向ってきた相手に対して自分はいかに尊大な王であるかを説くように特使に命じる。
「何処の軍か知らないが、そなた達の前に在らされるのはアラレスティ王国の新国王であり、このアラレスティ王国を立て直そうとする偉大なお方であるぞ!!
頭が高い!! 早々に我が軍門にくだり新しいアラレスティ王国の為に力を貸すが良い。さすればそなた達の命は取らぬ寛大な処置をあの偉大な国王陛下は下す事であろう!!」
「なに言ってんだ、この盗人が!! お前らこそさっさと尻尾を巻いて王都を明け渡すが良い。さすれば命ばかりは真のアラレスティ王国の国王陛下の命によって保障するであろう!!」
「何を言うか!! あちらにおいでになるお方こそアラレスティ王国の新の国王陛下であるぞ?!」
「馬鹿か? 伝国の印綬がないし、王族の血も引いていない者がこのアラレスティ王国の国王になる資格があると思っているのか?
お前らのやったことは簒奪であり、王位を継承したとは見なされないぞ!!
その証拠にお前らが隣国に送った親書の返事が戻ってきたか? そんな他国にも認められない王がアラレスティ王国の国王陛下と呼ばれることは無い! 御託は良いからさっさと降伏しろ!!」
「話にならんな! 折角の助命の機会だというのにそれを無碍にするとはとんでもない愚か者である!!」
「御託は良いからさっさと戻って奴隷王に覚悟しろと言ってきな!!」
自陣に帰ってきた特使の話を聞いたスルマーダは激怒する。寛大な自分に対して奴隷王と蔑み、事もあろうか向って来いと言い放ったと聞いたスルマーダは隊列を整えさせている間に自身の足元の地面に魔素陣を描き火属性の魔素術を発動させる準備をする。
魔素陣が光り輝くと大きな火球が次々上空に飛び上がり領主軍に向かって行く。「魔素術は強力で従来の魔法では防げまい」と言い放ったスルマーダは勝ったと確信し、後は騎馬部隊で蹂躙する為に馬に飛乗る。
服従の首輪を付けた奴隷にした者共達二万を前面に出して進軍させる。後は自陣に残るのは騎馬五千に重歩兵一万、それに石弓兵を五千である。確かに魔素術の前では役には立たないが、領主軍が魔素術を使うとは聞いていないし使えると、スルマーダは思っていなかった。
まるでスルマーダが皇太子軍に迎えられた時のように、戦奴隷を千人単位の集団に分け、横に10個配し、二段構えにして進軍の命令を下す。その頃にその魔素陣で発動した巨大な数個の火球は敵の真上から降り注ぐはずであった。
馬に跨ったスルマーダはその時の瞬間を見て唖然とする。放った巨大な火球がすべてあらぬ方向に反れたり、爆発してもそこにいたと思われる兵隊は皆何事も無かったように平然と防御していたからである。
慌てたスルマーダは第二陣の魔素陣を描いて発動させる。その時に異変が起こっていたが構う事は無かった。スルマーダは魔素陣を書く事に懸命になっていた為、先程進軍を命じた先方の集団が引き返して石弓兵から血祭りに上げている事に気が付かなかったのである。
それでもなんとか二回目の魔素陣を発動する事に成功したスルマーダは状況を確認しながらも今放った火球を眺めてその行方を目で追っていた。
しかし、またもやその放った火球があらぬ方向に反らされたり、爆発してもそこに居た集団が無事な事を知ると、周りを見回して部下に指示を飛ばす。
しかし、スルマーダの周りにはいつの間にか戻ってきた服従の首輪を付けた集団が迫っていてその異様さにやっと気が付く事が出来た状態であった。
その服従の首輪を付けた奴隷が突然首にしていた服従の首輪を取って周りの奴隷以外の集団に刃を向けたのだ。
先程から石弓隊が襲われあっという間に駆逐され始める。彼らを守る歩兵がいないと石弓隊は役に立たない。それにその石弓隊を守るはずの歩兵も残りの服従の首輪をつけていた集団によって足止めをされていた。
次々に仲間が討ち取られていく中、スルマーダはこの場から撤退する事を決断する。騎馬さえ無事でいれば逃走するにも再起を図るにも便利でこの上ない。そう決断したスルマーダは騎馬を率いて城門を目指す。
ところが城門までたどり着く事が出来たのはスルマーダを含め数十騎のみであった。城門近くに隠れ潜んでいたある一団によって地面に穴や馬柵が設けられていて次々と騎馬が脱落して行ったのである。
次々に捕らえられるか惨殺される姿はスルマーダが振り返らなかったので見ることは出来なかったようだ。しかし、捕らえられた者達のお陰でこの戦闘の一部始終、スルマーダが何をやっていたかを聞く事が出来た。
自分が城門に入って安心したスルマーダは外にまだ取り残されている部下達を躊躇することなく見捨て、門を閉ざしてつり橋を上げさせる。
部下達も場内に敵が雪崩れ込む事を恐れて素直に従い城門を閉ざし、つり橋をあげ始める。スルマーダはつり橋が上がった事を確認すると急いで自分の王宮にしている場所へと足を進める。
この頃、我輩ガイセウスは大変な目にあっていた。奴隷王のスルマーダが出陣したのを確認すると、服従の首輪を外した奴隷にされていた者達を組織し、中で守っていた反乱軍を一掃していた。
時間は少ない事は分っている。万が一にも外に居る領主軍が敗れる事があればこの作戦は台無しである。
アウタルス王子殿下はスルマーダが使う魔法術に対抗出来る自信があると仰っていたが、その理由を聞いてもただ秘密とだけ一言。また我輩の疑問が増える事になる。これで7個目の疑問である。絶対、この騒動が終わった暁には疑問に答えて貰おうと心に決める。
あ~、話はそれたが、外の奴隷王には知られないように尚且つ迅速に領主軍が破られない内に守備軍一万名を捕らえるのである。これは至難の業である。
まあ、大半は服従の首輪を付けた元貴族であったので難なく彼らの首輪を外して解放する作業に没頭する事になる。
事もあろうかあの名無しの勇者は面白い事をするからその外した服従の首輪を全部集めろと我輩に命令するではないか。我輩は部下と共に必死にその首輪を集める。その集めた物を今度は今攻めている王宮のほうまで持って来いというではないか!
まあ、人使いが荒い名無しの勇者である。黙って彼の言う事を聞いて集めた首輪を袋に詰めて王宮まで運ぶ我輩ガイセウスは尊大である。
その王宮に向かう途中にも奴隷王の近衛隊とかいう精鋭達が我輩や部下に向って来たが、その度に彼らを打ち破る。やっと、王宮に到着した時にはひと騒動あった後であった。
その騒動を一部始終を見た訳では無いので、あの名無しの勇者や珍しく饒舌になっていて人見知りの賢者など、最後にアウタルス王子殿下から直々にお聞きした事にただ呆然としてしまう我輩ガイセウスであった。
次話へつづく
次話は3/11に投稿する予定です。




